あてもなく人を捜すのは結構疲れる。旅の共はいるけれども心身の疲労は徐々に蓄積していく。苛立つことも多くなる。そんなときは叫んだり喚いたり暴れたり、なんらかの気分転換の方法が必要で。
「なあ、お前はどうしてんだ?」
と聞けば。 武道家の少女はいう。
「あたし? そうね、やっぱり武術の鍛錬かしら。他にはお母さんの手伝いとかおじいちゃんのチェスの相手とか。そういうことしてると段々落ち着いてくるのよ。先生の教えを思い出したりしながらね………」
淹れてくれたハーブティー。美味しいのはいいけれど、先頃の告白に対する答えは―――まだ、なんだろうな。少しだけほっとしてる自分がいる。
銀髪の戦士は憂う。
「以前は剣を振るっていればそれなりに気が晴れたものだがな………いまはそれもできん。目を閉じ、意識を集中する。己の苛立ちの原因を探る。それは大概くだらないものだ。オレはそれを乗り越えなければならないと思っている」
相変わらず優等生、模範的、理性的回答。表情が裏切ってる辺りは微笑ましいかもしれない。鍛錬、っていう点ではあいつと意見が同じだよなぁ。………くそ、悔しくなってきた。
黒髪の占い師は告げる。
「わたしは………あまり外には発散できなくて、内にこもってしまうものですから。少し治したいとも思ってるんですけど。水晶球を見ているときが一番静かなこころでいられますね。だって、そこに映るものに誠実でなければありませんから」
穏やかな澄んだ瞳で差し出された一粒の実。こころが綺麗な人間が飲めば望んだ夢を見れるらしい。オレには似合わねぇよなぁと、おどけて遠慮しておいた。
金髪の王女は笑う。
「ストレスの多さにかけてはあたしの方が一枚上手よぉ? 物に当たる性質だもの、備品を何度取り替えたかわかりゃしないわ。でもね、苛立ってなにかに当たってまた後悔するなんて、それこそ腹が立つでしょう? だから疲労や苛立ちなんてやる気と根性で叩きのめしてやるのよ」
実に頼りがいのあるお言葉。さすが一国を背負う人は違う………って思うけど、オレより年下なんだよな。凡人とは覚悟のほどが違います。嬉しくなっちゃう強さだよ。
王にされた人は語る。
「うーん、そうですねぇ。落ち込むのは自分の勝手ですが人様の迷惑になるのはバッドですねぇ。でも、誰か内心を打ち明けられる相手を見つけることも必要ですよ。………そのために頑張っているんでしょう?」
捜索の本当の理由はそうなんですかね。実を言うと見つけた後のことはあんまり考えていない。先のことを考えすぎて暗い思考にはまりたくはない。弱気な自分に気を滅入らせた。
年老いた師匠は杖を振るう。
「バカかおめー。そんなん考えてる暇あったら寝ちまえ寝ちまえ! くだらねぇことでいちいち尋ねてくんじゃねぇよ。とっとと行ってこい!」
ごもっとも。でも、頼むからヒャダルコやメラゾーマで追い払うのやめてくんない?
デルムリン島のみんなとか、魔族と一緒に武器をこしらえてる奴だとか、その他諸々の知り合いを訪ね歩いてフラフラと。
明日には出発するんだからちゃんとしてきなさいよ! と運命の女神に横っ面引っ叩かれて、慕ってくれる少女に心配されて。
心身共に疲労困憊。
でも、多分本当は、あまり疲れてないと思う。あの眩い瞬間が波のように繰り返し繰り返し迫るだけ。
―――蹴落とされる前に、蹴落としときゃよかった。
きっとそれが本音。
あの爆発の中に自分がいたならば只人に過ぎない体は吹き飛んで、生き残っている可能性なんてゼロだったんだろうけど。
………今度会ったら、回し蹴りくらわせてやる。
雨雲が天を覆っていても関係ない。「よし!」と掛け声ひとつ、上空目指して駆け上る。頬を叩く水滴もマントを濡らす重みさえ黒雲を足元にやり過ごせば白日のもとにさらされる。雲海が果てしなく世界を覆い、微かに丸みを帯びた地平線が太陽の燐光を受けて輝いている。
―――何処まで。
何処まで上ればいいんだろう? あいつは何処まで行ったのだろう。
薄くなる空気に肺が苦しくなるけれど、蓄積した疲労を怒りに還元して返りやしない木霊を期待する。
「………のばっかやろ―――っ!! 何処まで行けば気が済むんだよ、こん畜生! オレとか姫さんとかみんながどれだけ心配してるかわかってんだろうな!? このまま消えるなんて許さねぇ。オレは絶対許さねぇ。覚悟しとけよ! お前なんかメラゾーマの刑だ―――っっ!!!」
メドローアの刑といわない辺り優しいのかもしんないオレってば。
地の果てに沈む紅蓮の太陽。眩さに目を細め、フイと上空に視線を逸らす。
群青から真紅へのグラデーションも鮮やかに瞬く星々を従えて。
………これはあいつが超えた空。
いつかオレも超えてみせる。
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