※このお話は1000%捏造です。

※「騎士が修羅道に堕ちた」と想定しての予行演習(するなよ)。

※ひと殺しの描写があるので苦手な方はご注意下さい。

 

 

 薄暗い地下の下水道をひとりで歩く。先刻、上流に位置する施設を破壊して鉄砲水を起こしたから辺りは水浸しだ。賊徒が生活していた痕跡と折り重なる屍の山が煩わしい。帰還したらこの界隈の清掃を依頼しなければならないだろう、疫病でも流行れば厄介だ。
 敵が地下に潜んでいる以上、動きが制限されるナイトメアの使用は許可できないと尤もらしく告げられて、銃ひとつで基地から追い出された。通信は繋がっているもののこちらを煙たがっているのは丸分かりだ。
 今更の差別に頓着するつもりもない。征服者が被征服者に寄せる感情になど。
 ナイトメアの方が多くの敵を確実に屠れるから、それだけが心残りではあったが―――全てを消し飛ばせる最終兵器なんて帝国の研究部の開発を待つしかないのだろうか。
 銃を握り締めるその身は疾うに朱に染まっている。
「う………」
 僅かに響いた呻き声に振り返る。そこには、下半身を機材で潰された男女がいた。女性は既に息絶えていたが、腕に抱えた子供はかろうじて息がある。瀕死の男性が苦悶の表情を浮かべながら声を絞り出した。
「た、すけて、くれ………」
「―――」
「この、子………だけ、でも―――頼む………!!」
 応える言葉を己は持たない。
 ゆっくりと近づけば相手は微かな期待を篭めた目を向けて来た。煩わしいそれを無視して銃を構え。

 子供の頭を撃ち抜いた。
 飛び散った血と脳漿が身に降り掛かる。

 男は絶句した。
 嗚呼、何を驚いているのだろう。助けたところで、親兄弟や仲間を殺された子供は更なる復讐に走るに決まっている。大切なものを奪われた人間は破壊衝動に駆られるに決まっている。
 その危険性を、その惨めさを。
 未然に防ごうと願うならこれが最良の手段なのだ。
 男が目を見開いて声高に叫ぶ。
「こ、の、人でなし………! っ!? き、さま―――貴様、知っているぞ! 貴様は日本で、あの魔女の騎士として!!!」
 声を、遮るように。
 続けざまに銃声が鳴り響いた。銃身が弾切れを伝えるまで、途切れなく。
 男の頭部はぐちゃぐちゃに潰れ見る影もない。飛び散った血は硝煙と共にこの身に纏わりついた。

「―――彼女を『魔女』と呼ぶな」

 呟きは誰の耳にも届かず下水道内に反響して消えた。
 他に生存反応がないことを確認して通信機を手にする。
「敵、殲滅しました」
『任務了解。即時、帰還せよ』
「イエス、マイ・ロード」
『………ねえ、スザクくん。あなたは―――』
 全てを察しているであろう女性の声を、通信をOFFにすることで断ち切った。
 壁から滲み出る水滴が奏でる雫に耳を澄ませて、先刻の男の叫びを思い出す。人でなし? 上等だ。『ヒト』でいることなど疾うに諦めたのだから。
 会うひとは皆、自分が『変わった』というが―――『変わった』んじゃない。昔に『戻った』だけだ。
 自分を、世界を、『変えて』くれたひとがいなくなったから、足掻くのも取り繕うのも面倒になってしまっただけ。
 所詮この世は悪意と失意に満ちている。罪にまみれたこの両手が再び真紅に染め上げられたところでどれ程の苦痛か。どれ程の喪失か。取り戻せない正義などもはや捨て去った。
 血がこびりつく服の内側から鈍い光を放つ騎士章を取り出す。
 傷ひとつ、汚れひとつない様にほっとして、この時ばかりは自然と笑みを浮かべて。
 左手に握り締める。これだけは。
 これだけは汚してはいけない穢してはいけない。あれだけ血にまみれてしまった彼女を崇高な思いに反して穢されてしまった彼女をこれ以上汚していいはずがない。
 ああ、それよりも。
(はやく)
 はやく、ゼロを。
(はやく)
 はやく、自分を。
 無駄に生き延びるこの命、無意味に他者を殺めるこの命、無為に破壊を繰り返すこの命。
 あの男が斃れればこの身にかけられた忌まわしき呪いも解けるに違いない。絶望の戦地から『奇跡の生還』を果たすこともなくなるに違いない。

(はやく―――殺さなければ)

 これ以上の罪を犯す前に綺麗さっぱり消え失せてしまうがいい。
 その時こそ自分は歓喜と共に己がこめかみを銃で撃ち抜くだろう。

 たとえ、彼女と同じ世界に辿り着けずとも。

 


その手に、十字架


 


(どうしてかのじょがころされなければならなかったのか、おれはりかいなどするつもりもないのだ)

 

※WEB拍手再録


 

騎士章は十字架にも見えるよね、ってことでヨロシク。『それだけで僕は君を殺せる』と対になってるかもしれない。

以前『NARUTO』で同系統の話を書いたかもしれない(調べろよ)

 

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