※このお話はパラレルです。

※戦争がなくて、ルルとナナリーは枢木家に引き取られたまま、とゆー設定です。

 


考えたところで意味のない傾向と対策T


 

 玄関先で交わされるのはいつもの遣り取り。
「ハンカチは持ったか? ―――襟が曲がってるぞ。きちっとしろ」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、ルルーシュ。僕だってもう子供じゃない」
 いつもと少し違うのは苦笑しながらも『弟』のするに任せている『兄』の服装のみ。
 身に纏うは白の礼服。
 紫と金の刺繍が施された衣装は彼にひどく似合っていた。その様はルルーシュを満足させたが、それは『他者』の装いであると思えば胸が疼いた。
 知ってか知らずかスザクは眉を顰めてみせる。
「………ごめん。君たちも呼べたらいいのに」
「気にするな、今更のことだ」
「そうですわ、スザクお兄様。どうか楽しんでいらしてください」
 車椅子の上で無邪気に笑う妹の傍らでルルーシュも何の気なしに笑ってみせた。
 首相の息子であるスザクが歓迎式典に招かれるのは当然のことだ。かつては己も自国で各国首脳を出迎えたものである。だが、継承権を放棄したいまとなっては関わりの無い話。いまの立場を望んだ結果の代償だ。気にする必要はないのに、いつだって彼は本当に申し訳なさそうに落ち込んでみせる。
 尤も―――今回は、相手が相手だからかもしれない。
 ブリタニアの、皇族を迎えての。
「ありがとう、ナナリー。ルルーシュも………美味しそうなケーキがあったらお土産にもらってくるよ」
「ふふ。ありがとうございます」
「それより、もう出なければいけないんじゃないか? ちゃんと招待状は持ったんだろうな」
 先を促せば相手はやや頬を膨らませて「心外だなあ」と礼服のポケットを探った。
 果たして、出てきたものは。
「あれ?」
「………定期、だな」
「お、おかしいな、ちゃんと此処に―――」
 慌てて他の場所を探したところでもとより物を仕舞える場所が限られている服装だ。今度こそあからさまなため息をついてクルリと踵を返した。
「ごめん、ルルーシュ! たぶん机の上に」
「ああ、分かってる。―――いいから待ってろ。もう一度、靴を履くのを手伝うのは御免だ」
 ひどく恐縮している相手を放って階段をのぼった。
 戸を開いて辺りを見回す。スザクの部屋は適度に乱雑で適度に片付いている。常に綺麗に整理整頓していなければ落ち着かない自分とはかなり違う。それでも雑多な雰囲気が妙に心地良くて長居することもよくあった。
 勉強道具と雑誌と筆記用具が散らかった机上に求めるものを見い出して手を伸ばす。
 ―――と。
 伸ばした腕が何かを引っ掛けた。コトリ、と軽い音を立てて床に落ちたそれを慌てて拾い上げる。
 落ちたものは写真立て。幼い自分と、ナナリーと、スザクが笑って肩をくんでいるその写真。見ているだけでふんわりと微笑みたくなる優しい記憶の詰まった―――。
「………?」
 ふと。
 裏にもう一枚、別の写真が挟まっていることに気付いて。
 軽く首を傾げて場違いな一枚をそっと抜き出した。描かれていたのは当然自分ではなく、ナナリーでもなく、ましてやスザク当人やゲンブであるはずもなく。
 長い黒髪。
 スザクと同じ翡翠の瞳をした。
「―――」
 静止した思考を動かしたのは下から聞こえてきた己を呼ばわる声。すぐに行くと答えて写真と写真立てを元の位置に戻し、本来の目的である招待状を手に部屋の扉を閉めた。
 まるで何もなかったようにスザクを見送る傍らで必死に思考を巡らせる。

(皇、カグヤ………?)

 何故、彼女の写真を。
 スザクが。
 隠すように。

 あまりいい印象のない少女の姿を親しい少年の部屋で見つけた彼は、相手の立ち去った玄関口で遅ればせながらも不機嫌そうに唇を引き結んだ。
 あれは確か、未だ自分とナナリーが日本に留まるとは決まっていなかった頃。
 最初に出会ったのは枢木神社の境内だった。
 きっちりと和服を着こなして、綺麗になびく黒髪とか、歳の割りに意志の強そうな瞳とか。
 高貴な出なのだろうと思うより先に「スザクに似ている」との感想を抱いた。無論、似ていると感じたのは瞳の色と漂う雰囲気までで、実際の性格は―――。
 ………やっぱり少しは似ていたかもしれないが。
 不機嫌さも露に睨みつけた己を少女は恐れるでもなく見詰め返した。その視線があまりにも不躾だったので腹が立った。ナナリーがいないからこそ出来る、思い切り険のある声で問い掛けた。
「スザク。―――誰だ?」
「………従兄妹、だよ」
 僅かに視線を彷徨わせてスザクはそう答えた。従兄妹と表現することに聊か躊躇しているような微妙な声。血縁であることは確かなのだろうが、いつもいつも無駄に元気な彼が妙にかしこばっている意味にこの時点で気付くべきだったのかもしれない。
 だが、何か口を開くより先に。
「気に入りましたわ!」
 名乗りもせずに年下の少女は満面の笑みをつけて宣言した。
「外見も背丈も申し分ありません。聞けば学業も優秀だとか」
「?」
「敵国において身内を守り誇りを守り意志を強く持とうとする姿勢は尊敬に値するもの。よいでしょう。傍にいることを許します」
「………は?」
 いきなり何を言い出すのだ、この女は。
 思い切り眉をしかめた自分を見て慌ててスザクが間に割り込んだ。
「待てよ! 幾らなんでも突然だ、ルルーシュは君が誰かも知らな」
「わたしが許すと申したのです!」
 叩きつけるような叱責だった。
 年齢不相応の威厳と命令することに慣れた傲慢さを滲ませて。
「もとよりわたしが連れ添うことは不利には働かぬはず。神々と誓いし身を捧ぐのです、何の不満があるでしょう」
「けどっ」
「スザク。あなたには命じたはずですね。常にわたしの意志を優先しろ、と」
 ―――さすが、に。
 そのセリフには、かなり。
 この時点のスザクは『友人』ですらなかったけれど、日本に来てから親しくしている者のひとりではあったから。
「―――自ら名乗りもせずにヒトを所有物扱いか? 貴き身分の礼儀が聞いて呆れる」
「ルルーシュ! いいから、黙って」
「スザク、お前もお前だ! 何故なにも言い返さない?」
「それは」
 困ったようにスザクは眉根を寄せた。
 対照的に眼前の少女は揺るがぬ視線で頷いた。スザクが己に逆らうはずはないと。何故かと問えば悪意も好意もなしに答えて曰く。

「スザクはわたしの僕(しもべ)ですから」

 ………女を蹴倒したくなったのはこの時が初めてだったかもしれない。

 以来、その後の係わりはどうであれ。
 皇カグヤはルルーシュの中の『一番つきあいたくない女』の位置に燦然と輝き続けている。

 

※WEB拍手再録


 

こんなカグヤ姫はイヤだ(汗)

リハビリ的に書き出したら何故か続くことに。

なんでやねん。

 

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