※このお話はパラレルです。

※戦争がなくて、ルルとナナリーは枢木家に引き取られたまま、とゆー設定です。

 


考えたところで意味のない傾向と対策V


 

 首相官邸近くにある邸宅は広く、緑も多い。穏やかな室内音楽や歓談さえも煩わしいと感じたならば外に出て手入れの行き届いた庭園を歩くのもひとつの手だろう。招待客の出身国を考慮してか、日本というよりは外国の雰囲気を感じさせる会場である。
「私は、日本庭園も好きなんだけどね」
 などとのんびりグラスを傾ける人物は白いバルコニーに佇む様が嫌味なぐらいに似合っている。軽く手すりに身を寄せて遠くを眺める姿なんて、女性から見れば感嘆ものなのだろう。
 最も、見る相手が自分である以上はそうそう見惚れることもないけれど、と、スザクはひっそりため息をついた。なにせ普段から彼と半分だけ同じ血を引く美形の兄妹と生活を共にしている身である。聊か以上に目が肥えてしまっても仕方がないだろう。
 周囲に誰もいないことを確認してか、にっこりといよいよ抜け目ない微笑をシュナイゼルは浮かべた。
「それで? 一考してもらえたのかな?」
「お断りします。力は軽々しく扱うものではありません。それに、ロイドさんに頼めば幾らでも―――」
「あいつはケチだから独り占めしてばかりで見せてくれないよ」
 旧知の仲の人物をあっさりとケチ呼ばわりして妙にフットワークの軽い皇帝は笑みを深める。
 確かに、あの、己の『創造物』に対して異常に執着している研究者についてはスザクとしても色々と思うところはあるのだ。
 あるのだが、それとこれとは話は別である。
「いいじゃないか。私が日本に来ることなど滅多にないよ? あるいは、君が『白い騎士』を伴ってブリタニアに来てくれるのかな」
「陛下のもとへは行けません」
「行かない、ではないのだね。少しは期待を持っておくことにしよう」
 あの兄妹のことは知っているけれど、と微笑む彼は、一体なにをどこまで考えているのだろう。
 ため息をつくことも出来ずにただ少しばかり眉を潜めることで答えとしたけれど。見るヒトによっては感情が読みにくいらしい己の表情が、彼にも通用してくれることを願いながら。
 ほんの僅か、彼は視線を上向けて。
 どこか面白そうに表情をやわらげるとこちらへ静かに手を伸ばした。男性的と言うには白くて優美で、女性的と言うには大きくて骨ばっている、そんな手を。
「グラスを寄越したまえ」
「………」
 いまさら、命令口調に反感を抱く謂れもない。
 疑問は抱きつつも素直にグラスを手渡した。それをそのまま彼はバルコニーの手摺に置いてにっこりと微笑む。
「そのまま二歩ほど下がりたまえ。―――もう少し。うん、もう少し、左かな?」
「陛下………?」
 意図が読みきれなくて首を傾げる。
 言われるままに後ろに下がり、左右の微調整を行い、丁度バルコニーから庭園に降りる階段の手前辺りで動きを止める。
「そうだな。それぐらいでいいだろう」
「あの………一体、何を―――」
 その時。

「どいてくださぁぁぁ〜い!!」

「うわっ!?」
 ドッ! と目の前に落ちてきた何か白い物体を咄嗟に受け止めて。
 予想外に大きかった対象物にたたらを踏んだがどうにか足を踏ん張って。ふわふわとした白く上質な服の感触と顔にかかるやわらかな桃色の髪の毛に息が止まった。
 反射的に閉じていた少女の瞳が開く。
 澄み切った色をした目だった。

「………」

 正面から見詰め合うことしばし。漸く、頭が回転を始める。
「あの―――大丈夫、ですか?」
「あ………はい。大丈夫です。ごめんなさい、あなたの上に落ちるつもりはなかったのですけれど」
「いえ、僕もまさか人が落ちてくるとは思っていなかったものですから」
 それはそうだろう。普通、人は落ちてこない。『落ちる』というよりは『舞い降りる』に近い印象ではあったけれど、下にいたのが自分でよかったと思う。実際、シュナイゼルの上に彼女が落ちていたらどちらも怪我を―――。
 と、そこまで考えて。
 先刻の動きの意味に気がついた。
「………陛下」
「なんだい?」
 目の前の人物は相変わらず暢気に微笑んでいるけれど。
「彼女が落ちてくるのを分かってて避けましたね!? どうして………!」
「私では受け止めきれないと思ってね。でも、おかげで面白い出会いが出来ただろう?」
「出会いを演出する必要は何処にも―――」
「あの、」
 いまにも相手の襟首を締め上げそうなスザクの雰囲気に、少女がおずおずと口を挟んだ。
「ごめんなさい。私が悪かったんです。シュナイゼルお兄様があまりにも楽しそうに話しているのに気を取られて、つい身を乗り出してしまったから………」
 彼女が申し訳なさそうに瞳を閉じる。
 スザクとしては彼女を責めるつもりは毛頭なかったけれど、何だか聞き逃してはいけない単語があった気がして眉を潜めた。
「本当に久しぶりに見たんです、あんなに楽しそうにしていらっしゃるのを。いつも宮廷では笑っているけれども心の底からは笑えていないようで、」
「―――すいません」
「はい?」
 片手を挙げることで言葉を遮って、不躾とは知りつつそれとなく背後の人物を指し示して。
「兄、ですか?」
「兄です」
「では、あなたは―――」
「妹です」
 自らを指差して彼女はにっこりと微笑んだ。
 何と返すことも出来ずに沈黙する。
 皇帝陛下の妹ということは即ち皇族に他ならず、つまりは自分の義弟や義妹の血縁ということになり、嗚呼、言われて見れば確かに微笑んだ様がナナリーと似ているかもしれない等と考えて。
「そういえば名乗っていませんでしたね。私の名はユーフェミアです。ユフィと呼んでください」
「自分は―――」
「枢木スザク様、ですよね。存じています」
「え?」
「お兄様がよく話していましたから。だから是非ともお会いしたかったんです」
 一体、あの人は本国で周囲の人間に何を吹き込んでいるのだろう。
 白い服を着ていらっしゃるからすぐに分かりましたとの彼女の言葉を信じれば、大した内容はもらしていないように思えるけれど。
 くだんの人物は一歩うしろに下がってすっかり静観の構えである。
「ところで、スザク様」
「スザク、で構いませんよ。ユーフェミア皇女殿下」
「あら。でしたら、スザクも私のことをユフィと呼んでくださいね」
 さり気なく己の希望も示しながら、彼女は、ナナリーにも共通するやわらかな微笑を浮かべると。
「ところで、スザク」
「はい」

「『白い騎士』とは、何ですか?」

「………」
 悪意のない問い掛けを断るには難い。
 ―――もしかして、自分と彼女を引き合わせたのは『これ』が理由かと。
 静かにシュナイゼルを窺い見たスザクは、残念ながら己の予想が的中したことを知ったのだった。

 

※WEB拍手再録


 

落ちてくるのはお約束です(きっぱり)

でも、ユッフィーはもっとかわいいはずなんだ………!!

 

BACK    TOP

 

 


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理