※このお話はパラレルです。

※戦争がなくて、ルルとナナリーは枢木家に引き取られたまま、とゆー設定です。

※てゆーかむしろキッチリ養子縁組しちゃったヨ! なお話だとお考え下さい。

※どんな世界観なのかは書き手にも分からんので聞かないで下さい(ちょっと待て)。

 

 

 いまでも覚えている、あの日の思い出。
 仲良く三人で手を取り合って、期待と僅かな不安と願いをこめてオレは叫んだ。

「スザク! お前、ウチの子にならないか!?」

 家族になればずっと一緒にいられると思った。
 しかし、そんなオレの想いを知ってか知らずか、奴はあっさりと首を横に振り、「違うだろ、ルルーシュ」、と微笑んで堂々と宣言した。

「ふたりが、ウチの子になるんだよ」

 ―――と。

 


033.恒常的不満に対する永続的反逆の宣言


 

 窓から射し込む朝の光がどれだけ健康的な色を称えていても、目覚めたばかりのルルーシュの仏頂面を和ませるには至らなかった。低血圧だと笑わば笑え、早起きは大の苦手である。これでも、誰かに起こしてもらわなくても自然と目が覚めるようになっただけ大分進歩したのだ。
 洗面と着替えを済ませて居間へ続く扉を開ければ、先に起きていたらしい妹がにっこりと微笑んだ。
「ルルーシュお兄様、おはようございます」
「おはよう、ナナリー」
 この時ばかりはルルーシュも掛け値なしの笑みを浮かべた。
 目の前で母を喪うという経験をして以来、妹の瞳は閉ざされたままでいる。神経を傷めてしまった足が治る見込みは少ないとしても、精神的要因により閉ざされている可能性が高い瞳が、いつか再び世界を見つめてくれることを願っている。
 その願いは、この家にいる限りそう遠からず叶えられるだろうことを彼は確信していた。なにせ、此処にはあの大バカ―――。
 と、考えたところで肝心のアレがいないことに気が付いた。
 焼きたてのパンにバターを塗りながら首を傾げる。
「スザクは?」
「朝練があるとかで先ほどお出かけになられました」
「………そうか。相変わらずだな」
「スザクお兄様ってば、お弁当を忘れていってしまったんですよ?」
 なるほど、指差したテーブルの端にきちんと袋に包まれた弁当箱が鎮座している。隣にはルルーシュのための弁当も置いてあって、早起きしてふたり分の弁当を作っておきながら、持って行き忘れるとはやはり抜けていると思った。
「バカだな、アイツは」
 学食を使えば問題ないとは思いつつも。
「仕方ない。持ってってやるか」
「ありがとうございます」
 礼なんて要らないさ、と彼女のために紅茶を注ぐ。
 中等部は別校舎だからナナリーが持参するのは難しい(ましてや、かわいい妹に車椅子を漕いで届けて来いなどと言えるはずもない!)
 朝食の後片付けを済ませると妹の送迎の支度に取り掛かった。




 教室の自分の席で荷物を取り出すと深くため息をついた。
 後ろで雑誌を読み漁っていたリヴァルが「はよー」、と声をかけてくる。同じく、今し方登校してきたらしいシャーリーにも同じように声をかけられて、何処か投げやりな態度でルルーシュはふたりに朝の挨拶を返した。どうしてそんなに愛想がないんだかなぁとリヴァルは笑う。
「あいっかわらず眉間にしわ寄せてんなー。そのうち痕がついちまうぞ」
「うるさい」
 スザクの分の弁当箱を取り出すと、傍らで眺めていたシャーリーが首を傾げた。
「あれ? ルル、今日はお弁当がふたつもあるの?」
「片方はスザクのだ」
 オレがそんな大量に食べるように見えるのかと内心で毒づいたところで、天然にも鈍ちんなところがあるシャーリーは全く気付いていない。
「そっかー! スザクくんて結構忘れ物するもんね!」
「この前は教科書一式忘れてたよな?」
「うん。体操着忘れてきたりとか、レポート忘れてきたりとか、ワリとおっちょこちょいだよね!!」
 そしてその度に忘れ物に気付いたルルーシュが(ナナリーに頼まれたりテーブルに放置されていたり玄関口に落ちていたりするものだから)毎回毎回届ける羽目になるのである。
 仮にも『弟』に忘れ物を届けてもらってばかりの『兄』とは一体何なんだ、と問い詰めたくもなる。
 しかし一応、スザクはスザクで『兄』としてよりも『友人』の絆を優先している風もあるので『友人』ならば偶には手間かけさせられるのも―――って、いや、違う。なんか違うぞ、オレ。
「行ってくる」
「行ってらっしゃーい♪」
 ふたり分の声援を背中に受けながら舌打ちと共に隣の教室へと歩を向けた。
 戸を開けて顔を覗かせれば近くにいた女子が色めきたつ。しかし当人はそんなもの何処吹く風で、辺りを見渡し目標を発見すると、不機嫌そうな顔のまま足を運んだ。
 目的の人物は朝礼間際のこの時間は大抵、自分の席でのんびりと構えている。今日は惰眠を貪ることに決めたのか机に臥せってすぅすぅと上下している肩も忌々しく、手にした弁当箱をドン! と頭の上に置いてやった。
「って………! あ、あれ? ルルーシュ?」
「おはよう、スザク」
 思いっきり嫌みったらしくにこやかな笑みを浮かべて朝のご挨拶。
 頭の上に置かれた弁当箱を反射的に受け取りつつもスザクは未だ目を瞬かせている。それでもすぐに意識がハッキリしてきたのか、不思議そうに首を傾げた。
「おはよう。どうかしたの?」
「どうかしたの、じゃないだろう」
 手元の弁当箱を指差すと漸く彼は納得したように「ああ」と頷いて。
「持ってきてくれたんだね。ありがとう」
 素直に笑顔つきで礼を言われてしまうと、なんとなくこちらの分が悪くなってくるのは何故だろう。
「いい加減、お前は色んなものを忘れすぎだと思うんだが?」
「うん。僕もそう思う」
「じゃあ直せ」
「だって、忘れたらルルーシュが持って来てくれるから」
 スザクは悪びれもせずにあっさりと言い切った。
 一体なんなのだ、その自信とゆーか信頼とゆーか思い込みとゆーか―――自分が持ってこなければ如何するつもりなのか聞いてみたい。なにせ、このバカは弁当箱や教科書どころかカバン丸ごととかサイフまで忘れた実績があるのだから。
「バカか、お前は」
 忘れない努力をしろ。
「ごめん。でも、なんか気が緩んじゃうんだよね」
 あはは、と他意なく笑うばかりの彼にルルーシュはガックリと肩を落としたのだった。




 ルルーシュとナナリーが枢木家に引き取られたのは七年前のことである。当時、日本とブリタニアは冷戦状態にあり、母親を亡くしたばかりのふたりは人質同然の立場で日本へやって来た。
 当時のルルーシュは、妹を守るのは自分しかいないとの気負いからかなりとっつきにくい性格に成り果てていた。こころを許した人間にはとことん甘いが初対面の人間には捨て猫以上に獰猛かつ居丈高な態度で臨んでいたのである(いまも大差ないとの声は無視しておく)
 しかしながらその性格も日本国首相の枢木ゲンブ氏宅で同い年の枢木スザクと会うことでかなり変化した―――いや、変化せざるを得なかった。何度拒絶しても「オレがふたりを好きなら問題ないよな!」などと宣言してくれる輩に何をどう歯向かえばいいのやら。
 結局、ブリタニアで政変が起きた関係で戦争は回避されたものの。
 日本に預けられた自分たちの立場は特殊かつ微妙なもので、やれ本国に帰るだの、日本に留まるだの、両国首脳を交えてのTOP会談に始終振り回されっぱなしだった。妹は「皆さんと別れたくありません」と泣くし、自分も今更あんな国に戻りたくなかったし、スザクひとりが「大丈夫!」と言い切ってくれたモンだから「何を根拠に!」とより一層腹が―――と、まあ、それは置いといて。
 ともかく、いよいよ本国に帰るしかないとの状況に至った折りに精神的にかなり追い詰められていたルルーシュが「スザクを本国に連れ帰れば万事OKだ!」と思って口走ったのが例の台詞であり、それに対するスザクの返答が(以下省略)
 ………結局、事態はスザクの思い通りに流れていった。
 その裏でニューフェイスな皇帝と笑顔がステキな日本国首相の間でどんなネガティブキャンペーンが展開されていたのか当時子供だったルルーシュには知る由もなかったが、恐ろしくアレでソレな取引があったことは想像に難くない。
 最終的には、ふたりが「廃嫡」すればこのまま日本に居てもいいとの温情が下されて。
 手続きのため「皇族」として最後になる帰国の際に、空港まで見送りに来たスザクは何やら非常に使命感にかられていた。
 きらきらと目を輝かせて高らかに宣言。

「オレ、ふたりのために早くおとなになるからな!!」

 ………無理だろ、お前には。
 とは、一応友人の決意を慮って口にするのは堪えたものの。
 そんなこんながあって約半月後。
 戻ってきたルルーシュとナナリーを出迎えたスザクは雰囲気がどこか違っていた。
 そして、山篭りでもしたのかと首を傾げるルルーシュに対してとんでもない爆弾発言をカマしてくれたのである。
「ルルーシュ、あのね」
「なんだ?」

「今日から、僕のこと『お兄さん』って呼んでいいからね!」

 ………そりゃーもう、とびっっっきりの花マルつきの笑顔で。
 告げられた瞬間、ルルーシュがその場に撃沈したのは言うまでもない。




 昼休みが終わりかけた日当たりのよい屋上で学校を見渡しながらルルーシュは知らず知らずこめかみを抑えた。あの時の衝撃を思い起こすと、いまでも意味不明な叫びを上げながらスザクの首を絞めたい衝動に駆られる彼である。
 一人称が「オレ」から「僕」に変わってたのはどんな修行の成果だというのもさることながら、どうして自分が彼の「弟」にならねばいけないのかと、確かに「家族」にはなりたかったけど、スザクだったらナナリーと結婚しても許してやるとか思ったけど(それなら向こうが「義弟」だ)、なんかちょっと事態が自分の望んだ方向とは別に進んでるぞ、と。
 お前を「兄さん」呼びしなければいけない理由は何だと抗議すれば、
「僕のが誕生日が先だから」
 と、あっさりかわされた。
 まさかこんなところで半年程度の歳の差を持ち出されるとは一生の不覚である(しかしこれこそ自分ではどうにも出来ない)
 以来、スザクはルルーシュとナナリーを絶対的庇護の対象と看做している。
 自分とて血を分けた妹であるナナリーのためなら形振り構わず行動できる覚悟があるのだから、幼心にもふたりの兄たることを決意したスザクが頑張ったからって責める謂れはないのだけれど―――。
 背後で屋上に至る扉が開かれる音がした。安堵の息と共に聞き慣れた声が聞こえる。
「ルルーシュ? よかった、やっぱり此処にいた」
 僅かに視線を寄越すだけで答えは返さない。
 スザクは気にした様子もなく隣に並び立つと、学園を見渡せる手すりに身体をもたせかけた。
「リヴァルとシャーリーが捜してたよ。お昼を一緒に食べようと思ってたのに、何処にもいないからって」
「………」
「声ぐらいかけてあげればいいのに」
 クスクスと笑う彼に他意も悪意もないのだろう。
「ミレイさんが生徒会役員は放課後集合するようにって言ってたから、伝言。屋上は捜しましたか? って聞いたんだけど―――入れ違いになったのかなぁ。ルルーシュ、いま此処にいるもんね」
 入れ違いになった訳ではない。隠れていただけだ。
 そもそもこんな吹き曝しの屋上にやって来る物好きなどそうはいない。だからこそ此処は自分と彼の特等席になっているのに、何を正直に居場所を暴露してんだと舌打ちした。
 だが、ムキになるのも負けた気になるから何も言えない。
 黒い制服が太陽光を吸収してほんのりと熱を帯びている。いつまで経っても言葉のひとつも返さないルルーシュに流石に焦れたのか、少しだけ不安そうな目をしてスザクが改めて問い掛けた。
「あのさ、わかってる? ちゃんと生徒会に―――」
「わかってるさ。『お兄様』」
 ルルーシュが彼を『兄』と呼ぶのは本気で機嫌が悪い時に限られている。
 これまでの経験から痛いほどそれを知っているスザクは、再度困ったように表情を曇らせたものの、諦めて苦笑混じりの吐息を零した。
「………じゃあ、また、後でね」
 傍らの馴染んだ気配が遠ざかり、程なくして扉が開閉される音が響く。
 相手をしてやらなかったのは自分自身で、彼が立ち去るのは当然で、そう思いながらも苦虫を噛み潰したような顔になってしまうのは何処かで納得しかねているからか。
 以前は然程でもなかった不満が澱のように内面で凝り固まっている。
 気にしていなかったはずの事実が、彼と自分の「関係」を表す言葉が、適切でない気がする限り―――彼に必要ない苦笑を浮かばせる事態は避けようがないのだろう。
「………いまにみてろ」
 誰に対してかも分からない宣言を彼はこっそりと口にした。




 家族でありながらも対等な友人で、対等な友人でありながらも家族で。
 ただそれだけの関係で互いが満足できるならこの世に「不満」なんて言葉は存在しないのだろう。

 

※WEB拍手再録


 

サブタイトル : なんとなく「反逆」の規模がみみっちいルルーシュ。

 

当初はこっちをリクエスト用にしたためてましたが、あまりにもアレな感じなので考え直しました(………)

この話ではよくわかりませんがスザクが結構黒い(はず)です。

「人間関係の元ネタに『は○だしっこ』が関わってるんです」とかゆってもいまの若い子には分かるまいよ

(自分だってリアルタイム世代じゃないし)

 

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