043.魔王の午後


 

「………何をやってるんだ」
「一世代前のゲームだよ」
 友人が教室でいじくっている小型ゲーム機に首を傾げれば、そんな答えが返された。
 いまとなっては懐かしい二頭身キャラ、荒い画面、セリフは全てかたことで読みづらいことこの上ない。
 それでも発売当時は大変な人気を誇ったらしい。先日、店で見かけた際にあまりの古めかしさに引かれてつい購入してしまったのだという。
 ゲームは既に終盤。プレイヤー演じる『勇者』が『魔王』と対面していた。
「でさ、すっげぇお約束なんだよ」
「何が」
「魔王が尋ねてくるのさ。『勇者よ、わたしの部下になれ。そうすればお前に世界の半分をやろう』って」
 僅かに。

 ―――『私のところに来い』。

 肩が震えた。
「ま、どーせ『はい』と答える選択肢なんか存在しないんだけど? 選べたら面白いよな〜。なあ、ルルーシュ。お前ならどうする?」
「下らないな、リヴァル」
 動揺などおくびにも出さずに肩を竦めてみせる。
「世界の半分しかくれないんだろう? 全部くれると言うのなら少しは考えてやったがな」
「………図々しくね?」
「オレの力を借りたいと言うんだ。当然だろう」
 そりゃあそうかもしんないけど、と友人は呆れ顔で机に肘をついている。綺麗にまとめた教科書の束で軽く頭を小突いてやった。次は移動教室なんだから。
「ほら、行くぞ」
「え? あ、ちょっと待ってくれ!」
 慌てて教科書類をまとめ始める背中に「早くしろよ」と声だけかけて、先に教室の外に出た。

 ―――『私の仲間になれ』。
 ―――『ブリタニアは、お前が仕える価値のない国だ』。

 窓の外、穏やかな午後の光の中を楽しそうに歩いている同級生たちを眺める。透明な硝子ごしに斜めに差し込む黄金色の陽光が廊下に細かな紋様を映し出していて。
 少しだけ笑った。
 分かりきっていた事実。最初から『はい』と答える選択肢は存在しない。
 何故なら、『勇者』が『魔王』の味方になってしまっては物語が成り立たないからだ。『魔王』の味方をする『勇者』は既に『勇者』ではないからだ。『魔王』の本音が別のところにあったとしても、『勇者』が幾許かの憐憫を抱いていたとしても。
 何処まで行っても『勇者』は『勇者』だし、『魔王』は『魔王』でしかない。
 深く、息を吸い込んだ。

 ―――いいさ。お前は其処で甘い理想を夢見ていればいい。

 道が分かたれた以上、何も望まない、期待しない、求めたりなどしない。自分の想いを理解せず、愚かな道を選ぶばかりで共感してくれない相手を振り向いている暇はない。いまは己にも『力』がある、誰の手を借りずとも、導いてくれる手がなくとも、戦えるだけの『力』が。

 だから振り返らない。
 オレは、もっと、『先』へ行く。

 待たせたゴメンと肩を叩かれて、素知らぬ笑みを浮かべたまま彼は即座に踵を返した。




 その―――数日後に。
『勇者』が此処へ来ることを知らない、『魔王』の午後。

 

※WEB拍手再録


 

偶には『流行りもの』+『わかりやすい比喩』のコンボでGO☆(コンボ………?)

アニメ第4話の後ぐらいだと思われます。

どーにもこーにもチューリップ仮面(※主人公)による白い騎士の勧誘シーンがRPGのお約束と

かぶってならない旧世代です。皇子ってば当然の如くフラれたしな! ← 待て。

突発的印象だけで仕上げてるので、あまり細かいとこは突っ込まないで下さいね(笑)

 

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