国を離れて辿り着いた地で知り合った同年代の子供は驚くほどに喜怒哀楽の感情表現が豊かだった。王族である己は感情など律すべきものだと教えられてきた。仮面のための「笑顔」は別として、本当の笑い顔や泣き顔などごく一部の身内が知っていればいいのであって、不特定多数の誰かに見せびらかすものでもないのだと。
 だのに、コイツと来たら。
 いい天気だと喜ぶ、道端の花が無残に手折られていて怒る、異国で起きている戦争のニュースを見て悲しむ、一緒にいられて楽しいと笑う。
 出会って間もない頃に、自分が然程高くない崖から転げ落ちたことにある。少し先を行っていた彼は戻ってきて急ぎ己を助け起こすと、「膝がすりむけてる」と涙ぐみ、「でも、大きな怪我じゃなくて良かった」と笑った。
「バカだろう、お前」
 そんなに感情の数々をむき出しにしていてつらくはないのか。
 政治の世界では油断を見せたが最後、追い落とされる運命だ。絶対にコイツはブリタニアでは生きていけないだろう。
「素直って言えよ」
 呆れた顔で見詰めれば奴は怒ったように笑った。




 夏の日差しの強さも木陰に入れば幾分弱くなる。
 足元の土山の形を両手が汚れるのも構わず整えて、花を添え、よく分からない文字が書かれた木の棒を突き立てる。
 かろうじて日本語は話せても読み書きは不得手な自分に対し、「にほんではこうするんだ」と彼は勝手に答えた。何をすればいいかも分からない己はその間ずっと、惚けたように彼を見詰めていた。
 自由に空を舞う鳥もその生を終わらせれば地に眠るしかない。
 以前、コイツの名前は「伝説の鳥」を意味しているのだと聞いた。なら、コイツもいつかは地に落ちるのかなと脈絡もなく考えて。
「………ナナリーに、どう、言おうか」
 可愛がってくれてたのに話しづらい、と。
 少しだけつらそうに目を伏せる。ただ、それだけの。
 より正確に言うならばあの小鳥を可愛がっていたのは妹と彼である。
 確かに自分も可愛がってはいたけれど、餌を与えて面倒みていたのはふたりなのだから多分に自分は部外者だろう。
「でも、黙ったままでいるのもよくないし。一緒に―――お参りに来てくれる、かな」
 今日はもう家に帰らなくちゃダメだけど、と、笑顔と共に当然のように差し出される右手。

 笑顔、
 笑顔、
 笑顔。
 このバカは。

 喜怒哀楽が大げさなくせに肝心なところで人前で出し惜しみしてくれる。

 伸ばされた腕をすり抜けて、にっこりと笑みを浮かべた両頬を思い切りつねり上げた。当然のようにあがる悲鳴は勿論、無視。
 無視だ。
「いっ………! いひゃいじゃないか、るるーひゅ! なにすっ―――」
「バカか、お前は」
「な、」
 限界ギリギリまで引っ張ってから放り出した頬をおさえて目線で抗議する相手に。

「こんな時こそ素直にならなくてどうする」

 一瞬、驚愕に見開かれた目がすぐに潤む。
 まるで最後の意地のようにこぼれ落ちることなく眦に留まった雫に手を伸ばし。

 


059.泣けよ、と短く彼は告げた


 

※WEB拍手再録


 

むかし小鳥を飼ってたっぽいのでそこら辺から捏造レッツ・ゴー。

ところで、何方かワタクシに果たして枢木さんは泣き虫なのかそうでないのか教えてくださらんか。

てゆーかむかしは一人称が「俺」だったと仮定すると激しく性格が合わないYO!

(これがリアルタイム視聴の恐怖か)(でもたぶん違う)

 

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