079.決して砕けないものが欲しい


 

 この薄暗い部屋に閉じ込められてからもうどれだけ経ったのだろう。最初は届けられる食事の回数を頼りに凡その当たりをつけていたが徐々にそれすらも怪しくなってきて。
 細い窓枠から差し込む光が陽光なのか月明かりなのかすらも分からない。
 腕に巻きつけられた重い枷だけが存在を主張していた。
 黒の騎士団は散り散りになった。カレンと藤堂の生死は分からない。ナイトメアは壊された。ゼロの仮面は剥がされた。妹は―――。
 妹は、無事だろうか。
 その想いだけがこころを支えていた。
 扉が重たい音を立てて開く。
 鉄格子の向こう側で憎むべき男が、父の片腕として動く男が、己を罠に嵌めた男が、半分だけ血の繋がった兄が、見惚れるほどの笑みを浮かべて立っていた。
 表向きの優しさに騙されるはずもなく只管に睨み返せば僅かなりとも感銘を受けた様に相手が呟く。
「心配して来てみたのだが、意外と元気そうだな。何よりだ」
「………」
 護衛すらつけずに敵と相対する、その自信と度胸は流石だ。
 無言を貫く己にそっと彼は笑いかける。
「無駄だよ。お前のギアスは通じない」
 嗚呼、確かに。
 気付かれぬように唇を噛み締める。油断していた、自惚れていた、高を括っていた。まさか『絶対遵守』の力が通用しない相手がいるなどと。命を下せるのは一度きり、それ以外にも存在していた意外な落とし穴が。
「お前の扱いに関して未だ議論がまとまらない。本国へ連れ帰ったものか、公開処刑とするべきか。いずれにせよ、残っているかどうかも分からないお前の仲間が救出に訪れるには聊か時間が足りないな」
 明確な日時までは伝えないものの、時が差し迫っていることをそれとなく知らせる。
 虜囚の恐怖を煽るためではなく、恐喝して有益な情報を引きずり出すためでなく、ただ事実を告げるためだけに。笑みは絶やさぬまま軽く己の顎先を指で撫ぜながら静かに告げる。
「そういえば、我が軍にもやたら熱心にお前の助命を嘆願する騎士がいたな。確か………枢木スザク、と言ったか」
 記憶の底に。
 放り出しかけていた名を聞かされてほんの僅かに肩が揺れた。
「知り合いか?」
「………まさか」
 決して開かないはずだった唇が言葉を紡ぎだす。声は情けないほどに枯れていた。
「そうか。それは残念だ」
 男は整った顔立ちに清楚な笑みを浮かべる。
 お前は枢木首相のもとに出入りしていたはずなのにと分かりきった揶揄すら口にせず。
「知り合いなら少しは便宜を図ってやるつもりだったが無関係ならば仕方がない。分を弁えない部下には相応の報いを与えてやらねばなるまいな」
「一介の騎士ごときに」
「あいつは、騎士の誓いを覆したのだよ?」
 この国に仕えると誓ったのと同じ口で、この国を壊そうとした反逆者を庇う言葉を紡ぐから。
 それは裏切りに等しい他への示しもつかない逆らえる立場だと思っているのか妙な奴だだから拒絶するだから壊すだから殺すあの瞳が何処を向いていようと誰を見詰めていようと知ったものか知ったことかただ気に入らない気に入らない気に入らないから消すのだ『アレ』を、と。
 兄は言葉にせずとも瞳で述べて、優雅な口元に笑みを刷く。
 あれはただの愚か者だこの手を拒んだんだ再会を喜び助け起こしてくれたのと同じ手で拒んだんだ何も分かっていない何も変わっていない大馬鹿者だ例え旧友が皇子だろうと一般市民だろうと反逆者だろうと同じく救おうとする馬鹿なんだだから奪うな壊すな殺すな『アレ』を、と。
 弟が睨み続ける先で踵を返し、囚われ人に背を向けて。
「ルルーシュ」
 零された兄の囁きと微笑みは残酷なまでに穏やかだった。

「―――お前の語る復讐は生ぬるい」

 そして、鋼鉄の扉は閉じられた。

 

※WEB拍手再録


 

シュナイゼルお兄さまフライング(笑)

「ルルが捕まっちゃってスザクはシュナイゼル直属の部下(特派)なのに助命を

嘆願しちゃって何だかな」な捏造未来とお思いねぇ。

………これでもし原作お兄さまがすっごい善人だったらどうしようかな。

 

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