空は薄曇、雲間より差し込む日の光も暗く、なまぬるい風が辺りを吹き抜けていく。足元を埋め尽くす瓦礫、砂塵、鉄くずの山。『世紀末』や『終末の世界』なんて所詮は夢物語と思っていたのに、いまこうして目の前に広がる光景はまさしくそれで、通いなれた学校も近くの公園も自身の家でさえどんよりとした黒雲の下で見る影もなく崩れ落ちている。
 嗚呼、―――此処は、一体。




 再会は突然。挨拶もなしに相手の腕を引っ掴み、過去へと連れて来た。
 怒鳴られ、暴れられ、帰さないと告げれば殺気混じりに睨まれた。
 根負けした振りをして<鏡>を開いたけれど―――何故、素直に帰すなどと思ったのだ。

 開いた瞳に映る荒れ果てた大地。この時代の「世紀末」とは己の時代の「末法の世」に当たるのか。いつの世も終末思想はあり、それを乗り越えながら人類は歩んできたけれど、そんなの、ひとつ間違えればすぐに滅んでしまう危うい綱渡りを運良く切り抜けてきただけに過ぎない。
 いずれは滅ぶもの。
 哀れと思うか否かは其れ次第。
 手元に<鏡>の欠片を握り締めて薄く笑う。これが、残された最後の手段。
 舞い上がる砂埃の向こうに求める影を見い出す。相変わらずのボロい長衣―――伏魔殿では防寒と若干の防御の役割を果たしていただろうそれは荒野を彷徨うのに相応しすぎる衣装と言えた。
 数メートルの距離を置いて対峙する。
 いい加減『現実』を悟っただろうか。
 黙して語らぬ己に彼は怒りと焦燥の色濃い言葉を向ける。

「ここは、何処だ」
「お前の世界だ」
「嘘だ」
「嘘じゃない」

 お前が帰りたいと言っていた世界に間違いはない。
 ただ―――幾らかの時は経過しているだろうけれど。
 彼を戻した先は最初の『時点』よりも僅かな歳月を経た時代だった。その僅かな合間に何が起きたのか。天変地異か人的災害か。

「戻せ」
「戻れない」
「何故、誰もいない」
「何故だろう?」

 ふざけるな、と射るような目を向けられればふざけてないさ、と笑い返す。
 手にした<鏡>を差し伸べて。

「引き返せない。が、やり直すなら過去へ行くしかない………過去へ」

 そして。
 相手の瞳が僅かな希望に揺るぎそうになったのを見計らい。

 手を離す。
 重力に従った<鏡>は足元で粉微塵に砕け散る。
 もう二度と、繋ぎ合せることが出来ないほど、細かく。

 奴の瞳が絶望に染められるのを見守った。
 だから、どうして―――引き返せるなどと思ったのだ。自分は戻らないし、彼を戻す心算もない。
 共に、此処で、永久に、此処で。

「何故、」

 声が震える。

「何故、お前は………!」

 気付いているはずだ。
 此処には自分たち以外の生物はいないことを。もとの世界に帰る術は失われたことを。
 さあ、―――どうする。
 貶したり憤ったり詰ったり、一方の当事者である己を殺すか排除するか逃がすか厭うか、憎むも殺すも恨むも彼次第。ただし、己を消したが最後、彼はこの世で真実『ひとり』になる。望まぬ場所に置き去りにされたままひとり彷徨う羽目になる。
 ならば縋るか頼るか靡くか懐くか、嘆き悲しむだけの選択肢は存在しない。
 彼が自分を見詰めてくれるなら負の感情であろうと追い詰められた故の歪んだ執着であろうと喜んで。なるようにしかならないなら諦めて全て受け入れて。
 立ち尽くす想い人に恭しい一礼を返しながら伏せた面の裏で少年は密かな笑みを刻んだ。

 


笑う道化師


 


だって彼には笑うことしか許されていない。

 

 


 

ダーク版マサヤク。意味不明だけど、オミさんがヤクモさんを勝手に望まぬ

(家族も友人も他の闘神士も式神も滅んでいる)未来に連れて来たんだとお思いねぇ。

そして、最後の一文だけ反転仕様。

 

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