※こりもせず『パラレルIF話』な設定です。

 

 

 風は穏やかで日はあたたかく歩けば軽く汗をかくぐらいのうららかな春の午後。花畑があれば蝶が舞い木陰で鳥が歌い猫が縁側で昼寝するような、とにかく穏やかな日で。
 講義を終えたばかりのヤクモは欠伸をかみ殺しながら古い借家への入り口の戸を押した。ミシミシと足音を立てながら静まり返った廊下を歩く。同居人は一足先に帰宅して部屋を掃除してると言っていたが、如何だろう。この静けさを見る限りとてもじゃないが働いているとは思えない。
 そっと居間から顔を覗かせれば、案の定、縁側で眠りこけている人物を見つけた。
 どうせ寝ているだけならば一時間の科目のズレぐらい待ってくれれば良いものを。
 荷物を適当に転がしてそっと近寄る。座布団に頬を寄せて眠る姿は猫そのものだ。この陽気で眠たくなるのは分かるけど、帰宅したのに気付いてもらえないのは、少し。
 傍らにしゃがみ込んで相手の頬をつねっても一言呻いたきりで反応がない。
 力を篭めて更につねってみればみょーんと頬が伸びる。面白い。自分の頬とは大違いだ。ムニムニと引っ張り続けると流石に気に触ったか、目の前を過ぎる虫を振り払うようにマサオミが右手を挙げる。
「てぇよ………」
 左手で目元を擦りながら微妙に掠れた不機嫌そうな声を上げるのは見慣れた態度だ。故に、のんびりと目覚めを待つつもりでいた。
 のだ、が。
 頬を掴んだままのヤクモの左手に己の左手を添えて、マサオミが拗ねたようにぼやく。

「やめ………ったじゃねぇか、―――………」

 呟かれた、名前は。

「………」
「―――? ―――! 痛っ!? いた、いたたたたたっ!!」
 あらん限りの力で左右に頬を引っ張れば慌ててマサオミが跳ね起きる。加害者の腕を跳ね除けた被害者が見たものは、ものすごーくにこやかーに笑うヤクモの表情で、それだけで何となく彼は己が何か仕出かしたらしきことを知る。
「おはようマサオミ。もう午後だがな。ところでお前は帰ってきた同居人におかえりの一言もないのか」
「は?」
「当初の宣言と異なり仕事もせずに縁側で寝こけていた理由を三秒以内に十文字以上二十文字以下で説明しろ」
「へ?」
「三。終了。答えられなかった以上は仕置き決定」
「え? ちょ、待てこらっ! 三秒って無理だろおいっっ!!」
 漸う意識が戻ってきたマサオミが理不尽な要求に慌てて起き上がる、のを制して上からのしかかる。見下ろした先の神流は明らかにうろたえていた。
「どっ、どどどどーしたのかなー、ヤクモさーん? 大学でヤなことでもあったんですかーっ?」
「現在進行形でな。と、ゆー訳で―――」
 それはもう物凄くにっこりと微笑んで。
「誰の夢を見てたのかいますぐ白状しろとっとと白状しろ弁解や弁明があるなら聞いてやらんこともないがいまのオレの機嫌はナイアガラの滝を川くだりするよりも速く下降の一途を辿っていると知れ」
「うっわ、言い切ったよっ。しかもノンブレス!」
「吐け」
「ちょ、待て、なにキレてんの! 夢の内容なんか覚えてねーって!!」
「黙れ」
「矛盾してるぞ!」
 押し切られるのは御免とばかりにマサオミは必死に座布団ガードを繰り出している。無駄なことを。
 迫り来る危機に青褪めた表情で彼は縁側の板張りを叩き、次いで空を指差した。
「と、とにかく! ちったぁ状況を弁えろ! 幾ら周囲が閑散としてるからって―――オレはアオカンなんて嫌だからな!!」
 ピタリ、とヤクモが動きを止める。
 分かってくれたかとマサオミが安堵したのも束の間、訝しげな表情を浮かべた彼は不思議そうに首を傾げて。
「マサオミ」
 問い掛けた。

「『あおかん』って何だ?」

「………………『青い缶詰』………」
 ―――絶対違う。
 目を逸らす相手の態度に何かあるなと思いつつ、その『青』はこの『青』か、と天を指差した。

 


青空缶詰


 


「青菜の缶詰め―――いや、青魚の缶詰めとゆー線も」
「あるか、ぼけ!」
「なら、『あ』いしちゃってるわ『お』かしいほど『かん』じてるのよきみはどう?」
「………………あほ。って、もぉっ―――重い、から、どけ、っ、て………っ!」
「絶対ヤダ」

 

 


 

本来的に皆様が求めたのはこれの逆パターンではなかったのかと小一時間(略)

どれだけ表現がアレっぽくてもふたりの関係はキス止まりであり最後のシーンも

抱きついてるだけだと頑なに主張。

ところで、『アオカン』って『青空の下で衆人環視』の略でしたっけ?(←コイツもわかってなかったヨ!)

 

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