※リクエスト内容 : マサオミさんが幼稚園児になっちゃったよどうしよう。
※どちらかとゆーとヤクマサです。
※ヤクモさんひとりが四苦八苦してる上に微妙に報われてなくて更にはアホです。ご注意ください。
※一応、アニメ版がベースです。パラレル設定は忘れてください。
赤く色づいていた木々がその葉を落とせばいよいよ冬の到来を身近に感じる。木枯らしが吹いたのは数日前だったか、以来、寒さは加速度的に増している。 ヤクモは太白神社の境内を掃除する手を少し休めて大きく伸びをした。 素手で竹作りの箒を握っているとてのひらがかじかんでくる。かといって手袋しながら掃き掃除をするのもなあと頭をかいて。 「………ん?」 妙な波動のようなものを感じて奥の院を振り返った。 マホロバとの戦いも地流とのあれこれもウツホの乱も終えた今ではあるが、まだまだ現役闘神士としての勘は衰えちゃいない。奥の院で管理されているのは様々な争いの種となった<刻渡りの鏡>であり、となれば、使う面子も限られている訳で。 何かあったのかと箒を木に立てかけて奥へと足を運ぶ。 封印の扉を押し開けて中へと踏み込めば、穏やかな光と<力>の余韻が辺りに漂っていた。<刻渡りの鏡>の陣から誰かが立ち上がるのが見える。きちんと着こなされた平安装束、短めの髪、眉間に寄せた皺。 間違いない、タイザンだ。 目があった途端、彼が安堵の息をつく。 「よかった………誰もいなかったらどうしようかと思っていた」 「お久しぶりです、タイザンさん。今日は一体どうしたんです? またガソリン切れですか」 「いや、そうではなく―――」 どうもこうもないんだと彼は顔を覆う。 隠れ里で子供たちを養うには色んなものが必要だと神流の面々は時に現代を訪れることがあった。その度に燃料を持ち帰ったり食料を持ち帰ったり衣類を持ち帰ったり、これって歴史に反することじゃないのかなあと思ったり思わなかったり、まあ色々とあるのだが取り合えず今は置いといて。 「実は、折り入って相談したいことが………」 「相談?」 よいしょ、とタイザンが背後から何かを拾い上げ。 「………っっ!!?」 ぱきり、とヤクモは固まった。 「私にも何がどうなったか全く分からないのだが―――って、ちょ! ヤクモ殿!!?」 深刻な顔して語り始めたタイザンから『それ』を奪い取り一気に外に飛び出した。 奥の院から境内を駆け抜け靴を脱ぐのもそこそこに玄関から居間へ疾走しすっぱーん! と障子を開け放つ。 「とっ、父さん! イヅナさん! 大変だ!!!」 「ヤクモ?」 「ヤクモ様?」 お茶を飲もうとしていたモンジュとイヅナが目を瞬かせて振り返る。 ふたりの眼前にいましがたタイザンから奪ってきたものをグイッ!! と突き出した。 茶色の髪に緑色の目、突然のことに泣き声をあげるでもないふてぶてしい態度、そう、それこそは正しくあの――― 「マサオミが子供を産んだ―――っっ!!!」 ………。 伝説様も大変に混乱していらっしゃるのであった。 |
― かいなの名残 ―
別に、その日もなんということはないただの一日になるはずだった。 いつも通りの時刻に目覚めたタイザンは最近寒くなったね、手がかじかむね、なんてことをウスベニと話しながら仲良く洗濯物を干していた。 その時、突如として母屋から光が溢れ出したのだ。 一体なにごとかと大変に驚いて、不安がるウスベニを後にタイザンは母屋へと乗り込んだ。 そこで。 「―――見つけた訳ですか」 「ええ」 疲れきった表情でタイザンが頷いた。 「しかし、まさかこれがマサオミくんだとは―――」 どこか呆れた様子で太白神社の主は呟く。話題の中心にいる人物はおとなしくモンジュの膝の上に収まっていた。俄かには信じ難いよと首を振りながらも、幼子のほっぺたをつついている父親は何となく楽しそうでもある。 幼子。 そう、今モンジュの膝の上にいるマサオミは『幼子』だった。 髪や瞳こそ見知った色を湛えてはいるものの、どこもかしこもぷにぷにしてて精悍さの欠片もない。時折り辺りを見回しては首を傾げ、物珍しさに目を瞬かせる。歳の頃はせいぜい四、五歳だろうか。 「マサオミくん、マサオミくん、お菓子たべる?」 やたら嬉しそうにイヅナが手を差し出す。滅多に用意しないショートケーキを急ぎ足で買ってきて幼稚園児もどきに渡している辺り、上機嫌も上機嫌だ。 目の前のケーキにきらきらと目を輝かせたマサオミは、しかし、頑として首を横に振った。 「ちがう」 「え?」 「マサオミ、ちがう。ガシン」 ぷぅ、っと頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。 可愛らしいと言えば可愛らしいし憎たらしいと言えば憎たらしい。 イヅナは只管に前者のようで、「やーん、かわいーv」と珍しくもはしゃいだ様子で猫の子よろしくマサオミの頭を撫で付けている。 しかし、まさかこの反応は、とヤクモがタイザンの方を見遣れば。 「たぶんこれは四歳当時のガシンだ。『マサオミ』としての記憶はない」 案の定の答えを返されて天を仰いだ。 姿が幼くなっていようとも記憶と知識がありさえすれば手掛かりを得ることも出来たろうに、当の本人が幼児退行しているとあっては手の打ちようがない。タイザンの疲労もその辺りに起因しているのだろう。数日間、ろくすっぽ眠りもせずに色々と調べていたようだから。 「ウスベニは『イザとなったらもう一度、最初から育て上げましょう。今度は絶対さみしい想いなんてさせないんだから!』と前向きなのだが………それでは、これまで積み上げたものはどうなるのかと」 ゼロからの再出発だと開き直るには抵抗がある。 「タイザンさん、キバチヨは? キバチヨがいればマサオミが何をしてたのかぐらい、」 「神操機が落ちていたから呼びかけてみたが、無理だった。契約者がこうなると式神は強制的に眠りにつくしかないらしい」 再び眉間を抑えながらタイザンが首をゆるく横に振った。 全く、前例のない事態を次々と引き起こしてくれるものだ。 多くの人間の頭を悩ませている園児はイヅナの膝の上でケーキと格闘している。 イヅナは幼いマサオミが可愛くて仕方がないようだが、案外ウスベニの感想も「あの可愛かった弟をもう一度!」レベルなのかもしれない。 「いずれにせよ、こちらではもう策がない。モンジュ殿やヤクモ殿なら何か解決の糸口を掴めるやもしれぬと」 「まあ―――調べてはみますが」 この手の話は聞いたことがないのでね、と父親も少し困ったように眉根を寄せた。 イヅナがマサオミにかまいきりなので仕方なく自分で茶を淹れ直していると、父親に呼び止められた。 「と言う訳だ。ヤクモ。お前、しばらくマサオミくんの面倒を見ていなさい」 「はっ!!?」 「は、じゃないだろう。友達なんだから少しぐらい世話を焼いてあげなさい」 神社の手伝いは分担を減らしてあげるから、と暢気な笑顔と共に依頼に見せかけた命令をくだされたものの。 (面倒を見るって―――こいつの!?) 胡乱な眼差しを送れば口の周りをケーキのくずでぐしゃぐしゃにしたお子様と目が合った。数度の瞬きの後で、にへv と邪気のない笑みを返される。 あ、なんか、ちょっと。 かわい―――じゃ、ない。そうじゃなくて。 慌てて頭を左右に振って咄嗟に浮かんだよく分からん感想を振り払う。 そりゃあ確かに冬休みだし学校連中と会う予定も特にないし部活動もしてない身ではあるけれど自分にもそれなりに予定があったようななかったようなてゆーか父さんの認識だとオレ達は『トモダチ』なんですかどうしてそうなってるのか問い詰めたい小一時間ほど問い詰めたい。 などとグダグダ考えていたのがまずかったのか。 「それでは、お手数をおかけしますがガシンのことを宜しくお願い致します」 「とんでもない。むしろ家族がひとり増えたようで嬉しく感じているぐらいですよ」 「父さんっっ!!」 既にタイザンとモンジュの間で話はついてしまっていた。 互いに三つ指ついて熨斗でも差し出しそうな雰囲気に別の含みを感じるのは意識のしすぎか。 (くそっ!) オレは絶対に面倒なんて見ないぞ、男トモダチには男トモダチの体面てのがあるんだ、友人に世話してもらおうと考える男がいるか、これが原因でマサオミが元の姿に戻った時に仲が険悪になったらどうしてくれる! と、内心であらん限りの文句を並べ立てながらも。 行動として起こせるのは部屋からこっそり抜け出すことぐらいなのだから、この家での自分の立場など知れたものだとヤクモはちょっとだけ虚しくなった。 この前、あいつに会ったのはいつだったろう。 定期的なようでいて不定期にしか訪れない相手だから、いつもいつも先触れがなくて驚かされる。全ては奴の気分次第、牛丼が食いたくなったとかバイクがガス欠になったとか調べ物をしたいとか、そんなことばかりで。 先日は確か、寒くなってきたからと子供用の綿入り半纏とホッカイロの入手に来たのだった。 『よぉーっし、これで人数分あるな!』 『大丈夫か? 随分と大荷物だが………』 『そんな重いモンじゃないから行けるだろ』 目の前に堆く積みあがった荷物の山を見て奴が笑う。 手を貸そうかと提案しても素気無く断られる。必要以上に手を借りるつもりはない、必要以上の関わりを持つ気はない、暗にそう告げられているようで断られる度に少しだけ淋しく感じてしまう。 以前、言っていた。「こっちの世界も好きだけどさ。やっぱオレの居場所はあっちだろ?」と。 まあ、―――時間を越えるという禁忌もあるし、彼の生い立ちやら立場やらを考えれば過去にいるのが最も相応しいと思えた。実際、彼は郷の暮らしに必要な人材となっているのだから。 ここに居ろって引き留めてくれる相手も別にいないし? なんて。 軽く笑い声をあげている相手は無防備な背中を晒している。そろそろ行きますかね、と伸び上がっていた身体を縮めて荷物を掬い上げ。 振り向いて。 奴は、首を傾げた。 『………なにやってんだ? あんた』 『………別に』 まさか、当の相手に。 思わず肩に触れようとした手がお前が屈んだ隙に空振って、隣の木に抱きつく羽目になりましたなんて死んでも言えるハズがなかった。 「………………」 嫌な夢を見た。 実に嫌な夢を見た。 不貞腐れて寝転がった布団の上でヤクモは深いため息をついた。実際に会っている時は意識すらしていないのに、夢の中の自分は随分と素直で分かり易い。 ゴロゴロと布団の上を転がっているとテンポよく自室の扉を叩かれた。 答えるのも億劫だったから布団を目深に被ってやり過ごすことにする。モンジュもイヅナも小さいマサオミがいたく気に入ったようだったし、もう、三人で仲良くやってりゃいいじゃないか。 「やーくもーぉ! やくもやくも―――っ! おひる! ひるめし! おきろ―――っ!!」 ………覚えがあるようでない声が響いて来たので、ますますもって布団を深く被った。なんだって先刻、夢で会ったばかりの人間の成れの果てに呼び出されなくちゃならんのだ。午前中の労働の対価として身体は空腹を訴え始めているが、このまま意地を張り通してことんまで不貞寝をすることにしよう。 しかし、敵も然る者。 鈍い音に戸が開いたと認識したのも束の間、腹の上にドン! と何かが落っこちた。 「ぐぇ!」 予期せぬ攻撃に呻き声がもれた。なんの用意もしてない腹筋に、これはかなり響く。 べしべしと布団の上から頭やら肩やらを叩かれて。 「めしっ! いづなさんよんでる! やーくーもーはーねーぼーすーけーぐーたらプー」 「誰がプーだ!!」 このクソガキ! と跳ね起きたところで。 ヤクモは朝の一件よろしく、再び停止することとなった。 「………………」 「やくも?」 マサオミは不思議そうに小首を傾げる。ひらひらと目の前で手を振ってこちらの正気を確認する点に、かつてとの共通項を見い出して懐かしいなあ、なんて―――。 「―――思ってる場合かぁぁぁっっ!!!」 「みゃ!?」 いきなりヤクモが立ち上がり、ころりとマサオミが転がり落ちる。 いたい、と不満を訴える小柄な身体を横抱きにして部屋を飛び出した。あっという間に辿り着いた居間の襖をスターン! と開ける。 「イヅナさんっっ!!!」 「起きたのですね、ヤクモ様」 「起きたのですねじゃありません! 何ですかこの格好は! これ着せたのイヅナさんですよね!?」 お盆に湯飲みを乗せたまま幾度か瞬きをしたイヅナは、次いで、物凄く嬉しそうに笑った。 「ええ、そうです。可愛いでしょ?」 「かわいくありませんっっ!!」 鳴り響く悲鳴もとい絶叫。なんだってこんな―――こんな、フリフリの白いワンピースとか。 ふわふわ綿毛で作られた髪飾りとか。 ひらひらで細かな刺繍がしてある真っ白い靴下とか。 誂えたようにハマりまくってるお嬢様っぽいやわらかレースの帽子とか。 オプションでつけられてる大きなふかふかクマさんのぬいぐるみとか。 今のマサオミを着飾っているものの端から端まで全てが大問題だ。まるで生きたフランス人形、とてもじゃないけどあの憎たらしい神流の子供時代とは思えない。 「ナズナに着せようと思って買ってあったんですけど、あの子ときたら和服の方が好きだなんて言うんですもの。それはそれで振袖とかで着飾れたから楽しかったですけど、折角マサオミ様が小さくなったのですからここは着せておかねばと」 「分かりません。そこで着せようという発想が出てくる辺りが分かりません」 ヤクモに抱え上げられたマサオミは居心地が悪いのか腕の中でモゾモゾと動いている。 第一これはよそ行きの服でしょう、こんなカッコでメシを食わせる気ですか、子供は汚すに決まってます、汚れを落とすのがどんなに大変か分かってるんですか!? と問い詰めればイヅナは少し考え込んだ。 お盆を机の上に置いてマサオミを手招きする。ほんの少し腕の力を緩めただけで、床に下りたマサオミはイヅナに駆け寄ってしがみついた。無意識に伸ばされた両腕をごくごく自然にイヅナが受け取って抱き上げれば、マサオミはぽやぽやの笑みを浮かべる。 なんだその笑顔は。無駄に幸せそうな笑い方は。 そーかそーか、そんなに女が好きかこの女たらしめ。この歳でこれでは先が思い遣られる。 歳の離れた弟を見守る目つきでイヅナはマサオミを抱え直す。 「ヤクモ様のお言葉にも一理ありますね。着替えをさせてきますのでモンジュ様をお呼びしておいてくださいますか」 「わかりました」 「さ、行きましょうねー、ガシンちゃん。ほんとこのお兄ちゃんはワケがわかんなくて怖いですね〜」 「こわいですねーv」 「ちょっ………!」 すれ違い様にさらりと告げられて、何でも真似する子供の声で追い討ちかけられて、ヤクモは床に突っ伏したくなった。遠ざかる背中に恨めしそうな視線を送る。一応、マサオミの面倒を父親に命じられたのは自分のはずだったのだけれど。 (………イヅナさんが全部、みちゃってるじゃないか) 寝てしまった自分が悪いと言えば悪いのだが。 そして、父を呼びに行くついでに食器ぐらい運んでおくかと台所を覗いた彼は、用意された食事がお子様ランチだったことに今度こそ膝を折ったのだった。 どうにかこうにか服装を自分のおさがりの一般男児服に変更してもらって、食事も終えて、さてこれからどうしようかと考える。 モンジュはマサオミを元の姿に戻す術がないか調べなければいけなかったし、イヅナはもとより手伝いに来ているだけなので、自身の預かる社に戻ってあれこれとやらねばならないことがある。 しかし、役目を割り振られたはいいものの微妙に付き合い方が分からなくて戸惑ってしまう。 目の前にいる子供は記憶はなくてもマサオミで、マサオミだけど記憶がないから単なる子供で、要はモンジュやイヅナのように自然体で接せればいいんだと数時間は室内で色々と頑張った。 頑張ったのだ、が。 元気の有り余るお子様はそこら中を走り回り、追い駆けるのがやっとの有り様。まこと、子供の体力は侮れない。襖を蹴倒し障子を破き壷に足を引っ掛け転倒し押入れに入り込んで布団をしっちゃかめっちゃかにし―――お前、そんなにウチがキライだったのかと勘繰りたくなるような暴れっぷりである。 ちくしょう、元に戻ったら仕返ししてやるからなと了見の狭いことを考えてる合間にも、ひとつを片付けている内にもうひとつを壊す暴君ぶりに全てを投げ出したくなる。世間の母親が育児ノイローゼになるのも当然だ。 抱え上げて日用雑貨の類から遠ざけると「やーん」と愚図られた。なんだコイツは。あのふたりならいいのに自分はイヤだと言うのか。なんたる我侭。抱え上げた際の予想外の重さと軽さにちょっとだけ感動してたのに台無しだ。幼児でもこれぐらいの重さなら、成長したら抱え上げるのにもっと腕力が必要になるんだろうなあなんて考えてたのに。先刻のふりふりドレスも含めて格好や言動をビデオか何かに収め、後で強請りのネタにしてやろうか。 通りすがり様、見るに見かねた父親が苦笑まじりに提案する。 「大変だったら外で遊んできたらどうだ? 公園ならマサオミくんと同年代の子もいるだろうし、きっと、すぐに仲良くなれるさ」 確かにいい手かもしれない、と暴れ回るマサオミを抱え込んだままヤクモは考え込む。 車やらバイクやらチャリンコやら不審人物やら不審人物やら不審人物やらの危険には抜かりなく自分が目を光らせるとしても、公園で出会うであろう子供たちにまでガンつける訳にもいかない。 幼児期は微妙に性別が曖昧なため女の子と間違われる可能性もある。「あら可愛いv」なんて興味津々のおばさま方に取り囲まれたらどうするか。特別に飾り立てずとも可愛いものは可愛いんだから素直に愛でればよいものを、何だって女性陣はわいわい騒ぐのだろう。実際、ふりふりスカートで身を固めた奴はビスクドールも真っ青な生きたお人形、この分なら和服だってイケるはず、文金高島田をつけたらタイザンが泣くに違いない。 そうだ、着せるなら今しかない。いつものマサオミに振袖やドレスを着てくれと頼んだところで受け入れてくれる可能性は低い。ノリと突っ込みで人生渡ってるよーな奴だから軽くOKしてくれるかもしれないが理由を求められることは明白で、「なんとなく」だの「似合うと思うから」だのと語れば不気味がられるのがオチである。挙句に「伝説様が狂った!」と叫ばれた日には立ち直れな―――って、待て、なんでこんな話になってるんだ? との考えは一先ず置いといて。 廻らせていた思考の果てで『あること』に気付いたヤクモはひくっ、と表情を引き攣らせた。 物凄い勢いで首を横に振って全力で「お出かけ」を否定する。 「とっ、父さん! ダメです! 外で遊ばせちゃダメです!! 危険だ!!」 「お前が車とかに気をつけてあげればいい話じゃないのかな」 「じゃなくて! その………っ、小さくなった原因が分からないんだから、いつ大きくなるかも分からないじゃないですか!? いきなり公衆の面前で大きくなったりしたら庇いきれませんよ!!」 はて、と首を捻った後で。 息子の意図を正しく理解した父親は実に爽やかに微笑んだ。 「ああ、そうか。流石に服は大きくなってくれないから、このまま元の大きさに戻ったらすっぽんぽんになっちゃうな! バニーフラッシュだったっけ?」 「ハニーです、父さん」 あっはっは! と朗らかに笑う父親の姿に頭を抱えた。 幾らなんでも友人が猥褻物陳列罪で現行犯逮捕される現場に居合わせたくはない。そんな出来事があったが最後、マサオミは「もう二度と現代には来ない」と言い出すかもしれなくて、それは、何だかとっても困るのだ。 もとより野郎のハダカを見て喜ぶ人種などごくごく少数に限られているのだから進んで見せる危険を冒す必要もあるまい。大体そんな、いきなりご開帳されたりしたら有り難味に欠けるとゆーか恥じらう様子がなくてつまらないとゆーかこっちにだって色々と覚悟がいるんだとか、そんな感じの。 一頻り笑った父親は、ヤクモが抱え込んでいる子供の頭を我が子のように愛おしんで撫でながら、「それじゃあ、庭で遊んでおいで」と促した。 「ヤクモもそれなら安心だろう?」 全てを理解しているように微笑まれれば、元より家族に弱い伝説様が逆らえるはずもなかった。 境内の裏手で遊ばせようと手招きすれば気楽にほいほいとついてくる。カルガモの親子じゃあるまいし、なんの考えもなしにくっついてくる様は―――面白いけど。歩き方もおとなに比べれば随分と頼りないから、つい「ヨチヨチ」とか「もたもた」などの情けない擬音で表現したくなる。 「マサオミ」 「ガシン!」 名前だけは律儀に訂正してくるので少し腹が立つ。 遊んでる奴はそのままにヤクモは植木の手入れをすることにした。こないのかな? と、期待と不安を篭めた目を向けられたのは敢えて無視。 ちょっとだけ気落ちしたらしい相手はトボトボと壁の方へ歩いていった。 視線でそれとなくその姿を追いながら考える。 (………もしも) このままマサオミが幼いまま時を過ごすとして。 過去へ戻すのとこちらで過ごすのとどちらがより良いことなのだろう。 平安のむかしに妙な薬品などあろうはずもないから、マサオミが取った手段はおそらく何らかの術である。せめて使われた道具の一端でも分かれば探りようもあるのに、見事なまでに状況証拠は掻き消えていたとタイザンは言っていた。腕の立つ術者である彼がそう断言している以上、お先真っ暗だ。 過去には奴の家族がいるが、生活も苦しいし疫病に苦しむ可能性もある。一方、現代に来れば自然環境は乏しいものの衣食住に事欠くことはない。当人がそれを良しとするならば現代にいた方が便利に決まっている。 だが、奴はあの時、過去へ帰る道を選んだのだ。現代に留まる神流の仲間もいる中で、自分は過去へ戻って子供たちの面倒を見るときっぱり宣言したのだ。今のナリが幼いとて根底にある奴の根性までもが覆されたとは思えない。 何も考えてないようなあのお子様だって、尋ねれば「ねえさんとタイザンと一緒にいるー!」と笑顔で宣言するのだろう。それを淋しく感じる者がいるだなんて思いもしないで。 プシ―――ッッ!!! 「むきゃ―――っ!!?」 バン! ………バンっ!! 「………?」 「なぁーに寝ぼけ面してんだよ! もう朝だぜ!!」 右手には音の正体である雪の玉。足元に山のようにこしらえて、隙あらば狙い撃ちしようと投手の如き臨戦態勢を気取っている。 「お前、あのカッコのオレでなきゃ抱き締められないんだろ」 ………。 「………………え?」 ぴたり、と時が静止して。 「………マサオミ!!」 嗚呼、一体どうしてくれようか。 |
「服の裾を摘んだりしてくれると嬉しいですv」と頼まれたのですが、それに相当する
シーンを入れようと四苦八苦していたら何故かこんなことに(苦)。
ヤクモさん視点だと分かりづらいですが、マサオミさんは結構まえから「コイツ、オレのこと
好きなんじゃね?」と気付いてたようです。でもって、いつ手を出してくるのかなあと色々
仕掛けてはみたものの、性根がヘタレであるヤクモさんは何もしてこなかった、と(苦笑)。
他にも色々とお子様マサオミに振り回される伝説様を書いてたんですが長くなりすぎたので
割愛しました。どうせ伝説様はヘタレなんだし、別にいいよね? ← なんの話だ。
こんな作品ではございますが少しでもお楽しみ頂ければ幸いです〜っ。
リクエスト、ありがとうございました♪