※リクエストのお題:おせおせヤクモとたじたじマサオミ、みたいな。

※いえホントは↑はパラレル設定でいただいたんですけどね。気分的には「かいなの名残」の続編ぽいので

それで許してプリーズ。 ← 何様だお前。

※伝説様が想像以上にあほな役回りになりました。

※ある種のシモネタ(?)なので苦手な方はご注意ください………。

 

 

 

 休日に目が覚める前のまどろみの数分間。それは何よりも魅力的な時間だ。
 あたたかな日差しを感じながらやわらかな布団にくるまれている感触。早く起きろと急きたてられることも今日の授業は何だったかと頭を悩ませる必要も無い。時間が無制限に与えられている訳ではなくとも、あと五分だけ、もう少しだけ、そんな我侭が通用するのだ。
 ほこほことのどかな陽気に当てられたようにヤクモは布団の中で寝返りをうった。何故だろう、今日は特別あたたかくて居心地がいい気がする。シーツも布団も枕までもがひなたで干したばかりのぬくもりを湛えているようだ。
 もぞ、と動いた右手が何かやわらかいものに当たる。
(………?)
 なんだろう。すごく気持ちがいい。あったかくてやわこくてふにふにしてて、適度な弾力と大きさがあって。
 ぬいぐるみでも抱いて寝てただろうか? いや、流石にそんな年齢は卒業している。
 でも。
(………きもちいー………)
 感触がやわらかくて楽しいから思い切ってそこに顔を埋めてみた。
 うん。なかなかに高性能な枕だ。実に気持ちがいい。ついでとばかりに腕をその高性能枕に伸ばしたところで、ふと、気がついた。
(………?)
 枕に、固い部分がある。いや、固いとゆーかしっかりしてるとゆーか、有り体に言って骨ばってるみたいな感じの。太くなったり細くなったり凹凸があったり、自分の肩ぐらいからおそらくは足元まで、上から下までなだらかな曲線が続いているが、そもそもこんなにでかい枕なんてマジで抱き枕しか有り得ないのではないか。
 徐々に覚醒してきた意識と共に疑問が頭をもたげてくる。冷や汗が流れる。
 自分は抱き枕なんて持っていたか? 高校生にもなって? 丸めた布団でも抱いているのか? 何か持ち込んだのか?
「………」
 脳内で警鐘が鳴り響く。その音に押されるようにしてギギギ、と瞼をこじ開けたヤクモは。
「―――」
 目の前の光景を確認してたっぷり十秒間は停止し。
 そして。

「っっっ、わぁぁぁぁ――――――っっ!!?」

 吉川家に悲鳴が鳴り響いた。

 


夢のまた夢


 

「〜〜〜っ、んだよぉ。もう。眠たいってのに………」
「………!」
 愚痴を零しながら目元を擦っている人物の姿をヤクモは部屋の壁にベッタリと張り付いた状態で食い入るように眺めた。右手がこう、わきわきしちゃてるのは、あれだ。つまるところその何ともどうしようもなく信じ難い僥倖によるところの。
 心臓がバクバク言って止まらない。顔も熱い。頑張れオレ、頑張って冷静に考えてみようオレ。
 目の前の人物―――同じ布団で寝ていた人物、は。
 こちらの存在に気付くと半分眠っている表情でヘラリと笑いかけてきた。
「ああ、ヤクモ………おはよ」
 起きたばかりなのに昏倒したい衝撃に駆られながらもヤクモは必死で回らない頭を回転させた。
 よし、順番に状況を整理してみよう。
 目の前の人物は誰だ? ―――マサオミだ。
 それは間違いない。目の色も髪の色も表情も見知ったそれである。何も問題はない。
 問題があるとしたら、なんだって奴が自分と同じ布団に寝ていたのかとゆー、その事実だ。
 奴がシャツ一枚しか着ていない(※下着丸見え)とゆー、その事実だ。
 胸が、男には有り得ないほど膨らんでいるとゆー、その、事実だ。
「………」
「どしたー。ヤクモ。まだ寝ぼけてんのか?」
 マサオミ(だと八割方思われる)人物が訝しげに顔を覗きこんでくるのも気にならない。ヤクモの神経と視線は相手の胸元に一転集中☆ である。
 大きさといい形といい―――これは実にいいチチ。
 って、いやいやいやそうではなく! そうではないんだオレよ!
 ぶんぶんと頭を振って雑念を振り払おうとするヤクモをいよいよもって相手は不審の目で見詰めている。
(落ち着け、冷静になれ、よく考えろ………!)
 自分の知っている大神マサオミの性別は何だ? 男だろ? 生物学的にも遺伝子的にも見事に男性だったはずだ。より端的に言うならば胸が真っ平らで股間にアレがついてる種別である。
 だからこそ自分は「どうしてよりによってあいつにホの字!?」等と青春の悩みを体験したのであり、手を出し損ねていたのであり、そこをつい先日向こうから「ヘイ、カモン!」とお誘いを受けて(※作注:この点マサオミにとってはかなり異論があると思われる)めでたくもお付き合い開始―――未だキスさえ儘ならず、の関係になったのであって。
 だのに一足飛びに朝チュンとは何事か。
 頼む、オレの下半身よ答えてくれ。昨夜何事かがあったのかあるいは何もなかったのかを。あったら嬉しいけど記憶がないのが哀しいし、何もなかったら何もなかったでこれだけのナイス生チチ・また来て生足を目にしておいて男としての甲斐性を疑われそうな事態―――って、違う違うそうじゃない。それも問題だが先ずは前提条件を改めよう。
 混乱の極地にある思考回路を無理にまとめあげた結論としては、とりあえず、男にあの胸はない。あの胸は有り得ない。シリコン注入しても有り得ない。しかしながらええとその、自分の手で揉みしだいていただろう至福の感触からして偽ムネも有り得ない。
 何度瞬きしても目の前の麗しい膨らみは消えることなく存在を主張しており、あまりに注視するのも耐え難くなってきて視線を逸らせばほっっっそい腰だの丸出しの白い太腿だのが視界に入ってきてより一層目には天国、下半身には(ある意味)地獄な光景が惜し気もなく晒しだされていて。
 朝の健康的な光で無駄に肌の白さを強調しないでください。何の呪いですか、これは。
「………マサオミ」
「なんだ?」
 いつもより声が高く、やわらかくなってはいるものの、確かに見知ったマサオミのそれで少しだけほっとした。
 まずは第一関門をクリアしよう。
 目の前の人物は体型といい線の細さといい輪郭の丸みといい何処からどうみても女なのであるが。
「お前、男じゃなかったのか」
「―――こんだけ胸が腫れあがった男がいたらギネスに登録できるな」
 性格は何処まで行ってもマサオミそのものだった。
 こちらが寝惚けていると判断したのか相手にするのが馬鹿らしくなってきたのか、マサオミはヤレヤレと溜息ついて布団から本格的に這い出して来た。傍らに脱ぎ捨ててあったシャツらしきものに手をかける。
「………マサオミ」
「なんだ?」
「どうしてオレとお前が同じ布団で寝てたんだ?」
「はあ?」
 今度はやたら忌々しげな目で睨まれた。
 もしかして禁句だったか。いやしかし第二関門をクリアしなければ先へ進めない、第一関門すらクリアしたとは言い難いたいけど。
 眉を顰めたマサオミはつ、とやたら白く見える掌を伸ばしてこちらの額に触れる。
「あんた、マジで風邪でも引いたのか。大丈夫か?」
「だっ―――だだだ大丈夫だ!」
「そっかあ? 微妙に熱い気もするけどなあ」
 んー? と額で熱をはかりながら首を傾げる様が凶悪的だ。何が凶悪的って、その、襟刳りから覗いてる鎖骨の辺りが特に。
 ひらひらと手を振って彼、もとい彼女は苦笑する。
「なんだよ、もう。あんたが寂しいって言うからここに泊まる時はいつも一緒に寝てやってるってのに。甲斐ないこと言うなよなあ」
 脳天直撃デッドボール並みの衝撃を伴う発言に呆然としているヤクモを余所にマサオミは自らの纏うシャツの裾に手をかけた。
 ―――の、を。
 瞬間移動ばりの速度で止めた。
「待て! マサオミ!!」
「あん?」
 怪訝そうな表情も常よりはやわらかい印象を湛えている。そういや女なのに「マサオミ」ってなんだか変じゃないか、あれを女子名に変換するなら「マサコ」とか「マサミ」とかになるんじゃないのか等の素朴な疑問はさておいて。
「お前っ………まさかここで着替える気か!」
「他に何処で着替えろと?」
「や、その、それはっ―――せ、せめてオレに後ろを向けとか何とか!」
 垣間見えた真っ白な背中が目に焼きついて離れない。ああもう誰か何とかしてくれ。事情も展開も飲み込めてないってのに青少年の理性を試すような真似はしないでくれ、もし本当に毎朝こんな目に遭ってたんだとしたらあらゆる意味でオレの身はもたない。
「お前、下着すらつけてないんだろ!?」
「ブラジャーつけたまま寝ろってのか? 苦しいんだぞ、あれ! もしなあ、型崩れを心配してるんだとしてもオレの胸が無駄にでかくなっちまったのはお前が日毎夜毎もむからであって!」
 もんでない! もんでないもんでない!!
 必死の形相でブンブンと首を真横へ反復運動。
 あんな天使のふくらみに対してそんな不埒な真似、非常にしてみたくもあり魅力的であることこの上ないが、え、マジ? マジでそんなもみしだかんばかりの振る舞いを? くっそう、何故オレは覚えてないんだその感触を羨ましすぎるだろうが!!
「言っとくがいまのオレの胸をもんでも何も出ねぇぞ。避妊はバッチリだからな!」
 さらりと告げられた言葉に撃沈する。
 ごめん。何処まで行ってるんだオレとお前の関係。たとえこれが奴なりのからかいなのだとしても現在の自分には判断つかないんだってば。
 しっかたねぇなあと呟いた相手は自分なりの妥協点を思いついたのか着ているシャツはそのままに上からジャケットを羽織った。無論ヤクモのジャケットを、である。よいしょ、と立ち上がって伸びをひとつ。
「そんじゃー、朝食でも作りに行きますかね」
「ま、待て、マサオミっっ!」
「………んだよ。今日はほんとうるさいなあ」
「うるさくてもいいっ!! 下に何か穿いてくれ! 何かを!!」
 壁にべったりと張り付いたままぷるぷると震える指先で足元を指す。
 そこには何とも白くてすべすべしていて肌触りが良さそうでこれぞまさしく「カモシカの足」と喩えたくなるほど形が良くてでも実際のカモシカは短足っぽかったよないやそれは表現の違いであってとにかく己の理想を凝縮したようなアレやソレやらが惜し気もなくさらされてるってのはやっぱり何か間違ってると思います先生!!
 ちらり、と己の足を見下ろしたマサオミは。
「―――問題ないんじゃね? 下着が見える訳でなし」
 と、ジャケットの裾を僅かに下に引っ張って見せた。
 そう、確かに見えてない。見えそで見えないギリギリのライン。これでマサオミが長めの靴下かタイツをつけていたらジャケットとの間に生じた僅かな地肌に「絶対領域ぃぃぃ!!」と叫ばねばならぬ使命感にかられること請け合いだ。
 てゆーか正直いって目の毒です。鎖骨と胸がジャケットで隠れたと思ったら今度は美脚です。裸エプロンとだぼシャツ1枚は男のロマンです。
 欲望を払い除けた先には更なる欲望が待っていました。
 何故、欲望を退けるのか? そこに欲望があるからだ。
 未だ部屋の隅で収まる気配のない動悸・息切れ・眩暈・キューシン! キューシン!(特定部位の)血圧上昇に襲われているヤクモを置いてマサオミは部屋の戸を開ける。
「あ」
 と、何かに気付いたのか、ぽむと両手を打ち合わせてこちらへ戻ってきた。
 へたりこんだヤクモの目線に合うようにしゃがみ込んで顔に顔を寄せる。近すぎる顔に動揺する暇もなく、額に「ちゅv」とあたたかな感触が触れた。
 至近距離にある緑の瞳が照れ臭そうに潤む。
「おはよう、ヤクモ。今日も愛してるよ」
 理論も理屈も吹っ飛んで。
 この笑顔のためなら何だって出来ると思った。




「―――という夢を見てな。実にいい夢だった」
「………ほーぉ?」
 いまのいままで我慢して彼の話に耳を傾けていたマサオミは、そのあんまりにあんまりな内容にヒクヒクと頬を引き攣らせた。
「―――ヤクモ」
「なんだ」
「それが! お前が! 早朝からウチに来てオレを押し倒した理由の全てか!! 他に言うことはないのか!?」
「ない!」
 きっぱりと答えるヤクモを呪い殺したい。
 非常に殺したい。
 まだ夜中と呼んでいい時間帯にいきなり<刻渡りの鏡>を使って押しかけられて気持ちよく眠っていたところを叩き起こされてあまりに真剣な表情をしているから何事かがあったのかと気を引き締める間もなく押し倒されて服を肌蹴られて胸に手を当てられて、でもって開口一番告げられた言葉と言えば実に残念そうな声で、
「ない」
 だったりしたものだからもうマサオミが彼を殴り飛ばしたところで誰も文句はないだろう。
 何が「ない」のかは此処に来た理由もとい夢の内容を聞いてみれば明らかで、アホらしすぎて力が抜けるし呆れるし情けなくなるし、そんなんオレについてたらおかしいだろってゆーかひょっとしてついてて欲しかったのかあんたは一回深層心理を漂白洗浄してきやがれお前なんざブリーチだこの野郎と罵りたい上に蹴飛ばしたい。
 ちなみに。
 殴り飛ばされたはずの伝説様はいままた復活して自分の上に圧し掛かっている。なんでやねん。
 思わず頭を抱え込んで深い溜息を零した。
「オレが女になったところで不気味なだけだろ………」
「そんなことはない。胸の形といいケツの食い込みといい実に食欲をそそるいい色合いだった」
 それ、オレじゃないし。てゆーかお前は食人気質か落ち着けヤクモ。
 相変わらず上から退く気配のない相手をうんざりとした眼差しで見上げる。
 確かに。
 考えてみればヤクモの恋愛感情はごくごく真っ当に同年代の女の子相手に向けられていたはずなのだ。やりたい盛りの年頃だもの、ベッドの下にエロ本の5冊や10冊や100冊眠ってたって文句は言わない。むしろ1冊も持ってなかったら別の意味で心配する。当人が傷つくだろうから決して口にはしないけど、真面目な顔して実はムッツリ、とゆーのがヤクモに対するマサオミの密かな評価だったりする。
 だからまあ、夢の内容だって理解できない訳じゃないのだ。
 チチ・シリ・フトモモ! と本能が叫んでいるであろう年代に付き合っている恋人(?)が何故か男。
 こともあろーに胸もない、ケツもない、身体カタイ、足は筋肉質、とナイナイ尽くしのヤローなんかを相手に選んじゃってるのである。
 男が相手なんつったらもう先ずなまじっかな方法ではヤれない。あらゆる意味で確実に血を見る。役割分担を決める段階で必ず血を見る。自分がイタイ思いをするのは可能な限り避けたいし、かといって相手が痛がるのも哀れに過ぎる。ああ、こんな時ばかりは自分たちの性別を恨むんだぜ―――なんてぇ心理が働いたのだろうと好意的に解釈できなくもなくもなくもない、のだが。
(なんだってそこで一足飛びにオレが女役!? オレが下なのは決定なのかこの野郎!!)
 ヤクモが頭さげて頼んできたなら「仕方ないなあ」と苦笑しつつ受け入れてやる気満々だったのに、頼まれるより先に「夢」なんつー欲望も露な形で希望を告げられればヘソ曲げたくなっても当然だ。しかも先日まで手を繋げない、告白できない、肩も抱けないのナイナイ尽くしだった男が断りなしに見た夢が(夢に断りは不要であるが)いきなり個人の肖像権侵害な超絶展開。
 つまるところ、こいつは「いま」のマサオミに不満があるのだと判断できなくもない訳で。
(悪かったなああ、ムチムチプリンたまご責めが出来ない身体でよぉぉぉ!)
 ………。
 マサオミも、たぶんにかなりブチ切れていた。
「残念だったな、女じゃなくてv そんなにヤりたいんならとっとと相手を探しに行けば?」
 にんまりと笑ってやれば流石に相手が不機嫌なことに気がついたのか。やや寝惚けていた風のある伝説様は慌てたようにこちらの顔の脇に両手をついてきた。
「待て、マサオミ! お前は誤解している!」
「何を」
「確かにオレは貧乳より爆乳のが好きだし、バスト・ウエスト・ヒップが99・55・88な某女盗賊に憧れてもいる!」
 堂々と暴露しやがったよ、この野郎。
「けどそれは男の本能であっていまのオレの好みはお前に一直線だ! 胸がないのがなんだ! ケツがないのがなんだ! そんなものはオレが後から幾らでも揉んで大きく!!」
「なってたまるか―――っっ!! やっぱお前まだ寝惚けてるだろ!!」
「お前が女だったらより萌えるとゆー若干の邪心があったことは認めよう。それに!」
 若干どころじゃない気がします、伝説様。
 なんだか微妙に意識を飛ばしたくなっているマサオミを余所に彼は熱弁を振るった。
「お前が女だったらいいコトがひとつだけある」
「抱き心地がよくなるとかか?」
「子供が作れる」
 ゴン☆
 マサオミは器用にも寝転がったまま仰け反って頭を床にぶつけた。
 ごめんなさい、なんだかオレはもう色々と限界です。寝起きの頭にこれは限界です。ウツホ様、いまこそあなたの後を追いたい気持ちで一杯です。
 なんかもうね、未だ付き合い始めて1ヶ月足らずなのにね、キスさえろくすっぽしてないってのにね、どうしてそこまで話が飛躍するのかと! 出会った翌日に結婚式あげようとする御伽噺の王子様なみのハイテンションだよコイツ!!
「オレはお前にそっくりな女の子が欲しい!」
「あー………分かったからホント退いてくれないかなヤクモ………久々にあんたを神操機でぶちのめしたいなあ、オレ」
「でもいい、分かってるんだ。お前が女になるはずもないってことは」
「ん?」
 急にしんみりとした口調で語られて、相手を押し退けようとしていたマサオミはしばし動きを止めた。なんだかんだで強く出れない辺りに惚れていることを自覚させられて、思ったより近くにある顔にちょっとドキドキしたりして、チクショウ、こいつ顔だけは無駄にいいんだよと神流はこっそり舌打ちする。
「な、んだよ。分かってるんならそんな落ち込まなくたって………」
「男同士でも愛さえあれば子供ぐらいできるさ! そうだろう、マサオミ!!」
「進化の過程を全否定するんじゃねぇぇ―――っっ!!」
 謝れ! DNAの二重螺旋に謝れ! 一瞬でも躊躇したオレが馬鹿だった!
 渾身のコークスクリュー・パンチが目標に炸裂した。
 どごしゃああ! と人間にあらざる効果音を上げて高く舞い上がったヤクモは天井の梁に激突してから地面に墜落する。勿論、手加減などしない。伝説様は不死身であるが故に伝説様なのだ。
 いてててて、と呟きながら起き上がったヤクモは不満も露に口をとんがらかす。
「ひどいじゃないか、マサオミ! お前は子供が欲しくないってゆーのか!?」
「欲しい欲しくない以前に生物学的に無理だろーがっっ!? どんだけ夢みてんだ、あんたは! 見ろ! 鳥肌たっちまったじゃないか!!」
「人類の進化の過程には突然変異がつきものだ。それで行くならば例えばオレの染色体とお前の染色体がフュージョンして!」
「無理だから! 知的に語ろうとしても内容がアホだから! 大体なあ、ほんとムカつくんだけど!」
 チッ、と舌打ちしておそらくは一番気にしていたことを口にした。
「なんだってオレが女役って決定してんだよ!? そりゃ、突っ込む方が楽なんだろーけどな! 自分が女扱いされた場合を考えてみろってんだ!」
 途端、ヤクモが開こうとしていた口をピタリと閉ざして。ただでさえ大きい瞳が更に大きく見開かれた。
 実に気まずい沈黙が辺りに満ちる。漸う部屋の隙間から差し込んできた日の光が辺りを照らし始めても、この場の雰囲気までは変えられそうにない。
(まずい………言い過ぎたか?)
 マサオミが内心で冷や汗を流しまくっていた時。
「―――そうか」
 ぽつり、とヤクモが呟いた。
 マサオミの想像とはかなり違う方向で。

「その手があったか!」

 ………。
 ………。
「………はい?」
 マサオミがぽかーんと口を開けてしまったのも宜うかな。
 神流の混乱と衝撃を余所に、天流は思いついた妙案にきらきらと目を輝かせている。ああ、朝日がただでさえ綺麗な目を更に輝かせてなんと目映いことか。
「そうか。そうだな。別にお前が母親でなきゃいけないって決まった訳じゃないんだよな!」
「………」
「するとオレは17年間の男としての人生に終止符を打つことになるが、まあ、いい。愛の証と考えればその程度、安い代償だ」
 発言内容はかっこいいのだが真意がかなり問題だ。
 すいません本気ですかお願いちょっと待ってとマサオミが手を伸ばす暇もあらばこそ、伝説様は颯爽と衣服の裾を翻らせた。
「思い立ったが吉日だ! 早速父さんに相談してくる!」
「え、あの、ちょっ―――」
「マサオミ、オレの17年間を捧げるからな! 責任取れよ!」
「もっ………! 戻って来いヤクモォォォォ―――ッッ!!?」
 伸ばした腕は虚しく空を掴む。
 プッリィィィズ・カムバック・アゲイーン! アイ・シャル・リッタァァァ―――ン!!
 な、叫びを後にして。
 浮かれ気分で現代に戻った伝説様のその後の運命は。
 まさしく。
 神のみぞ知る。








「―――って夢みちまってさあ。いやあマジで怖かったよホント。泣くかと思ったもんオレ」
「マサオミ………お前はオレを何だと思って………」

 

 


 

物凄くありがちなネタでしたね!!(爽やか)

タイトルからして落ちがバレバレ☆ たぶん何処かで見たことある感じの展開だろうとは思うのですが、

なんかもーアホらしいネタってこのぐらいしか浮かばなかったから訂正なし(………)

ちなみにラストのマサオミさんのセリフは、突如、明け方に押しかけてヤクモさんを押し倒して

上着を剥いで胸元まさぐって嬉しそうに「ない」って呟いた後のものになります。

結局は似た者同士ってことやね(笑)

 

リクエストありがとうございました♪

 

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