※リクエストのお題:ヤクマサでマサオミさんの方がモジモジくんだったりする話。

※両思いのはずなのにすれ違いっつーことで微妙に薄暗い感じに。

※読み終えた後に両名の後頭部をスリッパで叩きたくなる確率120%。

※パラレルっつーよりは、アニメ本編が終了してから数年後設定のお話になりました。

 

 

 

 

 差し込んでくる陽射しはあたたかい。のんびりとした、問答無用で午睡を貪りたくなるような休日の昼下がり。
 縁側ではらりと書物を繰るのはそれなりに充実した時間だ。
 ―――だが。
「………重たいぞ、マサオミ」
「ケチくさいことゆーなって。こんぐらいイイだろ」
 背中にかかる重みに聊か冷静さを欠きそうになる。
 どうしてこいつはこんな風に無防備になる時があるんだとヤクモはさり気なく溜息をついた。もはやウツホの乱も遠くなり、天・地・神の各陣営も和解するに至った。だから既にこいつを敵として互いを警戒する必要はない。ないのだ、が。
 自分の胸中に多少なりとも疚しい部分があるから素直に受け止めることができない。
 きっかけなんて覚えていない。どう考えたって初対面の印象は最悪で、何を考えているのか理解できなくて、戦う理由を知って幾許かの憐憫と同情と憤りを覚え、ウツホと共に残ろうとした姿にとてつもなく腹が立った。
 ただ、いつの頃からか。
 背中の重みがあたたかいとか、ふたりでいられる時間が大切で仕方がないとか、できれば『過去』に帰らずに少しでも永く『現代』に居てほしいと感じるようになっていて、たぶんに一方的に過ぎない感情の正体に思い至って流石に動揺した。
 想いを伝えたくはあるがいつもいつも微妙にはぐらかされて言えないままでいる。
 こいつの中で自分はどんだけ取るに足らない存在なのかと思うほどに胸が痛む。
「………姉上がさ」
 ぽつり、と背後から声が響いた。
「タイザンと結婚したんだけど」
「前に聞いた」
 あれは春先の頃だったか。
 バイクのガソリンを供給しに来た際についでの如く告げて来たのだ。もっと早く教えてくれれば何かお祝いを贈ったのにと、イヅナもナヅナも酷く不満そうにしていたのを覚えている。
 うん。だからさ、と。
 背後の気配がより一層、体重を強くかけてきた。
「こども。―――できたんだよな」
「本当か?」
「本当」
「そうか。よかったじゃないか」
「………だよな」
 納得してないことが丸分かりの口調でマサオミは呟いた。
 わかってんだけどよ、と。
 まるで答えを期待していない口調で訥々と語る。
「当たり前っちゃ当たり前だよな。姉上が結婚した段階で覚悟しておけって話だ。けどなあ、やっぱ受け入れ難い部分だって多少はある訳さ。なんか、流石にもうさ、こどもが産まれちまえば姉上はオレよりそっちを優先するんだよなあって」
「どんだけシスコンなんだ、お前は」
「姉上が大好きだ。タイザンのことも嫌いじゃない。甥や姪ができたら素直に可愛いとは思えそうだし、姉上が幸せならそれが一番に決まってる」
 でもなあ。
 やっぱり、少し―――。
 音にされることのなかった言葉の続きが、何となく、わかるような気がした。
 決して、決して、一番大切なひとの一番にはなれないことの寂しさを。
「………」
 答えを返さぬままにすっくと立ち上がった。
 途端、支えを失った身体は当然の如く傾いで縁側に後頭部を叩きつける。
「って………! ヤクモォ! いきなりどくんじゃねえよ!!」
「―――飲み物もってくる。お前もいるか?」
 ほんの僅かだけ振り向くと、逆さまにそっくり返ったまま幾度か眼を瞬かせた神流は、やがて苦笑と共に注文をつけた。
「じゃあ、抹茶かほうじ茶でも頼まあ」
「梅昆布茶な」
「どーゆーセレクトだよ!」
 からからと笑う声を背中に受けながら、どうせ自分が奴にしてやれることなんて束の間の休息を与えることぐらいだと、いつまでも傍にいたいと願ったところで叶えられるはずがないのだと、どれほどに彼を望もうとも彼の身内に敵うはずがないのだと。
 思いながらも諦め切れない性懲りのなさにヤクモはひっそりと苦い笑みを刻んだ。




 彼の姿が廊下の向こうに消えたのを確認してからマサオミは視線を戻す。
 出迎えたのは木目模様も見事な天井と脇から差し込んでくる目映い陽射し。
(―――勘違い。してるよなあ)
 伝説様は存外考えが面に出やすい。付き合いは長いと言えなくても彼の気質は理解しているつもりだ。例えば、見た目通りにお人好しなんだとか、勉強が嫌いだとか、同情が容易く好意に摩り替わりやすい性格をしている、とか。
 縁側に寝転がったまま瞳を閉じる。

(―――早く)

 姉の結婚に関わる出来事は本当に些細なきっかけに過ぎない。
 ただただ、普段は認識していないことを思い知らされて、どうしようもなく疲れてしまっただけなのだ。
 少しは、好かれている。
 少しは、気にかけてもらっている。
 でも、知っている。
 奴にとっての一番は家族であるモンジュで、幼い頃に面倒みてもらったイヅナで、あるいは面倒を見てきたナヅナで、勿論、幼馴染の少女を含む学校の連中も大切で、最近はそこにリクが加わって。
 奴の「一番」候補はたくさん居過ぎて競うことさえできない。

(早く、―――誰かとくっつきゃいーのに)

 もし叶うなら自分はせめて五番目か六番目、いっそのこと末席近くでも構わない。
 ひとりでいじけていた人間が勝手に救いを見い出して勝手に分不相応な想いを寄せた。自らの罪を清算しきっていない人間が一番になりたいだなんて願うべきではない。
 決して、決して、願ったりしないけど。
 ヤクモの「一番」が誰の眼にも明らかなほど確かになってくれないと、本当に僅かな希望に縋ってしまいそうだから、早く誰かと恋人になるなり結婚するなりしてくれよと強く願うのだ。未練がましく『現代』を訪れて取るに足らない愚痴を零したり、背中を預けたり、夕食の相伴に与ったり、こちらから断ち切る決心すらつかない堕落した人間を早く切り捨ててくれよと胸を掻き毟る。
 そうしたら。
 そうしたら、深い安堵と失意の中で諸手を上げて喜んで、騒ぐだけ騒いで祝辞を送って褒め称えて思う存分叫んだ後に。
 今度こそ―――伏魔殿に篭もることができる。
 ウツホを祀る巫子の問題でギスギスしてきた村の空気を和らげることができる。誰も犠牲になる必要はない、進んで篭もりたがる奇特な人間がここにいるんだと笑いながら告げることができるから。
 だからせめてそれまでは、なんて。
 微かに示された同情心に縋り、そっちから切り捨ててくれればいいのにと理不尽な恨みを抱く自らの不甲斐なさこそどうしようもないなと呟いて。
 マサオミは左腕で目元を覆った。

 ―――かみさま。
 決して遂げられぬ願いだと知ってはいるけれど、叶うならいつかは誰かに想われる存在に。

 


きみのいちばんに


 


―――ほんとはなりたかった。

 


 

タイトルはリンドバーグの同名曲から。

明るい曲調のお別れソングなので、密かにマサヤクマサのテーマソングになってますv ← ひでぇ。

 

マサオミさんがウツホさんを弔うために伏魔殿に篭もりきりになったり、あるいはウツホさんに

身体をレンタルしちゃう設定は以前から考えてたのですが、それやるとどーしてもヤクモさんの

立場がなあ………既にパラレル連作でも不幸になってるし(苦笑)

 

少しでも楽しんで頂けたなら幸いですーv

リクエストありがとうございました♪

 

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