※リクエストのお題:17歳ヤクモとコゲンタが仲良くしてるのをみて嫉妬してるリクの話。

※嫉妬というか落ち込んでるだけというか………の展開になったのはご愛嬌!(オイ)

※アニメ本編ではなくパラレル設定のお話になっております。ごめんなさい本編設定では上手く思いつきませんでした。orz

 

 

 


 太白神社敷地内にある、薄暗い祠。
 本宅と道場から少し離れたところにあるその祠は普段は出入りが禁止されており、年に幾度か催される祭事の折りにしか誰も立ち入ることはできなかった。また、その祭事もモンジュとイヅナのみが執り行い、跡継ぎであるヤクモでさえも数えるほどしか入った経験はないと言う。

 その、場所に。
 白の神主装束を身に纏って静かに座す。

 東西南北に合わせて周囲に四神を模した文様を刻み、眼前の神棚には契約に用いる神操機が捧げられている。

 迷いはない。
 憂いもない。

 ただ思うはひたすらに、家族と友人達の為にならんがため。
 誰の助けも救いもなく、唯一、己が身と精神のみを拠り所として『神』と対峙する。

 す………と、閉じていた瞳を開け、真っ直ぐに神棚を見据え、古来より伝わりし祝詞を声高に告げる。

「我が声に応えよ、式神………!」


 ―――そうして。
 吉川リクは『白虎のコゲンタ』と契約した。

 


影を踏まず


 


 急速に暗闇が失われつつある現代においても未だ深い闇を抱える、いにしえの都。京都。
 繁華街こそ明るく、賑やかではあるが、ひとたび夕闇に紛れ、角をひとつ折れたなら、途端に異なる様相を露わにする。
 ―――そう。
 繁華街に至る辻を幾つも乗り越えた、この、薄暗い竹林においても。

 竹の葉が空を埋め尽くし、地上からは太陽の位置さえ分からない。
 足元は暗く、枯れ葉と下草が足元を惑わし、変わり映えのしない景色が方向感覚を過たせる。

 閃光が駆け走った。

「震・坎・兌・離!!」

 白光が煌めく。
 竹の葉が舞い上がり、蹴り飛ばされた草が青臭い臭いを放つ。
 何も知らぬ者が見れば、暗闇にただひとり、少年がひた走る姿を捉えただろう。
 だが、ひとたび『みる』者が見れば様相は一変する。

 少年の周りを取り巻く黒い影の数々を。
 少年が握り締めた符に宿るほのかな光を。
 少年にピタリと寄り添う真白き影を。

 白い影の指先には煌めく三本の爪。

『駄目だ、リク! そうじゃねえ!!』
「え、ええっ!?」
『こいつらの弱点はさっき教えたはずだ! 影だ! 影を狙え!!』
「そんなこと言われても、辺りが暗くてどれが本体なのかなんて………!」

 戸惑う間に黒い影と白い影はぶつかり合い、甲高い金属のような音を鳴り響かせる。

『迷うな! 考えろ! 立ち止まるな!!』
「でも!!」

 少年の頭上に黒い影の掲げた鋭い刃が迫る。
 白い影が互いの間に割って入り、庇うように両腕を広げる。

 直後。

「―――<光>!!」

 地上に落ちた太陽の如き鮮烈な光が周囲を照らし出した。
 斬りかかろうとしていた黒い影が掻き消え、代わりに、地面に黒々と紋様が浮かび上がる。
 遠くから声が響いた。

「コゲンタ! いまだ!!」
「!」

 膝をついた少年が僅かに目を瞠る傍ら、ぶわりと毛を逆立てた白影が高く地を蹴って舞い上がり、両の手先についた爪を勢いよく振り下ろす。

 地の文様が裂ける。
 声にならぬ断末魔が響く。
 粉々に砕け散り、舞い上がり、塵となって消え去る黒い影の残像。

 数瞬後には竹林はもとの沈黙を取り戻し、その場には跪いたままの少年と、薄ぼんやりとした輪郭を携える白い影が残された。
 ガサガサと草をかき分ける音がして、いまひとり、訳知り顔の人物が姿を見せる。
 ふたりの姿を確認して彼はほっと安堵の息を吐いた。

「良かった。リク、コゲンタ、ふたりとも無事だったんだな」
『たりめーだろ!』
「兄さん………」

 確かな安堵を抱きながらも、リクは、兄の右手に握られた符に宿る力を見て複雑な想いに駆られるのだった。




 リクとコゲンタが新しく契約を結んで半月程になる。
 コゲンタはかつてリクの兄である吉川ヤクモと契約しており、更に遡ればモンジュとも契約しており、従って吉川家と白虎とは当然のように顔見知りであった。
 既知の相手であれば陰陽師の本分たる妖祓いにおいても息を合わせるのは容易いであろう―――と、思いきや。
 コゲンタは久しぶりに召喚された現世において上手く力を制御できず、リクはリクでコゲンタの能力を発揮するための技を然程覚えておらず………。
 如何にヤクモが式神を使いこなす様を傍らで見ていたとは言え、結局、技の発動には術者の理解と符力の向上が必須とされる。つまるところふたりは、知識だけは相当レベルに達していながら、肉体が全く追いついていない、何とも歯がゆい状態に追いやられているのであった。

「焦る必要はないさ、リク。お前はまだ闘神士になりたてなんだから」
「うん………」

 兄の励ましに返す相槌も元気がない。
 だって、コゲンタの言葉をヒントに<光>を使おうだなんて全然思いつかなかった。発想力とは即ち経験の差なのだと語られても、「経験積む前にやられちゃったらどうするんだろう」と珍しくも後ろ向きな気持ちから逃れられない。
 リクの頭上に陣取ったコゲンタが「けっ」と毒づいた。

『ふん! あのハナタレ小僧が言うようになったじゃねえか。おい、リク! 知ってるか? ヤクモの奴はな、俺を召喚した直後は猪突猛進もいいところで!』
「妖を見かける度に突っ込んで行ったのはコゲンタだろう。いい修行になる、腕が鈍ってるから付き合えとか言って」
『湖の妖に挑んでったのはお前が先じゃなかったか?』
「あれは任務だ。ほら、父さんが動けなくて―――」

 以降、自宅に帰りつくまで延々と思い出とも腕自慢ともつかぬ話を聞くともなしに聞きながら、何となくリクは肩身が狭い思いにかられるのだった。

 吉川家に帰り着いたところで夕食当番のヤクモは台所へと向かう。
 コゲンタも「何かあったら呼んでくれよ」の言葉と共に姿を消した。戦ったばかりだし、少し休んで英気を養うのだろう。如何な式神とは言え休息は必要だ。
 リク自身は部屋に戻って学校の宿題に取り掛かったが―――気分が乗らない。
 脳裏に浮かぶのは先程の戦いのことばかり。

(………僕がもっと強かったら)

 あんなに苦戦しなくて済んだはずだ。
 あの竹林に住まう妖怪はレベルが低いとコゲンタが言ってたし。

(僕にもっと知識があれば)

 一生懸命、書物を読み漁ってはいるけれど、すぐに理解できれば苦労はない。
 天才肌のモンジュや実践ですぐに技を習得できるヤクモとは違うのである。

(契約したのが―――僕じゃなければ)

 もっと上手く行ったんじゃないかと………泣きそうになって瞼をギュッと強く閉じる。

 こつん………

「え?」

 窓ガラスに何か当たった。目元を拭い、暗くなり始めた外を覗き込むように窓を開ける。
 すると、丁度リクの自室の下で慣れ親しんだふたりが手を振っていた。

「リク、ただいま」
「今日も夕食たかりに来てやったぞー!」
「父さん! ………と、マサオミさん!?」

 窓越しに声をかけるぐらいなら玄関から入ってくればいいのに!
 リクは慌てて階段を駆け下りた。
 台所で夕食の支度をしている兄に「父さん達むかえに行って来る!」と一声かけて、つっかけ足に引っ掛けて家の裏手へ回り込む。

「父さん! マサオミさん!」
「おお、来た来た」
「ふたりともこんな所で何してるんです?」

 駆け寄りつつ問いかけると、休日であるにも関わらず学生服姿のままのマサオミが軽く笑った。

「花見だよ、花見。ここからだと京都中の桜並木がよく見えるだろ」
「………そうなんですか?」

 マサオミの言葉に首を傾げる。
 確かに、太白神社敷地内には小高い丘もあるから京の街並みを見渡せない訳ではない。だが、桜の木々などちょっと見えればいい方だ。結局はビルや電信柱などの人工物が視界を遮断してしまっている。

「リク。おいで」

 戸惑う次男をあたたかい眼差しで見詰めながらモンジュが手招きする。
 コゲンタは? と尋ねられ、休んでるよ、と答える。お腹が減ったなあ、と呟かれ、減りました、と頷き返す。
 大きな掌がずっと先の方の景色を指差した。

「夕日が綺麗だね」
「はい」
「山や建物のシルエットが浮かび上がって、陰影の差が素晴らしい。ひとつひとつは異なる要素なのに、重なり合うと、まるで一枚の名画のようだ」

 ゆったりと語られる言葉に素直に耳を傾ける。
 ―――ああ、そうだ。
 一番奥に太陽と茜色の空、手前には桜の色を乗せた山の連なり、少し離れて浮かび上がるビルや寺院仏閣、太白神社と外界を分かつ鉄柵の敷居まで。
 じっと無言で地平線に沈む太陽を眺めていると頭を撫でられた。見上げた先でモンジュが穏やかに笑っている。
 ふたりに挟まれ、のんびりと、玄関に至るまでの短い道をたどる。
 思い出したようにモンジュが口を開いた。

「そういえば………リクは今日、修行にいっていたんだったね。調子はどうだった?」
「僕なんてまだまだです。コゲンタの言葉だけじゃ倒し方がよく分からなくて、結局、兄さんに助けてもらっちゃったし」
「え? なんだよあいつ、相変わらず弟を追い回してんの?」

 何処か呆れたように、からかうようにマサオミが「過保護だな」と笑う。反論できない。たぶん、否、確かに、兄は弟に対してえらく甘いと思うのだ。
 モンジュが笑顔は絶やさぬままに、ならば腕試しかな、と呟いた。

「腕試し?」
「そうだよ。伏魔殿の浅い階層に丁度いいところがあるんだ」

 いまのリクなら大丈夫だよと笑顔で背中を押され、ほんの少し、元気を取り戻した。




 伏魔殿は不思議な場所だ。
 現実の世界と密接に関わり、互いに干渉し合っているにも関わらず、通常の人間には意識されることすらない。ごく稀に次元の狭間から一般人が伏魔殿に紛れ込むことはあるが、それすらも世間には『神隠し』として処理される。
 この世界がひたすら平面上に広がっているのか、すり鉢状に落ちくぼんでいるのか、はたまた蜂の巣のように薄い壁を境として隣り合っているのか、式神も妖も等しく『此処』から生まれ落ちると伝承で歌われてはいるものの真実は誰も知らない。
 ただ、現実世界で戦うよりはあらゆる方面での対処がし易いため―――闘神士の修行や流派の違いを原因とした闘いの数々は伏魔殿が舞台となることが多かった。

『少し意外だったぜ。まさかお前の方から伏魔殿行きを願い出るなんてな』
「えっとね、父さんが、いまの僕の実力ならこの辺がいいんじゃないかなって教えてくれたから」

 軽く符を振るって<道>を開き、リクとコゲンタは伏魔殿の一角へ移動する。
 赤い空に広がる筋状の黒い雲。
 不吉を孕む風。
 モンジュに指示された場所は、枯山水のように黒いゴツゴツとした岩ばかりが顔を出す乾いた地であった。ぐるりと周囲を見渡してみても人影どころか植物の類も見当たらない。何とも寂しい土地である。

(―――わかってるよ、父さん)

 深呼吸をして、真っ直ぐに前を向く。
 ざわざわと空気がざわめき、黒い岩の影から更なる闇色の存在が顔を覗かせた。
 手の中の神操機を強く握り締める。

「式神―――降神!!」

『白虎のコゲンタ、見参!!』

 うつし世に姿を現した式神が深紅の瞳を一層に輝かせ、不敵な笑みを浮かべる。

『よぉし、リク! 修行の始まりだ! 弱音吐くんじゃねーぞ!』
「うん!!」

 リクもまた強かな笑みを浮かべ、もう片方の手に符を握り締めた。
 誰に言われるまでもなく、己が式神に釘を刺されるまでもなく。
 其れを求めるが故にリクは此処へ来たのだ。

 そうとも―――『此処』ならば。
 真実、命の危機にでも陥らない限り、『誰』からの助けも期待できない。

 飛び掛ってきた黒い影に狙いを定める。
 重なり合う存在。
 ひとつに見えても奥に異なる『モノ』が潜んでいる―――丁度、モンジュとマサオミと共に見詰めた昨日の景色の如く。

 神操機を握る手と反対の手で符を閃かせ、生じさせた<炎>で妖の『影』へ攻撃を加える。

「コゲンタ!」
『なんだ!?』
「僕、絶対負けないから―――諦めないから………っ。だから!!」

 自らに何が為せるのか。
 力不足を嘆くには早い、相応しくないと落ち込むのもまだ早い。
 先人の背中を見て嫉妬に泣くほど戦い慣れている訳でもない。

 だからこそ―――叫ぶ。

「お願い! 僕を信じて!!」
『………!!』

 式神は微かに目を見開き、次いで、僅かな苦味を口元に滲ませる。

『ったりめえだろ………俺様は、信頼の式神なんだからな………!』

 いつだって信じている。
 己が力を、世界との繋がりを、そして何より、己を現世へと召還せしめた契約者との『絆』を。
 両手の先に力を篭めて不敵な笑みを共に零す。

『よっしゃ、リク! 此処は伏魔殿。誰に気兼ねすることもねえ。だが、油断だけはすんなよ!』
「わかってる! コゲンタも、ひとりで突っ走ったりはしないでよね!」
『言うじゃねえか!』

 我が主は未だ幼くとも潜在能力と前向きな精神だけは超一級。
 時に優秀な父兄の存在に怯むことこそあれど、その後にはより逞しくなって立ち上がる。

 それこそが。

『俺の契約相手だ………!』

 妖に突撃しながらコゲンタが高らかに宣言し、リクが緊張を孕んだ表情のままに口角を上げた。




「………お前は何しに来たんだ」
「さーて。何だと思う?」

 にんまりと笑う友人に行く手を塞がれてヤクモは眉間に皺を寄せた。
 この神出鬼没な同級生は常にタイミングが良く、また、タイミングが悪い。いまだってそうだ。修行に出かけたリクの様子を影ながら見守るべく頃合を見て玄関を開ければ、出入り鼻に顔を付き合わせる羽目になってしまったのだ。

「なあ、ヤクモ。俺、一応は客なんだぜ。茶ぐらい出してくんねーの?」
「自分から茶をせびる奴を客とは呼ばん」
「いいじゃん、別に。ほらほら部屋に戻った戻った」

 強引に身体を返され、背中を押され、ヤクモは渋々ながら邸内に引き返す。
 突然の訪問者は悠々と居間に陣取って腰を上げる気配がない。
 何の連絡も前触れも予告もなく訪れた人間など追い払っても文句は言われまい。と、思うのに言われるがままに茶を用意してしまうのはヤクモの生来のひとの良さ、もとい、育ちの良さとも言えるだろう。
 せめてもの嫌味とばかりに出涸らしの葉に沸騰寸前の湯を注ぐ。

「これを飲んだらとっとと帰れ」
「俺を帰して、その後はリクの様子を見に行くってか?」

 からかうような口調にちらりと視線を向ければ、友人はのんびりと新聞のテレビ欄をめくっている。

「なあ、ヤクモ。たぶんリクはなーんも言わねえし、モンジュさんも何も言わねえと思う。けどさ。お前の行動はちっとばかり頂けない」
「神流にとってか」
「いんや。そっちじゃなくて、こっちの話」

 右から左へ腕を動かして。

「過保護もほどほどにしとけってこと。リクの実力はお前が一番よく分かってるはずだぜ?」
「それとこれとは話が別だ」
「不安になるのは分かるけど、折角リクがひとり立ちしようとしてるんだ。寂しいからってお前の我侭押し付けんなよ。モンペになるつもりか」
「………!」

 ―――いつもいつも、この友人は。
 おちゃらけていてふざけていて馬鹿で考えなしで無責任で根無し草で。

 それでも時折り………こちらの「イタイ」ところを突いてくるから侮れない。

 出涸らしの、お湯にちょっと色がついただけの、熱さばかりが取り得のお茶をマサオミがふたり分の湯飲みに注ぐ。

「伝説様は、過保護ってぇのもありますが―――」

 誰かに対する引け目や嫉妬、劣等感なんてぇのも、抱かないほど真っ直ぐで折れようもないってのが一番の問題だよな。

 同じ高校に通う友人の瞳に宿った何とも形容しがたい色に、ヤクモは咄嗟に答えを返せなかった。




 ―――そうして、結局。
 弟のもとに向かおうとしていたのをいいように足止めされてしまったのだとヤクモが気付いたのは、泥だらけ埃まみれになった弟がインターフォンを鳴らしてからだった。

「やったよ、兄さん!」
『根性だけは認めてやらあ』

 全身土まみれの様相に慌てた兄も、弟と式神がとても嬉しそうに笑いあっているのを見て、苦笑と共に納得せざるを得なかったという。

 

 


 

微妙に尻切れトンボですいません;

まあ、過保護なのは純粋に相手を心配しているからでもあるし、自分が不安だからという理由もあるってことでひとつ!(何がだ)

リっくんの嫉妬云々をもう少し長引かせようかとも思ったのですが、どうにも本人が健全すぎてあまり悩んでくれませんでした(苦笑)

 

こんな話ですが、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。

リクエストありがとうございましたー♪

 

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