※リクエストのお題:17歳ヤクモとコゲンタが仲良くしてるのをみて嫉妬してるリクの話。
※嫉妬というか落ち込んでるだけというか………の展開になったのはご愛嬌!(オイ)
※アニメ本編ではなくパラレル設定のお話になっております。ごめんなさい本編設定では上手く思いつきませんでした。orz
太白神社敷地内にある、薄暗い祠。 本宅と道場から少し離れたところにあるその祠は普段は出入りが禁止されており、年に幾度か催される祭事の折りにしか誰も立ち入ることはできなかった。また、その祭事もモンジュとイヅナのみが執り行い、跡継ぎであるヤクモでさえも数えるほどしか入った経験はないと言う。 その、場所に。 東西南北に合わせて周囲に四神を模した文様を刻み、眼前の神棚には契約に用いる神操機が捧げられている。 迷いはない。 ただ思うはひたすらに、家族と友人達の為にならんがため。 す………と、閉じていた瞳を開け、真っ直ぐに神棚を見据え、古来より伝わりし祝詞を声高に告げる。 「我が声に応えよ、式神………!」 |
影を踏まず
竹の葉が空を埋め尽くし、地上からは太陽の位置さえ分からない。 閃光が駆け走った。 「震・坎・兌・離!!」 白光が煌めく。 少年の周りを取り巻く黒い影の数々を。 白い影の指先には煌めく三本の爪。 『駄目だ、リク! そうじゃねえ!!』 戸惑う間に黒い影と白い影はぶつかり合い、甲高い金属のような音を鳴り響かせる。 『迷うな! 考えろ! 立ち止まるな!!』 少年の頭上に黒い影の掲げた鋭い刃が迫る。 直後。 「―――<光>!!」 地上に落ちた太陽の如き鮮烈な光が周囲を照らし出した。 「コゲンタ! いまだ!!」 膝をついた少年が僅かに目を瞠る傍ら、ぶわりと毛を逆立てた白影が高く地を蹴って舞い上がり、両の手先についた爪を勢いよく振り下ろす。 地の文様が裂ける。 数瞬後には竹林はもとの沈黙を取り戻し、その場には跪いたままの少年と、薄ぼんやりとした輪郭を携える白い影が残された。 「良かった。リク、コゲンタ、ふたりとも無事だったんだな」 確かな安堵を抱きながらも、リクは、兄の右手に握られた符に宿る力を見て複雑な想いに駆られるのだった。 「焦る必要はないさ、リク。お前はまだ闘神士になりたてなんだから」 兄の励ましに返す相槌も元気がない。 『ふん! あのハナタレ小僧が言うようになったじゃねえか。おい、リク! 知ってるか? ヤクモの奴はな、俺を召喚した直後は猪突猛進もいいところで!』 以降、自宅に帰りつくまで延々と思い出とも腕自慢ともつかぬ話を聞くともなしに聞きながら、何となくリクは肩身が狭い思いにかられるのだった。 吉川家に帰り着いたところで夕食当番のヤクモは台所へと向かう。 (………僕がもっと強かったら) あんなに苦戦しなくて済んだはずだ。 (僕にもっと知識があれば) 一生懸命、書物を読み漁ってはいるけれど、すぐに理解できれば苦労はない。 (契約したのが―――僕じゃなければ) もっと上手く行ったんじゃないかと………泣きそうになって瞼をギュッと強く閉じる。 こつん……… 「え?」 窓ガラスに何か当たった。目元を拭い、暗くなり始めた外を覗き込むように窓を開ける。 「リク、ただいま」 窓越しに声をかけるぐらいなら玄関から入ってくればいいのに! 「父さん! マサオミさん!」 駆け寄りつつ問いかけると、休日であるにも関わらず学生服姿のままのマサオミが軽く笑った。 「花見だよ、花見。ここからだと京都中の桜並木がよく見えるだろ」 マサオミの言葉に首を傾げる。 「リク。おいで」 戸惑う次男をあたたかい眼差しで見詰めながらモンジュが手招きする。 「夕日が綺麗だね」 ゆったりと語られる言葉に素直に耳を傾ける。 「そういえば………リクは今日、修行にいっていたんだったね。調子はどうだった?」 何処か呆れたように、からかうようにマサオミが「過保護だな」と笑う。反論できない。たぶん、否、確かに、兄は弟に対してえらく甘いと思うのだ。 「腕試し?」 いまのリクなら大丈夫だよと笑顔で背中を押され、ほんの少し、元気を取り戻した。 『少し意外だったぜ。まさかお前の方から伏魔殿行きを願い出るなんてな』 軽く符を振るって<道>を開き、リクとコゲンタは伏魔殿の一角へ移動する。 (―――わかってるよ、父さん) 深呼吸をして、真っ直ぐに前を向く。 「式神―――降神!!」 『白虎のコゲンタ、見参!!』 うつし世に姿を現した式神が深紅の瞳を一層に輝かせ、不敵な笑みを浮かべる。 『よぉし、リク! 修行の始まりだ! 弱音吐くんじゃねーぞ!』 リクもまた強かな笑みを浮かべ、もう片方の手に符を握り締めた。 そうとも―――『此処』ならば。 飛び掛ってきた黒い影に狙いを定める。 神操機を握る手と反対の手で符を閃かせ、生じさせた<炎>で妖の『影』へ攻撃を加える。 「コゲンタ!」 自らに何が為せるのか。 だからこそ―――叫ぶ。 「お願い! 僕を信じて!!」 式神は微かに目を見開き、次いで、僅かな苦味を口元に滲ませる。 『ったりめえだろ………俺様は、信頼の式神なんだからな………!』 いつだって信じている。 『よっしゃ、リク! 此処は伏魔殿。誰に気兼ねすることもねえ。だが、油断だけはすんなよ!』 我が主は未だ幼くとも潜在能力と前向きな精神だけは超一級。 それこそが。 『俺の契約相手だ………!』 妖に突撃しながらコゲンタが高らかに宣言し、リクが緊張を孕んだ表情のままに口角を上げた。 にんまりと笑う友人に行く手を塞がれてヤクモは眉間に皺を寄せた。 「なあ、ヤクモ。俺、一応は客なんだぜ。茶ぐらい出してくんねーの?」 強引に身体を返され、背中を押され、ヤクモは渋々ながら邸内に引き返す。 「これを飲んだらとっとと帰れ」 からかうような口調にちらりと視線を向ければ、友人はのんびりと新聞のテレビ欄をめくっている。 「なあ、ヤクモ。たぶんリクはなーんも言わねえし、モンジュさんも何も言わねえと思う。けどさ。お前の行動はちっとばかり頂けない」 右から左へ腕を動かして。 「過保護もほどほどにしとけってこと。リクの実力はお前が一番よく分かってるはずだぜ?」 ―――いつもいつも、この友人は。 それでも時折り………こちらの「イタイ」ところを突いてくるから侮れない。 出涸らしの、お湯にちょっと色がついただけの、熱さばかりが取り得のお茶をマサオミがふたり分の湯飲みに注ぐ。 「伝説様は、過保護ってぇのもありますが―――」 誰かに対する引け目や嫉妬、劣等感なんてぇのも、抱かないほど真っ直ぐで折れようもないってのが一番の問題だよな。 同じ高校に通う友人の瞳に宿った何とも形容しがたい色に、ヤクモは咄嗟に答えを返せなかった。 「やったよ、兄さん!」 全身土まみれの様相に慌てた兄も、弟と式神がとても嬉しそうに笑いあっているのを見て、苦笑と共に納得せざるを得なかったという。 |
微妙に尻切れトンボですいません;
まあ、過保護なのは純粋に相手を心配しているからでもあるし、自分が不安だからという理由もあるってことでひとつ!(何がだ)
リっくんの嫉妬云々をもう少し長引かせようかとも思ったのですが、どうにも本人が健全すぎてあまり悩んでくれませんでした(苦笑)
こんな話ですが、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。
リクエストありがとうございましたー♪