※リクエストのお題:「A returning of the Trailblazer」っぽい雰囲気の刹ロク。

※何かしら希望のある話。

※頑張って雰囲気近づけようとしたらまたオリキャラが出張ることに(何故にー)

※ひと死にが大量に出ます。苦手な方はご注意ください。

※一期と二期の間のお話です。

 

 

 


 ―――AD2311年―――

 吹き荒れる風が砂塵を運ぶ。激しい銃撃音が辺りを席巻している。砂嵐に覆われた世界は何もかもが不鮮明で、せめて仲間の無事を確認したいと思っても、もはや指先ひとつも動かせない。連邦の最新モビルスーツとカタロンの旧式モビルスーツ。戦う前から戦力差は明らかだった。
 咳き込んだ口から鮮血が零れる。周囲の音も、景色も、遠くなって行く。
(―――終わるのか)
 覚悟は決めていた。どうせ、碌な死に方はしないのだと。
(ここで終わるのか………)
 大切なひとを亡くした瞬間に憤りながらすべてを諦めたはずだった。自らの命すらも惜しくはないと戦いに身を投じたはずだった。死はただの終着点であり、静謐を運ぶはずだった。
 けれども、未だ何も成し遂げていない現状が、次々と連邦の最新型モビルスーツに倒されて行く仲間の姿が、この上もない悔しさを抱かせる。何もできず、虚ろに開いた眼差しで見詰めているしかない己に絶望する。
 ―――だが。
 突如、遠くより飛来したミサイルの一撃が敵モビルスーツを直撃した。その間に仲間が旧型モビルスーツから脱出し、モビルスーツにすら乗り込んでいないゲリラ兵たちが三々五々に散って行く。ああ、逃げ切れるかもしれない。
 戦闘に割り込んできた一機が敵の攻撃をかいくぐり、少ない火力で的確にモビルスーツの間接部分を狙い、大破までは行かずとも動きを停止させる。
 照明弾が上がる。連邦側に撤退命令が出たのだ。局所的な戦いなどどうでもいい、全体的に見れば明らかに彼らの勝利だ。多少は目端の利く旧型モビルスーツが居るなど瑣末な事実。
 敵影が遠ざかるのを待って旧型モビルスーツから操縦者が降りてきた。辺りを見回し、やがて、自分を見つけたのだろう。慌てて駆け寄ってきた人物は傍らに膝をつき、顔を覗き込んでくる。
「しっかりしろ! すぐに手当てするからな!!」
「―――」
 その。顔を見た、瞬間。
 何の因果かと思った。
 いや、本当にそうだったかは分からない。あの時だってはっきりと「見えた」訳ではなかったのだから。
 なのに、「同じだ」と思った。感じられた。信じられた。
 最期の最期になって。
 笑った。笑う度に喉から、叩き潰された肺から、破れた腹から、血が溢れた。構わなかった。
「は………はは、は………」
「おい、黙ってろ。傷が開くぞ!」
「こ、んな時に………な………あ、あんた、あんたは、神の存在ての、信じて、るか………?」
 掠れた声で問い掛ければ若い操縦者は眉を顰めた。綺麗な翡翠色の瞳を細め、消え行く命に慈悲を与えるか否かを瞬間的に迷ったようである。
 結局、偽りを述べるに忍びなかったのであろう。僅かに目を逸らしながら青年が呟く。
「………信じてねえよ。信じてたら、いま、こんなところに居やしねえ」
「そう、か」
 オレもだ。
 吐息のような声で言葉を紡ぐ。先刻まで胸中に渦巻いていた憤りも悔しさも不思議といまは遠かった。世界連邦に喧嘩を売ったテロリストの末期としては随分と満たされたものだ。
「けど、な………案外、そうでもない、って………思った、よ………こうして、あんたと、話している」
「―――そうか」
「向こうで誰かが、待ってくれてる、なんて、な。流石に、はは、それは、な。でも、ちょっとは思う、のさ。オレの人生で、奇跡が起こら、なくても」
 奇跡が起こる瞬間を、見ることはあるのかもしれないと。
 声を上げて笑った。だが、実際は声になっていなかったのかもしれない。目の前の青年は複雑そうな顔をしながらも耳を傾けてくれている。それだけで充分だった。
 平穏な暮らしを捨てて馬鹿げた戦いに身を投じている。自分も、彼も、似たような立場だ。
 でも、自分と彼とは違う。何故ならば、
「あんた………ついてるぜ」
『見える』からだ。
 彼には、彼の『救い』があると。
 驚きに目を見開いた表情はともかくとして、背後で輝く太陽のお陰で照り返された髪の色や、シルエットは本当に「そのもの」だと思うから。
「だいじょう、ぶ。はは。あんた、ついてる。守ってくれ、てる、死な、ない」
「なに、いって………」
「………クラウス、って、知ってる、か」
「―――ああ。オレたちのリーダーだ。知らないはずがない」
 渡して、くれないか。
 最期の力を振り絞って胸ポケットにしまった手紙の存在を指し示す。認めたはいいが出せずに終わっていた手紙。ここで彼に会ったのも何かの思し召しだろう。彼が本当にクラウスを知っているのか、知っていたとして手紙を渡してくれるのか、そんなことはどうでもいいのだ。
 愈々もって視界が暗くなる。
「は。は。いい、人生、だった。もう、じゅうぶん、だ」
 胸の中はあたたかいもので満たされていた。神なんて信じていないし、信じる気も起きない。だというのに幾つかの奇跡や偶然を信じたくなってしまうのは、いま、自分の目の前に愛しい女が光を纏い迎えに来た幻影が見えるからなのか。
 困ったひとねと苦笑している懐かしい笑顔に両手を伸ばす。「現実」の手は動かない。でも、「この」手は届いた。
 嗚呼。

 ―――会いたかった………

 長い間、待たせてすまなかった。これからはずっと一緒だ。ずっと、ずっとだ。
 深く、深く、深い溜息を吐き切って。
 彼の心臓は動きを止めた。




 二度と開くことのない男の目をそっと覆って閉ざしてやる。額にかかった前髪をよけると思ったよりも若い面が覗いた。自分とそう変わらないかもしれない。
 手厚く葬ってやりたかったが、無理そうだ。帰還命令が出ている。間もなく戻ってきた連邦の一群が辺りを跡形もなく焼き尽くすであろう。ましてや、この地に転がる死体は彼のものだけではなかった。
 男の最期の言葉を思い出して自然と眉間に皺が寄る。
 あんたは「ついている」、と。
「守られている」から大丈夫だ、と。
 むかしに亡くした家族と、生きているのか死んでいるのかも分からない双子の兄の姿が脳裏を掠めたが、頭を振ることで過去の回想を追いやって。
 遺言に従い、故人の胸ポケットを探る。零れ落ちてきたロザリオに、さてはもとは同じ宗教に帰依する者であったかと、効き目の程を疑いながらも習慣に従い十字を切った。既にして他者の血に塗れた手で昇天を祈ったところで効果があるとは思えなかったけれど。
 取り出した手紙は滲んだ血でところどころ汚れていた。いまのご時世、メモリーチップもディスクも使わない手書きの書類とは実に珍しい。宛名は、ない。無関係な人間に見つかる事態を憂えたのかもしれない。もしかしたら中の文章もすべて暗号化されているのかもしれなかった。
 よれよれの封筒をひっくり返し、署名に気がついた。おそらくはこの男の名前である。指で掠れかかった文字を辿る。

「ジャ………ジャック………ジャック・オ・ランタン………?」

 ―――ランタン男かよ。
 あからさまな偽名じゃないかと呟いて、ライルは嫌になるぐらい澄み切った青空に目を細めた。

 

 

 





自分のどんな行為も、他の行為や考え、決断などの誘引になっている、もしくは、大きな影響を与えている。
その行為がまったく何にも影響を及ぼしていないことはない。

自分の行為によっていったん起きた事柄は、いつもなんらかの仕方で次に起きる事柄としっかりと結びついているのだ。
遠い過去の昔の人々の行為でさえ、現在の事柄と強く弱く関連している。

すべての行為や運動は不死なのだ。
そして、どんな人間のどんな小さな行為も不死だと言えるのだ。




つまり、実はわたしたちは、永遠に生き続けているのだ。




                                  ――― ニーチェ

 


golden hour


 


 ―――AD2309年―――

 吹き抜けた風が辺りに積もった塵や埃を舞い上がらせ、吸い込んだ塵芥のために激しく咳き込む。環境は最悪。ただでさえせせこましい、うらびれた路地裏にごちゃごちゃと材木やら煉瓦やらが積み上がり雑多と表現するのも憚られるような状況になっている。
 崩れた家屋の隅に座り込んだまま深い溜息を吐いた。眼前には萎びた野菜やちょっとした工具、装飾品の数々が置かれている。露店を営んだところで収入など雀の涙だ。だが、自分の「本職」はこれではないし、こうして軒先にちょっとでも品物を並べられるだけ未だいい方で、他の者は売ろうにも売れず、買おうにも買えず、ただ飢えて死んでいく。
 中東は世界政府から見捨てられたのだと今更、口にして語る者はいない。だが、厳然たる事実だった。他国が富み、潤うのを横目にこの国を始めとした中東各国は太陽光エネルギーの恩恵もろくに与えられず、連邦の議題として上がることもないまま滅びを待っている。アザディスタン第一皇女のマリナ・イスマイールのみが孤立無援で戦っていると耳にしてはいるが、そもそも彼女が明確な路線を打ち出せなかったからこんな事態に陥ったのではないかと冷めた視線があることも知っていた。
 かく言う自分が彼女に対して思うことは何もない。単純に興味がなかった。
 コンコン、と、背中を預けた壁に振動が伝わり、傍らの崩れた家から知り合いが顔を覗かせる。
「ジャック」
「なんだ」
「ラルゴが呼んでるぜ。奥で待ってるらしい」
「わかった」
 手早く荷物をまとめて、いまにも崩れ落ちそうな家の中に入る。ぼろぼろの壁によりかかる食器棚の隙間から身体を潜り込ませ、壁掛け代わりの薄布を捲くる。多少の狭さを堪えて身を捻じ込むと、地下へと続く階段が姿を現した。崩れた壁の合間から差し込む日の光を頼りに一番下へと辿り着く。出入り口で、銃を手にした男が面を上げた。
「よう、ジャックか」
「お疲れさん。ラルゴが呼んでたって?」
「あっちで待ってるぜ。誰か連れてたぞ」
「珍しい、新入りかね」
 呟きながら薄暗い部屋を横切った。
 同様に武装した何人かと挨拶を交わしてから奥の部屋へ辿り着くと、この一帯のリーダーを務めるラルゴが振り向いた。彼の傍には燭台の置かれた木のテーブル。そして、テーブルの向こう側には不審な人物が立っていた。話もしない内から「不審」と決め付けるのは滑稽でもあったが、こんなあからさまな反政府主義者の溜まり場に顔を出している以上、自分と同様に相手も充分に後ろめたい部分があるに違いないのだ。
「ラルゴ。何か用か?」
「よく来てくれたな、ジャック。実は、こいつがな」
 ラルゴが目の前の人物を指差した。乏しい蝋燭の光のもとで改めてジャックは相手を観察する。
 背格好からして男。身体にぐるぐると巻きつけた長衣の隙間から覗く手足は細いながらもよく鍛えられており、未だ少年と青年の境にいるような年頃だ。この土地特有の衣装であるターバンを頭に巻きつけている点は自分やラルゴと変わらない。しかし、彼はターバンを頭どころか顔にまで巻きつけているのだ。鋭く光る赤い瞳だけが布の合間から覗く。顔を隠す必要があるほどの大罪人―――と考えることもできたが、それ以上に、目と肌の色から何となく事情は察せられた。
(クルジス人か)
 此処はアザディスタンでもないしクルジスでもない。だが、両国間で戦争はあったことは知っているし、かつては多くの難民を受け入れてもいた。いまでもアザディスタンではクルジス人に対する差別や偏見が残っていると聞いている。この少年、あるいは青年がその辺の事情を身をもって知っているのならば、できるだけ肌の色を隠そうとするのは頷けることだった。
「第二区画で一悶着おこしてやがった。で、まあ、オレが呼ばれた訳だが、なかなかどうして腕が立つ。聞けば、探している物があるらしい。だったらお前が案内してやった方がいいと思ってよ」
「案内していいのか?」
 こいつが密偵だったらどうするんだと眉根を寄せたが、ラルゴは意に介してないようだ。
 ラルゴは青年の背を叩き、とっとと踵を返してしまう。
「ジャックに案内してもらえ。それで無理だったら諦めるんだな」
「………ああ」
 低い声。やはり男だ。
 どうしたものかと思ったが、頼まれたからには案内するしか仕方があるまい。ラルゴをトップとしたゲリラ部隊の『番人』である己が呼ばれたのだ。何処へ行くかなど決まりきっていた。
「取り合えず―――あんたを武器庫に連れて行けばいいんだな」
「ああ」
「わかった。ついて来い」
 テーブル上の燭台を持ち上げて手招きした。
 細く、暗い通路を黙々と歩む。仲間と一緒に掘り進んだ地下通路だ。脆く、崩れやすく、迷いやすい。出入り口も何箇所かある。慣れぬ内はすぐに迷ってしまうだろう。地上の喧騒も暑さも眩しさも此処では全てが遠かった。
 黙っていればいい、話す必要はない、と思いながらも言葉が口をつく。
「お前さん、まだ若いみたいだな。年齢は?」
「………」
「ラルゴに気に入られるたあ大したもんだ。ああ見えて結構気難しい奴でね。ま、気性は荒っぽいが、仲間思いだよ」
「………」
「そういや名乗ってなかったな。オレはジャック。ジャック・オ・ランタン。見ての通りの燭台男さ。お前さんはなんて呼べばいい?」
「………」
 ―――反応なしかよ。
 ここまで見事に無視されると腹立たしくなる以前に呆れてしまう。確かに、自分と彼が話す必要など皆無だ。黙っていればいい。相手はどうやら思考の海に沈みかけているようでもあるし。
 怒ったり不機嫌になったりするのも癪なので、引っ掛かってくれよと思いながら問い掛けた。
「うるさくてすまんな。最近、誰かと話すってことが少なかったから喋りたくて仕方ないんだ。できれば返事してもらいたいが、お前さんにも色々と話せることや話せないことがあるだろう。どうだ? 適当なことだけ聞くから、適当に頷き返すってことで」
「………わかった」
 完全に無視してしまえるほどの非情さは持ち合わせていなかったらしい。何処となく鬱々とした相手に手始めの問いを投げかける。
「名前も年齢も駄目か。よし、お前さんの好きな色はなんだ」
「青」
「剣と盾ならどっちを手に取る」
「剣」
「聞くのと話すのはどっちが好きだ」
「聞く」
「好きな歌は」
「ない」
 細くて暗い道にふたりの声だけが反響する。僅かずつずれて微妙なこだまとなって返って来る声はいつしか自らの頭の中で響いているようにも思えてくる。
「好きな言葉は」
「ない」
「笑うのと笑いかけるのはどっちが好きだ」
「笑いかけられる」
「好きな名前は」
「ロック………」
 途端。
 はっ、と青年が息を呑んだ。応えるつもりがなかったのに応えてしまった、というところか。こんな初歩的な誘導尋問に引っ掛かるとは余程疲れていたに違いないと、彼の足音のあまりの静かさに専門職の不穏を感じ取りながらもジャックは笑った。何にせよ、これで「名前」が聞けた。
「よし、お前さんのことはロックと呼ぼう」
「な………」
「本名が分からんと説明もしづらい。適当な偽名を名乗ってもらうって手もあるけどな? 人間、思い入れのない名前に対しては反応が鈍いもんだ。その点、自分でなくとも『好きな奴の名前』には高確率で反応する」
 経験あるだろ。自分じゃなくて、相手が呼ばれているのに一緒になって振り向いてしまったことが。
 不満そうな気配を滲ませながらも青年は言い返してこない。単に呆れているのか、ジャックの意見に同意しているのか、なんと言い返せばいいのか考えているのか。
 どうでもいい。別に、彼と長い付き合いになる訳でもない。
「ジャック、オレは―――」
「ついたぜ」
 相手がこちらの名前を覚えていたことに素直に驚きつつも、折りよく辿り着いた武器庫の扉を押すことでかき消した。
 すぐに気を取り直したのか、ロックが前に進み出る。然程広くも泣く、薄暗い部屋の中に所狭しと武器や工具、機械の類が転がっていた。そう。此処は「武器庫」だ。闇取引で手に入れたものや戦場で拾い集めたモビルスーツの部品などが集められている。流石に自前でモビルスーツを製作できるほどの技術は持ち合わせていなかったが、所謂ジャンク屋として、各地に散らばる仲間に部品を供給するぐらいはできた。ラルゴが彼を此処に案内しろと言ったのも、つまりは、彼が何らかの武器や部品を探していたからなのだろう。
「お求めの品はあるか?」
「………此処にあるもので全てか」
「ああ。自慢する訳じゃないが、ここらじゃ一番の品揃えだぜ」
 燭台を借り受けた青年が棚を探り出す。ジャックもまた、足元に積み上げてあった蝋燭に火を灯した。暗い室内が幾分か明るくなる。
 どうやら青年はモビルスーツの頭部につけるカメラ・アイを探しているようだった。もしかしたら専用機持ちか。あるいは仲間のために持ち帰ろうとしているのだろうか。流石にその辺は個人の事情なのであまり踏み込んではならないと思われた。
 乱雑に詰まれた部品をひとつひとつ取り出し、選り分けていく。作業を横から覗き込んだジャックはへえ、と感嘆の声を上げる。
「いい目をしてるじゃないか、ロック」
「―――」
「お前さんが選んだのは最近では一番の掘り出し物だ。持って行くんなら、ま、ちっと値が張るな」
 一度だけこちらに視線を流した青年は、再び、部品探しの作業へ戻ってしまった。モビルスーツに搭載するカメラ・アイは全体からすればごく一部とは言え相当の大きさだし、重量もある。細身の外見に似合わずひょいひょいと部品を選り分けていく様はなかなかの見物だった。
 三十分ほども経ったろうか。燭台の残りが少なくなる頃に、彼は無言で立ち上がった。
「ジャック。他に保管しているものはないか」
「他に、って………まさかお眼鏡に適わなかったのか? どんだけ高性能な部品探してんだよ!」
 呆れ返った声が室内に反響する。
「これも、これも、連邦のモビルスーツから頑張って集めてきたヤツだぞ。正直、これ以上の製品なんて」
「駄目だ。レベルが違いすぎる」
「勘弁してくれよ、他に出せるモンなんてねえよ!」
 武器や部品の品揃えを密かに自負していた身としては苦虫を噛み潰したような表情に為らざるを得ない。どんだけ高性能なモビルスーツに乗ってるのか知らないが、どうせ数年前に世間を騒がせたガンダムには劣るんだろ、だったらそこそこの品で我慢しておけよ、と。
 口走る寸前、青年の視線が出入り口の方へ流れた。釣られて顔を向けると、丁度、ラルゴが顔を覗かせたところだった。
「よ。どうやらご要望には応えられなかったみてえだな。言い争う声がこっちまで聞こえてきたぜ?」
「―――すまん」
 地中の声が意外と遠くまで響くことを失念していた。素直に謝ると、励ますようにラルゴの力強い手で何度か肩を叩かれた。
「で? ジャック、こいつの名前はなんだって?」
「ロックだ」
「わかった。なあ、ロック」
 そのまま話し始めたリーダーを見て嘆息した。オレは名前を聞く係りか。しかしまあ、随分と無口な青年であるし、先刻の問答に引っ掛かったのだって偶然に等しい。ラルゴが正面から名を尋ねても彼が応えなかったのだと思われた。
「明日、連邦軍の輸送車が近場を通る。襲撃計画を立てているんだが、正直、戦力が不足している。お前が協力してくれるってんなら―――手に入れた部品を譲ってやってもいい」
「ラルゴ?」
 気前がよすぎやしないかと疑った。それほどに兵力が不足しているのか、もしくは、ロックの実力がかなりのものだったのか。いずれにせよ、一介の兵士に過ぎないジャックは従う他ないのだが。
 ロックは幾分目つきを鋭くしたが、分厚いターバンの壁に守られて表情はよく窺えない。
 普通に考えれば彼がラルゴの提案に従う必要はない。危険を冒さずとも、他へ足を向ければよいだけである。とは言え、先刻、青年自身が確認した通り、この辺で入手できる部品のレベルなど高が知れていた。彼がより良い部品を求めるのなら連邦軍の輸送車に一縷の望みをかけるしかないのも事実であった。
 やがて、青年がごくごく僅かな頷きを返す。
「決まりだな」
 ラルゴがにんまりと笑う。引き返してきた彼にもう一度肩を叩かれて、あまりの勢いに思わずよろめいた。
「ジャック! ロックに銃を。それから、簡単に作戦を説明しておいてくれ」
「簡単に信用していいのか?」
「いいんだよ。そいつは―――少なくとも敵じゃねえ」
 不敵な笑みを浮かべる男の考えは読みきれない。が、少なくとも彼には彼なりの根拠があってそう主張しているのだろう。ここにいる者たちは互いの過去を詮索しないのが暗黙の了解となっていたが、洩れ聞こえる噂では、ラルゴは元軍人であるらしかった。軍属として過ごした経験が彼に青年が敵でない確証を抱かせているのかもしれない。
 叩かれてジンジンと痛む肩を押さえ、ジャックは燭台を握り直した。
「ったく。………ついて来な」
 意欲的であれ消極的であれ、頷いたからには彼にも戦ってもらわなければならない。
 来た道を引き返し、途中で別の角へと折れた。ぐるぐると何回も角を折れる基地の構造は蟻の巣穴に喩えられて久しい。地上から吹いてきた風がゆっくりと頬を撫ぜる。
 途中からしっかりとした石造りになった階段を足早に駆け上がり、重たい扉を開いた。後に続いた青年が珍しそうに周囲を見回した。薄暗い地下室とは異なり、ぼろいながらもテーブルや家具が置いてあり、ぐちゃぐちゃになったシーツが床に何枚か投げ出されている。
「そこらの椅子に腰掛けてろ」
 適当に指示を出して隣室へ行こうとしたが、一向に動こうとしない相手に舌打ちした。
「………んなに警戒すんな。オレの家だよ」
 家っつーか、部屋だけど。
 言い捨てて今度こそ奥へと引っ込む。おずおずと青年が椅子を引き、テーブル脇に腰を落ち着ける気配がした。自然と口角が上がる。
 隣室には拾ってきた旧式のガスコンロや多少の食材が散在していた。清潔と言うには程遠い鍋に食材をぶち込んで火にかける。文句は言わせない。食べるものがあるだけマシなのだ。調味料として貴重な塩を少量いれて煮立たせること数分。ふたり分のコップを手に部屋へ戻ると、青年が居心地悪そうに椅子に腰掛けていたので思わず笑いそうになってしまった。
「食えよ。美味かないだろうけどな。一応は戦いを共にする仲間だ。食べた分は戦いで返せ」
「………」
「―――金なんかとりゃしねえよ、オレの奢りだ」
 目の前に置かれた湯気の立つコップをしばし青年は無言で見詰めていたが。
 空腹に耐えかねたか食べることこそ礼儀と心得たか、静かに食器へと手を伸ばした。寸前、顔面を覆うターバンの存在に思い至ったらしい。遅ればせながら顔を覆う布を外す。
 ターバンの下から覗いたのは想像していたよりも幼い外見だった。しかし、漂う気配は歴戦の勇者のものだ。年齢より幼く見えるのは育ち盛りの折に充分な栄養を取れなかった所為かもしれない。中東にはそういった子供が多くいる。黒い髪、浅黒い肌、赤茶色の瞳、間違いなくクルジスの出身だ。
 向かい側の椅子に腰掛けてじっと見守るジャックの視線を意識してかしないでか、彼は静かにコップに口をつけた。途端に咳き込まれたり吐き出されたりしたら反応に困ると危惧していたが、幸いにも彼は黙々と粗末な野菜スープを飲んでいた。ほっと安堵の息を吐き、ジャックも同様にスープを啜る。味はしなかった。
 何の音もしない。もとよりこの基地、と呼ぶのも憚られるような隠れ家にあまり多くの人間は隠れていない。必要な時だけ集まり、団結し、戦うのだ。明日も、きっと。
 互いに無言のまま食事を終え、青年の使っていたコップを回収した。面を上げたのは片づけを手伝おうとの意志の表れだったのかもしれない。軽く手を振ることで親切を断り、汚れた水で適当に漱いで席に戻った。
 所在なさそうにしているロックの前で部屋の隅にある棚を動かし、手を突っ込む。取り出したのはライフルだ。地下の武器庫に置いてあるものから選んでもよかったが、向こうの品は手入れすらろくにされていない。流石に、唐突に巻き込んだ感のある青年にいつ暴発するか分からない銃を使わせるのは気が引けた。一丁ぐらい渡したってどうってことない。自分にはまだ予備がある。
 テーブルの上にゴトリと重い音を立てて銃を横たえた。
「弾はまだこめてない。使い方は?」
「知っている」
「本当かよ」
 敢えて疑いの言葉を投げかけると、青年は即座に目の前の銃に手を伸ばした。慣れた手つきで部品を解体し、具合を確かめ、改めて組み直す。繰り返し、繰り返し、身体に叩き込まれた仕草だ。
 大したもんだと素直に賞賛の言葉を口にしてからジャックは上着のポケットに手を入れた。
「んじゃ、これを預ける。無駄弾は使うなよ」
 弾丸の束を無造作に手渡すと、彼の視線が僅かに下がって止まった。
 ポケットを探った時に袷から転げていたようだ―――視線の先には、首から提げた十字架。
「―――ああ」
 苦く笑い、元通り上着の中へと戻す。明らかに中東の出である自分が身に着けていたことに違和感を覚えたか、反乱軍に所属する立場でこんなものを持ち歩いている異様さに気付いたか。
「別に、宗教上の理由からつけてる訳じゃないさ」
 話はそれで終わると思ったが、意外にも彼は食いついてきた。
「あんたは、神を信じているのか」
「いきなりなんだあ? ………こんなことやってる人間が神を信じてるとでも? 少なくとも、本当にカミサマってヤツが存在するのなら、こんな不平等な世の中にはなってねえだろーよ」
「なら、それは」
「宗教上の理由じゃねえっつったろ。そういうお前はどうなんだよ、ロック。神の存在を信じてるのか」
 細かな教義について話す心算なんてないぜと口を尖がらせながら傾きかけたテーブルに古ぼけた地図を広げる。明日の作戦の説明に使うのだ。待ち構えて、突っ込んで、力任せに奪い取る。ただそれだけの内容であっても作戦は作戦だった。
 ロックは疲労と憂いの滲んだ顔で低く呟く。
「………信じていた。かつては。だが、今はもう、信じることはやめた」
「―――ふうん」
「オレは―――それでも、オレは………あいつが居たから………」
 不意に。
 何を思い出したのか、強く唇を噛み締めるとロックは俯いた。あいつ、というのがおそらく。
(ロック、って奴なのかねえ)
 ある程度の想像はついたが所詮は想像の範疇である。今日会ったばかりの関係だ、慰めてやる義理も気遣ってやるほどの遠慮もない。こちらはこちらの考え通りに進めさせてもらおうと、相手の注意を促すべくとんとんと地図の一箇所を叩いた。
 明日の襲撃作戦は本当に単純なものだ。連邦軍が通るルートが判明したのだって罠かもしれない。けれども、様子を見るほどの余裕がないことも確かだった。人手以上に武器も弾薬も足りない。戦いたくとも戦えない状況はひとを鬱屈とさせる。
「青少年の悩みは余所でやってくれ。いいか、明日はこのルートを通るトラックを―――」
 漸く面を上げた青年に説明を始めて数分も経過した頃だった。
 カッ!!!
 突如、吹き抜けの窓の外が眩く輝いた。
「敵襲か!?」
 床に伏せる。
 途端に襲い掛かってきた銃弾の嵐。家具が壊れ、壁に穴が空く、家が揺れる。床に伏せた人間の生死など頓着していないのか、何処かから打ち込まれる銃弾はやがて矛先を変えて窓枠から少しずつ外れていった。
 這い蹲ったジャックは床の隠し扉から小銃を取り出した。ロックは既に銃を構えて臨戦態勢を取っている。やはり戦争の経験者か。ほんの少しの沈黙を挟んでバタバタと足音と人声が響き、 組織の仲間が顔を出す。
「ジャック! 無事か!?」
「シェン! どうなってんだ、所在がバレたのか!?」
「第三区画が襲撃された。連中がやってくるのも時間の問題だぞ。扉を落としてこっちは切り捨てる。急げ、巻き込まれるぞ!」
 厳しい表情をした仲間に続いて走り出す。青年がジャックのやや後ろに続いた。
 遠くから銃撃戦の音がする。悲鳴、怒号、足音、敵は何処だ。何処にでもいる。アナログな機材しかないこちらと違って向こうは最新鋭の武器を備えている。以前からそうだ、連中は、新しい武器の性能を試すために自分たちをモルモット代わりに使っているのだ。
「なめんなよ………!」
 強く、歯を食い縛って。
 通りすがりに引っ掴んだ蝋燭に火を灯し、流れ落ちる蝋の熱さを問わずに走る、奔る、疾走る。
 暗く細い通路を駆け抜ける度に合流する仲間が増えた。同時、角を折れる度に仲間が減った。基地が襲われた際は各々の持ち場へ散り、時間を置いて再集合するよう伝えられている。集団で移動しているところを一網打尽にされてはたまらないからだ。武装した集団であれば数が揃うことで威力も上がるだろうが、生憎とこちらは少数精鋭と呼ぶことは失笑に値した。
 狭い通路を駆け抜け、地上に出る。打ち捨てられた家屋の中、割れた窓から飛び出した。空に輝く満天の星を見ることもなく道を横切る。銃声が近い。戦闘区域がすぐ傍にあるのだ。かろうじて後ろを振り返ればロックは黙々とついて来ていた。銃を片手に、正面を見据え、何を考えているのか読めない表情で。
 ばらばらと逃げる仲間に混じって、ふと、上を見た。遠くの塔の天辺で何かが煌く。
「伏せろっ!!」
 叫ぶ、同時、着弾。
 隣を走っていた仲間が吹っ飛ばされる。慌てて建物と建物の隙間に身体を潜り込ませて。仲間の怪我が気になる。だが、構っている暇はない。走るしか、逃げるしか能がない。握り締めた非力な銃ごときでどれほどの反撃ができるのか。
(もう少し………っ)
 せめて、あと、数十メートル。
 弾幕を掻い潜り、其処彼処で上がり始めた火の手に揺れる影を見据えつつ狙いを定める。対象は先刻見かけた塔の上の狙撃手だ。赤い光が輝く度に悲鳴が上がる。向こうがジャックたちの所在に気付くのも時間の問題だ。
 先手必勝とばかりに小銃を構えた段階でジャックは舌打ちした。こんなちんけな武器では弾が届くはずもない。後ろに黙って付き従っていたロックを肘で小突く。
「おい、見えてるだろ? あの塔の上だ、狙え!」
「………」
「―――ロック?」
 反応がないことを訝しく思い、振り向く。
 青年は両手にライフルを提げたまま何もせずに佇んでいた。視線は確かに塔を見据えている。だが、銃にかかった腕が狙いを定める気配はない。
 何してるんだ。気付かれたら一巻の終わりだってのに。
「ロック、早くしろ! 気付かれたらこっちが危ない!」
「………」
「ロック!」
 赤い光がこちらを向く。―――気付かれた!
「馬鹿野郎!!」
 強引に青年の腕からライフルをもぎ取り、狙いを定めるのももどかしく引鉄をひいた。耳元を何かがすり抜ける。背後の壁に深い穴を穿った狙撃手は塔の上でもんどりうって倒れた。幸いにもこちらの一撃は命中したらしい。腑抜けた青年の腕を引っ張り、建物の奥へと引っ込んだ。
 襟首を掴み、壁に叩きつける。
「何してんだ、てめえは! 攻撃できる時は攻撃しろ! 戦闘の経験ぐらいあるんだろう!?」
「―――」
「呆けてんじゃねえよ! あそこで攻撃しなかったら仲間がどんだけやられると思って―――」
「………のか」
「ああ!?」
 剣呑な声と共に睨みつける。
 俯きがちだった青年は僅かに面を上げると、赤茶けた瞳を真っ直ぐにジャックへと向けた。事の是非を問う前に、こちらが怯んでしまうような深い色を浮かべて。
 銃撃の音も、悲鳴も、何もかもが遠くなる一瞬。
「オレが撃つことに、意味はあるのか」
「………なんだって?」
 どうしてこんな時に訳の分からん問い掛けをしてくるんだと、疑問の後に憤りと苛立ちが沸き起こる。
 誰かが追っ手を撒くべく基地の一部を爆破で閉鎖したのか、一際激しい破壊音と地響きが伝わってきた。通りでは赤い炎が荒れ狂っている。逃げ遅れた人々の影が躍る。
「―――馬鹿いってんじゃねえ」
 手にした銃を強く握り締めて。
 ジャックは押し掴んでいたロックの首元を緩めた。




 ダン! と強くテーブルを叩く音が響き渡る。
「畜生、連邦の奴らめ………!」
「このまま黙ってられるかよ、仲間の仇を取るんだ!」
 そうだそうだと周囲から怒号が沸き起こる。
 数時間前まで過ごしていた基地を撤退し、いざという時のために残されていた別区画の隠れ家へと移動して来た。ほとんどのメンバーは無事だったが、やはり、戦闘に巻き込まれて戻ってきていない者がいる。怪我を負っただけで生きているかもしれない、連邦に囚われているのかもしれない、そうは思っても現時点で救出に戻ることはできなかった。
 生き残った面々が狭く薄暗い室内で僅かな蝋燭の灯を頼りに喧々囂々と罵り合う。リーダーであるラルゴは真ん中で腕組みをしたまま、いかめしい表情で立ち尽くしていた。一見すると無慈悲なまでに無関心のように思える態度も、しかし、彼の目を正面から見たならば決してそうではないことがわかったろう。
 彼は、怒っていた。おそらくは、この場に居る誰よりも。
 彼を中心として取り巻く者たちが次々と声を上げる。
「オレはやるぜ! 明日は戦争だ! 一矢報いてやらなきゃ気がすまねえ!」
「連邦なんざ糞食らえだ!!」
 再び沸き起こるシュプレヒコール。連邦の討伐、人民の自由、公平な社会、唱えるお題目はどれもが至極当然のものばかりだ。
 ラルゴを中心としたひとの輪の一番外側に居たジャックは、つい、と視線を脇へと逸らした。土壁をくりぬいただけの窓の傍にぼんやりと佇んでいる男が見える。
 軽く溜息を吐き、酒瓶を二本手にして場を離れた。
 部屋の中央で熱が上がりすぎているためか、少し距離を置いただけで涼しく感じた。戦いの直後は誰もが興奮している。集まってすぐに誰もが声高に連邦への非難を始めれば、油の中にライターを投げ入れたかの如く憎悪と不満と戦闘意欲が増幅されるのは今までにも何度も体験してきたことだ。
 ジャックが傍に来たことに気付いているのかいないのか、視線を外界へと固定したまま動こうともしない青年の前に酒瓶を押し出した。
「飲めよ」
「………」
「夜は冷える。アルコールでも取っておかないと持たないぜ」
 あいつらみたく夜通し語り続けるってんならいいけどな、と促せば。
 やはり無言のままにロックは酒瓶を受け取った。剥がれ掛けたラベルをなぞる指先は妙に頼りない。
 ―――此処へ到着した当初。
 あまりにもタイミングが良すぎるとロックの内通を疑う者たちもいた。彼がやって来た日の内に基地が襲撃されたのだから、確かに、疑わしいと言えば疑わしい。けれども彼を連れてきたのはリーダーのラルゴであり、彼が基地に来てからは実質、ジャックが付きっ切りであった。また、もし彼が本当に内通者であるならば、流石にもう少し潜伏して様子を見ようとするはずである。
 極度の興奮状態に陥っている連中が青年を血祭りに上げようとするのを抑えるのは結構骨が折れた。到着したラルゴがすぐに召集をかけてくれなかったら危なかったかもしれない。別に、「庇ってやったオレに感謝しろよ」と言う心算はないが。
(ちったあ反撃する気配を見せろよ………)
 詰め寄られた時、青年は「違う」と呟いたきり、何を訴えようともしなかったのだ。黙って非難も批判も受け入れる様は潔くもあったが、達観しすぎていて却ってこちらの苛立ちを煽る。
 色々と問い詰めたいことはあったが返事を期待するのは疾うに諦めた。彼は常に彼の中だけで全てが完結しているのだ。誰に相談することも、悩みを打ち明けることもない。勿論、ジャック相手ではなく、慣れ親しんだ仲間に対しては気楽に話している可能性だってあった。しかして、この青年がにこやかに、もしくは深刻に、込み入った話を誰かにしている姿はどうにも思い描けなかったのである。その辺はラルゴと少し似ているのかもしれない。自分たちのリーダーではあるが、自身のことについては何ひとつ話してくれない、彼に。
 ロックとは反対側の窓枠に凭れ、酒瓶の蓋を開けた。
「―――のか」
「あん?」
 会話には期待していないのに相手の呟きには反応してしまう。
 相変わらず青年の視線は外の闇を見詰めていたが、意識は多少なりともこちらへ向けているようである。
「仇とは、討たなければならないものなのか」
「………それをここで問うか」
 がっくりと項垂れ深い溜息を吐く。本来ならば答えてやる義理もないほどの愚問だが、赤茶けた瞳が思いのほか真摯だったので絆されてしまった。
「どういう意図でそんな質問してくるのか分からんけどな、まあ、要不要で言えば―――要らん方へ分類されるだろうな、敵討ちなんてのは」
 仇をとらなくても生きていける。誰かを、何かを、憎みながら恨みながら生きていくことはつらい。死んだ者だって復讐なんて望んでいないはずだと自らのこころを慰めながら生きていくことなんて存外簡単なのかもしれない。自分が苦しいからと苦しみに任せて銃を取れば、また、別の誰かが苦しむことになるのだろう。
 永遠に終わらない苦しみと憎しみの連鎖。
 分かっている。そんなこと、誰に言われずとも誰もが皆わかっているのだ。
「でも、理屈じゃねえんだよな。こればっかりは。きちんと整理つけたつもりでいても、目の前に憎しみの対象が明確化されるとカッとなっちまうっつーか」
「お前も、敵討ちが目的なのか」
 眉間に皺寄せながら安酒を煽った。
「参加してる理由は様々さ。連邦に対して義憤を抱いてる奴もいるし、連邦云々じゃなくて世の中の仕組みをどうにかしたいと憂えてる奴もいる。でも、大半は私怨によるものだろうな」
 敢えて自らの立場はぼやかしたままに答える。
「此処に来て間もない頃、どっかのお偉いさんが演説してったよ。憎しみなんて抱いていてもどうにもならない、世の中には憎しみを堪えながら頑張ってる民がいるんだぞ! って、………言われるまでもないことだから誰も耳なんか傾けなかったが」
「………」
「不意に大切なものを奪われたら怒るのが当然だろ。ましてや、事故や病気といった誰にでも起こり得る不幸じゃなくて、明らかに避けることが可能な不幸だったなら理不尽さのあまりに色々と投げ出したくもなるさ。もし、いま、目の前に原因が『姿』を現したらオレぁ問答無用で撃ち抜くね」
 酒瓶を握り締めたままに人差し指を立てて、虚空を撃つ仕草をした。
 実際には、自分の仇は個人ではない。強いて言うならば組織であり、そこに所属する人間である。故にこそ連邦という強大な敵に歯向かうことになっている。
 他の面子がどう考えているかは知らないが、少なくともジャックは戦いにさしたる希望は抱いていない。勝ちたいと思う、世の中を変えたいと願う、けれども、多くのことは望まない。
 ただ、ぬくぬくと安穏な世界で平和を貪っている者たちが、いつか少しでも気付いてくれればいいと。
「―――仇が、目の前にいても」
 ぽつりと青年が呟いた。先刻から何を考えているのか、視線は確かにこちらに向いているのに、更に奥底の別の何かを見詰めている。
 正直に言えば、その態度はかなりむかついた。話してるのはオレだぞ、失礼だとは思わないのかと勝手に宣言して話を打ち切ることもできた。そうしないのは、多少なりとも彼の状況に興味を抱いたからに他ならない。
 ラルゴが連れてきたのだ。第二区画で暴れていたとも聞いた、実力はあるはずだ。なのに、思うところあってか戦うことを躊躇している。戦う力を欲している側からしてみれば歯痒いと同時に、そういうものかもしれないとも考える。強大な力は望まぬ者にこそ与えられる。求めよ、さらば与えられん、なんて言葉はただのまやかしだと拙い知識の端くれで考えながら。
「仇が目の前にいても、撃たない可能性はあるのか」
「時と場合によるだろうな。どんだけ相手を殺したいと思ってても手元に武器がなけりゃどうしようもない。見上げるほど馬鹿でかい図体の持ち主に素手で歯向かってくほど阿呆じゃないさ。人間、そういう時は意外と冷静でな。ああ、あいつを殺さなきゃ、って思ったら、結構頑張って策を練ると思うぜ」
 でも。
「偶々目の前に武器が置いてあったら―――後先考えずに飛び出してく、かな」
「………そうか」
「あ、あと。例外があるな」
 付け足された言葉に青年が顔を上げる。結局、彼はジャックの渡した酒瓶の縁をなぞるばかりで口をつけていない。勿体無いことをするものだ。
「必死に追いかけてきた仇が自分にとって最愛の人物だったら―――諦めるかもしれん。オレならな」
「―――」
「いずれにせよ、こればっかりはどうしようもない。理性で分かってても感情は自分でも整理しきれねえ。何かを憎み続けることは酷だ。けど、忘れちまうのも苦しい。振り上げた拳を何処かに叩きつけるまで前にも後ろにも進めねえのさ」
 ここに居るのは、そんな奴らばかりだ。
「お前さんだって似たようなもんじゃないのか?」
 ジャックの問い掛けに、僅かに青年は視線を逸らした。聞かせるために紡がれた訳ではないだろう呟きが喧騒に紛れる。
「―――殺されてもよかったんだ………」
 あいつにはその権利があると思っていた。
「殺されなかった。意志を託された。だから戦った。だが、護れなかった。誰も救えなかった。そんなオレが、銃を持つ意味はあるのか。誰かを傷つける権利はあるのか」
「―――」
「オレが動くことで、世界は変わるのか」
 ―――変わる訳がない。
 そんな、無言の否定が透けて見えるような声で。
 予想していたよりもややこしい事情が潜んでいることを察して、ジャックは窓の外の天を仰いだ。酒瓶に口をつけてアルコール度数が高いだけの液体を流し込む。胸と胃が焼け付くようだった。
 先程まで声高に叫んでいた仲間たちも徐々に散じつつある。今更、作戦に変更はないとの考えで一致したらしい。襲撃は予定通り行われる。
 足元に投げ出されていたシーツを拾い上げ、青年の胸に押し付けた。代わりに酒瓶を回収する。
「明日の襲撃は予定通りに行うぞ。今のうちにゆっくり休んでおけ」
「………無謀な作戦だ。誰も止めはしないのか」
「あんまり馬鹿にすんなよ。そんぐらいオレたちだって分かってんだ。無理に実行する理由? さっき話したろ。話し合いで片付くならこんな泥沼になってねえ」
 何もかも自分たちにとっては「今更」のことだった。振り上げた拳を何処かに落とさなければ終われない。進めない。始まらない。怒りと復讐心に駆られた集団に飾り立てた言葉など無意味だ。
 大体な、と、左拳を相手の喉元に突きつけて。
「通りすがりの、深い事情も知らない人間がごちゃごちゃと知ったような口利くな」
「―――だが、」
「ロック。お前が戦いを選ばず、敵に撃ち殺されてもオレは頓着しねえ。阿呆が死んだと思うだけだ。だからお前も、オレや、オレの仲間たちが死んでも、愚か者たちが殺された虚しい結果だったと勝手に悟った顔して立ち去りゃいい。けどな、ひとつだけ言わせてもらえば」
「………」
「お前が戦わなくても―――ひとは、死ぬぜ」
 微かに。
 赤茶色の瞳が見開かれた。
「話し合っている間も、迷っている間も、手を拱いている間も、此処じゃなくても、いつも、何処かで必ず無意味な争いの果てに誰かが死んでいくんだ。奇麗事を述べる暇があるんなら動け、理想を語る脳があるんなら働け、過去を悔いる時間があるなら戦え、世界に与える影響なんざ知らねえ、動くための手足があるのに何が不満だ、何が足りない、世の中にゃ戦いたくても戦えない、声を上げたくても上げられない、嘆くことさえできずに消えてった命があるんだよ」
 意志を託されただの何だの言うのなら、実際の戦乱を目の前にしてまで迷ってるんじゃねえ。
 吐き捨ててジャックは青年に背を向けた。
 話し過ぎた自覚はあった。普段ならもっと軽く流して、見捨てて、終わりにしていたところを妙に突っ掛かってしまったのは。
 考え込みそうになったところを首を振ることで切り替え、自分用のシーツを抱えたままにラルゴを探した。集会は終わり、微妙な喧騒と興奮が残る中、リーダーはテーブルの上で未だに地図と睨めっこしていた。
「―――ラルゴ」
 彼の思考を遮らぬよう極力抑えた声で呼びかける。怒りに駆られながらも冷静さを失わない瞳が振り向いた。この目を見ると、いつだって背筋が伸びるような思いがする。
「頼みがあるんだ」
 神妙な表情で持ち出せば、「お前の考えはわかっている。いつものことだろ」と、妙に優しい声で語られた。




 壁に刻まれた銃痕も生々しく、其処彼処で黒煙が上がっている。退避する際に跡をつけられないように態と基地の一部を破壊したのだ。巻き込まれた仲間もいたかもしれないが、混乱の最中では詳細は確認できない。組織の大勢が生き残るために切り捨てられていく少数の仲間。
(義理や人情だけで戦える訳がねえ)
 自分が此処に来たのは生ぬるい感傷ゆえではないと呟きながらジャックは建物の間を縫うように歩いていた。襲撃は昨日の夜、いまは昼近く、未だ監視の目が光っていないとも限らない。襲撃部隊はそろそろ輸送車を発見している頃だろうか。
 辺りに気を配り、腕に抱えた銃の重みを殊更に感じながら歩を進める。過ぎる鳥の影にさえ怯えながらの単独行動は無謀そのものだった。
 ひとりで行動することは危険と分かっていても、計算上は無事であるはずの武器庫の様子を早急に確認しなければならなかった。襲撃が成功すればよいが失敗する確率の方が高いことは自分もラルゴも理解している。故にこそ、武器の供給が鍵となった。例え襲撃に失敗しても、以前からの蓄えがあれば、まだ戦える。それすらも使えないとなれば愈々本格的に進退窮まってしまう。また、個人的に確かめておきたいこともあった。
 壁に背を預けて、一息ついた瞬間。
 カラ………
「っ!!」
 石ころの転がる音に咄嗟に銃を向けた。連邦の兵士が来たのかと。
 だが。
「………なんだ………お前かよ」
 銃を向けた先、無防備に佇む姿を確認してジャックは大きな息を吐いた。無駄に緊張させないでほしい。只でさえ神経をすり減らしながらの行軍なのに。
 と、言うか。
「―――なんで付いて来てるんだよ。ロック」
 お前さんは襲撃部隊に加わったんじゃなかったのかと、銃を抱え直しながらジャックは呆れた声を上げた。
 昨日知り合ったばかりの青年はジャックと同様のライフルを掲げたまま所在無さそうに突っ立っていた。下手すれば撃たれていたかもしれないのに悠長なことだ。見つかってしまったなら逆に好都合だと言わんばかりに、彼は身軽に瓦礫の山を乗り越えて傍らに着地した。
「オレが襲撃部隊に加わっても役には立たない」
「そうかもしれんが」
 立ち居振る舞いやラルゴの対応からしても青年の腕が立つだろうことは想像に難くない。だからと言って肝心なところで昨晩のように相手を打つことを躊躇われたらこちらの身が危なくなるし、襲撃に際して重要なのは個々人の腕前よりも連携と言えた。幾ら腕が立とうとも、仲間がどのように動くのかを予測できなければ咄嗟の判断にも遅れが生じる。
 だとしても、彼がついてくる必然は何もないのだが。
(おとなしく基地で待ってりゃいいってのに)
 危険な場所を出歩く趣味でもあるのかと内心で悪態つきながら、表面上は肩を竦めるにとどめ、ジャックはジャック自身の目的を果たすことに決めた。部外者の事情になどいつまでも構っていられない。
 周囲の様子を窺いながら建物の中に入る。崩れ落ちた壁や棚、壊れたテーブルの類が目に付いた。端から端まで順番に視線を流していたジャックは、「個人的に確かめておきたいこと」を発見して目を瞠った。
 慌てて駆け寄り、上に被さっていた椅子と机を押し退けて。
「おい、しっかりしろ!」
「………う………」
「起きろ、大丈夫か! シェン!!」
 うつ伏せたまま身動きしない仲間の息があることを確認する。下半身を家具の下から引きずり出そうとしたが上手く行かない。舌打ちすると、無言で駆け寄ってきたロックが外見に似合わぬ馬鹿力で大きなテーブルを押し退けた。鈍い地響き。
 倒れ伏したままだった仲間を仰向かせ、下半身を見遣り。
(―――………)
 強く、唇を噛み締めた。
 駄目だ。これは。間に合わない。こんな―――こんな、酷い怪我を負ってしまっては。
 無駄だと知りながらも相手の頬を軽く叩く。せめて、せめて何か、何か残すものを、伝えるものを。
「シェン! ―――シェン! オレだ、ジャックだ! 迎えに来たぞ!!」
「う………あ………ジャ、ック………?」
「そうだ、オレだ! お前はついてるぜ、シェン! なんせオレが助けに来たんだからな!」
 笑いながらシェンの手を握り締め、励ますように肩を叩く。薄っすらと開いた瞳がこちらを認めて微笑んだ。
 彼は空いている手で弱々しく胸元を探り、赤い宝石を頂く簡素な指輪を取り出す。
「ジャ………ック………これ、を………メイに………」
「贈り物ならお前自身の手で渡せ。オレには無理だ」
「ずっと………謝りたかった、と………伝え、て………」
「メイはそんなことで恨むような女じゃねえよ。シェン、お前が一番よく知ってることじゃねえか」
 震え始めた手の甲に額を押し付ける。
 自分はいま、笑えているだろうか。声は震えていないだろうか。互いにわかっている。助かる訳がないと知っている。そうと知りつつも繰り返す「大丈夫」の言葉は死に行く者にとって僅かでも救いとなるのだろうか。ジャックは知らない。知るはずもなかった。まだ、自分が死ぬ立場ではなかったからだ。
 にぃ、と、シェンが笑う。
「………ありがとう、な………ジャ………ッ………」
「―――シェン?」
 握り締めていた手が急に冷えていく。固くなっていく。僅かに揺れていた瞳が一箇所で動きを止め、虚空を睨みつける。洩れ聞こえていた吐息は既に耳に届かなくなっていた。
 グ、と。
 もう一度だけ強くシェンの手を握り締め。
 きつく唇を結んだままに伸ばした掌で僅かに開いていた瞼をとざしてやる。命を失ってまで、つらい現実を見詰め続ける必要はあるまい。腰につけていた小物入れを探り、質素な銀の鎖を取り出した。託されたばかりの指輪を鎖に通してブレスレットとする。
「―――それは」
 背後でじっと様子を窺っていた青年が問いを発した。ああ、これは、と固い声で応える。
「メイの遺品だ」
「………シェンは、そのことを知っていたのか?」
 珍しくも青年の声に感情が乗った。怒りとか、憤りとか、その手の類の感情を向けられることにはもう、慣れた。いつも自分は仲間の最期を看取ってきた。何度も、何度も、何度も、嫌になるぐらいに。そんな自分を指して皆がなんと呼んでいたのかも知っている。『ジャック・オ・ランタン』の呼び名は武器庫の番人であるが故につけられたものではない。
 僅かに振り返り、口角を上げた。
「薄々勘付いてたかもな。けど、メイが亡くなった事実はオレとラルゴの判断で伏せておいた」
「何故だ。シェンには知る権利があったはずだ」
「確かに、な。でもなあ………」
 視線を物言わぬ面へと向ける。昨日までは一緒に話していた、共に過ごしていた仲間の顔に。
「―――生きる意欲を失っちまいかねなかったからな」
 ぽつり。言い訳にもならない言い訳を。
「彼女が亡くなったと知ればシェンは即座に後を追っていたかもしれない。復讐の鬼になっていた可能性だってあったが………それはそれで面倒だ。護るべきものが何もない復讐鬼は一番タチが悪い。敵を倒すために猪突猛進を繰り返すし、倒したら倒したで、残るのは自己破壊衝動だけだしな」
 面倒な事態を引き起こすぐらいなら最初から黙ってた方がマシなんだ。
 しばしの沈黙ののち、彼と彼女の遺品を小物入れに仕舞い直した。そして今度は、容赦なくシェンの衣服を暴いていく。服の裏地、ポケット、ズボンの裏、靴の中、探れるものは探り、漁り、暴き出す。隠れていた小銭やちょっとした貴金属の類も遺品と同様に小物入れに納められた。
 ロックは何も言わずに赤茶色の瞳で作業を見詰めている。今更何をどう咎められても反省する心算もなかったが、居心地が悪いのも事実である。
 深い溜息を吐いた。
「………死人が金目のもの身に着けてたって意味ないだろ」
「だから、奪うのか」
「奪ってねえよ。昨日まではこいつのものだった。今日からはオレたちのものになるってだけだ。金はいつだって足りねえ。食料だって武器だってタダじゃねえんだ」
「軍資金にするのか」
「するさ。死人漁りの山賊と罵られようと、それがオレの役目だ」
 誰もが必要と思いながらも誰もが躊躇う仕事ならば、何を失うこともなく、嫌われることも厭わない自分が進んでやるまでだ。
 胸元のロザリオを握り締めて苦く笑う。
「いつかオレが死んだら―――誰かがこいつを回収して同じように金目のものに換えるんだろうさ。何も違わねえ。この世はいやんなるくらい平等だ、妙なところでな」
 可哀想だが、遺体は回収できない。埋葬してやりたかったが時間がない。いつ、連邦軍の兵士が巡回に来るとも知れない場所だ。せめてもの情けで手だけ組み合わせて、傍らに落ちていたボロキレをシェンにかけてやった。熱い太陽に照らされては喉が渇いて仕方ないだろうから。
 引き続き次の建物へと赴く。残念ながら生存者はいなかったが、死者ならばいた。シェンのように看取ることさえ叶わなかった被害者だ。
 顔色ひとつ変えずに作業を続けるジャックをじっと見詰めていた青年が、不意に言葉を紡ぐ。
「お前は、嘘吐きだ」
「急になんだよ」
「お前は嘘吐きだ。金目のものを集めて軍資金にしていると言ったが、さっきの銀鎖は肌身離さず持っていた。あれとて換金すればそれなりの額になるだろうに」
「後でまとめて売り捌くつもりだったんだよ」
 好意的に捉えるのはやめておいた方がいいと毒づき、且つ、皮肉げに笑ってみせる。
「そもそも、オレが本当に軍資金にしてるかも怪しいもんだ。本当は着服してるかもしれないんだぜ。今日はお前さんがいるが、普段は単独行動だし、オレがどんぐらいの品を何処に隠し持ってるのかなんて誰も知らないからな」
「お前はそんなことはしない」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「オレがそう感じたからだ」
 きっぱりと、類を見ない強さで言い切られて咄嗟に言い返せなかった。
 口を噤んだまま面を上げれば、赤茶色の瞳が真っ直ぐにこちらへ向けられていて、再び俯く羽目となる。正面から見詰められるのは苦手だ。後ろめたいことがありすぎる。
 ゆっくりと噛み砕くようにロックが繰り返す。
「軍資金にしているのは本当だろう。だが、お前は、必要に迫られた時しかそうしない。遺品には最後まで手をつけない」
 ガラリ
 積み上がった瓦礫の上から小石が崩れ落ちた。
「どれほどに捻くれたように見せても、お前は真面目な人間だ。恨み言を述べても、世界を憎んでも、物事をシビアに割り切っても甘さが抜け切らない」
「………」
「お前は、オレの知っている人間に………少しだけ似ている」
「―――そうかい」
 鼻で笑って立ち上がった。膝についた砂を振り払い、手にした貴金属を小物入れに納めて。
「そいつぁ光栄だ。お前さんの知り合いとやらは余程の愚か者だったらしい」
「ああ。あいつは、世界で一番愚かな人間だった」
 ロックが不意に表情を歪めた。泣き出しそうに眉根を寄せて、唇をきつく噛み締めて、拳を握り締めて、苦行に耐えるかの如く。
 誰を思い出しているのか知らないが、声には明確な思慕が滲んでいるのに『愚か』と断言するのは一体どんな心境かと若干首を捻り、少ししてから「有り得るかもしれない」とこっそり頷いた。自分とその人物が似ているか否かは置いておくとしても、本当に愚かで許しがたい人物―――あらゆる意味で―――は、いるものだ。
 しばらく、無言の探索が続いた。
 日は傾き、辺りには夕暮れの気配が漂い始める。ラルゴたちは上手く行っただろうか。結果も気になるし、いい加減戻らなければならない。こちらの収穫はこれといってなかった。武器庫はまあまあ使える状態だったが肝心の要救護者は零。全員即死か、見つけてすぐに息を引き取った。自分が励ましの声をかける度に満足そうな顔をして、言葉や遺品を残して逝ってしまうのだ。いっそ発見しなかった方が良かったんじゃないかと嘆きたくもなる。だが、嘆いたところで何も始まらない。だったらその分、自分は自分のやれることをやるべきだった。
 何の気なしに角を折れ、次の瞬間、慌てて身体を引っ込めた。後ろに続いていた青年が訝しげにするのを感じ、そっと手招く。
「見ろよ、あれ」
「………?」
「―――連邦のモビルスーツだ」
 崩れ落ちた建物の間に、鈍く輝くモビルスーツが西日を受けて佇んでいた。機能が停止しているのか微動だにせず、コックピットが開いて中の操縦席まで丸見えだった。周囲に人影は見えない。こんなところに一体だけ放置されているなどあからさまに怪しい。不審すぎる、が。
 中古よりは新品に近いモデルと見て取って欲が湧いた。反乱軍はいつだって武器が枯渇している。ほんの少しでいい、モビルスーツの一部だなんて贅沢は言わない、弾薬のひとつ、鉄塊の欠片でも手に入れられたなら、どれほどに戦闘の役に立つことか。それだけじゃない。
「なあ、あれに搭載されてるカメラ・アイ。結構いい型番だと思わねえか」
「―――ジャック?」
「ちょっくら行ってくらあ。危ないからお前さんは隠れてな。オレが攻撃されたらすぐにトンズラこけよ」
「罠に決まっている、危険だ………!」
 追い縋るような声を振り切って建物の壁伝いに走る。
 近くで見れば見るほど立派な機体だ。本当に、操縦者は何処に行ったのだろう。ロックに言われるまでもなく何らかの罠だと察してはいたが、罠と知っていても欲しいものがある。験しに小石を投げつけて、振動による爆発が起きないことを確認する。いつだったか、敵の置いていった銃の山に爆弾が仕掛けられていたことがあった。持ち運びのために銃を一丁取り上げた瞬間、振動が伝わって大爆発が起きた。あの時の被害の酷さはいまでも忘れることができない。
 時限式の爆弾が仕掛けられている可能性も考慮しながら素早くモビルスーツに駆け寄った。パイロットに合わせた生体認証が施されているだろうから動かすのは無理だ。しかし、どうにかしてシステムを破壊すれば―――。
 誰も乗っていない操縦席の奥を覗き込んだ瞬間。
 何かが反射した気がした。
「っ!」
 咄嗟に両腕を捻って身体をコックピットから遠ざける。
 銃声と共に鈍い痛みが左肩を走った。視界が反転して身体が地面に叩き付けられる。狙撃された、と、混乱しかかった思考で理解して。
 音を立てて手元から銃が離れた。
「ジャック!」
 ぼんやりと聞こえた声に馬鹿、とっとと逃げろと悪態ついて、回る視界の端に煌く何かを捉えた。夕日に照り返され鈍く光る銃身、遠目の崩れかけた家屋の上に人影が覗く。あんな場所で待ち構えていたのか、わざわざ隊から離れて単独行動か、ご苦労な奴めと悪態ついて、第二撃が来るだろうと目を閉じた。
 ―――が。
 次の痛みが襲ってくる前に身体がふわりと浮き上がり、驚きに目を開く。
 ロックが、肩に担ぎ上げるようにして自分を運んでいる。
「な、に………してんだ! 逃げろっつったろ!」
 答えない。
 彼は何も応えない。
 無言のままジャックの身体を引きずるようにしながら建物の脇をすり抜けていく。すぐ傍に銃が着弾する衝撃に怯える様子もない。この辺の建物は粗方崩れてしまっている。隠れようにも天井がないものがほとんどで、一時は隠れられたとしても、狙撃手が少し場所を変えれば簡単に狙い撃ててしまうような場所でしかなかった。遠く逃げるのも地下へ潜るのも難しい。
 辛うじて残っていた背の高い壁に身を寄せて荒く息をつく。自らの上着の裾を破り、青年が怪我人の肩口をしばった。痛みと失血の衝撃に唇を青褪めさせながらもジャックは笑う。
「わりい………しくじった」
「弾は抜けているようだ。思ったほど深くはない」
「そりゃ、よかった。にしても、あの野郎、なんだってひとりでこんな場所に―――………」
 オレみたいに生き残りを探していた訳でもなかろうに。
 呼吸を落ち着けながらに呟いて、不意に理解した。確信はないが一定の確証を持って「そうか」と笑う。
「あいつ、昨日、オレが撃った奴か………」
 ロックが撃とうとして撃てず、強引に狙いを定めて攻撃した塔の上の狙撃手。仕留めたとも思っていなかったが、まさか二十四時間を経過しない内に再会するとは思ってもみなかった。
 何を持ってそう判断したのかと青年の目が訝しげに細められるが、理論的に説明できる明確な基準がある訳ではない。ただ、これまで戦場を生き抜いてきた勘のようなものが告げるのだ。あれは、昨日仕留め損ねた敵であり、故にこそいま自分は窮地に陥っているのだと。
 しかし、向こうがジャックだけを狙っているのならば話は早い。目的が決まっている以上、他への攻撃は甘くなるはずだ。
 辺りを見回して、自らの銃は現場に置き去りにしてしまったことを思い出す。ロックはまだ銃を手にしていたので笑いながらに手を伸ばした。
「ロック。銃を貸してくれ。あいつの相手はオレがしなきゃならんようだ」
「………お前には無理だ」
「お前さんこそ無理だ」
 怪我の有無ではなく、精神的な問題のために。
 撃とうとした瞬間に躊躇う奴に武器を預けておく気にはなれない。
 銃を握り締めたまま動こうとしないロックから強引に奪い取ろうとしたところで、頭の上を銃弾が掠めて肝を冷やす。もう発見されたらしい。
「くそっ」
 悪態をつき、左肩を抑えながら走る。出血のお陰で視界が暗い、意識も朦朧としてきている、それでも倒れることはできない。倒れたら終わりだ。止まったら終わりだ。動き続けなければ、生き続けなければ、終わりだ。
 よろよろと危なっかしい足取りのジャックに寄り添うように青年が走る。いいから気にせず先に行けよと口にせぬままに思う。見捨てればいい。あるいは、自身に戦う意欲があると言うのなら、足手まといのジャックなど置き去りにしてひとりで敵のもとへ赴けばいい。その間にこちらが狙撃される事態を恐れているのか。
 夕日が横から差し込む。どちらに向かって走っているのか曖昧になりながらも只管に足を動かす。後ろは振り返らなかった。付いて来るなよ、付いて来る方がおかしいんだと怨嗟の声を上げながらくらくらする視界で黄金色に染まり始めた世界を駆け抜ける。
「―――っ!」
 すぐ手前の壁が銃で打ち抜かれて歩を止めた。崩れた壁が周囲を取り囲む袋小路。追い詰められたのだと悔いるより早く、なんでロックはついて来てんだと腹が立った。せめて別の方向へ逃げていればひとりは助かったはずなのに!
 狙撃手―――連邦の兵士―――は、わざわざ近くまでやって来ていたらしい。確実に仕留めたいのか、自らの圧倒的有利を確信しているのか、理性をなくすほどにジャックを憎んでいるのか。事情など知らないし、知ったところで何かが変わることもなかった。
 真正面から敵と向き合う。ロックは左肩を抑えたままに。相手は、右肩に包帯を巻いたままに。兵士の顔は逆光で見えない。
 引鉄にゆっくりと力がかかるのを目の当たりにした、とき。
 ザリッ………!
 鈍い砂音と共にロックがふたりの間に割り込んだ。それまで視界にすら入ってなかったのか、僅かに兵士が疑問の色を浮かべたようだった。だが、すぐに気を取り直す。
 慌てるのはこっちだった。隠れていればいいのに何をしに来ている。撃てもしないくせに!
「下がれ、ロック! お前には無理だっつったろ!」
 青年は答えない。
 答えない彼の、手が、震えていた。
 視線だけは逃げることを否定して正面の敵へ据えられているが、銃身を支える左手と、引鉄にかけられた右手の指先が小刻みに震えているのが分かった。
 何のために、誰のために撃つのか。
 私利私欲のためか、公平な正義のためか、突き詰めればどちらも建前が存在するか否かの違いしか有しない「自分自身のため」の戦いだと疾うに気付いて良さそうなものなのに。
 割り切って、受け止めて、認めて、進まなければならないのに。
 彼の腕を引っ張って脇へ押し退けようとした。だが、逆に腕を囚われて手近な壁の後ろへと押し倒された。
「ロッ―――………!!」
 手を伸ばしても、もう、届かない。
 相手が引鉄に手をかける。まだ、青年は動かない。
(やめろ………!)
 確かにあいつは馬鹿だが、こんなところで巻き込まれて死んでいいはずがない。
 ましてや庇う対象が己のようなどうしようもない男とか何の冗談だ。やめてくれ。自分は、死ぬならひとりで死んでいく。誰も巻き込まずに死んでいく。そう決めたのに、その決意すらも叶わないのか。
(やめろ!)
 誰でもいい。
 誰でもいいからどうにかしてほしい。
 ほんのちょっとでいい、弾道が逸れるとか、あいつの方が一瞬早く引鉄をひくとか、とにかく助かる要素を少しでも。
 神なんていないと知っている、知っているが、それでも―――!

 ガラリ………

 壁が崩れる音がした。
 取り払われた障害に遮られていた陽光が差し込み、一帯を黄金色に照らし出す。僅かに兵士が目を細め、怯む。そして。
 彼の。
 もとに。
(………っ!)
 目を瞠る。
 あれ、は、なんだ。
 見間違い、錯覚、けれども、それ、が、確かに。
 震えているロックの手に『それ』が手を重ねる。もう片方の手で前を指し示す。敵を撃つためでなく、もっと先のものを―――狙い撃てと。
 伝えるように。

 ガゥ―――………ン………

 銃声が鳴り響き。
 崩れ落ちたのは、兵士だった。
 ほんの一瞬の攻防、黄金に満たされた一角の遣り取り、押し倒され、尻餅をついていたジャックは必死に起き上がると、呆然としたままの青年の身体を押した。
 無言を貫く相手の背を押しやり、早く現場から遠ざかろうと走る。
 当て所もなく走る。
 道は突き当たることなく果てまでも続く。追っ手は見えない。いたとしても、きっと、『此処』では追って来ない。
 肩の痛みすら忘れて息が切れるまで走り続け、荒い息と共に地面にへたり込む。ぼろぼろの家屋に背を預け、未だ太陽の光によって黄金に染め上げられた一帯を眺めやる。
 呼吸を整えながら隣を窺い見れば、ロックも未だ深い戸惑いの中にいるようだった。確かに、彼が撃った。その証拠に抱えられた銃身からはきな臭い匂いと白い煙が漂っている。表情を強張らせ、目を見開いた青年は何を感じているのか。先刻の、僅か一秒にも満たぬであろう瞬間に襲った衝撃をジャックですら整理しきれずにいるのだ。当事者たる彼の動揺は如何ばかりか。
 声が届くかは分からない。でも、これだけは伝えなければならないと思った。
 決して、決して、彼のためなんかではない。自らのこころの平穏のために。
「―――ロック」
「………」
「お前さん、には、言った、よな。オレは、神様、なんて信じてない、って」
 言葉すらも途切れがちだ。心臓が早鐘のように鳴っている。身体が熱く、精神が高揚している。
「だから、これから、言うこと、は、信じなくて、いい。ただ、の―――見間違い、だから、な」
 脳内にありありと思い描ける光景。
 太陽光の入り込む角度だとか、実は誰かの影が何処かに反射していたとか、舞い散る砂埃が偶然にも「らしい」姿を形作っていたとか科学的な説明なら幾らでもできるに違いなかった。
 だが、いまは何も照明する手立てがない。
 故にこそ。
「お前さん、ついてる、ぜ………すごく、あったかい、何か、がさ。あほだろ、オレ。目ぇ、くりぬいて、やりてえ。でも、見えた、からには、仕方ねえ、し」
 不本意だが、と。
 並んで座り込んだ青年と視線を遭わせることなく呟く。
「なんか、髪が、長くて、背の高い、白人? の、にーちゃんが、さ………お前さんの、代わりに、引鉄、引いて。頭、なで、てった、ろ」
「………」
「わらえ、よ。わらって、いいから、な。オレだって、信じ、ねーよ。こんな―――馬鹿、みてえな。魔法だか、幽霊だか、滑稽な、現象」
 青年は答えない。
 何も応えることはない。
 じっと黙したまま虚空を睨みつけ、一度は離し掛けていた銃を我が身へと引き寄せる。ジャックの荒い呼吸音だけが辺りに響き渡る中。
 ―――彼の頬を伝った。
 一筋の水のようなものには。
 気付かなかったことにしようと、ジャックは茜色の空を見詰めたまま決意した。
 黄金色の世界は間もなく終わりを迎え、完全な朱に塗り篭められた後に沈痛な青と黒に埋め尽くされる。それでも、いまはまだお前に、「お前達」に与えられた時間に違いないからと。
 戻ってきた痛覚に口角を上げながらもジャックは黄金に染まる世界を深い満足と共に見詰めていた。




 上空から照りつける陽射しが肌に痛い。顔をターバンで覆っても刺すような紫外線までは覆しようがない。タイヤが巻き上げる土埃に噎せ返りそうになり、更にはガタガタとジープが岩場に乗り上げて思わず呻いた。一応の手当てはしたもののまだ左腕を動かすと鈍痛が走る。
 運転席の男がちらりと視線を流した。
「大丈夫か」
「気にすんな。ちっと痛んだだけさ」
 ロックの質問に素っ気無く応じて、ジャックは深く助手席に身体を沈めこんだ。怪我人を連れ出すことに多少の罪悪感を覚えるぐらいなら後部座席に乗せた部品の安否を気遣えよと言いたい。
 延々と続く荒涼とした大地をジープでひた走る。何処で車なんぞ調達して来たんだと問えば、路地に捨てられていたのを自力で修理したのだと返された。エコだな、と呟くとエコなのか? と返されて、もはや笑うしかなかったのは今朝方のことである。
 にしても、随分と走る。もう町を出て一時間は経っているのではないだろうか。
 悪路を行く車内でまんじりともせずに空を見上げていると、ロックが密やかに問いを発した。
「………良かったのか」
 さて、それは。
 何に対しての「良かった」なのかとしばし考える。
 昨日、周囲が暗くなってから基地へ帰還すると、ラルゴたちも丁度戻ってきたところだった。目的の場で張っていたものの連邦軍は姿を現さなかったらしい。狙いが外れた仲間たちは不満をくすぶらせていたが、怒りに駆られたまま出撃する事態にならなかったのは僥倖だったと思っている。ついでに言うと、ラルゴがわざと皆を本来とは違う場所へ連れて行ったのではないかとも思ったが確認するのはやめておいた。
 ラルゴはその場で、この地域から離れて西方の部隊に合流する計画を全員に打ち明けた。武器や人員といった資材に乏しい此処では戦うにも限界があるのだと。散々揉めた話し合いは未だに決着を見ていない。
 だから彼は、「まだ話し合いが続いているのに現場を抜けてきて良かったのか」と問いたいのかもしれない。だったら怪我人をわざわざ誘うんじゃねえと突っ込み返したくもなるのだが、純粋に「誘われた」事実に驚いたということもあるし、所詮自分は反乱軍の下っ端である。大局は上の判断に任せておけばいい。
 あるいは、ジープの後部座席に積んだシロモノに対して言っているのだろうか。帰り際に確認した例のモビルスーツは回収されぬままに鎮座していた。自分たちを攻撃してきた兵士は本当に単独行動をしていたのかもしれない。動かすことはできずとも解体はできる、こりゃあいい材料が手に入ったと喜んで、ジープに乗り込んだ足で取り急ぎ必要な部品だけちょろまかしに行ったのだ。しつこいようだが、資源は貴重である。
 だから彼は、「貴重な資源を勝手に自分のような通りすがりの人間に譲ってよいのか」と訊きたいのかもしれない。だが、仲間内では第一発見者に一番の権利があると定められている。今回だって例に洩れない。
 ロックが確認したかったのは後者のことだと勝手に判じて口元を歪める。
「いーんだよ。もし本当に西方に移動するなら動かないモビルスーツなんて持ってけねえし………ここじゃ第一発見者に一番の権利がある。遠慮すんな」
「第一発見者はオレではなく、お前だ」
「そのオレがいいっつってんだ。あまりうるせーとぶん殴るぞ」
「―――了解した」
 殴られるのが怖かった訳でもあるまいにロックは妙に素直に頷いた。少々不気味である。
 ジープは大きな岩山の手前で止まった。ジャックがいた町からも見えていた山ではあるが、近場まで来たことはなかった。植物の類も一切見当たらない荒地に何があるのかよく分からない。
「此処からは歩くぞ」
 ロックに続いて車からおり、後部座席の荷物を背負おうとした―――ところを止められる。「お前には無理だ」と言われたので今回は素直に引き下がる。確かに、片腕しか使えない状態では殆ど役には立たない。
 布に包まれた大荷物を担いだ青年の後に続く。山を越えるのかと思ったが、意に反して彼は入り組んだ岩山の中に入り込んでいった。
「今更だけどよ、ロック。何でオレを連れ出したんだ? オレが役に立てるのか?」
「お前は武器の扱いを知っている。モビルスーツとてそうだろう」
「所詮は自己流だ。プロと比べんなよ」
「宇宙技師検定一級クラスの腕があるなら問題ない」
 それってかなりのハイレベルじゃねえかと眉間に皺を寄せる。政府公認の認定試験など受けた験しのないジャックにとっては現時点の己の技量が期待に応えられるものなのか分かりかねた。
(まあ、要するに)
 腕前はどうでもいいから付き合ってくれる相手が欲しかったんだろうと判断して、あまり動かぬ左肩をぐるぐると解しながら淡々と足を動かす。
 岩山は外周こそ高いものの、真中は侵食で窪んでいたようだ。中ほどまで進んだところで高い壁の真中に洞窟が点在しているのが確認できた。ポケットに隠し持っていた磁石を取り出すと、針がふらふらと安定していなかった。磁鉄鉱でも埋まっているのか。太陽がほぼ中天にある時刻に此処で方角を確かめるのは至難の業と言えよう。
「此処だ」
「ん?」
 前方の動きが止まり、ジャックも揃って足を止めた。
 立ち止まった場所は大きな空洞。天井の一部が崩れているのか日の光が何箇所か差し込んでいた。何もないように思える場所に青年が歩み寄り、手を翳す。
 そして。
「………!」
 見上げる程の巨体が見る見るうちに姿を現す。薄汚れた身体、砕けた手足、刺し貫かれたコックピット、もげた頭部。激戦と呼ぶのも甘い激戦を潜り抜けてきたことが明らかな、青と、白と、赤の。
 見覚えがある、どころの話ではなく。
 一部の人間には絶望と怨嗟の声をもって、一部の人間には哀れみの視線を送られる世界で最も有名な機体。

「ガンダム………!」

 驚きのあまり硬直しているジャックを余所に、一旦背負った荷物を足元に置いたロックは、モビルスーツの肩口から乗降用のロープを下ろしてきた。ロープの先端に荷物をくくりつけ、見るも無残な頭部の隣まで運ぶ。
「―――カメラ・アイを装着する。メインモニターがやられたままでは宇宙で戦えない」
「………」
「手伝ってほしい、ジャック」
 いや、手伝ってくれと言われても。
 これこそプロ中のプロが修理しなければならない手合いではないか。所詮は反乱軍の、自己流でしか研鑽を積んでいない半端技師が手を出してはいけない領分ではないのか。
 疑問が渦巻きながらも下りてきたロープに掴まり、引き上げてもらった。顔の脇をすり抜けていくモビルスーツの装甲に刻まれた傷の数々に、戦いの歴史を見て取って自然と表情が引き締まる。自分に何ができるかは定かではない。だが、例え修理中の単なる話し相手でも猫の手扱いでも、求められた以上は応えるべきであろう。少なくとも自分は、彼のお陰で命を救われた訳だし。
 カメラ・アイを真中に置いてロックが左肩の上に、ジャックが右肩の上に陣取る。ここまで来てしまえば敢えて彼の正体を問い質すことも愚問と思えた。故に、紡いだのは別の言葉である。
「………工具を寄越せ。一緒に運んできただろ」
「配線は」
「メイン回路は任せた。サブ回路の接続関係ならやってやる」
 最新の工具などないし、ほぼすべてがアナログな作業となる。急かされないことだけが幸いと呼べる環境でジャックは右手にスパナを握り締めた。
 無理矢理にもとのモビルスーツからもぎ取ってきたために接続用の回線がぶった切られている。繋ぎ直しても細かな動作チェックが必要となるだろう。こいつは、宇宙に出るのだ。自分の接続ミスが原因で宇宙遊泳する羽目に陥られたりしたら寝覚めが悪すぎるではないか。
 手元が暗いからと持参したランタンに灯をともす。
「………お前さんには言ったっけな」
 延々と続く無言の空間が居心地悪かった訳ではない。何も言う必要はないし何も聞く必要はない。そう思っていたのに言葉が漏れ出した理由はジャックにもよく分からない。ただ、なんとなく、そういう気分だったのだ。
 動きのよくない左手で無意識に胸元のロザリオを握り締める。
「こいつは宗教上の理由で身に着けてる訳じゃない。じゃあなんで持ってるんだよって訊かれたら、理由は簡単さ。形見なんだよ。オレのカミさんのな」
 言い換えれば妻だ、ワイフだ、奥さんだ、恋人だ、とにかく唯一無二の存在だ。
 敢えて軽い口調で呟くと機械を挟んだ向こう側で青年が赤茶色の目を瞬かせた。二度ほど瞬きを繰り返してから作業に戻ったけれど、耳を傾けている様子が窺えた。ジャックもまた、手の動きは休めない。
「ガキの頃からオレは悪い奴でなあ。疾うに親もいなかったし、悪い奴らと釣るんで色々やったさ。警察沙汰にだってなった。でも、まあ、なんだ。国を点々としてる時に―――出会っちまった訳だ。宗教上のカミサマなんて目じゃない、オレだけの女神様ってやつによ」
 我ながら臭い表現だと苦く笑いながら脳裏に彼女の姿を思い描く。
「一目惚れだよ。もう、惚れて、口説いて、更生するって誓ってしまいにゃ泣き落として、頷き返してくれた時には男泣きだよ。すげえよな、ほんと、誰かを好きになるってことは。世界の色さえ変わって見えるってのは比喩じゃないと実感したぜ」
 灰色だった世界が途端に色を帯びた。
 美しく見えた。
 すべてが輝いているように思えた。
「………そう、だな」
 青年が俯いたままに囁く。
「あいつは自然が大好きで、一緒に住むなら出身地のアイルランドがいいって話になってよ。頑張って金を貯めた。家を建てた。生活は苦しかったし、差別もあったけど、あいつが傍で笑ってくれるだけで満たされた。しあわせだった。オレは、しあわせだったんだ………」
 思い起こされた過去の記憶に自然とジャックの動きが止まる。瞳が険を増し、冷めた色を湛える。
 押し出した声はひどくひび割れて。
「―――政府の太陽光政策が伝えられたのは間もなくのことだった。オレの家は区画整理に引っ掛かってて、相応の金は振り込んでやるから退去しろと急に勧告されたよ。住む宛もないってのに追い出されてたまるかってムカついたけどな、まだ納得してたんだ。あいつにも諭された。私たちが引っ越した代わりに発電施設ができて、それで多くのひとの暮らしが豊かになるならいいじゃないの………って」
 彼女は優しく微笑んだ。
 自分が抗う姿勢を見せる度に彼女が悲しそうな表情を浮かべるから、彼女が望むならと自らの憤りは飲み込んだ。
「立ち退きの前日、オレはあいつを置いて新しい家を探しに行った。貧乏だったからな。簡単に次の住処なんて見つからない。ようやっと夕方頃に目処をつけて戻ってみたら―――」
 騒がしいとは思っていた。悪い予感もしていた。
 息せき切って走り、角を曲がった瞬間の。
 ―――襲ってきた感情を、どう、表現すればいいのか分からない。
「なかったよ」
「―――」
「何も、なかった。家なんざ、跡形もなく押し潰されてた。軍服着た連中が辺りを徘徊してるだけで、殴りかかったらはっ倒された。計画は前倒しされた、慰謝料が口座に振り込まれてるから確認しろの一点張り。あいつの行方なんて誰も知らねえ。知ろうともしていなかった」
 崩された家屋の中から漸く彼女を見つけ出した時は、既に、その身体は冷たく凍て付いていた。
 同じように逃げ出した近隣の住民が言うには、避難勧告も何もなしに突然作業が始められたらしい。人権を無視していると訴えた奴は捕まり、戻ってこなかった。せめて何処かの記事として取り上げられているかと思いきや、テレビや新聞は新しい設備ができることを喜ぶコメントしか流していなかった。
 抹殺された。
 見捨てられた。
 奪われたのだ。
 何回抗議を繰り返しても「慰謝料を受け取ったからには撤去に賛成したものと看做される」と言い切られ、あんなはした金とあいつの命が釣り合うものかと叫べば、より多くの人間の幸福のために尊い犠牲になったと思えばいいと実しやかに語られた。
 終いには、似たような立場に追い込まれた者たちで開いていた会合にアロウズが踏み込んできて諸共に攻撃された。勿論、世間には一切洩れることはない。きな臭さを嗅ぎつけた人間がいたとしても、「テロリストを一掃しただけだ」と公式発表が行われただけに違いない。
「信じるもんかと思ったよ、オレは」
 真っ当に生きている人間にばかり理不尽を押し付ける。力を持たないお前たちが悪いのだと嘲笑うかの如く。
「オレには、もう―――喪うものなんてないんだ」
 低く、呻くように呟いて。
 ジャックは唇を強く噛み締めた。
 カチャカチャと機材を動かす音だけが辺りに響く。岩の隙間から差し込んでくる光が少しずつ橙色を帯び、時間の変化を知らせている。
「オレは………」
 ひっそりとロックが呟いた。
「オレは、戦うことしかできない。それしかない。だから戦い続けるのだと思っていた。信じていた。だが―――」
 あの時、と、彼が語る。
「夢を見た。戦いをやめたがっている夢だった。オレは、その感情を否定しない。戦えば誰かが傷つく。話し合いで決着がつくならそれが一番だとわかっている。だが、それをするのは、オレの役目ではない」
 ぱちり
 はみ出たコードの先端が工具でねじ切られた。
「オレは、オレのやり方が唯一絶対の正義だとは思わない。………間違っているとも思っていないが、少なくとも、オレが戦うことで誰かが傷つく以上、オレは復讐の刃から逃れられない」
 ばちり
 コードを機材の一部に捻じ込む。
「誰にも理解されないと諦めていた。オレたちの掲げる正義など誰にも理解されないのだと。何を考えているのか、思っているのか、仲間にすらろくに説明しなかった。覚悟は誰に語る必要もない。戦う理由などそれぞれだ。オレの中で確固たる信念として息づいているだけでよいのだと」
 ばちり
「だが、あいつが」
 ―――ばちり
「オレを………撃たなかったから、オレは、いま、此処にいる。生きている。息をしている。認められた、理解された、オレは―――ひとりではなかったんだと。あの時。オレは。やっと」
 もっと早くに気付いていればよかった。
 あいつはいつだって打ち解けようとしてくれていたのに、意地を張って伸ばされた手を取ることを拒んでいた。この世に神なんていないと思っていた。なのに、咄嗟に浮かんだのは「罰が当たったのだ」という言葉。彼の手を取らなかったから、しっかりと握り返さなかったから、あの時『掴む』ことができなかったのだと。
 赤茶色の瞳がランタンの炎を照り返してゆらゆらと揺れる。
「わからなくなった………オレが撃つことに、意味はあるのかと」
 ほんの二日ほど前に聞いた言葉を彼は繰り返す。
「殺されなかった。意志を託された。だから戦おうと思った。だが、護れなかった。誰も救えなかった。そんなオレが、銃を持つ意味はあるのか。誰かを傷つける権利はあるのか」
 呟かれる、言葉の数々に。
「オレが動くことで、世界は変わるのか」
 俯いた表情に。
「きっと、答えはない。それも、もう、わかっている」
 おそらくは彼も―――同じなのだと感じた。
 世界に喧嘩を売ったテロリストと考えれば自業自得と罵ることもできよう。だが、歪んだ世界を変えるために敢えて武器を手に取ったと考えた場合、単純に批判することはできるのか。少なくとも、大切なひとを奪った世界を憎み、連邦を恨み、世論を憂い、抑えきれない憤りを抱えてこんなところまで流れてきてしまった己には責められない。
「………答えなら、出てんじゃねえのか」
 油塗れの掌だけを見詰めながらジャックは言い返す。あの時は、聞いてどうすると斬り捨てたが、もし、いまの自分が彼に返せるものがあるとするならば。
 コン、と自分たちの腰掛ける鋼鉄の機体を叩く。
「どんだけ迷っててもお前さんはコイツをどっかに乗り捨ててこうとはしなかった。むしろこうやって修理して、次の機会を窺ってる」
「………」
「簡単なことさ。まだ、この世界はお前さんの望んだ世界には程遠いんだ。オレにとっても、たぶん、お前さんを撃たなかった誰かにとってもな」
 作業を終えた手を脇に垂らして青年は視線を右から左へと流す。
 共に旅をしてきた愛機を眺めているのだろう。鋼鉄の表に刻まれた戦跡の数々を、携えた武器を、いま正に接続されんとしている『目』を。
 この世に神なんていないと嘯きながら、亡くしたものたちの『遺志』を信じている。
 にんまりとジャックは口角を上げた。
 伸ばした指先で指し示すのは未だ青年が肩から担いだままの銃だ。
「でなきゃ、お前さんの代わりに銃を撃ったりしないさ」
 青年は何も応えない。
 応えなかったが、少しの間を置いて、表情が和らいだ。彼なりの結論が出たのかもしれない。いずれにせよ彼は此処を去るのだ。ほんの一時、すれ違っただけの自分が彼の行き先をとやかく言うつもりはなかった。
 ただ、後悔しないように生きろよ、と。
 年長者の押し付けがましい意見を心中で述べるに留めおく。
 じっと自らの機体を見詰める青年の姿を記憶に留めながら汚れた手をズボンの裾で拭う。作業は粗方終わった。後は操縦者が微調整していくしかない。役目は終わったのだと、ジャックは妙にはっきりと感じていた。
 右手で頬杖ついて、まだまだ幼くも感じられる目の前の青年をまじまじと見詰めた。自分が彼を忘れることはないが、彼は自分を忘れるだろう。そんな奴もいただろうかと、記憶の片隅に埋もれたまま二度と日の目を見ない適当な残滓として薄らいで行くに違いない。
「なあ、ロック」
「なんだ」
 初めてまともに返事したなあ、と思った。
「今更だけど、お前さんの名前はなんて言うんだ? ロックってのは本名じゃないだろ」
「………」
「あー………秘匿義務だか何だかがあるよな。すまん。気にしないでくれ。言ってみただけだ」
 そもそも『本名』名乗ってねえって点じゃオレも同じだしなと笑い声を上げる。
 声が空洞内に反響して余韻を残す。隙間から差し込む黄金の光が白い機体を照らし出し、周囲の土煙が陽炎のように揺らいで見えた。
 青年が真っ直ぐにこちらを見詰め返す。
 赤茶色の瞳が、不意に、何処か楽しそうに和らいで。言葉を紡ぐ。
「オレの名は―――………」




「―――クラウス!」
「っ………! シーリンか、驚かさないでくれ」
「珍しいわね、そんなに熱中しているなんて。何を読んでいたの?」
「ああ、これかい? ライルが送ってきたんだよ」
「ジーン1が?」
 椅子に腰掛けたままのクラウスは右手に握り締めていた紙の束を背後のシーリンに掲げて見せた。ところどころ黒ずんでおり、皺くちゃで、文字も掠れて、判読するには難しい状況である。だが、そんな理由で夢中になっていたのではない。
 眼鏡をかけた聡明な女性が寄りかかるようにして手紙を眺めやる。
「単なる手紙かと思ったけれど、小説のようにも見えるわね。随分と分厚いわ」
「そうだな」
 ゆっくりと視線を手紙へ戻してクラウスは淡い笑みを浮かべる。
 左手には煤けたロザリオが握られている。数日前、この手紙と共にライルが突如として送りつけてきたものだ。お前さん宛の遺書だ、読んでやれ、後の処理は任せたと、いつも通りの皮肉な笑みとぶっきら棒な口調に微妙な哀切を滲ませながら。
 差出人の名前には見覚えがあった。ジャック・オ・ランタンなんてふざけた名を名乗る者はカタロンの中にふたりといない。二年ほど前、東方で戦っていた反乱軍と合流した際に知り合った男である。
「ご覧の通りのランタン男さ。武器庫の番人っつーか、ま、死体漁りが本業だがな」
 そう言って皮肉げに笑っていたのを覚えている。
 確かに彼の所業は一般市民から見れば褒められたものではなかったろう。事実、彼のことを「死体漁りの悪霊」と批判する声もあった。
 しかしてそれは一部の者たちだけであり、彼の傍に居る人物になればなるほど、彼の不器用な優しさや勇気を称えた。彼自身は自らが優しいとか勇気ある者だと評されるのを殊更に嫌っていたが、周囲からの評価は一定して「頼りがいのある仲間」であった。少しだけではあるが、あの天邪鬼さと自己評価と周囲からの評価を一致させようとしない性格はライルを髣髴とさせた。
(しかし、なあ………)
 本当にこれは遺書と呼べるのかと曖昧な苦笑を頬に刻む。ライルは言われた通り素直に、一度も中身を確認することなくクラウスへ届けたために知らなかったのだろう。まさか、中身が誰某に何を託す等の一般的な『遺書』ではなく、『とある青年』のことを記した私小説もどきだったとは。
 おまけに、数年前に偶々知り合った青年の『本名』がなんだったのか、そもそも青年は名乗ったのか名乗らなかったのか、肝心な部分がジャック自身の血で汚れて判別不能になっている。
 クラウスとて反政府組織のリーダーとしてソレスタルビーイングの情報を日夜集めている身の上だ。故に、作中の青年の正体にも凡その当たりはついた。
 ジャックは、これを自分に託してどうしたかったのだろう。
「クラウス。そのロザリオはどうするの?」
 本来ならば売り捌いて僅かなりとも軍資金にすべきなのでしょうねと、愛情深いながらも現実的な女性は問い掛ける。生前のジャックもそう話していた。
 だが。
「預かっておこう。いつか彼の故郷に帰った際に埋葬できるように」
「………甘いんだから」
 耳元で零された微苦笑混じりの溜息には気付かぬふりをした。
 そう言えば、この手紙では赤茶色の瞳をした青年の本名だけでなく、その後に彼がガンダムに乗って戦いに行ったのかも分からずじまいだった。極端な話、かの青年はジャックと話した後にガンダムを岩山へ乗り捨てて行った可能性とてあるのだ。その場合、ジャックがこの手紙を託したのは、「此処にガンダムが隠してあるから使え」ということになるのだが―――。
(それはないな)
 確信を持ってクラウスは頷いた。
 真実、青年がソレスタルビーイングの一員であったなら、ガンダムパイロットであるのなら、歪んだ世界の現状に憤りを抱き人類の行く末を憂えているのなら。
 いつか、出会える。
 戦い続ける同士として。
 もう一度だけ手紙にざっと目を通したクラウスは、封筒の中にロザリオを入れると改めて封をした。
「君たちの想いは、私が持って行くことにするよ」
 だから、いまはゆっくりと眠るといい。
 次に目覚めた時には、新しい世界と時代が訪れていることを信じて。

 

 


 

「ゴールデンアワー」。日没間際の、すべてが黄金色に染められる時間帯のこと。別名「ゴールデンタイム(マジック)」。

あと、「ジャック・オ・ランタン」は二通りの意味があります。

 

なんとなくですが今回の話を経験した刹那は「A returning of the Trailblazer」ルートには行かない気がしました。

結局、「なに」に気付くのかは同じなので。

ジャックさんは「別解釈のライルさん」として書いていたので、実は、彼の過去話はライルさんの過去と共通しています。

家を奪われた云々はコンプリベストに収録されてましたかね?

にしてもクラウスさんは使いやすいなあ(笑)クラウスさんはクラウスさんで、どっかの戦いの折に

偶然CBに助けられたって設定があったと思うんですが違ってたらごめんなさいです。

 

こんな話ですが、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います〜。

リクエストありがとうございました♪

 

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