※リクエストのお題:『00』、ハレニルなお話。
※一期のトレミー内、まだまだ平穏な頃の設定です。パラレル設定は持ち出しませんでしたよ!(笑)
※アレルヤの施設破壊直後のお話だと思っていただければ有難いですー。
宇宙から地球を眺める時、ひとは、何を想うのだろう。 多くの者は美しさに圧倒され、あるいは矮小な自らの存在に怯え、あるいは生命の尊さに思いを馳せるのだろう。 だが、『自分』は違う。 地球だろうと何だろうと、ただ、それは其処に「在る」だけだ。触れようとしても触れられないのならあってもなくても同じこと。 ―――まるで、『俺』のように? シンと静まり返ったトレミーの通路で、大きな窓から地球を眺めながらハレルヤは皮肉げに口角を上げた。 主人格のアレルヤと裏に潜むハレルヤ。 二重人格に例えられるのは業腹だが、それが他人にとって一番理解しやすい関係であることに違いはない。 ―――これは、「歌」だ。 いつもならすぐに踵を返すところを、不意の気紛れ、歩みを止めずにそっと角から通路の奥を覗き込む。 ―――ほのかな室内灯の下、佇む影ひとつ。 常の朗らかさや明るさはそこになく、緩やかに波打つ栗色の髪に淡い光を受け、澄み切った緑の瞳は何処か遠くを見つめている。 CBの誇る狙撃手。 ヒトゴロシの集団における彼の穏やかさや気遣いの数々、一般的な感性は周囲の緩和剤となり、また、それだけに「異質」でもあった。 だから………だろうか、立ち去り損ねてしまったのは。 曲がり角に佇む人影を捉えた青年はにこやかに笑う。 「よお、アレルヤ。こんな時間にどうした。眠れないのか?」 ―――『アレルヤ』、と。 「こんばんは、ロックオン。あなたこそ、どうしたの? 眠れないのかい」 答えになっているような、なっていないような返事をして、青年は視線を窓の外へと戻す。 「………さっき………、何か歌ってたよね。あなたの好きな曲?」 少しだけバツが悪そうにロックオンは眉をひそめると、照れ隠しのぶっきら棒な声で「子守唄さ」と呟いた。 「ずっとむかしに聴いたきりでな………最近は思い出すこともなかったんだが」 ―――直後。 ああ、しくじった。踏み込みすぎたか。 「―――あんまり物覚えの良くない人間なんでね」 軽口で誤魔化そうとしても正面のガラスに映り込む互いの笑顔には暗さが滲んでいる。 「ところでさ」 先日の一件を思い出してほんの僅か、ハレルヤの視線は空を睨んだ。 アレルヤは苦しみながら。 くすぶる胸中をどうにかしたくて、帰還後、アレルヤの足は戦術予報士のもとへと向かった。あれは作戦の結果報告以上に、酒を飲めば気が紛れるかもしれないとの浅はかな願いも混ざっていたに違いない。鍛え抜かれた心身はあの程度のアルコールでは酔えないと知りつつグラスを交わしたのだ。 「第一、誕生日なんて祝ってもらうほどのことでもないよ」 微笑む緑の瞳には青い地球が反射している。 「誕生日おめでとさん、アレルヤ。今度は俺とも一緒に飲み明かそうぜ」 祝いの言葉を告げられようと、本来受け止めるべき人物は未だ胸中で眠りに就いたまま。 「さて、と。あんまり夜更かししてたらそれこそミス・スメラギにとやかく言われちまう。休める時に休んでおかねえとな。おまえももう寝ろよ」 万が一にでも部屋の前まで一緒に行く羽目になっては堪らないと、しばし、この場に留まる道を選ぶ。 ぼんやりと見詰める耳にゆっくりと―――響く。 Happy birthday to you, 「―――!」 衝撃に目を瞠り振り向いた時、既に通路は蛻の殻だった。 あの、歌声。 理由や原因を考えても結論など出ない。ハレルヤはおろかアレルヤにも確かめる手立てはない。 「………喰えねえ奴だ」 一番平凡であるはずなのに一番読めない男だと、怪しみながら訝りながら、ある種の興味を抱きながら。 |
マイ・オンリー・ソング
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もうちょっと長いお話を書ければよかったのですが、原作準拠の関係を考えてしまい、こんな感じに;
作中で兄貴が歌っているのは子守唄………と設定しましたが、具体的なイメージは特になかったりします。
もし本当に本編でこのふたりが互いに腹を割って会話してたらどんな感じになったんでしょうなあ。
こんな話ですが、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。
リクエストありがとうございましたー♪