ここがお前の部屋だと船内の一室に案内されて安堵の息をついた。
 多分そういう反応を示されるだろうとは思っていたが、実際に思った通りの反応をされると笑いたくて仕方なくなってしまう。
 まずいまずい、一応自分は『新入り』なのだから、と、軽く咳払い。
 それにしても―――。
「生きていたのか、ってね………」
 連中の驚いた顔を思い出してライルは皮肉げに頬を歪めた。
 ひとりきりの個室。
 窓の外は宇宙。
 見えるのは地球。
 ああ、思えば遠くに来たものだ。
 無意識に上着のポケットを探って、此処に来る直前に煙草は始末してきたのを思い出して軽く舌打ちした。中毒ではないが、なければないで物足りない。しばらくは苛立つことだろう。
 溜息をひとつ。とっとと着替えてくるんだなと命じられた制服へ腕を通しながら、もう一度彼らの反応を思い返してみた。
 突然ヒトを呼び出して妙なコードネームで呼んでくれた黒髪の男。
 出迎えるなり動揺し、固まってしまった明るい髪をしたオペレーターの女。
 激しく選別するような眼差しで睨みつけてきた紫の髪の少年。
 どいつもこいつも数年前まで「子供」だったのだろうと思うと、何だか本当に笑えてきてしまった。

 そんなにあの男の面影が欲しかったか。
 そんなにあの男は優しかったか。
 そんなにあの男が頼りになったのか。

 自分たちは容姿こそ瓜二つであったけれど、ニールの方が年下に対しては優しかった。妹のことだってホント馬鹿だなあと思うほどに可愛がっていた。自分も妹は可愛く思っていたけれど、兄よりは愛情表現が荒っぽかったから、妹も素直に甘える対象としては向こうを選んでいた。
 鏡の前で居住まいを正す。制服のサイズがピッタリなのが少し気になった。つまり彼らは―――もとから『ロックオン』を迎え入れるつもりだったと言うことか。断られるとは考えていなかったのか。
「どうしたもんかな………」
 鏡の中の男はやや俯き加減で悩んでいる。
 次いで、肩を小刻みに震わせて、クツクツと密かな笑いを零した。

「―――良かったじゃないか」

 随分と仲間から慕われていたみたいで。
 迎えに来た刹那という青年は除くとしても、途中で合流したスメラギという女性も、宇宙で待っていたクルー達も。
 相対した瞬間に感じたのは驚愕と共に「もしかしたら」と期待をのせた眼差し。
 ニールが嫌われていたのならあんな目で見られることはない。其処彼処に覗く動揺も、好意も、反感も、彼が受け入れられていたからこその反応だ。そのお蔭で自分は割りと好意的な感情と共に迎えられているに違いない。「あの男の弟だ」という色眼鏡越しに見られているに相違ない。

「良かったよ。なあ、兄さん」

 慕われたまま消えることができて。
 無様な姿を晒す前に、唐突に、綺麗な思い出だけを残して、尊い犠牲のフリをして。
 だから、少しぐらい。
 この、同じ顔と同じ声を使って、からかってみたっていいじゃないかと思う。ニールがどんな風に振る舞っていたのかは連中の態度からも大体予想がついた。手渡されたデータから推察もした。
 ―――それに。

 毎年、毎年、同じ時期に墓に供えられていた白い花。
 一年目は、単なる行き違いだと思った。
 二年目に、何となく疑問を抱いた。
 三年目は、もしかしたらと感じた。
 四年目に、きっとそうなんだと覚悟を決めた。

 連中は四年かけて事実を受け入れたのだとしても―――自分が確信したのはつい先日のことだから、ちょっとばかり悪趣味なからかいのネタにしたっていいに決まってる、と。思う。思うのだ。
 表の世界を歩くことは疾うに諦めた。裏家業に精を出していたことは知っている。何処をどうやったらガンダムマイスターになろうなんて結論に行き着いたのか、理屈は分かるけど理解なんざしたくないし、する気もない。抱く想いは異なれど傍から見れば所詮は彼も自分も立派なテロリスト。早いか遅いかの違いだけ。どうせロクな死に方なんてしない。
 ただ。
 家族を亡くしたくせに、実の家族である自分とは別れたくせに、この組織内の人間を「家族」に見立てて勝手にいとおしんでいた。その想いが連中の態度の至る所に窺えて非常に腹立たしくなった。

 だから。
 せいぜい、利用させてもらおう。
 連中が「ニール」に抱いていた好意を、信頼を、想いを。

 自分が属するのはソレスタルビーイングじゃない。カタロンだ。自分で考え、自分で決めた道だ。「彼」とは違う。
 愚かなニール・ディランディ。
 死んでしまったお前には何もできない。弟が反政府組織に所属することも、彼が慈しんだソレスタルビーイングの仲間に対して為すことも止められない。
 良かったな。
 死んでしまえば、もう、これ以上の悲劇を見ることもない。
 自らの不在がどんな風に家族を歪ませ、仲間を歪ませ、世界の歪みに繋がっていったのかを知ることもない。

「本当に良かったよ。なあ? ニール」

 鏡の中の男は笑う。
 ただの一般人のように無害な顔で笑う。
 自分は依存しない。同じ轍は踏まない。妙な理想を重ねることも、慕うことも、偶像化して祀り上げることもない。居たなら居たで利用するし、居ないなら居ないで利用させてもらう。
 ただ、それだけの関係しか残し得なかった兄弟だ。

 ―――なのに。
 何故。




「どうして泣くんだ………『ロックオン・ストラトス』」




 


不在証明


 


そこに居なければ、理由を訊くことすらできやしない。

 

 


 

「二期3話が放送される前にやっちまえ!」的な突発ネタ。

ライルさんの性格が未だ曖昧なので、たぶん後で恥ずかしさに悶死することになると思うけど

まあいいや(………)

最後の一文は例によって反転ネタであります。

 

個人的にはディランディ家の双子は淡々とした関係でもいいと思ってます。ふたりともおとなだし。

テロが憎いって思いは同じでも表出の仕方は異なるだろうし。誰かに「兄さん(弟)のことが好き?」と訊かれたら

「嫌いじゃないけど気に入らない」って答えるのが男兄弟ってイメージがあるし(どんなんだ)

分かりやすく言えばつまりはツンデ(ry

 

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