「空を飛んでみたいか」

 基地の中でじっと空を見上げていると、そう、声をかけられた。
 何を馬鹿なことを言っているのかと眼鏡の蔓を指先で押し上げる。

「ここは疾うに空の上です。これ以上、飛ぶ必要性を感じられません」
「それでもやっぱり違うと思うぜ? 俺は」

 此処に来る時、俺の機体に乗ってきたけど、気持ち良さそうだったじゃないか。
 自分の意志で空を飛び回るっていいよな。

 太陽に照らし出された眩しい甲板。
 彼の腕の中に陽気で愛くるしい相棒はいない。それと自覚しない疑問を察した彼が笑い、「メンテ中だよ」と答えを返す。

「お前はあいつと相性いいみたいだったな。よかったよ」
「相性が悪い人間がいるとも思えません」
「そうでもねえぞ? 俺にとってあいつは相棒だけど、まあ、命の一端を『機械』に担わせるのが不安だって意見もあるってことだ」

 機械の方が正確だ。
 だが、機械を整備するのは人間だ。
 例え彼の相棒が、未だ内側にブラックボックスを抱えた謎のシステムで構築されていようとも、ヒトはヒトを頼りにしたいと無意識に願うものなのだろう。
 機械たる相棒にあっさりと命を預けられてしまう彼や―――噂に聞くエースパイロット殿はかなりの異端者であるに違いない。

 深くを考えているようであり、他意なく発言しているようでもあり。

 例えば、頻りに空へといざなうのも、抜けがある『ガンダム』シリーズのパイロットに推挙したいからだろう、とか。
 不思議と『ヴァーチェ』に興味を惹かれている自分に気付いているのだろう、とか。
 本当に単純に面白いから誘っているのだろう、とか。

 色々と思うことはあるけれど。

 知り合いが戦いに身を投じることに強い拒否感を示すくせに、自らの意志があると知れば途端に口数が少なくなる。
 つまるところこれは、「お前が望むならば手を貸す」との意思表示。

 太陽を見上げて目を細める。

 人類は『空』を封じられて久しい。封じられているからこそ望むのか。
 否。
 いずれにせよ、ひとは、可能性がある限りは突き進む。

 空であっても、地下であっても、前であっても後ろであっても。
 戦い続ける「ニンゲン」の行き先に興味は尽きない。引いては自分自身も―――「生きている」限りは何処かへ歩き続けなければならないのなら。

 ―――『ヴェーダ』。
 かつての「親」たる存在に牙をむくことになろうとも。

 そうですね。

「………あなたの傍らを飛ぶのは、それなりに楽しそうだと思います」

 


託宣マイノリティ


 


彼は風に髪を靡かせてやたら綺麗に笑った。

 

 


 

軍にやって来た直後のティエさんと兄貴の会話でした。

あまり深い意味はない(笑)

 

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