どう応えたらいいのか教えてほしい。

 

 


― イラエ ―


 

「なぁなぁ、藤吉郎。俺のこと好き?」
「………は?」

 前触れなしの突然の質問に。
 寝転がって読んでいた本を下ろして声の主を見る。上下逆さまに見える発言者はいつも通りにこやかな笑みで俺のことを見つめていた。

「それってどういう………」
「言葉通りの意味だって。なぁ、応えてくれよ」

 たまの休日、静かな昼下がり。
 そんな時間を狙い済ましたかのように黒衣の友人は音もなくやってくる。俺の側で俺のことを見ながら枕なんぞ抱えて、並んで床に寝転がって時折りお菓子なんか差し入れで持ってきて。
 部屋に差し込んでくる日向に陣取ってゴロゴロ転がっている様子は本当に猫そっくりだと思う。
 ………仕事の後なのかな。そういうとき、よく、此処に来る。
 でも何をしてきたのかなんて聞かないし、聞けない。
 あるいは―――聞きたくない?

「嫌いなワケないじゃん」
「そうじゃなくてさぁ」

 わかってくれよなー、と。
 微妙に彼が苦笑をもらしたのが分かる。

「俺は『一番』好きになってもらいてぇんだけど」
「―――『一番』?」
「そ、『一番』♪」

 にへっと笑うその姿は案外幼くて、ああ、どうしてこんな無邪気な顔して笑えるくせにこんな仕事してるんだろうと思うと、本当に本当に俺はどうしようもなく。
 本を胸の上に置いて視線を空へと向ける。

 ………嫌いじゃない。
 嫌いじゃないよ。

 でも、多分、それは。

「ま、でも無理だろーな」

 あっさりと引き下がってまた手にした枕を強く抱きしめて………蕎麦殻の枕なんて痛いからやめればいいのに。

「主人って意味ではバカ殿が一番だし家族では秀吉が一番だし女じゃヒナタ、とヒカゲが一番だし。あーあ、俺ってばホントに居場所がねぇのー」
「そんなことないだろ。俺、友達少ないし、お前は―――」
「ん〜、その立場も結構嬉しくはあるんだけどさぁ」

 チラリとこちらを覗き込んだ目はひどく静かで。

「だって、主人や家族に何かあったら、友人よりはそいつらの方を優先するだろ?」
「………」

 え〜っと………。

 即答できずにしばし考え込む。
 ああ、今日も空が青くていい天気だな、干しておいた布団もきっとフカフカになってるだろう。
 ―――なんて。
 すぐに脇道に逸れてしまいそうな感覚をもとのところに引っ張って。

 ………そんなこと、ない。
 誰よりも何よりも優先したくなる友達。
 存在しないわけじゃない。

 けれど、多分、それは。

「だからさぁ、藤吉郎」

 ゆっくりと身体を起こした相手は気だるげにこちらを見つめて。
 その瞳は昼間だというのに光の欠片さえも浮かべず只漆黒の闇を見せ、絶え間なくその奥に何か捕らえようもない想いを閃かせて。
 これがホントの姿なのかなぁなんて僅かに背筋に走る悪寒と怖気と確かな哀しみを。
 抱いていた隙をつくようにフと。
 本当にさりげなく何でもなく当たり前のようにあっさりと。

「俺のこと憎んでよ」

 口にする―――全てを壊すための言葉を。

「………え?」
「好きになってくんなくていーよ。だからさ、その代わり俺のことだけ憎んでくれよ」
「どう………して?」
「お前が憎む相手なんて高が知れてるからさぁ」

 笑う。
 綺麗な顔をして、笑う。

 ああ、頼むから。
 頭の痛くなるようなことを言わないで。

「他のことなんて何にも見えなくなるくらい憎んでくれよ。そうしたら俺、笑ってお前に殺されてやるから」

「憎くて憎くて憎くてたまらないって俺にだけ叫んでくれよ。なぁ、追いかけてくれないかなぁ。そんなコト」

「想像するだけで俺ってば結構キちゃうの。嬉しくてたまんねーの。それでもさぁ―――やっぱダメ?」

 喉が痛い。口の中が渇く。
 何か言わなければならないのに、こんな時に限って頭って働かない。
 まだ昼間なのにどうしてこの部屋はこんなに暗いんだろう。

「俺が―――俺に、お前が憎めると思って言ってるのか?」
「いんや」

 あっさり首を横に振って、けれど。
 嬉しそうに楽しそうに苦しそうに、微笑む。

「でもな、憎まなきゃいけないんだ。お前は」

 目の前に両手を差し伸べる。
 視界を遮るように、整った指先を惜しげもなく晒して。
 僅かずつ奪われた視界から暗い影が忍び寄る。

「此処に来る前、俺が何をしてきたか知ってるか………?」

 僅かに俺は目を見開いて動きを止めた。
 差し出された掌から微かに漂う、明らかな―――。

 目で訴えかけたって、意味はない。
 ただ、何故か、気になったりしてるのは。

 手を洗ってきたのは何のためなんだろうとか。
 単に気持ちが悪かったからなんだろうかとか、それとも。
 ………気付かれたくなかったのかな、なんて。ただの思い上がりともとれる事ばかりを。

 何をしてきたのかなんて、聞けない。
 だから、聞かないできたよ。こんな生ぬるいどっちつかずの関係が俺は気に入ってたから。

 でも、お前は。

「大切な奴が殺されちまったらぁ………」

 ―――それじゃ、満足できなかった?

「憎むしか―――ないだろ?」

 そして笑う。
 綺麗な顔をして笑う。

 ああ、頼むから、どうか。
 俺に選ばせないでくれ。

 黒衣に染み付いたその跡を見て見ぬフリをしてきた。
 ほのかに香る鉄の錆びたような匂いに気付かぬフリをしてきた。
 お前の怪我じゃないと思ったし、お前はそうしなきゃいけない立場だったし、誰も責められないから、だから、ねえ。
 聴こえてくるざわめきから外で騒ぎが起きているのが分かる。
 誰かが俺の名前を呼んでいる。
 これは俺の身内だと、俺の大切な奴なんだと。

 俺の―――………。

「楽な仕事だったけど、俺にとっちゃあ結構真剣なおシゴトだったわけよ。だから………応えを聞きたいな」

 お前のことだけ追ってお前のことだけ考えてお前だけを求めてお前だけを望んでお前だけを。

 頬を包んでくる手は案外あたたかい。
 誰かが知らせを運んでくるまで、もう間もなくだろう。
 決断しろと、覚悟を決めろと暗い声が響く。

「ねぇ、もう、頼むから」

 胸元に乗せていた本がパサリと床に落ちた。




「俺のこと憎んでよ―――藤吉郎」




―――どう応えたらいいのか教えてほしい。



 

 


 

こんなんゴエぢゃねぇ(汗) ← 第一声

何やってんすか、五右衛門さん。
つーか何をしたのか明確な描写がないためにマジで分かりません(苦笑)
まぁ多分ヤっちゃったんでしょうなぁ。「誰を」とは指定しませんが。
でも日吉が確実に怒りそうな対象つーたら殿か秀吉かヒナタ(ヒカゲ)だと思うのですよ。
だからそこいらの人が犠牲に(気楽にゆーな)

本来当方の中では五右衛門は「理性の人」なので、こんなブチ切れた行動は取ってくれません。
一歩引いたところから眺めて「お前を思う苦しさが俺を生かす」とか何とか言ってそーです(それもヤバイ)
でもまぁ多分時には破壊衝動にかられるよーなこともあるよーなないよーな当たるも八卦当たらぬも八卦。

尤も最も、今回一番問題なのは、前半の雰囲気が何処となくほのぼのしてるってことだよナー。

 

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