ばかでばかでばかな願い。
たとえばあの人が俺を見てくれること。
俺だけのことを考えてくれること。
俺のためだけに生きてくれること。
叶えられたらいいなと思いつつ怖いからそんなの自分にしかいえない。
思ったところでどうしようもなく、叶ったところで幸福になどなれはしない、
そんな救いようのない愚かさの全てをこめる。
ばかでばかでばかな願い。
― 浅薄 ―
「たとえば、戦場でこれ以上はないくらい酷い傷を負う。そうしたら看病してくれる」 たまの休日、二人そろって寝転がった草原で突然そんなこと口にするばかがいる。 「あるいは不治の病にかかる。そんでもってあの人が心配してくれたりする」 肩についた草を落としている間も語りはやまない。 「喧嘩別れした後に俺が遠くで戦死する。そうして初めてあの人が気づく、俺の存在に………」 初めて口を挟んだ。ばかげた妄想を食い止めるために。 「でも、実際にそうされたらイヤだろうが」 あえて突きつけるように宣言してやれば相手の目が悲しげに閉じられる。空の青さを映していた薄茶色のそれが見えなくなって、ちょっとだけ、残念に思った。 「―――あの人、なんだかんだで優しいから………きっと、お見舞いぐらいは来てくれるよ」 知っている。 こいつは願う。 彼が、迎えに来てくれることを。 間に合わなくたっていい。ただその屍を胸に抱いて「よくやった」とでも「ばかやろう」とでも、たった一言、洩らしてもらえれば。 それだけで報われる。 ばかな弟のばかな願い。 薄っすらと朱色に染まり始めた空を見上げて相手を小突く。 「いい加減行くぞ。明日の用意もしなきゃならんしな」 立ち上がり裾に絡んだ草をはらう。 「もし、俺が」 声は笑う、瞳は惑う。 「お前は―――看取ってくれるんだろう?」 返事は待つほどもなく返された。 「当たり前じゃん」 一瞬の躊躇も見せず戻されたそれに唇の端を吊り上げた。 「お前がなんかでヤバイ目に遭って」 「―――俺が………る。お前が、俺を………」 後の言葉がつづけられなくて瞳を閉じた。 ばかでばかでばかな願い。 たとえばこいつが俺を見てくれること。 叶えられたらいいなと思いつつ怖いからそんなの自分にもいえない。 |
そんなに「ばか」「ばか」連発せんでも………(苦笑)
なんとなく浮かんだセリフを使っていたら本当にバカくさい短編になってしまいました。反省。
タイトルも本当は「ばかな願い」と、そのまんまにしたかったんですが、
さすがにそれはちょっとヤバイかと思って自重しました☆
「愚」って字を使ってカッチョよく二文字程度のタイトルにしたかったけど、ピッタリくる
単語もなく………「愚者」でも「愚民」でも「愚問」でも「愚行」でも「愚挙」でも「愚痴」でも「愚僧」でもない。
かといって「愚願」なんて造語はヤだし「妄想」は合ってるけどやっぱりイヤだ(笑)
結果、「浅薄」とゆー当り障りのない物体に決まったのでした………。
冒頭の「願い」は日吉のもの、ラストの「願い」は秀吉のものです。
日吉は殿に対する忠誠が報われたらいいなあと思ってるけどイザそうなったら困っちゃうなーと迷ってます。
秀吉は特にないけど、ただ日吉が見捨てないでいてくれるよう、それだけを願う消極的なものです。
キャラを取り違えてる気もするがそこら辺は愛嬌だ(笑)