戦に病に老いに別離。

 盗みに力に騙して裏切り犯して殺す。

 

 お前のいるこの世界は最悪で。

 お前のいない世界もやっぱり最悪なんだろう。

 

 


― さいあくな世界 ―


 

「しつもーん………」

 俺が大嫌いなそのお前、と前置きひとつ。
 辺り一面焼け野原。寝転がった男が空に手を伸ばす。

「じゃあどうしてお前は、そんな俺と一緒にいるんですかー?」




辺り一面焼け野原。周囲に転がる死体と刀と未だ生きて蠢く死に損ない。



「………仕事だからだろ」
答えれば。
笑い声のみが返されて。
上体を起こしたそいつは深く深くため息をつく。




「………さいってー………」

 笑いながらも声は切実。



「早く、帰んないと」
「早く帰って、あいつに会わないと」




「俺、きっと、もうすぐ、干からびる―――………」




 思い浮かべた相手は此処にはいない。
 此処ではない、同じ戦場で、同じように。
 何処か焦りを抱きながら、憤りを覚えながら、諦めを感じながら。




餓えて乾いた、主君の側に。




最悪の世の中。
仏教の言い張る小奇麗なお題目―――そんなん護れるはずもない。
聖人さまの教える尊い命―――そんなんこの場にあるはずがない。




すべてが。
嫌いで嫌いで嫌いなんだと。




何度唱えたところで世界は揺るぎもしない。




腹が立つ―――柄まで真紅に染め上げられた刀を真っ直ぐ天へ突き立てた。

「………乾く、か」



すさむ、憎む、憤る、妬む、怨む、羨む、怒る、叫ぶ、そして願う。




こんなにも苦しい。
苦しいけれど、歯を食いしばって。




こんな状況になど決して負けないと誰かに誓っている。




お前のいるこの世界は最悪で。
お前のいない世界もやっぱり最悪なんだろう。




価値のあるなしすら曖昧であやふやで覚束なくて。
生きてもらいたい人間と死んで欲しい人間が我を張り合って。




「―――いいんじゃねぇ?」

だから、きっと。




誰がいたってかまやしない。




「………枯れ木も山の賑わいだ」




あぶくに等しい存在でもせめて最期まで叫ばせて。




「―――そんなん、お断り」





遠くに上がった狼煙を見上げて、味方の生存を確かめて。
その男は。
武器を手に立ち上がりこちらに手を貸すこともない。




「俺もお前も乾くにゃ早すぎる。行くだろう?」




―――お前のいる世界。




「………抜かせ」




―――さいあくな世界。




「テメェとひとくくりにするな」



薄汚い、綺麗な面などなにひとつない世界。




「俺は、ひとりで行く」




答えれば、男は確信犯の笑みを浮かべる。





「ああ―――いいぜ。俺はあいつと行くから」




だからこちらも微笑み返す。




「お前には―――なにひとつ、やらねぇよ」




差し伸べられることのない腕の遥か彼方に此処にいない誰かの面影を透かし見ながら。
 立ち上がる衝撃に真横の死骸が転げ落ちた。




さいあくな世界。




お前のいるこの世界は最悪で。
お前のいない世界もやっぱり最悪なんだろう。




ならば、この。
塵に等しい命の証をせめて最期まで刻ませて。




「………やらねぇよ」



 

 


 

「精神的に行き詰ってるときにイイ話は書けない」を見事に体現してしまいました。あああああ。

状況としてはどっかの戦場で屍に囲まれながら寝転がってるゴエと秀吉って感じでしょーか。
微妙に周囲の景色がデンジャラス。
てゆーかお前ら、もしかしてこの場面は負け戦じゃないのか(笑)
あまり細かく考えてなかったけど、織田の軍勢が敗れるので有名なのは金崎の退き口とか石山合戦とか、
一向一揆との小競り合いとかかなあ。
どちらにせよ、現場に日吉と殿はいないとゆー方向で。

 自分がいてもいなくても変わらない、そんな世の中にちょっとだけ切なさと悔しさと喜びを感じてしまうのでした。

 

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