「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

57.evacuation

 


「なっ、なんでこんなところに敵がぁぁっ!?」

 突如登場した敵に驚いて飛び退く。

 嘘ーっ、やめてーっ! と叫んでみてもいるものはいるのだから仕方がない。もし日吉がヒカゲと連絡

を取れていたならば、「途中で姿をくらました敵」=「目の前の人物」という図式を導き出せていたことだ

ろう。

 物陰に隠しておいた太刀を持ち出して構える。左手にスーパーの袋を、背中にサスケを庇った。

「ヒ……ヒヒヒ……猿、発見――猿、発見……!」

「お、お前は誰だっ!?」

 とりあえずお約束なので聞いてみる。敵だとは思うのだが――ボロボロの僧衣を着て顔に包帯をグ

ルグル巻いた‘ちょっと変わったおじさん’という可能性も残っている(いや、それは……)。

 相手も物語のお約束を遵守する精神ぐらいは持ち合わせているようだった。

「ヒヒ……我が名は心眼……! ぼ、防衛隊の女……その猿を渡せ」

「正体バレてる―――!!?」

 勿論です。

 敵が首に巻いていた白い輪をひとつ手に取る。一度力を込めて宙を打ち付けるとそれは長い紐と化

した。間髪いれず手首が素早く動く。

「――! とりゃっっ!!」

 危機を察して掛け声ひとつ、咄嗟に手近にあった古びた木の箱を投げつける。小気味良い音をたて

てそれが両断された。あまりの威力に冷や汗が流れる。

(あ、当たったら死ぬっ! マジで死ぬっっ!!)

 幾ら自分が普段から信長に殴られ慣れているとはいえ、鞭は範囲外である。とゆーか、普段から鞭

なんぞ使っていたらかなりヤバイ。とてもヤバイ。勿論、使われた試しは一度としてない(当たり前)。

 

 キィンッッ!!!

 

 伸びてきた先端を刀で弾き飛ばす。鋭い切っ先が壁に激突しコンクリートを破壊した。退路を塞ぐつも

りなのか、敵の背後にあった階段が崩された天井によって見えなくなる。

「ああっ、国民の血税が―――っっ!!?」

 そんなこと言ってる場合ではないよーな……。

 サスケを背に庇ったままジリジリと後退する。敵の攻撃を防ぎつつ、空いている方の手で側にあった

ものを引っ掴んだ。

「これでも喰らえっっ!!」

「ヒッッ!?」

 突如飛来した赤い物体に敵が驚きの声を上げる。反射的に鞭で引っ叩いた途端、謎の飛来物が壊

れて白い煙を吐き出した。――備え付けの消火器だ。

 今のうち、とばかりに背を向けて走り出す。通路を覆うように広がった煙が視界を塞いでいる間に、ど

うにか地上に出なければならない。最も近い出入口への通路は先ほど塞がれてしまった。

 ――が、日吉の期待も虚しく意外とあっさり煙幕は晴れた。

「ヒ、ヒヒヒ……逃がさん……!」

「くっ!」

 再びそこらに転がっていた物を投げつける。昔の商店街の名残か、そこら中に商品が散らばっている

のがありがたい。勿体無い、これだってちょっと手入れすればまだまだ使えるのに――というやや貧乏

くさい思考が脳裏を掠めたのは家計簿握ってる人間の悲しい性だろうか。

 ビロビロの服を纏ったマネキン人形がズッパリと切断される。作り物といえども首の辺りからヤられて

しまうとかなり心臓に悪い情景だ。

「うわぁーん! 近付くなって言ってるだろぉぉ―――っっ!?」

「キッッ!」

「サスケ、お前もしがみ付いてるだけじゃなくてさぁっっ!」

「キ―――?」

 サスケが困ったように頭をかいた。そもそも今回の争いはサスケを巡って起きているもの――なのだ

ろう、多分。どうしてサスケが狙われるのか根本的な謎は解明していないが。確かにサスケは名前も

書けるし簡単な計算もできるし留守番だって窓の開閉だってお手の物だが、それぐらい他の猿だって

出来るはずだ(出来ません)。

 マネキンに続いて高価そうな皿が滑空し立てかけてあったモップや塵取り、果てはカートやゴミ箱ま

でが床を突っ走る。手当たり次第にぶつけてはみたものの、大抵は敵の鞭に遮られる命運を辿る。

「ヒ……ヒヒヒ……!」

 どこにあるのかよー分からん目と口で笑っているのがかなり腹立たしい。追いついてきた敵の武器が

左手首に巻きつく、が、すぐさま刀で斬り捨てた。

「負けてたまるかっ!!」

 お返しとばかりにこれまた側にあった花瓶を投げつける。結果は前に同じ、だ。出口には近付いたけ

どこのままじゃちょっとマズイかも、なんて思いがチラリと浮かんだその時。

 

「キキ―――ッッ!」

 

 勢いよくサスケがジャンプして天井に張り付いた。丸い装置らしきものにガリガリと歯を立てる。

「降りて来いよっ、狙われてるのはお前なんだ……!?」

 セリフの途中でサスケの意図を察し、慌てて遠ざかる。何も知らない敵はノコノコと装置の真下へや

って来た。

「ヒヒ……逃げるのを諦め……っっ?」

 

 カシン!

 

 固く渇いた音が響き、凄まじい勢いで天井から水が噴き出した。直撃を食らった敵が床に倒れる。

 消火栓の蓋をぶち壊したサスケは軽々と日吉の肩に舞い戻った。

「でかしたぞ、サスケ!」

 方向を転じ階段に向けてひた走る。若干息を切らしながら階段を上りきると、照らし出す太陽の光に

一瞬眩暈を感じた。連絡がつかないものかとリングを探ってみるが何の応答もない。やはり電波障害

の影響が出ているようだ。

(旧市街地に逃げてきたのって失敗だったかな……でも一般市民に被害出さないためには此処しかな

かったし――)

 せめて秀吉と合流したい。既に敵を倒してこの付近をうろついているはずなのだから。

 道を突っ切るかビルに隠れるか迷う。結局突っ切る方を選んで当てずっぽうで走り出した。

 直後、脱出してきたばかりの出入口が轟音と共に崩壊する。立ち込める煙の中、うすら汚れた服を着

た敵が佇んでいるのが垣間見えた。

「うそっ、もう出てきた!?」

 足止めになれ、と即座に路地裏のポリバケツを蹴倒して敵に向かわせる。障害物競走のノリであっさ

り敵はそれらを乗り越え肉薄してきた。

「よ……よくもやってくれたな……! ヒヒ!」

(こ、こんな時まで笑わないでくれぇ―――っ!)

 表情がよく見えないからいいけれども、これで本当に微笑んでいたりしたらマジで泣いてしまうかもし

れない。サスケを腕に抱え込んで全力でビルの間を走りぬける。味方に合流できるのが先か敵に捕ま

るのが先か、かなりピンチだ。

 角を曲がったところで振り返り―――

 

「………へっ?」

 

 間の抜けた声が洩れる。敵の姿が見えない……と思いきや。

 突如上空から舞い降りた影に慌てて飛び退る。またしても敵が怪しげな笑い声を立てた。

「かっ、壁を歩いてくるなんて反則だぁぁ―――っっ!?」

 唸りをあげて飛んできた鞭を必死に弾き返す。その衝撃で体勢が崩れて後ろに倒れこみ、無防備に

なったところに敵の一撃が加えられる。しかし目標は日吉を打ちのめすことではなかったらしく、手元で

微妙に角度を変えたそれは器用にサスケの尻尾に巻きついた。

「キッ!?」

「サスケ!」

 引きずられてサスケの体が宙に舞う。手が届くなる寸前、離してなるものかとサスケの体を抱え込ん

だ。結果、見事に日吉自身もミノムシ状に絡め取られる。「まずいっっ、これじゃ身動きとれないぃ!」と

か叫んでも既に後の祭り。

 取り落とした刀が地に転がる。日吉とサスケを小脇に抱えて敵が呟いた。

「ヒ………ヒヒ、任務完了。帰還、帰還する……!」

 

(ちょ、ちょっと待ったれ―――っ! 俺も一緒に行くんかいっ!?)

 

「うわぁぁぁん! 離せったら離せぇぇっっ!!」

 体の自由を封じられた日吉が慌てるのも頓着せず、敵はゴソゴソと自らの懐を探り始めた。

 

 

「だぁ―――っ! 全然ダメじゃねぇか!」

 手にした通信機を見て信長が何度目かの叫びを上げた。幾分うんざりした様子で秀吉(外見は日吉)

が答える。

「仕方ないじゃないですか、ここら辺は電波障害が起きるので有名ですからね」

「何だってこんなところに逃げて来やがるんだ、ああっ!?」

「一般人のいないところを選んだらこうなっちゃったんですよ」

 外見は日吉だがそのムスったれた顔つきは間違いなく秀吉のものである。先程は勘違いした信長と

五右衛門だったがさすがにもう見分けがつくようになっていた。日吉と合流しようとして、目の前で出入

口が大破したのが数分前。何かが起こったのは火を見るよりも明らかだ。それ以来彼らは日吉を捜し

て辺りをうろついているのである。

 地面にピタッと耳を当てて五右衛門が目を閉じた。残り二人の言い争いはさて置いて慎重に他者の

動きがないかを探る。スッと人差し指を立ててそれを前方右側に倒した。

「……そっちから誰か来るぞ。一人だ」

「!」

 信長と秀吉が前方の角を期待に満ちた眼差しで見つめる。

 そこから現れたのは―――!

 

「ああ、よかった! ここにいたんすね!」

「「お前か――――っっ!!」」

 

 ズガッッ!!

 

「ぐはぁっ!!」

 容赦ない一撃×2を喰らって犬千代が吹っ飛び、ポリバケツにはまった(お約束……)。殴られた顔も

痛々しく抗議の声を上げた。

「いきなり何するんすか! 折角民間人の避難を終えて助太刀に来たってのに! ってうぉ――!?

お前秀吉かっっ!?」

「紛らわしいところに出てくるてめぇが悪い」

 と信長。

「ああ、俺だ」

 と秀吉。どちらの返答も不親切極まりない。犬千代がポリバケツから抜け出そうと格闘してる間に信

長の八つ当たりは五右衛門にまで飛び火した。

「スッパ! 大体てめえが‘誰か来る’っつーから余計な期待しちまったんじゃねーか!」

「‘誰が’来るとは限定してないんすけどぉ―――?」

「あの状況じゃ期待して当たり前だろうが! 予想を裏切るんじゃねぇっっ!」

 ポリバケツを犬千代の腰から引っぺがしてやりながら秀吉は深々とため息をついた。

(言い争いなんぞしてる場合じゃねーってのによ)

 どうにもこのメンバーは緊張感にかける。

 くっついたゴミを払ってやりながらとりあえず先刻のことを謝っておく。

「悪かったな、殴ったりして。条件反射でつい、な」

 ……条件反射??

「ああ……いやまあそれはともかく、どうしてお前がスカートなんて履いてるんだ?」

「ま、色々あってさ」

 ……どーでもいいけど犬千代さん、‘それはともかく’って自分が被害者なのに流しちゃっていいんす

か……? 本人が気にしてないんならいいけどさ……。うん……。

 何にせよ人探しは振り出しに戻ってしまった。

 さてどうしたものかと秀吉が天を仰いだ時、聞き慣れた声が辺りに響き渡った。次いで起こった破壊

音、衝突音、喚き声もとい悲鳴。4人はほんの一瞬だけ顔を見合わせるとすぐに駆け出した。

 聞き違えるはずもない、その声が確かに聞こえてくる。

 

「かっ、壁を歩いてくるなんて反則だぁぁ―――っっ!?」

 

 ワケのわからないことを口走っている残り一人のメンバーの叫び声。角を曲がるのとその光景が目に

入ってきたのとはほぼ同時だった。

「うわぁぁぁん! 離せったら離せぇぇっっ!!」

 崩れ落ちたバス停の残骸の上にボロ布を纏った如何にも怪しげな人物が佇んでいる。その肩にはグ

ルグル巻きにされた日吉の姿が確認できた。

 五右衛門が叫ぶ。

 

「俺だって縛ったことないのに!」

 

「何考えてんだてめぇは――――っっ!!」

 即座に秀吉の鉄拳が飛んだことは言うまでもない。関係ないけれど今現在秀吉の外見は日吉そのも

のなので、この光景は見ていてなかなか複雑だ。

「おい、てめぇ! サルなんぞさらってどうしようってんだ!」

 スラリ、と刀を抜き放ち信長が威嚇する。敵の顔には包帯が巻きつけられているために表情の変化も

窺えない。胸元を探っていた手を止めて律儀にもこちらに向き直る。

「ヒ………ヒヒヒ! 猿……猿は実験材料………!」

「ああっ!? 人体実験ならよそでやりやがれ! 人権擁護団体に訴えられたいんかテメェ!」

「脱走した、のを捕まえに……来た。とやかく言われる筋合いは、ヒヒ、ないな、ヒ!」

「サルが宇宙人だとでも言うつもりか―――っっ!?」

 

 いや、敵の言ってる‘猿’ってのはサスケのことなんじゃないすかね。

 

 ――という至極まともな犬千代の突っ込みは全然聞こえていないようだった。

「敵と漫才やってる場合じゃないっしょ、隊長!」

 一歩前に踏み出した五右衛門が風を切りくないを投げつける。敵はいとも簡単にそれらを鞭で叩き落

とした。軽々と更に高い位置に移動していく敵に五右衛門は僅かに舌打ちする。何だあの動きは、猿

(サスケ)を捕まえに来たと言ったけれどあいつの動きこそ猿そのものじゃないか、と思う。

 視線を周囲に巡らせた秀吉は見慣れた物体を見つけて駆け寄った。瓦礫の中から拾い上げたものは

紛れもない自らの刀だった。

 日吉が持っていたはずなのに―――弾かれるか取り落とすかしたのだろうが。隊長と同じく抜刀し、

鞘は邪魔なのでそこいらに突き立てる。日吉はさっきから何も言わないが気を失っているワケではなさ

そうだ。きっと、こーゆー時は叫んで助けを求めた方がいいのか敵の気を引くべく暴れていた方がいい

のか等、色々考えてしまって結果的に身動き取れなくなっているに違いない。

 敵の動きをしばし目で追った後に秀吉は手近なビルに駆け込んだ。呼応するように丁度反対側のビ

ル内部に五右衛門が身を隠す。素早く視線を走らせた信長がそっと犬千代に耳打ちをした。

「いいか、敵の気を引くぞ」

 頷きを返すと、犬千代は自らの武器である槍を構えた。そんなモンを何処に所持していたのかかなり

気になるが「イヤン、それは聞かないでv」である(謎)。

 わざとらしく声を張り上げる。

「隊長! 槍を投げつけていいですか!?」

「狙いは確かなんだろうな!?」

「大丈夫です、俺の腕を信用してくださいっ!」

 大きく腕を振りかぶった犬千代を見て敵が僅かにたじろぐ。真正面に向かい合ったままの姿勢で後ろ

に跳び退った。こちらの策を察しているのかいないのか、日吉が意味不明の言葉を叫びまくる。

「よ、よく分からんですけど俺には構わなくていいですからっ! あっ、でも串刺し? 串刺しはイヤかも

っっ! せめて畳の上で死なせてぇぇっっ!!」

「てめーも防衛隊なら潔く花と散れ!」

「ひーっ!? こ、この体勢だとサスケにも刺さるんですが―――っっ!?」

「尊い犠牲として手厚く葬ってやらあ!」

 あながち嘘とも思えない顔つきで信長がニヤリと笑い「んな殺生なぁ〜!」と血の涙を日吉が流す。

こーなって来ると最早どっちが敵でどっちが味方なんだか……。

「ヒ……ヒヒ! 味方を殺すか、防衛隊も地に落ちたな。ヒ!」

「うっせぇくそ坊主! 大の虫のために小の虫を殺すってのがこの世の鉄則だ! 行け、犬千代!」

「はい!」

 渾身の力で槍が投げ出される。

 敵が飛び上がりそれを弾き返し――瞬間、ビルの窓から小柄な影が飛び出す。

 

「―――狙いピッタリ!」

 

「ヒ!?」

 飛び出した秀吉が刀を振り上げた。避けようとしてバランスを崩したところを見逃さずに一閃、鮮やか

な弧を描いて日吉とサスケを捕らえていた縄が断ち切られた。

「う、うわっ!?」

 空中で投げ捨てられる形になった日吉が悲鳴を上げる。地面に激突する直前、右側のビルから走り

出た影が間一髪、その体を受け止めた。崩れ落ちそうなビルの上で体勢を立て直し五右衛門がほっと

一息ついた。

「やっべぇやっべぇ……これで受け止め損ねたりしてたら、諜報員失格だよなー♪」

 隊長とこわーいお兄様にも殺されちゃうしぃ? と軽口ひとつ、日吉に笑いかける。

 目的のブツ(※サスケ)を奪い返されてしまった敵は更に後ろに飛びのいた。側では回路の壊れた街

頭が明滅している。

「逃がすか!」

 ビルの残骸を越えて信長が叫ぶ。5対1、圧倒的に優位なこの状況で逃す手はない。できれば生き

たまま捕らえて敵に関する情報をあらいざらい白状させるのだ。宇宙人の人権や黙秘権などあってな

きが如し。自白剤でも何でも使ってくれる(※これでも彼らは正義の味方……)。

 敵の一番間近にいたのは秀吉だった。先程は日吉(とサスケ)を助けるためにワザと的を外したがも

う手加減する必要はない。

「待て、このミイラ男!」

「ヒ、ヒヒ!」

 鋭く切り込み、白い鞭を中途で両断する。「チャンス!」とばかりに詰め寄ると相手は鞭を投げ捨て、

胸元から黒光りする短刀を取り出した。この状況で取り出すということは何か強力な武器なのか? 距

離を置くのが安全策ではある、しかし。

(やってみなきゃわかんねーよなっ!)

「たたっ斬ってやらあ!」

 秀吉の白い刃と敵の黒い刃が交錯する。

 ――同時。

 

 バチッッ!!!

 

「!?」

「ヒ!?」

 武器の間に電流が迸る。押し退けることもできず、磁石のようにひきつけあったまま離れない。絡み

合う光に飲まれて明滅していた電灯が軋み破裂する。舞い散った硝子の破片が降り注ぎ、それすらも

電流に巻き込まれて彼方に弾き飛ばされた。

「何だありゃ!?」

「秀吉っっ!!」

 他の隊員にも手出しのしようがない。電流は収まらず、伸びた先でビルの窓に突き刺さり引きつった

音色を奏でた。どうにか引き離そうとあらん限りの力を込めて刀を引く。

「くっそぉ……何だってんだ!?」

 敵にとってもこの事態は予想外だったのだろう、見えない表情の下で多少なりとも慌てている様子が

窺えた。

 渾身の力で僅かに刃と刃の間に空間を生じさせる、そして。

 

 ―――パンッッ!!

 

 激しく弾き飛ばされた。敵は近くの瓦礫に、秀吉は間近のビルに激突し揃って呻き声を上げる。痺れ

る手元を見て秀吉は息を飲んだ。握り締めていたはずの武器が柄の部分を僅かに残して粉微塵に砕

け散ってしまっている。先刻の音はそれ故か――敵の刀も同様に壊れたのだろう。

 犬千代が駆け寄り秀吉の顔を覗き込んだ。

「おい、大丈夫か!?」

「ああ、俺はな。それより敵は―――」

 面を上げると、すっかり衝撃から立ち直ったらしい敵は身軽な動作で手近なビルの出窓に飛び移った

ところだった。到着したばかりの信長が僅かに舌打ちする。

「ヒ……ヒヒヒ……! ヒヒ!!」

 敵が体を震わせて笑う。不審の念から動きを止めた隊員たちを余所に、またしても懐に手を突っ込

む。白い透明なリングを取り出し、眼前に掲げると軽く横に凪いだ。

 途端、前方に上向きの白い円が生じ持ち主の体を包み込む。天空に向かって伸びる光の帯が瞬時

にして辺りを照らし出した。誰かが叫ぶ。

 

「―――<ゲート>!?」

 

 と、その時ビルの脇から飛び出したちまい影が光の輪の中に滑り込んだ。

『ま、待ってくださいよ心眼様〜っ! 置いてかないでっっ!!』

 よく分からんフニフニした物体――そういえばロボットの操縦席にこんな奴がいたような――が、ピト.

と敵の足にすがりつく。

「ふっざけんなぁ、てめえ! 逃げるのかよっ!?」

「ヒヒ……ま、また近い内に会おう……ヒ!」

 信長の罵倒にも気にした様子は見せない。敵の体を取り巻いた光の筋が中央に向かって徐々に集

束し、一条の線となって上空に放たれた後。

 

 ――最早、そこに残るものは何もなかった。

 

 転移の時に生じた生ぬるい風を受ける。ケリのつかなかった微妙な苛立たしさを誰もが感じていた。

サスケを‘守りぬけた’という意味ではこちら側の勝利としていいのだろうが……。

「ちっ……なーんか嫌な終わり方だぜ……」

 信長の独り言に同意する者がほとんどだったろう。

「どうして急に引き下がったんだろう……変だよね」

「そーだなー」

 日吉のセリフに五右衛門がため息混じりに答えた。

「………あの、さ。五右衛門」

「ん〜?」

「もう抱えてなくていいんだよ? 俺、怪我してないし」

 ちょっとだけ困ったような笑いを浮かべて日吉が五右衛門の腕を叩いた。

 日吉を助け出したままの格好で五右衛門は敵を追っていたのだ。先刻敵が出窓に取り付いた際も、

彼の運動能力を持ってすれば捕らえられたかもしれない。それが出来なかった、もしくは‘しなかった’

のはひとえに‘日吉を抱えたままだったから’とゆー厳正なる事実に由来している。

「それにどうしてため息ばっかりついてるんだ?」

「あー、いや、ちょっと残念だったなぁと思ってさ♪」

「‘残念’??」

「ああ、もしも」

 名残惜しそうに日吉を支えた腕に力を込めた。

「もしもお前の履いてるのがズボンじゃなくてスカートだったら今頃はナマで素足の感触が――」

「黙らんかこのセクハラ男っっ!!!」

 信長の怒号と秀吉の左ストレートが五右衛門に直撃した。

 

 

 その頃、宇宙(正しく言ったらまだ地球の範囲内なんだけどさー)では。

 無事帰り着いた心眼のもとに足取りも荒々しく天回がやって来た。一応このトサカ頭のおじーさんは

此処、衛星軌道上に存在する基地のTOPであり、地球全体を包囲している宇宙艦隊の幹部である。

日本攻略にかかって大分経つが防衛隊の妨害もあって(え?)状況は捗々しくなかった。

 苛立ちは部下への非難という形になって噴出する。

「心眼、何故おめおめと逃げ帰って来た!? 一対多数といえども敵わなかったはずがなかろう!」

「ヒ……ヒヒ! 興味深い発見をしましたもので、ご報告するのが先かと。ヒ!」

「発見だと?」

 天回の前に跪き、俯かせていた顔を上向かせる。そのまま立ち上がると何事かをそっと耳打ちした。

さっと天回の表情が変わる。

「何……? 本当か、それは?」

「そうとすれば猿が奴らのもとに居たのも納得いくかと……ヒ、ヒヒ!」

 天回はしばし呆然と佇んでいた。徐々にその表情が崩れ毒々しい笑みを含んだものへと変わる。

「そうか……それは都合がいい………」

 壁一面に広がる超巨大スクリーンの中、映し出された日本の姿に目を細める。

「ならば防衛隊の連中は我らにとっての‘果報者’ということになるな。――いいだろう、心眼。今回の

失態は許そう。引き続き奴らの偵察を怠るでないぞ!」

「ヒヒ! 了解……ヒヒヒ!」

 深く頭を垂れる心眼に見送られながら天回は闇の奥底、基地の中枢へとその姿を消した。

 

 

「ひどいわ、秀吉さんっっ! アタシがお嫁に行けなくなったらどぉしてくれるのっ!?」

「おネェ言葉はやめろ気色悪いっっ!! 鳥肌たっちまうじゃねぇか!」

 殴られた頬を抑えて五右衛門が嘘泣きをしている。いっそ美しいまでの軌跡を描いて決まった拳だっ

たから、案外本当に痛かったのかもしれない。

「……あれ、どうします?」

「ほっとけ、いつものことだろ」

 日吉に対する信長の返答は素っ気無い。確かに、あの2人の喧嘩はいつものことであった。‘喧嘩す

るほど仲がいい’なんだろうなあ――と、思わないこともないこともないこともない(どっちだよ)。

「おい、サル。その猿は1回防衛隊の方で預かるぞ。何か敵の目的がわかるかもしれねぇからな」

「あ、はい」

 自分の首に巻きついているサスケに、日吉はチラリと目線を投げかけた。

「くっそ……取り逃がすだなんてこの俺としたことが………」

「ま、まあ、皆無事でよかったじゃないすか。一般人にも被害はなかったみたいですし!」

 犬千代のフォローを聞きながら日吉は空を見上げる。太陽は既にビルの影に姿を隠し辺りは夕闇の

色が濃くなってきていた。

 

(帰ったら夕食作んなくっちゃな……)

 

 ――ぼんやりと。

 そんなことを思った。

 

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「ひよピン落下! ごえキャッチ!」のシーンを描いてみました。見たいとゆー奇特な方は

コチラ からどーぞ♪(まーた要らん落書きを……)

一先ず今回は「話が進んでよかったね」、と(笑)。これを漫画とイラストでやろうと思ったら果てしなく回数

消費しちまうだよセニョリータ。そしてゴエはどんどんセ○ハラ大魔王に……(汗)。

今回出てきた新アイテム(?)<ゲート>。「空間転移装置」と書いて<ゲート>と読む! 面倒くさいから本文では

<ゲート>でOKだ!(笑)外見的には白い腕輪と思って頂いてよろしいかと。大抵はポケットに収納してます♪ 対象物質を

素粒子レベルに変換し目的地へ転送。途中で障害物があると本人を構成している原子や分子に支障が出てヤバイので、

リングから発せられた白い光の帯がそれらをガードしている――ってな感じなんだろうけど、よく分かりませんv(瞬殺)

『ド○えもん』のどこ○もドアとは異なる原理かな。だってあっちは‘ワープ’原理でしょ??(違ってたらごめんなさい☆)

vs心眼編は次回で終結。結局サスケの正体がよぉわからんかったんですが、まあヨシ(よくねぇっつの……)。

 

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