「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

67.tell a lie by my eyes

 


「――っといけねぇ、こんな事してる場合じゃねぇや」

 それまで笑いながら話を聞いていた信長が何かを思い出したように呟き、踵を返した。

「殿、何処へ行くんですか?」

「バーカ、まだ事情を知らねぇ奴らは部屋に閉じ込められたままだろうが? ……さっさと出してやらんとな」

「ああ……」

 なるほど、と日吉が肯く。と、即座に首根っこを捕まれた。言うまでもなく「ついて来い」の合図である。こうなる

と後は隊長が日吉を連行して任務完了なので、他言は無用である。ヒカゲなどはとっくにヒナタを引き連れて制

御室へと向かっている。実に頼もしい。

 信長(と、ズルズル引きずられている日吉)について行こうとした秀吉だったが、誰かに肩を抑えられて歩を止

めた。訝しげな顔をして振り返ると五右衛門がいつもの調子で笑っていた。

「悪いけどさー、地下にサスケが輸送されてきてんだ。カワイそうだから早めに引き取ってやってくんない?」

「……俺が、か?」

 言う先で信長と日吉の姿は廊下の向こう側に消えてしまった。こっそりと五右衛門が秀吉に耳打ちする。

「どーせ日吉のズタボロんなったブラウスって隊長の所為なんだろ? 少しは謝る機会を与えてやろーじゃねぇ

の♪」

 結局何も言えないのが関の山だろーけどなっ♪ と。

 2人っきりにさせてやったのはどうやら彼なりの気遣いだったようだ。

 ――とすると、そこら辺のビミョーな雰囲気を察せずに追いかけてしまった犬千代は後で信長にはっ倒される

のだろうか。

 ……まぁそれはともかく。

 時に、不思議に思うことがある。この根無し草のように生きている男は明らかに日吉を気に入っていると思う

のだが――それは説明するまでもない、おにーちゃんの‘直感’とゆーやつである。ふざけた口調でからかって

ばかりいるが、それだけにかえって真剣なんだろうなと思える。のに、何故かこいつはライバルであるはずの信

長を応援しているような行動を時に取るのだ。

(なに考えてんだか知らねーけどな)

 こちらとしては五右衛門が‘義弟’になるなんて考えただけでも寒気がするので別に構わないのだが。

 

 ……構わない、のだが。

 

 

 何やら小難しい話を始めた司令と半蔵をその場に残して秀吉と五右衛門は地下の搬出場へと向かった。

 エレベーターホールはすっかり荒れ果ててしまっていたので、少し離れた運搬用のエレベーターを使うことに

する。こう見えても防衛隊の基地は結構広い。開発班の現場とも繋がっているし、他にも様々な事務系施設と

連結されているので本当の大きさは誰も知らない。司令ですら時々迷子になってるんじゃないかと噂されている

くらいだ。そんなに広い施設を作っても管理に困るだけだろうに、いいのだろうか。

 無音で開いたエレベーターに乗り込む。壁に肩を預けてあからさまな態度で睨みつける。しかし、その意味を

解しているだろう五右衛門は各階のボタンを見つめたまま身動きひとつしない。

「………いつから」

「あ?」

「いつから忍術なんて習ってたんだ? 趣味か?」

 どうせはぐらかされるのがオチだろうと思ったが、予想に反してあっさりと答えは返ってきた。

「まぁ趣味と言えないこともない、か? たまたま司令とおっさんが知り合いでな。そのコネで7つの時から山ご

もりってワケだ♪」

「学校はどうしてたんだ?」

 さぼってばかりいた自分も言えた義理ではないのだが。

 微かに五右衛門が笑い、と同時に到着のベルがなった。

「なーんか忘れてねぇ? 今は通信教育っつー便利なもんがあるだろが?」

「………そうだな」

 どうぞー♪ なんて言いながら「開く」ボタンを押してる奴にちょっとだけウンザリした顔を向けながら。

 夏だと言うのに地下の気温はかなり低い。上の業務用の部屋の数々には冷暖房が設置されているが地下に

は無用の長物である。天然の空調室とはよく言ったものだ。

 先程貸し与えた所為か下げ緒が緩んでいる。強く結びなおしながら新たな疑問を口にした。

「あれ……さ。隊長が言ってたよーに、くれるっつうんだから貰っとけばよかったんじゃねぇの? 服部軍団。要

するに秘密工作団体なんだろ?」

 団体も団体、秘密工作員の最大手なのだろうと踏んでいる。昔風に言えば密偵、単純に言えばスパイか。戦

国時代の忍者の役割も主に情報操作や敵の戦力調査だったというから、「忍者の末裔」という服部半蔵の肩書

きもあながちハッタリではないだろう。

 それがどんなものなのかはよく知らないが、別に引き受ければいいじゃないかと思う。どうやら五右衛門は進

んで忍術を習いに行ったようだし、結果として跡取りに指名されたのなら、それだけ優秀だったということだ。認

められる程に努力して――相手だってそのつもりで特訓していたろうに、今更跡を継ぎたくないとか言ってもそ

りゃ手遅れだろ、と秀吉あたりは思うのだ。技だけ盗んでハイさようならじゃ教えた方の立つ瀬がない。

 裏の家業を引き継いでしまえば表に出てこれる可能性は低くなってしまうけれど――五右衛門がカタギにな

りたいと考えている場合を別として――広大な裏のネットワークを手に入れることが出来るのだ。決して損な話

ではないと思うのだが。

「やだね、俺は継ぐ気なんかねーよ」

 それでも五右衛門は即座に否定する。

「俺、恩知らずじゃねーし? 術教えてもらったぐらいの礼儀は感じてるけどよ、俺の夢ってば全然別のところに

あんだよなー」

「ほー」

「フツーに結婚してフツーに暮らせりゃそれが一番とか思ってんのよ。結構地味で些細な幸福っしょ?」

「………」

 含み笑いで語った声に、不覚にも秀吉は返事をできなかった。

 意表を突かれたことを気取られまいと顔をそらして誤魔化して、搬出場へと続く重い扉を開ける。五右衛門は

若干、こちらの態度を不審に感じたようだったが。

 

 でも、言ってやらない。絶対に教えてやらない。

 よりにもよって、よにりもよってコイツの夢が。

 

(―――日吉と全く同じだなんて、だーれが言ってやるもんかっ)

 

 フツーに結婚してフツーに暮らすこと。

 五右衛門がふざけて口にしたのならおちょくりも出来たのに、あの口調は絶対本気でそう思ってる。僅かな語

感の違いを読み取れる程度には付き合いを重ねてしまっているから、やりづらい。

 扉の向こう側は薄暗かった。数瞬の遅れの後、灯された自動照明の明るさに僅かのあいだ視力を奪われる。

またたきを数回繰り返して辺りを見回した。が、広い搬出場のどこにもサスケの姿は見られない。てっきり動物

用のケージに入れられていると思っていたのに。

「おい、何処にサスケがいるってんだ?」

「こっちこっち」

 手招きされて倉庫の奥に入り込む。そこには市松人形を入れたら丁度良さそうな箱がポンと置いてあった。

 なんだかとってもイヤな予感がする……。そんな秀吉の様子にもお構いなしで五右衛門は鼻歌まじりに蓋を

開けた。

「はい、ご対面〜♪」

「うわ―――っ!! サスケ―――っっ!!?」

 果たして箱の中にはホルマリンづけよろしく凍りついたサスケが詰められていた。

 ピッチリとひとつのでかい氷(?)に閉じ込められて、ちょっと見寝ているようにしか思えない。「眠れる氷の猿」

といったところか……。当然のことながら身動きひとつしない。

「なに考えてんだよ、てめぇらはっ!!」

「だーってしょうがないじゃん? 学者連中が徹底調査したいって言い張ってさ〜。これでも生体解剖されないよ

う努力したんだぜ?」

 

 マッドな科学者しかいねーのかよっ!

 

 と内心で悪態をつきながら、サスケを引き取りに来たのが自分でよかったと秀吉は安堵のため息をもらした。

とてもじゃないがこんなもの日吉には見せられない。グロテスクとかエグイとかそういう訳ではないのだが……

なんとなく、やはり、ねぇ?

「ちゃんと生きてるんだろうな?」

「だいじょーぶだいじょーぶv 防衛隊の発明はカンペキだぜ?」

 今まで何度その言葉に騙されてきたことか……。だがここでそんなツッコミをして、ついでにそのツッコミが現

実化してしまったら最悪なので何も言わないでおく。

 五右衛門が箱の横につけられたスイッチを押すと、『プシューッ』という音と共に白い煙がもうもうと舞い上がっ

た。サスケの身体を覆っていた氷らしきものが見る見る内に解けてなくなっていく。

 じぃぃっ、と2人が見守る中でパチパチとサスケが瞬きをした。

 ―――途端。

 

「キシャ―――ッッッ!!!」

 

 バリバリバリっっ!!

 

 箱の中を滅茶苦茶に引っかいた挙句に宙を飛び跳ねて天井の梁の間に身を潜めてしまった。

「あらま……やっぱ無意識下にキョーフが刻まれてたかな?」

「無責任なこと言ってるんじゃねぇよっ!!」

「ま、もう少しすれば落ち着いて降りてくるんじゃねーの? お前もいることだしー」

「……降りてこなかったらお前が連れ戻してこいよ、アレ」

 と、未だ天井付近で何やら喚いているサスケを指差す。どんな目にあったんだか知らないが、今日のエサは

サスケの好物で揃えてやろう……しみじみ思う秀吉であった。

「そういえば……肝心の検査結果はどうだったんだ?」

 幾分手持ち無沙汰になった気分で五右衛門に問い掛ける。

 そもそもサスケが学者連中に預けられる羽目になったのは、どうやら宇宙人に飼われていたらしいという前歴

故だった。無事に帰されたのだからさして問題はなかったのだろうと思うが、やはり飼い主の片割れとしては気

になるものである。

(それに、あの時………)

 消えかかる記憶を掘り返そうと秀吉が薄く目を細める。

 

 敵が取り出した黒光りする刀のようなもの。

 自分と斬りあった瞬間、妙な閃光が迸り刃は砕け散った。

 あれは何だったのだろう。

 

 何故だか、妙に―――………気になる。

 

「検査結果? 別にどっこも異常なんてなかったぜ。宇宙人どもが地球の生物の研究をしようとして、浚って来

てたんじゃねーかって説が有力だったな」

「本当か?」

「さぁなー。上の考えてることはよくわかんねーし、俺も全部知ってるワケじゃねーし。でも返してくれたんだから

危険はないってことじゃねぇの?」

「……俺や日吉を観察材料にしようとしてるんじゃなければ、な」

 低い呟きに秀吉と五右衛門の視線が交錯した。互いに冷えた眼差しを奥底に湛え、何かを探り出そうとする

かのように視線の先で競い合う。

 けれどそれは……決着のつくような争いではないのだ。

 

 嘘を真実らしく見せることも、真実を嘘にしてしまうことも、互いに得意だから。

 

「………秀吉さんったら随分とまた疑心暗鬼ー」

「不良だからな」

 計ったように視線がそらされて、何事もなかったかのような言葉が取り交わされる。

(――疑い始めたらキリがねぇ)

 どうやら落ち着いてきたらしいサスケに向かって手を伸ばす。梁の間の影が動いて、ひょっこりと顔を出した。

本当はサスケは日吉の方により懐いているのだが、その辺りは我慢してもらうしかあるまい。ヒョイヒョイとすっ

かり緊張もほぐれた様子で秀吉の手元まで降りてくる。

 サスケのことにしたって先程の服部半蔵に関することだって、たとえ真実を告げられていてもこちらにはそれを

確認する術がないのだ。だったら、結局は同じことだろう。選択権が向こうにあるというのはかなり腹立たしいが

―――。

 

(……俺も人の事言えねぇし)

 

 嘘つき同士が瞳の奥を探りあったって、真実のひとつも見つかりやしないのだ。

 肩にサスケをしがみ付かせたままでホールに戻ると、まだ司令と半蔵は話し合っている最中だった。2人が戻

ってきたことに気付いた司令が手招きをする。

「おい、五右衛門。ちょっとこい」

「何だよー? また仕事かぁ?」

 メンドくさそうに片手で頭をかきながら五右衛門はそちらへ足を向けた。その後ろ姿を見送ってから、秀吉はオ

ペレーター室へと歩を向けた。今頃は日吉たちが気絶した連中の介抱で大騒ぎしているに違いない。

 

「―――色々とややこしくってやってらんねぇぜ。なぁ、サスケ?」

「キ?」

 

 背中にへばりついたサスケはちょっとだけ首を傾げて見せた。

 

 

 あまり気乗りしない様子で五右衛門は前を歩く2人の後をブラブラとついていった。ホールから司令室へと向

かう道は先程までの名残ですっかり煤けてしまっている。清掃員泣かせもいいとこだ。

「で? おっさんは何の用事で来てたんだ?」

 欠伸まじりにそう問い掛ける。

 半蔵が来る時は何らかの報告を携えている場合がほとんどだ。セキュリティチェックはそれの単なる副産物に

過ぎない。

 答えるように半蔵が一葉の写真を投げ捨てた。慌てるでもなくそれを受け止めて、映し出されていたものに眉

をひそめる。暗い奥まった森の中で数名の人間が倒れ、事切れている。服装を確認するまでもなく――。

「……あんたの部下じゃねぇか。これ、何処だよ?」

「――数日前、隕石が落下したことを覚えているか? その現場だ」

 話を受けたのは半蔵ではなく小六だった。

「公式の発表ではただの隕石、現在調査中となっているが―――実際は既に調査済みだ。単なる隕石ではな

いということも分かっている」

「じゃあ何だってんだ?」

「隕石の中には未知の鉱物が含まれていた。オリハルコンよりも数倍強度の高い……学者連中は‘ゴッド・オリ

ハルコン’と呼んでいたな」

「………安直なネーミング」

 改めて写真を見て五右衛門はひっそりとため息をついた。

「で? 実物は見たのか?」

「現場に足を運んだからな。黒光りする奇妙な石だったぞ」

 10年程前に発見されたオリハルコンは実体の掴みきれていない謎の鉱石だ。何処からでも採取できるという

わけでもなく、結構な貴重品らしい。白銀の光沢が美しいそれはコロクンガーの機体や防衛隊の武器など様々

なものに使用されている。

 そのオリハルコンを上回る強度の鉱物が見つかったとなれば、そりゃあ勿論情報規制も敷くし護衛もつくだろ

う。そして、例によって例の如く半蔵の一派が警護の任についていたのだろうが―――。

「部下どもは全滅、鉱石も全て奪取されていた。証拠も残さない見事な手際だったな」

 そう言う半蔵の口調に変化は見られないが内心では腸が煮え繰り返っているに違いあるまい。

「だが全滅する直前に部下から通信が入っていた。間違いなく宇宙人側の仕業だろう」

 わざわざ防衛隊の領域内に踏み込んでまで奪っていくとは、余程鉱石を手に入れたかったらしい。防衛隊施

設にも少しくらいは調査のために残してあるだろう。が、それ以外は全て横取りされてしまったというわけだ。半

蔵でなくとも憤りたくなるような状況だ。

 いささか画像の粗い写真を隈なく見つめて切り傷にひとつの特徴を見出す。この性格歪んだやぶ睨み男には

言うまでもない事実だけど、確認せずにはいられない。

「………同士討ちだな」

「当たり前だ。ワシの部下がそこいらの宇宙人風情にやられると思うか?」

 

 ―――誰もんなこと言ってねぇだろ。

 

 とは思っても、師匠の苛立ちも理解できるので大人しく口を噤んでおく。

 おそらく侵入した賊はほんの数名。そいつが何らかの手段を用いて部下たちを操り、同士討ちをさせたのだ。

「部下どもの死体の幾つかには額に焼け焦げた跡が見られた。何か丸い物体を押し付けたようなものがな」

「丸い物体? ―――それが洗脳の道具ってことか?」

 考えは推測の域を出ない。

 一先ず仕入れた情報を記憶の隅にとどめるのみにしておいて、五右衛門は写真を司令へと手渡した。

「そういえばまだお前の報告を聞いていなかったな。サスケについて、どんな検査結果が出たんだ?」

「ああ………」

 えーっと、と少しだけ考える素振りを見せて。本当はスラスラと言い出せるのだがもったいぶってみたくなるの

は性分である。

「やっぱりフツーの猿とはちょっと違うみてぇだな。オリハルコンに対して――ってゆーよりは‘オリハルコンと感

応できる人間’に敏感に反応した。多少の遺伝子治療でそういった人間を感知できるように改造されたんじゃな

いかって話だぜ?」

「オリハルコンを扱える人間を捜すための動物ということか。……目的がわからんな」

 そんな捜索基準では防衛隊の人間に当たる確立が最も高いではないか。宇宙人サイドは一体何を考えてい

るのだろう? 動物を送り込むことで情報を盗み聞きしようとしたのかもしれないが、サスケの身体にそのような

装置は埋め込まれていなかった。

 と、なるとますますもって目的が分からない。あるいは何も考えていないのかもしれないが。

「日吉と秀吉のところに戻して問題はないんだな?」

「あ、その点はだいじょーぶv 別に放射能ふりまいてるとかそんなワケじゃねーから♪」

 五右衛門自身が学者を問い詰めて確認した事実である。くないを突きつけて脅迫寸前だったなんてことは勿

論ヒミツv だ。

 司令室のドアの前で急に小六は立ち止まった。クルリと振り返って言い放つ。

「五右衛門、仕事だ。半蔵どのを出入口まで送ってこい」

「えぇ―――っっ!!?」

 心底イヤそうな声を上げてやった。

「何でだよ、このおっさんもう来なれてるんだから見送らなくたって別にいーじゃん! 迷子になるようなトシじゃ

ねぇんだしさあ!」

「見送るのは最低限の礼儀だ。では頼んだぞ」

 尚も言い募ろうとした五右衛門の前で無残にも扉は閉められた。大げさに上げて見せた手がムナシイ。

 にしても、‘見送りが最低限の礼儀’とゆーならば小六自身が行けばいいと思うのだが……。

 むすったれた顔のまま振り返れば、案内されるべき人間は既に出入口へと歩き始めていた。自然、五右衛門

の方が後ろからついていく形になる。

 それでもトンズラこかずについて行ってしまう辺り、実に微妙な師弟関係が窺い知れなくもない。

 語る言葉もなく視線を彷徨わせ、結局行き着く先はいつも同じ問答。

 

「………なぁ」

 

 振り返らない相手に。

 言ったところで返事はない、返事はあっても思い通りにはいかない。

 

「俺を後継ぎにしようとすんの、いい加減にやめねぇ? あんたの部下ん中にもそこそこ優秀な奴はいるだろ?」

 こだわる必要はない。内心では自分が一番弟子だという自負がない訳でもない、けれど。

 師匠を倒した者が跡を継ぐとか何だとか、そんなのカビのはえた古臭い因習に過ぎないではないか。自分の

目的は忍術の習得とそれに伴う身体機能のレベルアップであって、つまるところ力をつけられるのなら何でもよ

かったのだ。忍者の後継ぎを目指していたわけではない。なっても別にかまわないし、適性だってあるんじゃな

いかとも思う、でも。

 

 ―――でも。

 

「仕方なかろう。認めたくはないが事実、お前が一番優秀なのだからな」

「いや、だから俺は辞退するって言ってるンだけど……」

 このおっさんは人の話を聞いていたのだろうか。

 廊下の行き止まりの扉を開けた。半蔵は入ってくる時も出ていく時も裏口ばかりを使う。一応正式な防衛隊の

協力者なのだから堂々と正面から出入りすればいいのだが、そこは裏家業が身についた者の哀しさ、どうして

も目立たぬ出入口を捜してしまうらしい。

 ほんの少しだけ半蔵が五右衛門を振り返った。

 鈍い光を湛えた瞳を、なんの意味も込めない無感動な瞳で跳ね返して。

 

「……ワシも歳といえば歳だ」

 

 囁きはあくまでも一定で、感情的な面なんてこれっぽっちも見せない。

「そろそろ田舎に引き篭もって余生を穏やかに過ごしたいという思いがないでもないからな」

「責任放棄はいかんと思うけどなー」

「意欲のあるなしに関わらず、継げるのはお前ぐらいしかいないのだと覚えておけ。実力の足らん連中に譲って

てやるほどワシも甘くはない」

 

 ―――知ってるよ。

 

 などと。言い返すいとまもあらばこそ、開いた扉の向こう側の影は既に見えなくなっていた。扉の向こう、外の

空気に触れながらちょっと気配をさぐってみても、当然、何も感じられない。

 扉の外には外壁が巡らされてきちんと防衛システムも復活しているはずなのに、軽々と越えていく辺りが実

に憎たらしい。それともまだシステムは復旧していないのだろうか。

 誰もいなくなった廊下で扉を閉めて施錠だけはきちっと確認する。

 ドアノブを握り締めたまま、ちょっと苦々しげな表情を浮かべて五右衛門は。

 

 ――俺に跡を継がせて……それで、あんたはどうする?

 

 現役を退いて‘用済み’の烙印を押されるのか? それじゃあ「服部」の名が泣くだろう――。

 

 

「まだ引退するよーな歳じゃねぇだろ、バカ師匠……」

 

 

 少しだけ―――本音を覗かせた。

 

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ゴエと半蔵さんの関係ってとっても微妙だ……書いてる私が言うのもなんだけどナ(笑)。

今回でゴエのシリーズは一旦終了。次回からまた別件に移って参ります。

このシリーズ中、色々と伏線が張られてたんですが気付いてた方いらっしゃいますかー? 例えば司令の話に

出てきた「隕石」については62話で秀吉が新聞記事という形で読んでいますし、「秋の国際会議」も今後の

予定に入ってますv 他にも「ゴッド・オリハルコン」と「額の焼け焦げた跡」は要チェック☆ しかし次に出てくる

予定がはるか先なので、その頃には皆さん忘れ去っていることでしょう。私も忘れる(オイ)。

 

タイトルは『僕はこの瞳で嘘をつく』の直訳。某グループの曲からパクりました(笑)。でも歌の内容と

『コロクンガー』は全然関係ないです。だって、二股かけてたのが彼女に

バレかけて必死こいてる男の歌なんだもん(こう書くと身も蓋もないな……)。以下、一部抜粋。↓

 

『本気でこんなこと言えないよ 言葉の迷路にはまりこむ

どうにも許されるわきゃないよ あの子のことは言えない あの子の影は見せない

推理小説を最後からめくれるようなはずはない 傷のない別れなどあるわけないし

ただ HEART 眠らせたい ただ HEART 眠りたい

噂話だよ そんな話は嘘さ 懐かしそうな目をしながら 僕の中の秘密のこと 僕の中の誰かのこと

だから君の顔を見つめたよ だから君の顔を見つめたよ

どんなに君の瞳が僕を疑っても 僕はこの瞳で嘘をつく』

 

……さて、皆さんはどう判断されるでしょうか?(笑)

 

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