「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

4.emergency

 


 夏休み明け、9月。世間の学生連中は山と抱えた宿題にもどうにか段取りをつけて日焼けのあとも鮮や

かに登校シーズンを迎える。それがごく一般的な二学期到来の景色といえども、世の中そんな気楽な人

たちばかりで構成されているわけではない。警察や消防署、病院などのいわゆる「お役所仕事」には夏

休みなどあってなきが如し。うだる暑さに悩れつつまたもや仕事の波に押し寄せられる羽目に陥るのだ。

まこと公務員とは因果な商売(?)である。

 ここ防衛隊も無論、不眠不休で自衛に当たり、所属する隊員にとって夏休みなんぞ何処吹く風であっ

た。ドタバタとやかましい作業を終えて10月。だから、秋風も懐かしくなってきた頃にようやく舞い戻ってき

た仕事帰りの面子だって当然存在したのである。

「お久しぶりです、司令。松下加江、ただいま帰還しました」

「帰還したで〜♪」

 司令室できっちり敬礼する女性の横で齢10にも満たないだろう子供が飛び跳ねる。すぐさま彼女は礼

儀のなってない子供をたしなめなければならなかった。これではまるきり保母さんである。でこぼこコンビ

もいいところのこの二人が防衛隊内でも重要な特派員の任務についていて、しかもどんな情報でも探り

出してくる凄腕の隊員なのだとは――全然想像がつかなかった。ちなみにこの二人は親の決めた許婚

の関係にもあるのだが、いまのところそちらは関係ない。

「もう、きちんと挨拶ぐらいするものよ。司令に向かってなんて失礼な………」

「いや、いい。気にするな」

 イスにどっかりと腰掛けたまま小六は苦笑した。

「体育会系のどこぞの企業じゃあるまいし。俺は構わんぞ」

「そやそや、司令かてこうゆっとることやしー」

 お子様、もとい松平竹千代はすぐ図に乗るのが珠に傷であった。クルリ、と身を翻してあっという間に机

から離れると扉付近まで移動してしまう。

「なあなあ、報告にはボクも付き合った方がええんかな? 今日は信長にーちゃんとか日吉ねーちゃんと

かも来とるんやろ。ボク、挨拶してきたいんやけど………」

「別にいいわよ。報告ぐらいならわたしがやっておくから。皆さんに迷惑はかけないようにね」

「わかっとるって、まかしといてや!」

 なにが‘まかしといて’なのか……特派員のメンバーでありながら報告の義務を怠るとは厳重注意もの

だ。が、如何せん8つの子供に任務を命じるという防衛隊の機構もアレといえばアレなので文句をいえた

ものではない。それに竹千代は報告こそ加江に任せてしまうが、情報収集の際にはこの上もなく頼もしい

人間なのである。外見が子供なのを利用してどこにもぐりこんでいるのやら、情報を盗み出された側に同

情を禁じ得ない。

 諦め半分、慣れ半分といった表情で加江が司令に向き直る。

「では、改めてご報告いたします。主要七カ国のTOP近辺を探ってみましたが……やはり、司令の危惧

は本物でした」

 小六の顔つきが険しくなる。……といってもその変化は余程眼力に優れた人間でなければ見抜けない

ほど些細なものだったが。「詳しくはこちらに」と加江が提出したレポートに視線を流す。無言を貫く司令に

自然と加江の顔にも苦いものが湧き出てしまう。

「でも……そんなことがあったなんて思いもしませんでした。マスコミはなんにも報道していませんし」

「誰だって自国のトップがこんな目に遭っただなんていいたくはないさ。システムの甘さを公開するような

ものだからな」

 思わず笑ってしまう。―――が、笑い事ではない。

 このところ先進国と日本との間で微妙な軋轢が生じていることに気付いてはいたのだ。外交の根回しや

ら議場での議題提出やら、小六はそれなりに国際社会で他国と渡り合っている。そこから得る反応が以

前とは異なった様相を呈し始めていると感じ始めたのは最近のことではない。その疑念は過日、先進七

ヶ国による同時ハッキングという事態になって露呈した。教授を呼び寄せていたからよかったものの、下

手すれば施設機能を全て乗っ取られて終わっていた。この件に関して幾ら追及を深めたところで加害者

たちはそろって口をつぐむのだろう。それ以外の国は残念ながら発言権がさほど強くない。10の発展途

上国よりもひとつの先進国。数字は無情。

 自衛に回るしかないかと特派員に探らせてみれば――案の定、だ。

「司令、本当に秋の国際会議に出席なさるおつもりですか?」

「欠席する理由がない」

「無謀です! 虎の穴に自分から飛び込んでいくようなものですよ。拒否権を行使されたら日本代表の意

見なんて一捻りなんですからね」

 加江の心配もわからないではないが、なにしろ証拠が足りないのだ。

 主要七ヶ国の首脳、全員が神隠しにあっている。そしてそれ以降、発言に明らかな変化が見られてい

るのだ。

 ……が。

 ‘だからどうした’といわれてしまえばそれまでだ。まさか面と向かって「あなたは洗脳されましたか」な

どと訊くわけにもいくまい。それに神隠しにあったといったって、姿が見えなくなったのは本当に僅かな間

に過ぎない。そんな短時間で洗脳できるだけの技術を宇宙人側が開発したなんて話、聞いたためしがな

い。無論、それを示唆するような事件も思い浮かぶのではあるが……。

「充分に立証できない状況で問い詰めたところで言い逃れられるのがオチだ。無論、タダで引き下がるつ

もりなどないからな……せいぜい足掻いてやろう」

 当の本人があまりにあっけらかんとしているので、加江はますます不安になってしまうのだった。

 

 

「さすがに10月になると涼しくなりますね〜」

「だからって外で待たされてもいいってことにゃならねぇんだぞ」

 隊員の集う応接間でのんびり茶をいれている日吉の背に、信長は不機嫌そうな声をもらした。今日も今

日とて正門のセンサー故障により外で30分以上待たされる羽目になった彼はものすごく苛立っている。

「なんだってここのシステムは故障しまくるんだ? 教授でもなんでもこき使って仕事させりゃいーじゃねぇ

か!!」

「噂ですけど教授は別施設のメンテにかかりっきりだそうですよ……とっくにこき使われてるんじゃないす

かね」

 ははは、と合いの手を入れる犬千代は、機嫌悪い信長にも平気で話し掛ける辺り、かなりのツワモノで

ある。ちなみに教授というのは竹中重治という若干16歳にして博士号を持つ天才であり、一部ではVR環

境を壊滅に追い込んだハッカーの片割れ<スペルマスター>として有名であり、信長にとっては単に「優

秀だけどいけ好かない奴」に分類される少年のことである。雇われたんならきちっと給料分働きやがれと

事あるごとに彼は罵るが、実は教授が時間外労働で疲労困憊してるだろうこともちゃんと理解しているの

だった。

 日吉が人数分のお茶を机に並べようとしたそのとき、突如として呼び出し音が鳴った。すぐさま備え付

けの巨大スクリーン画像を切り替える。映し出されたのは黒髪のお子様であった。

『いよっ。日吉ねーちゃん、久しぶり〜♪ 信長にーちゃんも犬千代にーちゃんも元気しとるかー?』

「竹千代さま?」

 年齢差を考えると言葉遣いに疑問が残るが、日吉は竹千代を‘さま’付けで呼んでいた。茶をすすって

いた信長が視線を上げる。

「なんでぇ竹千代。お前、帰ってたのかよ」

『ついさっき帰還したばっかや。加江ねーちゃんが報告しといてくれるさかい、ボクは一足先に休ませても

らお思てな。土産もたくさんあるんやで!』

「じゃあとっととこっち来りゃあいいじゃねぇかよ。なにやってんだ?」

『事務室でヒカゲねーちゃんとヒナタねーちゃんに会うてしもたからな〜。大丈夫! ちゃーんとモミジまん

じゅうとツチノコエキスとマトリョーシカは人数分とっといてあるでーっ』

 

 ……どこ行ってたんですかね、この人は。

 

 脇で呟かれた日吉のツッコミに危うく信長は頷き返すところだった。

『もうちょいしたらそっちにも顔出すわー。日吉ねーちゃん、玉露でもいれといてな♪』

「いうに事欠いて玉露か、このガキが」

 言葉はつっけんどんだが信長は苦笑を浮かべている。幼い頃一緒に遊んだ思い出がある所為か、彼は

案外竹千代に甘かった。それなりの年齢になっても無茶をしまくる信長についてこれたのが9つも年下の

幼児だけだった……というのだから不思議な話である。

 通信の切れた画面を後にして日吉は戸棚の玉露を捜し始めた。竹千代が来たときにちょうどいい頃合

になるように。信長も犬千代も自分の席に陣取って思い思いに本を読んだりお茶を飲んだりしている。

 少なくともこのときまでは全員、他愛もない日常が今日もまたつづいていくものと信じていたのである。

 

 ――そう。この後、数分間ほどは。

 

 

 スイッチを切り替えてシステムの動作を確認する。正常を示す緑のランプが点滅し、やっとの思いで秀

吉はつめていた息を吐き出した。

 

『システム、オールグリーン……定時巡回を始めます』

 

 堅苦しい機械音声に送られて込み入ったコンピューターの中から這い出した。メインシステムの内側か

ら顔を出せば笑顔の勝三郎と万千代が出迎えた。

「よ。システムのチェックご苦労さん」

「……そう思うんなら日頃からメンテぐらいちゃんとやってくれ」

 むすったれた秀吉の機嫌を取るように万千代は熱いタオルを取り出し、勝三郎はいれたてのインスタン

トコーヒーを差し出した。どちらも有り難く頂戴するが文句だけは忘れない。

「どうしてこんなにコードがちょくちょく切れてるんだ? もっと頑丈な配線に変えろよ」

「まぁまぁ。防衛隊の資金不足はお前だって知ってるだろ?」

 勝三郎は笑いながら自分たちの分のコーヒーをいれている。

 防衛隊のメインコンピューターが設置された部屋……そこに秀吉はほんの数回しか入ったことがない。

初めて訪れたときは教授の‘付き添い’という形だった。付き添いといっても端からぼんやり教授のプログ

ラミングを眺めているだけで、メインシステム乗っ取りの危機を前にアホ面をさらしているしかなかった。そ

のときに教授の‘通り名’を知ったのだが、それは余談である。

 現在いるところはさほど奥のシステムではない。オペレーターズが職場としている制御室で、正面の巨

大な画面には街の様子が次々と映し出されている。ただ根の方ではメインと接続されているのか耳を澄

ませば聞きなれた駆動音が鼓膜を揺るがすのだった。

 ――にしても、専門家が足りないからといって頻繁に駆り出すのはやめてもらいたい。自分は本来実働

部隊として徴収されたはずなのに、なにが悲しくてコンピューター修理に追われなければならないのか。

時間外労働もいいところだぞと不満を述べる。

「防衛隊のシステムだけが悪いわけじゃない。このところ地震が多いだろう。その所為で回路が切断され

やすいんだ」

 なにを考えているのかわからない万千代の糸目を見ながら渋々と頷く。

「まぁな。……地震が多いのは認めるさ。今月に入ってもう10回ぐらいか? ……にしたって、それぐらい

で切断される回路ってなんなんだよ!? 教授はどうした、教授は!!」

「教授は別の任務で出張中だ」

「何処へ」

「企業秘密。が、ちゃんと彼から‘留守中のメンテは秀吉さんに任せればいいと思います’との推薦状を受

け取っている。安心してくれ」

「誰がするかっ!!」

 やけくそ気味に叫んでコーヒーをあおる。少しだけ舌先を火傷した。

 自らの新たなプログラミングのもと規則正しく点滅するコンピューターのパネルを見やる。

 

(………地震の所為で、回路が切断?)

 

 地震が多いのは認める。そのために回路が寸断されてしまうのもわかる。けれど、なにかおかしい。故

障しまくる機械もおかしいといえばおかしいのだが、彼としては頻繁な地震の方に懸念が増している。東

海大地震も富士山噴火もしばらく来ないだろうといわれてる昨今、ズレた断層や活火山の影響で多発し

ているのだとは考えにくい。地震大国、日本。気付かないだけで年間の地震総数は1000を超えている

――有感地震はその内の半分にも満たないのだろうけれど。

 日本だけではない。世界規模で地震の回数が増えているのが気にかかるのだ。

 妙な胸騒ぎを気のせいだろうと誤魔化しつつ秀吉は席を立った。

「あれ? どこ行くんだ?」

「メンテも終わったしな、上に行く。………また調子悪くなったら教えてくれよ」

 勝三郎に適当な返事をしておいて扉をIDで解除した。

 

 

 無限に広がる大宇宙―――。

 などというナレーションで始まるアニメがむかしあったはずなのだが、そんなのをイマドキ世代に聞いたと

ころでわかりはしないだろう。現場からして宇宙には程遠く、確かに窓の外に宇宙と地球が映っていると

はいえ、あくまでもここは大気圏の内に属しているのだった。半重力を利用だの月と地球の重力、及び周

回による遠心力が釣り合うラグランジェ点がどうだのといっても、それなりに質量ある物体を宙に浮かせよ

うと思ったらとてつもない苦労が必要なのであった。

 目下、地球に攻め込んでいる宇宙人(と、思われる面々)の艦隊は球形をしていた。SFファンの方には

「デ○・スターそっくり」と表現すれば想像しやすいだろうか。それぞれに担当地域があり、こまめに連絡を

取り合って地球攻略に努めているので、規模はともかく内容は普通の会社と変わりないのかもしれない。

中間管理職に当たるだろう人型形体と明らかにデッサンの問題から選ばれたであろう下っ端の‘ザコズ’

だけが社会の基本構成員だ。関係がイビツ極まりないことだが宇宙生活(?)を送っているのだ、深くは

考えるまい。

 薄っすらと青くきらめく地球の淵を眺めながら毎日毎日、日の出と日没をいの一番に体感できる。「なん

とかとエライ奴は高いところが好き」の理由もわかるような気がする。「美しい地球を手に入れてなにが悪

い」という侵略者にとっては至極当然、地球人にとっては迷惑千万な思考回路をやはり日本攻撃担当宇

宙人・天回も所持していた。こうして眼下に見る地球が(主に日本の映像で占められてしまってはいるが)

ことの外美しく見えるのは、例の秘密兵器を完成させたからに相違あるまい。ニヤつく頬を抑えながら背

後を振り返った。

「心眼! 準備はできているな?」

「ヒヒ! 万事整っております、天回さま………!」

 部下の言葉に周囲を見渡し、彼は満足そうに頷いた。

 真ん中に秘密兵器が鎮座して地球に転送されるのをいまかいまかと待ち構えている。随所に制御のた

めの呪符と共鳴装置が取り付けられ、黒光りする外面が響き渡る声に妖しく揺らめく。取り囲む声と螺旋

は面をつけた宇宙人たちによって構成されている。印を組み、言霊を唱え、上から見たならば彼らの座る

位置が見事に曼荼羅を描き出しているとわかっただろう。

‘あれ’を操るためにこれだけの人手を要する――非効率的なこと甚だしい。中には地上からかっさらって

きた洗脳地球人だとか、ちょっとばかり能力が高めのザコズまで含まれているのだ。ひとりで制御させる

のを目標とする天回の理想には程遠い。

 だが……この苦労もあと少しだ。

 笑みを深くして上部に設置された画面へと視線を移す。

 そこには防衛隊の施設とこれから破壊されるべき町並みが映し出されていた。声が響き渡る。

 

「―――転送開始! 目標地点は日本の首都、東京だ!!」

 

 

 折りよくというか折悪しくというか、どうも狙ったようなタイミングで物事に出くわしてしまうことがある。多

くは偶然なのだけれど、その偶然を引き当ててばかりいる人間は故意を疑われても仕方がない。

 生憎と自分は疑われる側にいるようだ――秀吉は廊下の端でため息をついた。

 皆がいるだろう応接間へ向かう途中で人声が耳に届いたのは本当に偶々だ。どちらも聞き覚えのある

声だったから素直に「よお」とでもいって通り過ぎれば問題なかったのに……踏み出し損ねた足が憎い。

「わかっているの、五右衛門!?」

 なじるような口調に自然、足が止まってしまう。角から覗き見れば、いつ帰還したのだろう、声の主は松

下加江で。勝気でしっかり者の彼女のことを秀吉はわりと気に入っていた。防衛隊に入りたての頃、研修

を担当してもらっていたこともある。そんな彼女に問い詰められていたのはかなりいけ好かない悪友で。

「わかってるって。加江さまこそ心配しすぎなんじゃないの?」

 返す言葉も重さがなく、一層相手の不興をかっているようだった。

 加江は腕を組んで苛立たしげに指先で自らの肘を叩いた。

「司令の相棒はあなたでしょう? あなたがいえば思いとどまってくれるかもしれないじゃないの。なにも

好き好んで虎の穴に舞い込む必要はないわ」

「いわれることはもっともなんだけどねー。本人がその気んなってるってのに横槍いれるのもナンだしさ。

それに、思いとどまってどうすんの?」

「どうする……って」

「休む理由、ないじゃん。体調崩したとか国内情勢がどうとかいったって、そんなの詭弁にすぎないって誰

にもわかってる。欠席を理由に非難されるぐらいなら進んで議場で非難される方がマシなんでない?」

「その考え方には同意できないわ」

 加江がため息をついた。五右衛門は視線すら合わせずに窓の外の緑を見つめている。

 なんの話をしているのか秀吉にはさっぱりだ。わかるのは、話題の中心が司令の進退に関することらし

いというだけだ。‘虎の穴’、‘国内の情勢’、‘議場’など断片的な手がかりを頼りに推理する。

(―――するまでもねぇか。司令の日程なんて有名だもんな)

 十中八九、話題はこの秋の国際会議に関することである。目前に迫った一大イベントを前に休む休まな

いでもめているとはどうしたことか。行ったところで舞台は国際会議場、身の安全も確保されているだろう

に………。

「司令がどんな目に遭っても構わないというの? ―――見損なったわ」

 感情的にすぎるとも思える加江の言葉に、なぜか秀吉が身を強張らせた。

「やだなぁ加江さま、違うって」

 無邪気に笑いながら五右衛門は窓に預けていた背を離す。

 

「そんな目に遭わせないために俺たちがいる―――違うか?」

 

 人好きのする、それだけに裏の読みきれない笑みを五右衛門が浮かべ、虚を突かれたように加江は目

をしばたかせた。彼の笑顔があまりに自然に向けられたためか秀吉まで反応が遅れてしまった。

 窓から離れた五右衛門が音もなく近づいてきていると知ったときは既に遅く。

「でもって――そこのおにーさんはなんか用事でもあんのかね?」

「うわっ!?」

 足を引っ掛けられて無様に転がった。床と激突させてしまった鼻を抑えながら顔を上げると、「いつから

そこにいたの!?」と問い掛けてくる加江の目線とかち合った。故意でなかったとはいえ、なかなかに気

まずい状態ではある。助け舟を出す気があるのかないのか五右衛門がしれっといい放った。

「ブラックって妙にタイミングいいよなぁ。もしかして計算してる?」

「するか、アホっ!」

 勢いよく立ち上がってついてもいない埃をはらう。

「メンテが終わって……上に戻るところだったんだよ。別に邪魔するつもりはなかった。ホントだぜ」

「聞かれて困るよーな会話でもないし、いいんじゃねぇ? な、加江さま」

「え? え、ええ、そうね」

 頷きを返してはいるものの加江の答え方は曖昧だ。

 全てを聞かなかったフリで押し通すのがいいのか、会話の内容についてツッコミをいれるべきか、秀吉

は逡巡した。実働部隊とはいっても所詮、秀吉なんぞヒラその1である。内部事情に関わるのには若干の

躊躇いがあった。仮にも命をかけて戦っている立場としては随分弱気なのかもしれない。

 時間にすればほんの数秒。それだけで秀吉は問い掛ける機会を永久に失った。口を開こうとしたまさに

その瞬間、けたたましい警戒音が施設中に鳴り響いたのである。

 

『緊急警戒警報発令! 緊急警戒警報発令! 総員、ただちに第一管制室まで来られたし。繰り返す、

ただちに第一管制室まで来られたし―――』

 

 入隊以来、鳴った験しのない警戒音に辺りの空気が緊張する。三人は顔を見合わせ、深く頷いた。

「のんびり話してる暇はねぇ……すぐ上に向かうぞ!!」

 お前が仕切るなよ、と最低限の減らず口だけ叩き返しておいて秀吉は加江と共に廊下を駆け出した。

 

 

「おいっ、オペレーター! なにがあったんだ、返事しろ!!」

 応接間の画面相手に信長が怒鳴る。第一管制室に向かえとはいわれたが、とっさの状況把握にはこ

の場でも事足りる。日吉と犬千代が脇で周波数を調整している。幾らかのノイズと背後のざわめきを伝え

た後、慌てた風の一益が画面に映し出された。

『未確認のロボットが出現しました! これまでとは異なる強力な磁場を発生しています。すぐに出動でき

るよう、早く集合してください』

「新手のロボットだと?」

『映像まわします。―――とにかく、急いで!』

 背後で慌てふためくスタッフの群が覗く。のんびり映像眺めている暇はなさそうだ。が、信長も日吉も犬

千代も、落ち着きなくイスから腰を浮かせたまま映し出された光景を食い入るように見つめていた。

 黒光りする機体のところどころが発光し、プラズマを散らしながら周囲の建造物を粉々に粉砕していく。

 

「なんだあのロボットは!?」

 

 三人の思いはその叫びに集約されていた。

 

 

 眼前に映し出された光景を前に天回は高らかに笑った。

 苦労して材料を集め、研究を重ね、ついに完成させた機体の能力は想像以上のようだ。その調子で町

を破壊しつづけるがいい。そして防衛隊のロボットを粉砕するのだ。もう奴らに邪魔をされて歯がゆい思い

をすることもない―――こちらには最強の武器が手に入ったのだ。

 あとは最強の‘操縦者’を手に入れるだけ。

 

「行けぃ、破壊の使者よ!!」

 

 天回の命令が船内にこだました。

 

3←    →5


つーわけで『コロクンガー』シリアス編、いよいよ本格始動です。

早速、予言の科白がひとつ成就しましたが皆さんお気づきでしょーか??

後期になって加江さまと竹千代がほぼレギュラー入り。この2人がどーしてここにいるのか

わからない人は、とりあえず外伝を読んでみようv

 

にしても天回……嬉しそうだなあ(苦笑)。活躍できて喜んでいるようです。

「転送開始!」とか「破壊の使者よ!!」とか絶対ノリノリで叫んでますよ、このじーさん! 珍しく

悪役っぽい(?)科白だもんネ! この科白いうために頑張ってきたんだもんネ!(それはどうか)

 

――でも総合してあんたの出番は少ないのヨ、天回さん。 ← ひでぇ。

 

『コロクンガー』を1年シリーズアニメ(4クール・全52話)に例えるならばいまは丁度中盤の盛り上がり。

むかしの少女アニメを見ていた方ならば「放映半年で必ず起きるイベント」に心当たりがあるはずです。

……主人公の強さにも波があるってことサ(笑)。

 

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