「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

19.manipulator

 


「隠れてないでとっとと出てこい、宙象!!」

 呼び声は薄暗くなりかけた空の下で寒々しく響いた。注意深く辺りを見渡してもなにも動かない。周囲の鉄く

ずが視界の邪魔だ。

 百合の島は昭和年代に築かれたゴミ処理場の跡だ。かつては埋立地の上に公園や博物館などが築かれて

名所となっていたが、これまた10年前の戦いで全て吹き飛ばされてしまった。その後はバブルの崩壊も手伝っ

てどの企業も、国すらも手の打ちようがないままに放置されている。いまでは処理場の残骸と不法投棄された

ゴミのおかげで鉄くずの山ができあがっていた。

 足元に荷物を置いて目を凝らす。

 奇妙な笑い声が届いたのはその直後だった。

 

「―――っは、ははははは………!」

 

 カラカラと靴の先まで壊れた容器の欠片が降り注ぐ。睨み上げた先に、‘そいつ’はいた。

 手に奇妙な赤い宝珠を抱え、くたびれた着物を身にまとい、額に輝くのは不気味な第三の目。壮年と思しき

男がニンマリと口元を開く。

「よくぞ参られた。素直というか愚かというか―――本当にひとりで来るとはな」

「うるさい! そう命じたのはお前だろう!?」

 取り出したくないの切っ先を相手に向ける。

 防衛隊を飛び出し、うろついていた先に打ち込まれた矢文。そこには本日の夕刻までに百合の島に来いとい

うことと、決して仲間に知らせるなとの旨が記されていた。ひとつ目の命には従ったがふたつ目の要求には曖

昧な答えを返している。たとえば我が子が誘拐されたときに「警察に知らせるな」と犯人からいわれたとして、

通報しない親がいるだろうか? しない親もいるかもしれないが、今回はコトがより重要なのだ。黙って出て行

けるはずがない。信長と仲違いの最中でさえなければ日吉も素直に皆に相談していたことだろう。

 どうしても謝ることができなかったため、苦肉の策として机の上に宙象からの文をそのまま晒しておくという手

法を選んだ。こうすればおそらく五右衛門が、少なくとも秀吉が気づいてくれるはずである。後は野となれ山と

なれ。どんな対策が打たれるのか運を天に任すのみである。

 鉄くずの上にあぐらをかいた敵は手を合わせて印を結んだ。

「そう急くな……こちらにも色々と都合がある」

 宝珠が鈍く煌いた。

 カタカタと廃棄物の山が振動を始める。日吉が訝しげに眉をよせるその前で、周囲の鉄くずが音をたてて立ち

上がった。

 あっという間にガラクタが寄り集まり不恰好な人間模型を作り上げる。頭はフライパン、右腕はフライ返し、左

腕は車のヘリ、胴体はパソコン。指先を機械の銅線で作り上げた出来損ないのロボットが金属バット片手に狙

いを定める。磁石に吸い寄せられるように金属が引っ付きあい、似たような簡易ロボを次々と作り上げていく。

 

 なるほど―――場所を指定したのはこういう訳か。

 

「悪いが、こいつらを相手にしておいてもらおうか。死にさえしなければどうでもよいのだ」

「自分で戦え! 軟弱者っ!!」

 頭上に落とされた金属バットをくないではじき返し、たじろいだ身体を回し蹴りひとつで叩き壊した。バラバラ

とロボットを構成していた金物類が地に落ちる。

「貴様らにいえた義理かな? 常にロボットを扱っていただろうが」

 相手の戯言には耳を貸さず、自分を取り囲もうとする鉄くず達を引きずり倒していく。一体一体は非力で軽く、

こずけば崩れてしまうほどだが、数が多すぎる。背後を取られたら危険だ。

 また一体、鉄くず兵を蹴り倒しながら考えた。

(こいつ、なにを待ってるんだ?)

 本気で日吉を倒したいと思うなら殺傷力のある武器を部下に持たせればいい。使い古された包丁やペンチ、

カッターがそこら中に転がっているのだから調達には事欠くまい。ゴミの山をかきわけて各個撃破していく日吉

の背を面白そうに眺めている。

 適当に痛めつけることだけが目的なのかもしれない―――が、なんのために? ヒナタとヒカゲの2人で人質

には充分なはずだ。更に実働部隊のひとりを捕まえることでこちらの直接的戦力減を狙っているのだとしても。

 

 キンッ!!

 

 投げつけられた金属片をはじき落とす。

 目的は皆目見当がつかないが、真実を探るのはお預けだ。まずは安全地帯でのうのうとしている敵を現場に

引きずり出さねばなるまい。

(やっぱり、あれか?)

 鉄くずをコントロールしているのはどう見てもあの赤い宝珠だ。怪しすぎて逆に悩んでしまうが、本当に制御

装置なのかどうかなんて壊してから考えればいい。壊せなくとも、手元から引き剥がすことができれば効果の

ほどはわかるだろう。

 徐々に足場を変えながら隙を窺う。色んなものを詰め込んできたサックの傍からは基本的に離れられない。

多くないチャンスをモノにしなければならなかった。慎重に間合いをはかりながら背後へと回り込む。

 亡者のように群がる列を切り分けた一瞬、ロボットの合間から敵の姿が覗いた。

 

「――いまだっ!!」

 

 気合一閃、くないを投げつける。ロボットの群れをすり抜けたそれは真っ直ぐ敵の喉元に突き刺さった。

 ―――かに、見えた。

 

 付近の敵兵を背負い投げた日吉は悪態をつく。

 ―――見事に防がれてしまっている。

 人差し指と中指とでくないを受け止めた宙象は薄ら笑いを浮かべた。避けた所為で体勢が崩れ例の赤い宝

珠を取り落としてしまったものの、未だに鉄くずたちは動きつづけている。制御装置との読みは外れていたのだ

ろうか。

 ゆっくりと斜面を転がり、互いの中間地点で停止した宝珠を気にするでもなく相手は口を開いた。

「やれやれ、油断も隙もあったものではない。……それだけの敵兵では足りんかな?」

 声に合わせて鉄くずたちがカタカタと笑う。どうしたものか。1度失敗した以上、そう容易く敵は隙を見せてくれ

ないだろう。

 新たな策を日吉が巡らせ始めたときだった。

 宙象の更に後ろのゴミの山が揺らめき、派手な音を立てて崩れ落ちる。

 ドサドサと降りかかる自転車やテレビの波に目を見開く暇もなく、響いたのは侮蔑がこめられた少年の言葉。

 

「バーカ。足りないのはてめーの脳みそだろ」

 

「―――!?」

 何事かと後ろを見やる暇もなく、つんざくような鈍い衝撃が辺りに伝わった。

 右肩を鋭い切っ先で貫かれ上体が揺らぐ。加害者は少しずつ前方に傾いでいく身体から刀を引き抜いて、異

常に冷めた目線を敵に注いでいた。

 呆気に取られていた日吉が我を取り戻す。

 

「……秀吉!?」

 

 チラリと視線だけを投げて寄越すと、少年は刀についた血糊を軽く近くの鉄筋で拭い取った。周囲を取り巻い

ていたくず鉄たちが動きを停止する。

 廃棄物の斜面を駆け下りてくる秀吉の肩にはしっかりとサスケがしがみついていた。「キッ!」と嬉しそうな叫

びをあげて日吉の胸にすがりつく。

「サスケまで……一体、どうして?」

「探知機がわりに使ったんだよ。おかげで余計な時間を食った」

 ムスったれた兄に感謝の言葉をかけようとした途端。

 

 ………ポカリ、と殴られた。

 

 思わず頭部を抑えて涙目になる。

「いったぁーっ……いきなりナニするんだよ!?」

「そりゃこっちの台詞だ! 後先考えずに勝手に飛び出しやがって! オレたちが心配するとは思わなかった

のか!?」

 単独行動は厳禁だろうが、このボケ! とまで叫ばれてはいささか腹が立つ。秀吉だってしょっちゅう単独行

動をして叱られているではないか。

「きちんとメモ残してっただろ! 見つけらんなかったワケ!?」

「見つけたさ! 見つけたけど、それとこれとは話が別なんだよ! いまだってオレが来なきゃ危なかったくせ

に!!」

「秀吉が来なくたってちゃんと倒したもん!」

「‘モン’じゃねぇっっ!! 下手したらヒナタたちに続いてお前まで人質んなるところだったんだぞ! そしたら

更に戦況が悪化するとは思わなかったのか!? 反省しろ。……っつーか、してくれ」

 最後の方になるとかなり語気も弱まっていて、端々に不安と心配がにじみ出る、そんな態度を取られてしまっ

ては白旗を揚げるしかない。無謀な真似をしたとの自覚はもとより実兄に心配させたのはやはりつらかった。

 

「………ごめん」

 

 低く呟けば先ほどのお詫びというように頭をなでられた。相手を見やれば、なでた本人もやや頬を赤らめてそ

っぽを向いている。そう指摘したら絶対すねてしまうので日吉は視線を倒した敵へとそらした。確か先刻、秀吉

の刃が宙象の肩を貫いたはずである。死にはしなくとも重症で動けないだろう。ここはひとつ奴をとらえて交渉

の場に持ち込むのが得策か。

「……どう思う?」

「殺したワケじゃないからな。油断は禁物………?」

 敵を見た秀吉が口を噤む。舌打ちするや否や、1人と1匹を背後に庇って刀を閃かせた。

 

「まだ動けんのか――シツコイぜ、あんた……!」

 

 サックを近くに手繰り寄せた日吉の目が驚愕に見開かれる。確かに地面に突っ伏したはずの男は、足をふら

つかせることもなくしっかりと立ち上がっていた。

 貫かれた傷口に手をやるとあっさり鮮血が消えうせる。合間に透かし見えたのは銀色の束の数々。

「やれやれ、背後からの騙まし討ちとは。防衛隊の名も地に落ちたというものだ」

「てめぇ―――ロボットだな!?」

「だったらどうだというのかね? 幻夜と戦ったわりには学習能力のない奴らだ」

 品のない笑みを浮かべて宙象が自らの首に手をかける。

 

 バキッ……

 

 へし折られた喉もとより覗くのは人工物と思しき色とりどりのチューブと透明の管を流れ落ちる赤い液体。支

えていた手をはずすと、重力に従い定位置に戻った首はきっちりと繋ぎ合わされた。切断されていた跡など僅

かばかりも存在しない。

「我らは何度でも復活する。代えのない諸君とは出来が違うのだよ」

「量産品が抜かすんじゃねぇ」

 嘲り返す秀吉の背後で日吉もまたくないを構えなおした。静止していた鉄くずたちが再び命を取り戻す。隙あ

らば襲い掛かろうと武器を手に蠢く。今度はもういたぶる気もないのか、出刃包丁や釘バット、ガラス瓶などの

完全武装だ。

 ジリジリと包囲の輪を狭められる。

「―――げに、双子とは因果な存在よ……」

 妙に感慨深そうに男は呟いた。

「もとは1つだったものが故意に分かたれたのだ。もとに戻りたいとは思わんのかね?」

 2人は不思議そうに眉をひそめた。

 

 ……彼らがこの言葉の意味を理解するにはいましばらくの時間が必要とされる。

 いまはなにも知らない秀吉がただ不敵な笑みと共につき返した。

 

「―――戻らずとも結構。オレたちはこの世に‘ひとつ’しかないんでね」

 さすがに向こうも悪口雑言が気に障ったようだったが、それを口にしない辺りまだ余裕がある。肩をすくめて

廃棄物の上に陣取ったままこちらを見下している。

 パン! と手が組み合わされた。

 途端に意思を持ち始めた鉄くずたちが凶器片手に襲い掛かる。

 日吉はサスケを背中にしがみつかせて手近な1体の足をなぎ払った。秀吉の振り下ろした刀が出刃包丁を

跳ね返し、反対側から突進してきた奴の腕を切り落とす。こいつらの実力は大したものではない。事実2人の

周囲には新たな鉄くずの山が量産されている。

 が、幾ら切り払っても鉄くずは寄り集まって再生しつきることなく、敵は念を唱えているだけでなんの労力もな

いというのに、こちらは一太刀ごとに消耗していく。倒すのにさして苦労しなくともやはり長引けば不利だ。

 背中合わせになった日吉に兄は囁いた。

「おい……どうにかしてこっから離脱するぞ」

「え?」

「このままじゃ手の打ちようがねぇ。やっぱ数が物をいうんだよ」

 そろそろ殿たちもこっちに到着するはずだし、合流できれば勝ち目だってある。一度引くべきだと彼は主張し

た。肝心の目的であるヒナタたちの行方ひとつ聞き出せていない日吉としては不満もあったが、そんなことをい

ってる場合ではないとも理解していた。もともと自分のワガママで皆を振り回しているのだ。その所為で誰かを

傷つけたくなんかない。強く頷いた。

 だが、いますぐ離脱しようにも包囲の輪は幾重にも連なり抜け出せる隙間がない。

 宙象が高く手を掲げたのが見えた。

「折角、主賓が到着したのだ――そろそろこちらも切り札を出させてもらおうか」

 

 ……主賓? 秀吉が来ただけなのに?

 

 ガラクタの顔面に蹴りをくらわせながら日吉は疑問を覚えた。

 ―――百合の島についた当初、あいつは「色々と都合がある」といっていた。「だからこいつらの相手をしてい

ろ」、「死ななければそれでいい」といった趣旨のことをほざいていた。

 

‘死ななければ’―――つまり、‘生かしておかなければ’と?

 

 自分を餌にして呼び寄せられるのは誰か。防衛隊に決まっている。殿や上層部が立場上来れないとしても、

おそらく五右衛門か秀吉は来るだろう。事実、その通りになっている。だとしたら奴らの目的は自分を人質にす

ることじゃない、殺したりすることじゃない、もしかしたら―――!?

 刀の先に絡んだ鉄くずを忌々しげに打ち払って秀吉が舌打ちした。

「ちっ……このまんまじゃラチがあかねぇ。とにかく日吉、お前だけでもいいから」

「違う、秀吉!」

「あ?」

「逃げるべきなのはオレじゃない――きっとオレじゃない!」

 叫ばれた兄はひたすら困惑している。理由を説明すべく日吉が口を開きかけたときだった。

 

 ―――――ォオッ……

 

 深い深い、地の底から響いてくる振動が耳に届いた。ピシリ、と鉄くず達の動きが止まる。先刻、宙象がダメ

ージを負ったときと同じく、襲い掛かるでもなくそれぞれの凶器片手に塊と化す。2人を取り囲んで進退を阻ん

でいる様は鉄製の結界そのものだ。

 瞬間的に動きを封じられる。それが致命的だった。

「………なんだ?」

「これは――地中を移動してる音!?」

 島が揺れ、大地が割れる。

 

 ―――ゴォンッ!!!

 

 弾丸のごとき勢いで地面から飛び出した塊が秀吉の身体を跳ね上げた。弾かれた日吉が地に倒れこむ。降

り注ぐ廃棄物の数々を頭に手をやって防御した。

「ぐっ……っ!」

 己の首を締め上げる物体を精一杯、秀吉は睨み付けた。気道を塞いでいる鋼鉄の指は硬く、力を加えてもな

んら変化は見られない。

‘それ’が登場した際に生じた亀裂にはまりそうになりながら日吉がうめいた。

 

「ブラック・コロクンガー………!」

 

 未だ記憶に新しいロボットの目が赤く輝いた。

 

 

 

 町を視察しているところに襲撃を受け、ろくすっぽ反撃もできない内に意識が闇に閉ざされた。消え行く視界

の隅、同様に捕らえられた双子の姿を認めて「しくじった」と臍を噛んでももう遅い。目を覚ましてみればそこは

薄暗くせせこましい地下牢で。脱出を試みたけれど鉄格子に下げられた鍵は錠前もなく電子錠でもなく、鍵穴

すら存在しないただの四角い板だった。おそらく彼らの得意技である‘念’がこめられているのだろう。限られた

者の命令しか受け付けないようになっているらしい。

 さいわい2人とも命に別状はない。

 

 だけど、もし、‘なにか’を探られていたのなら―――とてもマズイと思う。

 

(殴られたわけでもないのに頭が痛む……きっとヒナタも。確実に記憶領域を探られているわ。機密事項には

プロテクトをかけておいたから平気でしょうけど)

 頭痛をこらえながらヒカゲは唇をかみ締めた。

 閉じ込められた箱の中、唯一外界が覗ける鉄格子の傍でヒナタが悪戦苦闘している。何度試しても戸は開

かなかったのだが、諦めるつもりはないようだ。せめて此処が宇宙人の基地かどうかだけでも判明すれば――

と苛立つ。

「ちょっとーっ!! いい加減に出しなさいよ! ヒトのことほっぽったっきり何日間も! 人質の交渉してるなん

て答えたら利用される前に舌かみきって死んでやるからね!」

「ヒナタ、落ち着いて。少なくとも彼らにはわたしたちを殺すつもりはないみたいだから」

 単純に殺すだけなら最初の段階でやっている。わざわざ自分たちを連れ帰ったからには、なにか目的があっ

たはずなのだ。

 記憶を探る、それだけなら情報を引き出すだけ引き出した後で始末すればいい。生きていることを幸運に感じ

ながらも、更に裏が隠されていそうで安心できない。

 黒髪をやや乱れさせた妹が不平を述べる。

「だってヒカゲちゃん……昨日今日と食事が定期的に運ばれてくるだけなのよ? どうなってるか気になるじゃ

ない」

「それはわたしだって同じよ。でも焦っても仕方がないわ。わたしたちを此処に留めておく以上、彼らには目的

があるはずよ。きっともうすぐ、なんらかの働きかけをしてくるに違いないわ」

「でも」

「だからいまはゆっくり休んで体力を温存しておくの。……いざってときに披露困憊で動けないんじゃ笑い話に

もならないわ」

 やわらかく微笑みながら諭す姉に片割れもようやく態度を落ち着け始めた。まだ不服そうに唇をとんがらして

はいたが、鉄格子にかけていた手をはずして牢の奥に引っ込む。壁に背をもたれさせて深い溜め息をついた。

 肩を並べて座り込んだヒカゲの耳に異質な音が響いた。鉄格子ごしでは見えない通路の先から明らかな靴

音が聞こえてくる。ゆるみかけていた気を引き締めて、ヒナタを後ろに下がらせた。

 

 カツ……ン、カツ……ン

 

 規則正しい音は牢の真ん前で鳴り止んだ。黒いマントを体中に巻きつけて、中を覗き込んだ老人が笑う。睨

み返してやったって向こうが絶対的に優位なのは変わりがない。

「ふん、まだそんな目をする余裕があるか。感心したぞ」

「いったいなんの用があるの、天回。わたしたちを捕らえたところで大して役には立たないわよ」

「本当にそうかな? 色々と面白い結果も得られたぞ。お前たちのおかげでな」

 口元を歪めて虜囚をねめつける。

(やはり―――探られていたのね)

 血の気が失せるほどの衝撃を感じながらも、あくまで平静を装って言葉を返す。

「なにをいっているのかわからないわ。思わせぶりな台詞を吐けばそれでいいと思っているんじゃないの?」

「……あまりわたしを怒らせるな。我々がなにを知ったのか、いま此処で語っても一向に差し支えないのだぞ。

妹御に知られてもいいというならワシは構わんがね」

 目つきを鋭くしたままヒカゲは黙り込んだ。

 

 ―――なにも知らないのだ、妹は。‘それ’が最大の証拠であり、救いなのだ。

 妹にだけは悟られる訳にはいかない。自分たちが………。

 

 本当にただの様子見で牢に来たのか、天回はあっさり踵を返した。背後で手を組む。

「まぁいい。もうすぐ我々の本来の目的が叶うのだからな」

「目的?」

「間もなく面白いものが見れるぞ、ヒカゲ。そして己が無力を悔やむがいい」

 低い笑い声が通路にこだまする。

 言い返せない自分に歯噛みしながら去っていく黒衣の後姿を睨み付けていた。

 完全にその影が消えうせて、緊張を解いたヒカゲの肩にそっとてのひらが添えられる。振り向けば、未だかつ

てないほど不安そうな顔つきをしたヒナタが唇を慄かせていた。

 

「ヒカゲ、ちゃん………あたし―――なにを‘知らない’の?」

 

 ゆっくりと正面に向き合ったヒカゲは、安心させるように小刻みに震える手を握り返した。

「あんなのただのハッタリよ。信用しちゃダメ」

「嘘……! だってヒカゲちゃん動揺してたじゃない!!」

 イヤイヤ、とヒナタが首を振る。どうやら天回の言葉に疑問を感じてしまったようだ。これをきっかけに‘あのこ

と’を思い出してしまうかもしれない……それだけは避けなければ。たとえ誰に罵られようとも、決して妹にだけ

は知られたくない事実がある。

 

 一度ついてしまった嘘は最後まで貫き通さなければならない。

 そうしようと自分が決めたのだから。

 

 断固とした決意を胸にヒカゲは繰り返した。

「それはあなたの勘違いよ」

 相手が悲しそうに頬を歪めても意固地に言い放つ。

 

 

「勘違いなんだから気にする必要なんてないの―――安心してお休みなさい、ヒナタ」

 

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ああ……なんかテンション低いなぁ(汗)。本当はもっとかっこよく書きたかったんだけどなー。

やっぱ戦闘シーンは難しいです。ガクリ(挫折)。

 

今回は「妹に振り回される兄と姉」でまとめられそうな話でしたね(笑)。

少しだけ解説させていただきますと、宙象は鉄くずをロボットとして操ることができます(原作じゃ人形を

操ってたけど)。故に材料のゴロゴロしてる百合の島を指定したんですねー。すぐに日吉にトドメを刺さず

いたぶっていたのにはそれなりに理由があるのですが、バラすと先の展開に差し支えるので

省かせていただきますv ← オイ。

 

一方、ヒナヒカは牢屋に閉じ込められて身動きとれず。この辺りの展開は思いっきり原作『ジパ』とかぶってます☆

天回が思わせぶりな台詞を吐いてますが、ヒカゲも充分思わせぶりな気がします(笑)。

彼女がなにを知っているのか、ヒナタはなにを忘れているのか、それが今後の展開の鍵……

でもあくまで中心は日吉と秀吉なので、こちらの双子さんはあんまり目立てません(苦笑)。どんな

謎なのかは追い追い出てくる予定なのでお楽しみに〜♪

 

―――ってゆーか殿は何処に行ったんだ、自分(汗)。

 

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