「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

30.good-bye, my boy!

 


 空は茜色を通り越して夜の到来を感じさせるようになっていた。吹き抜ける風が冷たく頬を打ち、傍らで

鉄くずの山が揺らいだ。

 もう既に実の兄に斬られるものと覚悟を決めていた日吉は寸でのところで信長にかばわれ、間をおかず

到着したコロクンガーに喜びつつも戸惑いを隠せないでいた。

「………殿………?」

「さがってろ」

 問い掛けへの応えも示さずに秀吉を睨みつけたまま動こうとはしない。振り返らぬまま軽く言い放った。

「武田のおっさん! 部下どもを連れてきてんだろ? 周辺のザコどもは任せたからな」

「抜かせ、小僧。何故我々が貴様のために働かねばならんのだ」

「うっせー。こうなったら一蓮托生だろ」

 先刻まで意味不明な掛け声を大合唱していた武田社長は舌打ちすると、部下のもとへと戻っていった。

誰かから命令されるのを嫌うのは信長も信玄も同じだが、この状況では協力するしかないともわかってい

る。連れてきた部下もきちんと武器は携えているようだし鉄くず兵たちに劣るということはないだろう。

 後は―――。

 

「いよっ、日吉♪ 無事だったか?」

「全く、無茶はするもんじゃないぞ」

 

「五右衛門! 犬千代さんも!?」

 唖然として日吉は車から飛び降りてきた2人を見つめた。

 なんというか………自分が飛び出したときは一人きりだったというのに、結局こうして全員が顔をそろえ

てしまっている。嬉しいような悲しいような、複雑な気分になってしまうではないか。

「ふ、2人とも、来てくれたんだ………」

「なーにいってんの、当たり前でしょが。でも詳しい話はまた後でな。とりあえず俺は―――」

 笑いかけていた五右衛門の目つきが鋭く狙いを定める。視線はやや離れたところに位置する宙象に注

がれた。その手に組まれた印、額から上半身にかけて刻まれた刀傷におおよその展開を察したのだろう

か、ポケットに手をつっこんだまま不敵に笑う。

 

「………あの、イケすかないヤローでも相手にしてくっかな♪」

 

 向こう側もどうやら彼を‘敵’と認識したようだ。体勢は変えぬまでも警戒は怠らない。

 五右衛門は一歩、鉄くずの中に足を踏み出した。

 不安げに見守る日吉の肩を犬千代が軽く叩き、安心させるように笑った。指し示した先には微動だにせ

ぬコロクンガーが控えている。

「日吉、お前の気持ちもわかるがいまはこっちに専念してくれないか? コロクンガーもムリヤリ持ってき

たんでな、まだ言霊もマスターしてない俺じゃ操作が覚束ない。手助けを頼む」

「え………でも、皆は………」

「大丈夫! 殿や五右衛門だって、武田の連中にしたって容易くやられたりはしないさ。むしろ俺たちがロ

ボットを引きつけておいた方が安全だ。―――だろ?」

 未だ心配そうに辺りを見渡しながら、日吉も強く頷き返した。だが、明らかにまだ気持ちの半分以上を背

後に奪われている。犬千代の頬が痛ましげに歪んだ。けれど、それを覆い隠してあえて微笑む。

「秀吉のことも―――殿に任せておけ。絶対に大丈夫だ」

 礼の言葉も返せず、ただ日吉は泣き出しそうな顔をどうにか努力で笑みに変えた。

 かなり………無理はあったけれど。

 

 

 

 目の前に対峙した人物を眺めて信長は舌打ちした。車で百合の島につっこめばそこに展開されていた

のは信じがたい、決してありえない、秀吉が日吉に斬り付けている光景。冗談なんかではないと辺りの空

気ですぐに察することができた。

 なによりも秀吉の額に刻まれた不気味な‘第三の眼’が全てを雄弁に物語っている。

(くそっ………結局、予感は全て的中したってワケかよ………!)

 抜き放った刀を正眼に構えて唇を引き結ぶ。

 正しい指摘をくれたことには感謝するが、ちょいとばかり遅すぎるだろう忠告をくれた相手にさりげない

悪態をつきながら。

 信長の苛立ちの原因―――話は、いまより数時間前にさかのぼる。

 

 

 防衛隊基地はどことなく殺伐とした雰囲気に包まれていた。先日コロクンガーが敵のロボットに敗れた

ために、隊員たちが衝撃から未だ回復していないということもある。新型機を開発するために多くの人間

が出入りして、派閥争いの様相を呈し始めているということもある。

 とはいえそれは本当の些細なもので、基本的にお人よしばかりの人助け集団は、司令よろしく強かで不

適なマイペース団体なのであった。

 結局、その場がぎこちないのは―――。

 

 若干、1名。

 不機嫌なオーラを振りまいている若者がいたためであった。

 

 実働部隊隊長、織田信長その人である。

 

 先刻、「信長様のバカ―――っ!」の叫びと共に日吉に吹っ飛ばされた彼は今しがた手当てを終えたば

かりであった。

 一生の不覚、一生の恥。

 サルの分際でこの俺に逆らいやがって………俺が本心から反対してると思ってんのか!?

 とゆー文字が顔に書いてある信長のもとに置手紙が届けられたのはついさっき。『仲間を助けたくばひ

とりで来い』だなんて、使い古された言葉と場所の指定がされている。メモの配達人は淡々とつづけた。

「―――で、どうするよ」

「どうする、だと?」

「迎えに行くの、行かないの。どぉ考えたって怪しいでしょー、この敵からの呼び出しはさぁ。俺としては助

けに行った方がいいと思うんだけど?」

 後ろで救急箱片手にさまよっている犬千代も同じ気持ちなのだろう。

 信長にもこの手紙の内容がヤバイことぐらいわかる。あからさまな挑発、あからさまな呼び出し、あから

さまな罠。けれども引っかかりに行くしかないようなこの現状。

 

「あんなヤツ知ったことか!」

 

 ―――と、罵れたならものすごくラクなのに。

 既に隊員の1名が勝手に先走って救出活動に取り組み中。

 規律違反だと追いかけて「このバカどもが!」と2人を殴れば終わりなのに腰が上がらないのは、イマイ

チきっかけを掴みかねているのと、彼自身の意地っ張りな性格が災いしているのだろう。

 決断をくだすために迷っていたのは僅か数秒。

 しかし、きっかけはコンマ1秒ほど早く現場に飛び込んだ。

「とにかく、いますぐ俺たちは―――」

 発言途中で信長は突如、口をつぐんだ。出入り口付近がやたら騒がしい。五右衛門も不思議そうに振り

返る。ドヤドヤとした人波が揺れ動いて「無茶だ」だの「どうしたんですか」だの意味のない言葉ばかり喚

いている。人だかりがそのまま眼前まで迫ったかと思いきや、いきなり、真ん中から避けた。

 現れた人物に思わず五右衛門があきれ返った声で問い掛けた。

 

「―――教授」

「どうも、お久しぶりです」

 

 笑顔で返事をかえしたのは先日の会議後にぶっ倒れて病院に叩き込まれていたはずの竹中教授であ

った。2週間は絶対安静と聞いたのに何をしてるんだか。顔色は悪いし以前よりやせているし、とてもじゃ

ないが回復したとは思えない。腕には怪しげなヘルメットらしきものを抱えている。それを見てキツい表情

に変わったのは、残念ながらこの場では五右衛門だけだった。

「てめぇ、病院で寝込んでるんじゃなかったのか?」

「制限時間つきで脱出してきました。用事が済めば強制送還されますのでご安心を」

 ―――なんだそりゃ。

 と、いうのが居合わせた者たちの正直な感想だったろう。

 軽く辺りに眼を配り、即座に問い掛けた。

「―――秀吉さんが居ませんね。それに藤子さんも。何処へ行かれたのです?」

 ただでさえ良くなかった信長の機嫌が急降下する。怒鳴り散らしたくなったのをどうにか自制して手短に

状況を説明する。やがて教授は舌打ちと共に

「想像した以上にまずい事態ですね………」

 と呟いた。眉をひそめてしばし考え込む。

 そんな彼の後ろには見慣れぬ男が佇んでいた。目線の鋭い青年は白衣に身を包み、黒髪を手荒く後ろ

でまとめている。メガネの所為で表情はよく読み取れない。教授のことを心配しまくっている実兄とは違う

のだが――同じ‘人種’であることは一目瞭然。教授との関係は不明だが、おそらくこの男を言いくるめて

ここまでやって来たのだろう。

 作業現場をすり抜けて教授は中央のコンピューターへと歩いていく。自然、信長たちもそれに従った。

「上杉会長!」

 たまたま現場の指揮に当たっていた上杉商会の会長に声をかける。謙信はリタイアしたはずの少年の

登場にいささか驚いたようだった。

「おや、これはこれは。如何なされたかな」

「会長………突然ですがコロクンガーのシステムインプットはどれぐらい完了していますか?」

「うむ、全体の半分といったところかな」

「足りない」

 即座に切り捨てる。その足で彼はコンピューターの前に陣取るとなにやら操作を始めた。

 新型機を作るに当たって物理的側面も重要ではあるが、実はそれ以上に重要になってくるのが情報の

インストールである。これまでの戦闘データ、行動パターンのプログラム、加えて今回は言霊を操るために

幾通りもの術式が組み込まれている。オリハルコンは通常の金属とは異なり、‘それ自体’に命令を書き

込むことが可能だ。これら全ての入力を終えてこそ実力が遺憾なく発揮される。半分しか終了していない

状態では動きは随分と鈍くなってしまうことだろう。

 キーを叩いていた教授は持参したヘルメットをコードに繋ぐ作業に取り掛かった。接続するたびにコンピ

ューターから「オールクリア」の信号が返る。淡々とした表情で教授は告げた。

「――私の脳からこれまでのデータをダイレクト・インストールします。作業効率が早まるはずです」

「だが竹中殿、脳からコンピューターへのアクセスは危険を伴うのではなかったかな。‘ダイヴ’は数年前

に法規制されている」

 危険を伴うが裏ではまだ行われているのだと、暗に告げるかのような謙信の口ぶり。

「緊急事態ですよ、会長。それに、なにも私だけでやるとはいってません。できればあなたにも彼と協力し

て術式の打ち込みを行って頂きたいのです」

 佇む青年と謙信の視線が交錯した。よくわからないが少年はかなり焦っている。故に、病院から抜け出

してきた。背後の青年を味方につけて―――。

 謙信が薄く笑う。

「………お主、少しは知識があるのだろうな?」

「専門は医学ですが、多少、哲学と宗教学をかじっております」

 会話はそれのみで打ち切られ、年長者は紫色の法衣をたなびかせた。中央からやや離れた位置にあ

るコンピュータへ歩を向ける。最後にこちらを僅かながら振り返った。

「事情はわからん。―――が、急ぐというならば付き合ってやろう。‘魔術師’と謳われたプログラム能力を

この眼で拝ませてくれるというのだからな」

 言葉の意味を解したのは当事者である教授と五右衛門、それに付き添いの青年ぐらいだったろうか。彼

は今まさにヘルメットもどきを被ろうとしている教授の肩に手を置いた。静かに、断じる。

「制限時間は1時間。それ以上経過したら強制的に引き戻します。いいですね」

「………わかっている」

 忠告とも脅迫ともとれる言葉を吐いた青年は、3台目のコンピューターへと向きを変えた。彼も謙信と同

じく術式の打ち込みに入るのだろう。

 ゾロゾロとくっ付いてきたはいいけれど、どうにも隊員たちには事情が飲み込めない。信長が問う。

「おい、一体どういうことだ? サルたちがいないと焦らにゃならん理由でもあるってぇのか?」

「………藤子さんたちが向かった先はわかっていますか?」

「メモに―――書いてあったからな。百合の島だ」

 苛立ちも限界まで達すると逆に落ち着くものらしい。背中に一般人がビビるほどの暗雲たずさえながら

も、どうにか信長は爆発を抑えていた。認めたくないことではあるが、眼前の少年が慌てるのはなにか重

大事件が起きたときだけだったので。

 コードを繋ぎ終えたヘルメットもどき―――つまりは、‘ダイヴ’するための道具―――をなんら気負うこ

となく教授は装着する。一部の人間は「死を招く機械」としてこれを忌み嫌うが、コンピューターを操るに際

しては最も優秀な装置でもあるのだ。

 フ、とまぶたを閉じる。

 

「その百合の島に………ブラック・コロクンガーが近づいているといったら………?」

 

「―――なんだと?」

「罠である可能性が高い………もしかしたら、かなり前の段階から。だから急いでください」

 詳しい話は回線を通じてしましょうと、彼は司令から贈られた隊員用のリングを軽く掲げて見せた。

 仲間を喪う羽目には陥りたくない。

 そんなこといわれるまでもなく分かっていたから、信長は鋭く舌打ちすると宣言した。

 

「出発するぞ、野郎ども!! 高速道ぶっ飛ばせ!!」

 

 

 地下駐車場から飛び出した車は一般乗用車とは思えぬスピードで道路を疾走する。犬千代がハンドル

を握ってこれなのだから、スピード狂の信長だったらどうなることか、想像するだけで恐ろしい。運転席に

イエローを叩き込んだ五右衛門の判断は正しかった。

「おい、てめぇ! きちんと説明するんだろーなっ!?」

 信長は腕の通信機に向かってがなった。いまは他の2人にも声が聞こえるよう回線をオープンにしてい

る。機械ごしにプログラミングに没頭しているだろう教授は全く乱れない声で答えた。

『説明しますよ。けれど………何処から説明したものか、多少迷って』

「かなり前の段階からって言いやがったな、サルが呼び出される前から罠が仕組まれてたってのか!?」

『そうです。おそらく彼らはこの事態を既に予想していた―――もしかしたら、ヒナタさんたちの誘拐すらた

だのついでだったかもしれないほどに』

「目的はオペレーターズの誘拐じゃなかったってワケ?」

 後部座席から五右衛門が顔を覗かせる。

『それも目的のひとつではあったでしょうけど、殊更に彼女たちを狙わずとも………他に隙だらけの職員

は大勢いたのですからね。我々の情報を盗みたいだけなら、一益さんや万千代さん、勝三郎さんだって

構わなかったはずです』

 勿論、いま名前を挙げた面子はかなりの実力者ぞろいだから、浚おうにも無理があったのかもしれない

が。しかしそれでいえばヒナタやヒカゲも決して弱い方ではないのだ。同等の知識を有していて、しかも彼

女らより弱いオペレーターなら防衛隊にゴマンと溢れていた。わざわざヒナタ達を選んで浚った理由があ

る―――情報を得るためだけではなく。

 つまり、それは。

 

『彼女たちは藤子さんと仲が良かった。それが理由です』

「………あ?」

 

 本当はそれ以外の理由も少し介在していたのだが教授は口にしなかった。裏の事情を知っている五右

衛門だけがフと嫌な予感に襲われた。

 通信機の中で教授は冷たく笑う。

 

『だって、ヒナタさん達を誘拐すれば………藤子さんはなんらかの動きを見せるでしょう?』

 

 そして彼女が動けば自然と秀吉か五右衛門が行動を起こすのだと。

 信長や司令が立場上動けなくとも、彼女に親しい人間は同調して働き始めるのだと。

 反論しようもない事実だけに信長も返事ができない。よくよく考えてみれば彼とて仲間のために立場を

無視して動くことが幾度かあった。表面上は自分勝手な行動のように見えていても、裏で部下を思いやる

気持ちが働いていなかったわけではない。

『奴らは藤子さんに単独で行動してもらいたかった。接触しやすいように。あわよくば秀吉さんも行動を起

こすだろうと。………結果的に、わたしたちは彼らの思惑通りに行動してしまったんです』

「それぁわかった。だがな、何だって奴らがサルどもに近づきたがるんだ。なにか特別な理由でもあるって

のかよ」

『………ゴッド・オリハルコンが問題なんです』

 敵の機体を構成する金属の名を相手は口にした。

『オリハルコンよりも硬く、波動も強いこの金属を操るには多大な能力を必要とします。前回、敵機がわり

とあっさりと引いた事情もその辺りにあるのでしょう。操縦者に異変が生じたんでしょうね』

 オリハルコンとの感応値を持つ人間が操縦するのは向こうもこちらも変わりはない。だが、より高度な

金属を扱うだけに、向こうの方が操縦するのに苦労しているのも確かなようだ。威力は大きくとも味方側

も無傷ではいられない、ゴッド・オリハルコンとはそんな金属なのだ。

「リスクの大きい金属ってことか。で、それがどうした」

『………』

 珍しく、相対する声が沈黙した。やがてため息と共に会話の先を続ける。

『五右衛門さんはご存知でしょうが―――オリハルコンを操る能力と、ゴッド・オリハルコンを操る能力は

多少、異なっているんですよ』

 ハンドルを握った犬千代がバックミラーごしに五右衛門の表情を窺った。名指しされた人間はいつも通

り不敵な笑みを浮かべてはいるものの、若干の憤りを感じているようでもあった。‘勝手に内部事情をば

らすんじゃねぇよ’―――と、思ったのかもしれない。次いで信長にも睨みつけられた彼は仕方なさそうに

口を開いた。

「ま、俺もあんまし詳しかないけどな。オリハルコンを操るのに必要な能力がAだとしたら、ゴッド・オリハル

コンに必要な能力はA’ってとこか。ゆっとくけど感応値を持ってることに関しちゃ違いはないぜ? でもっ

て、防衛隊はAの能力が高い人間が集められてる」

 特に実働部隊には飛びぬけて数値の高い面子が集められた。犬千代は平均レベルより少し上、五右

衛門と日吉と秀吉が同程度で並び、信長がトップに立っている。しかし、それはあくまでも「A」の能力に関

しての話だ。

「A’の能力を持ってる奴は少ねぇ………ってゆーか、皆おっつかっつだ。ゴッド・オリハルコンを単独で操

れるまでのレベルに達してる奴がほとんどいねぇんだよ」

 だからこそゴッド・オリハルコンは発見されていてもなかなか実用化されなかった。操れないロボットを作

ったところで何の意味があるだろう。

『報告では―――秀吉さんは敵の‘黒い刀’と同調したことがあるそうですね』

 信長は視線を鋭くした。

「―――なにがいいたい」

 車内に沈黙が満ちる。

 やがて口を開いたのは後部座席にもたれかかった五右衛門だった。

「今更………隠すほどの話じゃねぇよな」

 上体を起こして両のてのひらを顔の前で組み合わせた。

 

「秀吉はA’の値が異様に高い。日吉もだ。信長―――軽くあんたの倍はあるんだぜ」

 

 まして、一般の隊員と比べたら。

 

 車内にはエンジンの音だけが定期的に響いていた。そこに重なりだすのは抑揚のない少年の声だ。

『奴らは地球人を洗脳する方法も開発しています。以前のように仮面をかぶせるのではなく、額に装置を

埋め込むという手段によって』

 かつて額に焼け焦げた跡のある死体が発見されたことがある。仲間同士で切り結び、殺しあった結果

の傷跡とはまた別の。地球人を利用しての‘研究成果’が着実に実を結んでいる。仮面なら、はがせば洗

脳は解ける。だが、装置を生身に埋め込まれてしまってはもはや分離は不可能だ。

 即ち、乗っ取られた人間を解放する術がないということになる。

『わたしが敵ならこう策を練るでしょう。防衛隊の中でも能力の高い人間を乗っ取る―――組織を、裏切ら

せる。敵の情報も手に入る。精神的に甘い地球人側は反撃もできずやられる。そしてなにより』

 地球側に対しての人質であると同時に最大の武器にもなる。共に戦ってきた仲間が洗脳されれば防衛

隊側の精神的打撃も大きいだろう。

 波のない声は自身の感情を抑えているが故なのか。

 

『‘使い捨てのできる優秀な操縦者が手に入った’と………高笑いするでしょうね』

 

 ―――ガンッッッ!!

 

 拳をフロントガラスに叩きつける音が鈍く響いた。生憎、強化されたガラスはひび割れることすらしなか

ったけれど。

 とにかく、急いでください。全てが手遅れにならない内に―――。

 そう呟く教授の言葉に返事をする暇さえ惜しむかのように車は高速道路を駆け抜けていった。

 

 これらは全てが最悪だった場合の展開予想だと、まだこんな羽目には陥ってないかもしれないと。

 敵にしてみれば秀吉か日吉、どちらか片方を手に入れられれば当面の目的は果たしたことになる。残

る作業は片割れを捕らえて隔離し、イザというときの‘捨て駒’として基地内に留めおくこと。もしくは、片割

れを殺させて防衛隊の面々を打ちのめすこと。

 どちらを行わせてもならない。

 秀吉が日吉を利用し、殺すことも、その逆も決してあってはならないのだと。

 教授の語った来て欲しくない未来がいま現実に到来している。

 

 

 

「ったく………冗談じゃねぇぜ」

 顔は笑っているものの眼は真剣な光を放っている。事の顛末を思い出しながら信長は煮えくり返るはら

わたをどうしてくれようかと悩んでいた。腹が立つのは自分勝手に行動した日吉の所為でも、まんまと乗

っ取られた秀吉の所為でも、肝心な忠告が遅れてばかりいる教授の所為でもない。

 

 気付けなかった。

 敵の思惑を見抜けず、むしろ手を貸すような真似をしてしまった。

 

 そんな自分自身が最も腹立たしい。

 

「そういやぁ―――テメェと本気でし合ったことはなかったな」

 抜き放った刀を構えなおす。

 今朝方までは仲間であった少年の額には見慣れぬ虚ろな瞳が輝き、冷えた視線と感情のない顔でこち

らを見据えてくる。迷いや躊躇いがひとつもないことは隙のない仕草から充分に感じ取れた。

 刹那。

 鋭い切っ先が信長の頬をかすめた。眼を閉じずに避けてこちらからも刀を振り下ろす。無論、あっさりと

かわされた。右利きと左利きの戦いのために互いの弱点が見え見えだ。振り下ろした直後の無防備な側

を狙っても、合わせ鏡のような彼らではともに致命傷を負わせるには至らない。

「ちっ!!」

 二合、三合と打ち合わすたびに夕闇の迫り始めた宙に火花が散る。すれる刃と刃が耳障りな音を立て

て間近をすり抜けた。

 体格からいえば信長が圧倒的に有利だ。だが秀吉はこの崩れやすい足場を利用して、常に相手より高

い立ち位置を確保している。故に、振り下ろす一撃では秀吉に分があった。しかしついさっきまで走り回っ

ていた彼と信長では明らかに体力に差が生じている。どうにかして秀吉を気絶させたい信長が狙うのは

そこだった。洗脳下の秀吉が自らの体力を振り返る余裕があるのかは聊か疑問であるが。

「くらえっ!」

 一瞬の隙をついて刀を弾き飛ばす。武器を手放すまいとした秀吉の上体が僅かに揺らいだ。

 即座に首ねっこを捕まえて殴り飛ばそうと―――。

 したけれども突如、足元から舞い上がった風に慌てて身を引いた。鼻先数ミリの位置を容赦ない蹴りが

切り裂く。

 両手を地につけて蹴りを放った秀吉は、すぐに体勢を戻すと改めて‘敵’に向き直った。剣術や体力では

劣るとも、体術では引けを取らない彼である。信長の口に浮かんだのはなんとも表現しがたい微笑。

 

「足くせが悪ぃな………いっそへし折るか?」

 

 踏み出した靴の下で金属が軋んだ音色を奏でた。

 

 

 

 白銀のロボットと漆黒のロボットが激突し大地を揺らす。戦いに巻き込まれた近くの鉄くず兵たちがひし

ゃげて無様に崩れ落ちた。いまにも崩壊しそうな緩い埋立地はどちらにも不利だ。

「よぉしっ、負けてない! このまま押し切るぞ!」

「はい!」

 犬千代と日吉はコロクンガーを操作できる場所を必死に移動していた。未だ全ての情報入力が終わっ

ていない新しい機体は動かすのに普段の倍以上の集中力を必要とする。今朝はまだ動かすことすらまま

ならなかったのだと考えれば大した進歩ではあるが。そういえば教授は本当に1時間で作業を止めたの

だろうかと、ふとした思念が犬千代の脳裏をかすめる。

 必殺技となるべき言霊の習得すら中途半端ないまは、せめて精神を集中することだけが敵機に歯向か

うための有力な手段であった。

 足元にまとわりつく鉄くず兵たちが弱いとはいえ邪魔で仕方がない。大半を武田の面子が引き受けてく

れているからどうにかなっているというのが正直なところだ。日吉が不安そうに首を巡らせた。

「武田社長たち、大丈夫なんでしょうか………」

 彼女の心配も最もではあるが、いまはそれどころではない。少しでも気を抜くとブラック・コロクンガーに

押しつぶされそうになるのだ。それに。

 

「うぉぉぉぉ―――っっ! こんな鉄くず共に負けてたまるか! 武田の意地を見せてやれ!」

「皆のもの、社長に続けぇぇ―――っ! ちなみに社長は出掛けに上杉会長にけし掛けられたため少々

キレ気味であらせられるぞ!」

「源助ぇ! 一言多い!!」

 

 ………などと騒いでいる皆々様はとても元気そうでいらっしった。

「―――たぶん、あの人たちは絶対大丈夫だと思うぞ」

「そうですね………」

 脱力しそうになるのをどうにか堪える2人なのだった。

 

 

 

 吹き抜ける風は夜の冷たさ。背景に連なる処理場跡地は夕闇の中で不気味な赤黒い色合いを具えて

いる。

 

「悪いけど、アンタには消えてもらうぜ」

 

 最も、悪いなんてこれっぽっちも思ってやしないんだけど。

 口元に笑みを刻んだまま瞳で射抜く。手にしたくないを斜に構えてあくまで余裕の表情と仕草。

「実働部隊の紅一点をよくもいたぶってくれたじゃないの。この落とし前は高くつくぜぇ?」

「フン………また貴様らお決まりの‘正義感’とやらか。もはや聞き飽きたわ」

「違うね、俺はそんなにおエラくないよ。ただアンタがムカつくし許せないからブチ殺したい。OK?」

 少年の足元で崩れた鉄くずが甲高い悲鳴を上げた。

 敵と対峙して切り結び、かなりの時間が経過している。五右衛門は傷ひとつ負わないが向こうとて同じ

こと、全く疲れた様子を見せない。敵は嘲笑した。

「殺す? 無理だな。幾ら切り刻まれようともワシは死なん。お前とてこれまでのやり取りで理解できたは

ずだ」

 ―――確かに。

 秀吉がつけたとおぼしき致命傷を見たときに予感はしていた。あれだけの手傷を負いながら動けるのは

決して‘マトモ’な人間ではないと。事実、五右衛門の放ったくないが幾度か首筋をかすめ脇腹に突き刺さ

り、失血死しそうなほどの血液を流させながらも男は倒れなかった。ひどく下卑た笑みを浮かべて傷を撫

でさすれば傷口は塞がるのだ。

 機械だ、と。

 確信を得るのにさして時間はかからなかった。

 そして理解した途端、この敵に対する嫌悪感が更に増した。日吉を、秀吉を、いいように扱われたという

ことだけでなしに。

 

「俺ぁな………‘代わりのきく命’ってのが大嫌いなんだよ」

 

 ポツリと呟く。

「何回でも生き返るだなんて反則技もイイところだぜ」

 囁きが聞こえたのかまた宙象は嘲りを深くした。

「我々は貴様らとは出来が違う。こんな危険地帯に生身で飛び込むような愚かな真似などするものか。た

とえ幾度倒されようとも天にありし我が本体は傷ひとつつかずに眠っている。手出しもできぬまま貴様ら

は地に倒れ伏すがいい」

「その考え方が嫌いだっつってんだよっっ!」

 声と共に投げつけたくないが敵の眼前で弾かれる。奇妙に組み合わされた手の印は防壁の役割でも果

たしているのか、肝心なところで五右衛門の攻撃を防いでくれる。間を詰めて蹴りをお見舞いするが当た

る寸前で見えない壁に阻まれる。敵が印を組んでいる以上は打撃は無効化されると思われた。

(………ったく!)

 おそらくはあの印でブラック・コロクンガーや周囲の鉄くず兵たちに命令を下しているのだろうに。切り崩

せない壁に苛立ちそうになるが、五右衛門は伊達に半蔵に鍛えられているワケではなかった。

 

 ―――敵の隠したがるものはよく見える。

 

 地面から伸びる鉄筋を駆け上り、上空から斬り付けた。簡単に避けられて五右衛門は敵の遥か後方に

着地する。一体なにをやっているのか、全く意味のない行為だと、敵の嘲る様が振り返らずとも脳裏に浮

かんだ。

 ………笑える内に笑っとけ。

 案の定、敵はこちらを振り向いて心底バカにした歪んだ笑みを口元にのぼらせる。両の手を握り締めて

立ち上がった五右衛門の背に嘲弄を浴びせかける。

「何処を狙って攻撃をしている。それで防衛隊の一員とは笑わせる」

「―――俺って、さ」

 握り締めた拳はそのまま背中に回す。

「認めたかぁないけど………どーやら現代に生き残る稀有な‘忍者’らしーのよ」

 

 ホント最悪。

 おかげで10代の記憶は薄暗い森の中、日がな一日ガラの悪いおっさんとド付き合いの大喧嘩。

 だけど。

 

「おかげで―――人の隠したがるものはよくわかる」

 

 敵に背を向けたままの彼の視線は鉄くずの中に埋もれた赤い光に注がれていた。

 それは、戦いの中で日吉が弾き落とした赤い宝玉だ。眼に見えて宙象の顔色が変わる。先ほどの少女

とは違い、この男は誤魔化せないと察したのかもしれない。

 瞬間的に焦りを見せた相手の隙を見逃さない。強く、背中で組んでいた両手を前に引き戻した。

「ぐあっ!!?」

 敵が鈍い叫び声を上げた。体が締め付けられて身動きが取れない。よく見れば極細の糸が体に食い込

んでいる。両腕と胴体、首にかけられた糸は背後の鉄筋を回り、キリキリと音を立てながら仕掛け人の拳

に吸い込まれていた。徐々に五右衛門が腕を前方にやるにつれ締め付けも強くなる。食い込んだ刃が赤

いだけのオイルを流させた。

「なんの番組だったかなぁ………こうやって敵にトドメ刺すの」

 むかしのテレビであった気がするよ。そいつは商売道具の糸を使って相手を殺すんだ。

「始末人? 仕置き人? ははっ、覚えてねぇや。前世紀の番組だもんなー」

「き………さま………っ!!」

 憎らしい相手に手を伸ばそうとも、その腕が拘束されてしまってはどうしようもない。

 敵の本体は確かに連中の基地にあるのだろう。けれど、‘現地’での中核をなしていたのはあの宝玉だ

ったに違いない。日吉の読みは外れてはいなかったのだ。ただ、コイツは命令を下す‘脳’から離れて動

ける‘図体’だっただけで。

 肉体を幾ら切り裂いてもよみがえる。けれど、五体バラバラにしてやれば再生したくともできないだろう。

傷を塞ぐ腕も支える手のひらも全てを遠くに散らしてくれる。

「テメェでも………切り裂かれるときは痛むのか?」

 血が流れて苦痛を感じるのかと。

 鼻歌さえ歌いそうな軽いノリで。

「ならせめて―――思いきり苦しめ」

 

 両手を前方に引き抜いた。

 

 

 

 敵の五体がバラバラと崩れ落ちるのもそこそこに、五右衛門のくないが赤い宝玉をまっぷたつにかち割

った。途端、劇的な変化が周囲に訪れる。

「なんだ!?」

 まず変化が現れたのはブラック・コロクンガーだ。赤銅に輝いていた瞳から急速に光が失われると、組

み合っていた腕を自ら解き、全く関係ない方向へよろよろと歩み始めた。呆然と見送る日吉たちの前で鉄

くずに頭から突っ込んで停止する。更に、周辺で蠢いていた鉄くず兵たちもカラカラと音を立てて砕け散っ

た。彼らを繋ぎとめていた強力な意思が消えてしまえば後は無害なゴミの塊である。自らも手近な金属バ

ットを奮って格闘していた信玄は少しだけ拍子抜けしたような表情になった。

 

 ―――そして。

 

「………って、おい!?」

 今まさに秀吉の足を斬り付けようとしていた信長は、突然揺らめいた相手の上体を受け止め損ねて膝を

ついた。かろうじて地面への正面衝突を防いでやった部下は瞳を硬く閉ざして起きる気配がない。ただ、

額に埋め込まれた人口の目だけが変わらず中空を見据えている。

「―――なんだよ。身動き取れなくするチャンスだったのによ」

 悔しそうな口調とは裏腹に信長は安堵の色を顔に滲ませていた。

 できれば傷つけたくない、などと手加減できるような‘敵’ではなかった。本気でやらなければこちらが倒

される………せめて、動けないように足でも切りつければ対策も練れるかと最終手段に着手する直前だ

ったのだ。幾度かチャンスが到来しつつも、秀吉が傷つくことで、とある人物が悲しむかと思うと不思議と

躊躇われてならなかった。最悪の事態を回避できたのがあのスッパのおかげだというのが多少、癪に障

るけれど。

 これでどうにかなるだろう―――満足しなければならない。

 気絶した秀吉の首ねっこを引っつかんでズルズルと仲間のもとまで移動した。

「殿! ご無事でしたか!」

「おう、まぁな」

 日吉が嬉しそうに駆け寄るけれど、すぐにその視線は足元の引きずられた人物へと移動した。本当にコ

イツは感情が読みやすいな………と、少しばかり緊張の糸が切れた信長は珍しく微苦笑を浮かべた。

「ま、安心しとけ。いまはコイツも気絶してる。額に埋め込まれたミョーな物体はまだ取れてねぇが………」

 

 ―――額の焼け焦げた跡。

 ムリヤリ引き剥がせば心身に障害をきたすのかもしれない。けれど。

 

「物理的に埋め込まれたもんだ。なら、物理的に引っぺがすことも可能なハズだろ?」

 そこから先は他力本願に聞こえても他所の専門分野だ。それこそ医療業界に関係者の多い教授辺り

が外科の専門医を連れてくるだろう。秀吉を自らの後継者と睨んでいる節のあるあの男はかなりの無茶

でも押し通してくれるに違いない。

 少し離れたところにいた五右衛門がヒョイヒョイとゴミの山を横断してきた。

「よっ、みなさん、お疲れ様ー♪」

「五右衛門………ありがとう。ごめんね、迷惑かけちゃって」

「なぁに、いいってことよ。それに―――」

 日吉の視線を受けながら彼は右手後方の機械を指差した。

「結構、戦利品もでかかったと思わない?」

 示されたのは漆黒のロボット。過日、こいつ相手に痛い目に合わされたのだが回収してしまえば敵側の

戦力は激減する。内部に入力されたデータを書き換えてこちらの先方として扱うことも可能だ。

 五右衛門も、日吉も、信長も、犬千代も、信玄も。その場にいた者すべての視線が一瞬、漆黒の機械に

向けられた。

 他への関心がそれる。

 

 ―――その。

 一瞬、だった。

 

 ―――パシッ!!

 

「―――ってぇっ!?」

 突如、左手の甲を襲った痛みに信長が叫ぶ。切り裂かれた手の甲から赤い線が細く散った。

 自らの動きを封じていた手を弾き、切り裂いて。気絶していたはずの少年の動きはやたら機敏だ。うっす

らと目を開き、無感動な表情で素早く飛び退る。

「秀吉、てめぇ………!」

 追いすがる暇もあらばこそ。

 みなが振り向いた瞬間には秀吉はとうに宙象の遺骸の側に着地していた。迷うことなく壊れた機体の真

ん中に突っ込まれた腕は、銀色の細いリングを探し出す。

 軽く地をひと蹴り、宙を舞うと漆黒の機体の間近に降り立った。

 彼が手をかざせば静止していた機械の瞳に再び真紅の光が宿る。ゆっくりと上体を起こすロボットの肩

に飛び乗って、手にしていた銀色の輪を上にかざした。やがて光を放ち始めたそれに誰かが舌打ちする。

 

「<ゲート>………!!」

 

 天への扉が開かれる。

 少年とロボットの周囲を白銀の光が取り巻いた。地の底から沸き立つ光が、彼らと周囲の景色を隔てて

ゆく。

「ちょっ………待てよ、秀吉………っ! 待てよ………!」

 慌てて駆け寄ろうとしたその姿、片割れの叫びにも彼の顔色は変わらない。

 ただ、冷静に。ただ、音もなく。

 課せられた命を果たす仕草は無機質極まりなく、<ゲート>を開いた少年は最後まで何の反応も示さな

かった。

 上空へ舞い上がった白光が更に強く瞬き、やがて細い線となって消えうせる。光が遠のいた時そこには

なにも残されてはいなかった。

 しばし呆然としていた彼らの鼓膜を鈍い笑い声がうがつ。

 

『………ハ………ハハ………ハハハハハ………!』

 

「!」

 睨み付けた先にふたつに分かれた赤い宝玉。敵の精神の名残を留める石は設定のズレた低い声で不

愉快な音色を奏でる。

『バ………カめ………洗脳、は、解けはせん、よ………アヤツは、もう、こちら―――側―――の。人間、

ニンゲン、にんげんだ。アヤツ、が、お前らを、殺す………もし、くは、お前らが殺す―――か? ハハ、愉

快、ゆ、かい………我らの、じつりょ、くを、思い』

 

 ―――ガッ!!

 

 ―――鋭い音と共に宝玉が砕かれる。信長の刀と五右衛門のくないの一撃を受けた宝玉は赤い粉とな

って周囲に紛れた。

 ふらふらと、やたらのんびりとした動作で日吉の両膝が地につく。半身の消えた空をいつまでも見つめ

て、見開かれた瞳からはもう涙すら流れ落ちはしない。

 

「………嘘、だろ………」

 

 呟きに応える者はいない。

 

「嘘………だ、って―――誰か」

 

 虚ろな響きが冷たい風に乗って宙で途切れる。

 茜色だった空は既にその色を失い、代わりにより薄暗い景色が天を支配し始める。

 

「一緒に、いるって………お前―――」

 

 呟きは口中に儚く消えて。

 

 

 

 ―――夜が、到来していた。

 

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タイトルを直訳すれば「さようなら、我が子よ!」か?(我が子って誰だ)

よぉ〜やく、話が中盤にさしかかって参りました………かなり焦ったためにラストが駆け足もいいところ。

文章表現の能力欠落って救いがたいネ! あっは! ← 崩壊

先発の殿たちと、武田組の到着がほぼ同時刻ですが、コロクンガーは空輸したんだとでも考えてやってください(笑)。

密やかに新キャラも登場してるけど無視してくれて構わないっす。教授関連のサイドストーリーで

勝手に登場してるだけなんで(笑)。脇の設定ばかりに凝るなよなぁ………。

 

よーするに今回は、「宇宙人連中の本当の狙いは木下兄妹だった」とゆーお話でした。

ヒナヒカをさらったことに勿論意味はあるんだけど、イチバンの目的は日吉、もしくは秀吉の洗脳。「なら直接

2人を狙えよ」って感じですが、さすがに実働部隊にいきなり戦い挑むのはイヤだったんでしょう。

繰り返しになりますが、ヒナヒカを調査したいって事情もありましたしね。

秀吉に日吉を攻撃させたのは宙象です。ただ、殺すまでは考えておらず、さんざいたぶってから気絶させる

予定だったのでしょう。瀕死の重傷を負わせても冷凍保存しとけば人質としての問題ナッシング。

使いたくなったら額に第三の眼を埋め込んで人質兼、尖兵としてGOです(「GO」ってアンタ………)。

 

だからまあ、最悪の事態は回避されたといえば回避されてるんですけどね。

そんなん、ひよピンにとっちゃあなんの慰めにもならないでしょう(苦笑)。

 

とりあえず、次回は「落ち込むヒロイン」とゆーことでどうぞヨロシク♪(我ながら鬼だナ)

 

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