「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

9.door to the past

 


 首都圏の地下には巨大な空洞がある。それは前世紀から実しやかに囁かれてきた噂である。根拠となる

正式なデータはないものの、地下鉄の路線の傾斜角度、駅の位置とは関係ない出入り口が地上にある、

政府高官の移動における所要時間の推移が乗用車使用では明らかに計算が合わない、などなど非公式

ながらも様々な説が述べられてきたものだ。非公式ではあれどその『道』が存在するのは関係筋を辿れば

厳然たる事実であり、そうやって張り巡らされた地下道や路線は決して日の目を見ることなく一部の者たち

の利便や救助のためだけに使われるのであろう。そもそもの作成のきっかけは第二次世界大戦にあった

のだと言えば少しは察しがつくだろうか。そして、防衛隊基地の制御室にも地下への扉は存在している。

 年の暮れに秀吉の攻撃を受けた日吉は胸元のペンダントのおかげで一命を取り留めた。敵はおそらく日

吉が死んだと考える―――ならばそれを利用して反撃する機会もあろうかと彼女の無事を知る者は防衛

隊内でもごく一部に限られることになった。以来、彼女は基地の最下層、つまりは制御室の更に奥底の扉

の内部で生活していた。X'masの時も共に出動したかったがさせてもらえなかった。いまでも彼女はそのこ

とを悔いている。何も出来なかったとしても、一緒に肩を並べて戦いたかったのだ。

 半地下に属する薄暗い世界に設置されたのはやはり表には出せぬような曰くあり気なものばかり。中で

も飛び切りに胡散臭いのは竹中教授が使用していたコンピューターになるだろう。防衛隊基地の根幹をな

していた制御室より更に下層、然程大きくもない部屋に設置された機械はかなりの高性能である。HDD内

にはいまや仮想現実世界で勢力を伸ばしつつある擬似人格プログラムの元データが保管されていて、周

辺機器は入り組んだコードの数々でこのホストコンピューターと接続されていた。




「―――準備、出来てんのか?」

「はい」




 信長の問いに日吉が頷いた。

 時刻は夕方。未だ外界では先刻の司令の宣言文がどよめきと共に伝えられている最中である。

 これから試みようとしていることは成功例のない危険な手段だ。だというのに場に控えているのは当事者

たる日吉と、後は信長と五右衛門と司令が居るだけの、バックアップ体制に不安があるといえば不安な面

子だった。だがまあ、そのために『彼』がいるのだし。




 日吉が、これから試すこと―――。

 それは。

 過去への旅路だ。




 10年前の宇宙人の襲来が現在にも影響を及ぼしているらしいことは皆薄々とは勘付いていた。何故なら

ば、『現在』の宇宙人たちがやたらと過去の戦歴をたどるからである。旧蜂須賀村に対する攻撃がその最

たるものであり、その村にはブラック・ボックスが眠っていた―――また、三大悲劇の舞台のひとつでもあっ

た―――ならば、他の三大悲劇の現場にも何かがあるのでは? と考えるのは短絡的かもしれないが完

全に外れている訳でもないと思う。過去を探れば敵の目的も判明するかもしれない。

 「過去を探る」と口にするのは簡単だが実行するのは容易ではない。第一、時間旅行の方法なんて確立

されてないし、果たしてそんな手段が本当にあるのかも甚だ疑問である。物理的には不可能………だが、

精神面から行けば可能かもしれないと述べたのは竹中教授である。不在の人間の仮説を頼りに作戦を遂

行しようとしている辺り、自分たちもかなり切羽詰っているのかもしれなかった。

 探る<時点>は10年前、できれば三大悲劇の舞台がいいだろう。探りに行くのは三大悲劇と深く関わっ

ていて尚且つ装置に仕込まれたゴッド・オリハルコンとの同調値が高い人間でなければならず、この段階

で対象は日吉に絞られた。大半の人間は三大悲劇との関わりを持たず、関わりを持つヒナタやヒカゲ、五

右衛門や司令では同調値が足りなかったのだ。生命の保証すらない作戦なのに日吉は笑って役目を引き

受けた。

 不安がないのかと聞かれれば勿論、首は横に振られるけれど。

「それよりも俺がいま気にしてるのは………このところの<時震>の多さです」

「年が明けてからでも数10回には上ってるもんな」

 五右衛門が深刻そうな顔をして頷く。一般的な<地震>とはまた異なる<時震>………その回数がこの

所増加の一途を辿っている。<時震>の揺れは多少なりともオリハルコンとの同調率を有する防衛隊メン

バーには如実に感じられた。

 椅子に腰掛けた司令が口元を引き締める。

「何かが起きているのは確かだ。連中も、それに合わせてなにやら企んでいるのかもしれんな」

 場が沈黙に包まれた次の瞬間、モニタの電源が入る鈍い音が辺りに響き渡った。周辺PCも次々と画面

を立ち上げて室内を薄明るい緑色の光で満たす。




『取り込み中のところ悪いけれど………結局、準備は出来てるのかな?』




 ホストコンピューターのメインモニタに自身を投影した『彼』はそう問い掛けた。防衛隊基地内のセキュリ

ティを任され、仮想現実空間の<門番>も勤める『総兵衛』がゆっくりと像を画面上に結んだのだった。

 慌てて日吉が謝罪する。

「あ、ご………ごめん。待たせちゃった?」

『いいや? ただ、どうせ考え込むなら情報を全部入手してからの方がいいんじゃないかと思って』

 さすがの冷静なツッコミは未だ彼の情緒が未発達な故であろうか。あるいは、これが素か。

 パン! と画面内の少年が軽く手を打ち合わせれば信長たちも表情を改めて向き直る。

『さて、やり方はもう理解してると思うけどもっかいおさらいだ。アンタが使うのはVRボックスの改良版、これ

を使ってまずは仮想現実空間に<ダイヴ>してもらう。成功したら後は俺が精神界波動を辿って過去の入

り口まで導く。そっから先は―――アンタ次第だ』

「うん」

 心なしか青ざめた顔のまま日吉はVRボックスに腰掛けた。五右衛門や秀吉とは違って仮想現実空間へ

の<ダイヴ>など未経験の彼女だ、緊張するなというのが無理な話だろう。

 無事な方の腕を伸ばして信長が珍しくも日吉の頭を優しく撫ぜた。

「ばーか、カチコチに固まってんじゃねぇよ。ピンチになる前に強制送還してやらぁ」

「………はい」

 ようやっと弱々しいながらも笑みを覗かせて。機械と同調するためのメットを深く被り、両のてのひらを肘

掛けのコンソールに当てれば準備は完了である。あとはメットと両腕に入り込んだシンクロコードが互いの

<世界>を接続してくれる。

『―――目を閉じて』

 言われたままに目を閉ざせば瞼の裏側に緑色の光が透けていた。

(五右衛門たちも………毎回、<ダイヴ>する時にはこんな景色を見てたのかな………)

 思いながら、日吉の意識は瞬間的に闇に飲まれた。








 ―――起きろ………おい、起きろ………

「………ん?」

 どれぐらいの間、意識を失っていたのか。分からないけれども目を開けた瞬間、周囲が暗闇に包まれてい

たのでちょっと驚いた。上方からほのかな赤い光が差し込んでいるのだけは感じられるが、自身が横たわ

っている床も真っ黒ならば広がる世界もお先真っ暗。下手したら上下の感覚まで失くしてしまいそうだ。

 上体を起こして辺りを見回す日吉の眼前にヌッと人影が出現した。




「起きたか?」

「のわ―――っ!!?」




 飛び退く。

 頼むから声をかけるなり何なりしてから姿を現してもらいたい。あ、いや、声はかけてもらってたんだけど

何かもーちょっと前振りとか合図とか準備とか………まだ心臓がバクバク言っている。飛び退いた場所か

ら改めて相手を見やった日吉は更に絶叫した。




「え、えええええ―――っ! 嘘っ、何でっ、何で総兵衛が此処に―――っっ!!?」

「何でって言われても………」




 少年が困りきった表情で頬をかく。画面越しに話していた時と違って彼のサイズは等身大、声だって生音

声だ。うわー、近くで見ると本当に教授そっくりだーって、感心している場合ではなく。

「どうして夢の世界の住人が俺の眼前にっっ!?」

「いや、夢の世界じゃなくて仮想現実空間の―――ってゆーか、俺がアンタの前に現れたんじゃなくて、ア

ンタが俺の前に現れたんだけど」

 そこんとこ分かってる? と言い、あっちを見てみなよと日吉の背後を指差した。

「ほら、あっちが現実の世界」

「………へ??」

 振り向いた、先に。

 四角い大きなテレビモニタが真っ暗闇な宙の中に浮かんでいた。物凄くデカい。街頭の広告掲示板並み

にデカい。だが驚くべきは画面のサイズではなく、その中に映し出された画像そのものであった。




 ―――なにゆえ、殿や五右衛門や司令がTV画面に。

 そして何より………何故に眠っている俺の姿がっっ!!?




「ドッ………ドドドドッペルゲンガァァァ―――ッッッ!!??」

『違うわ、ボケ!!』

 画面内の信長が眠る日吉の頭にキツい一撃を食らわせた。

『あ、殿様。それ無駄。痛覚調整されてるからこっちで危害加えても日吉にはわかんないから』

『ンだその中途半端な感覚接続わ!!?』

『視覚・聴覚ラインを確保しよーと思ったらそうするしか方法はなかったんだってば』

『かなりややこしい状況ではあるがな。信長、取り合えず落ち着いておけ』

 わいのわいのと騒ぐふたりと相変わらず何考えてるんだか分からない仏頂面で佇んでいる司令の姿に、

どうやらこれは進行形の『現実』らしいと漸く脳みそが活動を始める。

 だと、すれば。

 あそこで眠っているのは。

 話に一区切りつけた五右衛門が笑いながら画面内で手を振った。

『よー、日吉。少しは落ち着いた? 分かりにくいかもしんないけど………こっちからするとお前の方がPC

モニタに映ってる感じなんだぜ。日吉の本体はここで眠ってるコレ』

 と、メットを被ってVRボックスに腰掛けたままピクリともしない身体を指差す。

『でもって本体から切り離された意識だけがいま仮想現実空間に入り込んでる。だから、そっちの世界では

<現実>の俺たちよりもプログラムデータである総兵衛のが<人間>らしく見えるってワケ。………大丈

夫か?』

「う―――うん、大体わかったけど………」

 そうだ、自分は進んで仮想現実空間に<ダイヴ>したのではないか。だのにこんなに混乱していては話

にならない。まぁ、想像するのと実際に体験するのにはかなりの違いがあるからすぐに順応できなくったっ

て仕方ない面はあるのだけれど。

「何だかややこしい………」

『うっせーよ、ゴチャゴチャ言ってねぇでとっとと行動しろ! 習うより慣れろだ!!』

 手厳しい信長の教授を受けて苦笑すれば、不思議とこころが落ち着いてきた。

 自覚するのはやや困難だ―――だって、<精神>にしか過ぎないはずのいまの身体にも触覚や視覚、

痛覚が存在している―――けれども、そういうものと割り切ってしまえばどうにかやれないこともない。深呼

吸した後で根気強く待ってくれていた総兵衛に向き直る。

「………ごめん、混乱して」

「ま、最初は誰でもあんなもんだし」

「俺は―――これから何をすればいい?」

 物も何もないひたすらに暗いだけの空間の中、まずは状況説明な、と呟いた子供はそっとてのひらを掲

げた。

「することはただひとつ、過去への旅路だよ。んで、行動する前の注意事項及び断り書きだ。状況としては

いまアンタの視覚と聴覚は<外界>に接続されている」

「<外界>って………あの、つまりは俺の本体がある現実空間?」

「そのとーり。ちょっぴり接続をいじって、アンタが見たものはPCモニタに、同じく聴覚はスピーカーから拾え

るようになってる。アンタが<見た>と意識しないものも現実空間上には投影されるから大切な何かを見

落とす危険性は減るはずだ」

 同時に、と続けて。

「最低限の個人情報保護の観念ってのがあるからさ………この方法じゃあ下手するとアンタの思考回路

が向こうにダダ漏れだ。まぁ、その辺りはこっちで調整して、所謂個人的な感想ってのは口に出さない限り

向こうにも聞こえないようになってるから安心してほしい」

「そ、そぉ………ありがと」

 確かにそれは有り難い措置だった。特に自分なんて色々ウカツなことをしょっちゅう考えてしまってるし、

思考回路が全部あちらさんにバレたりしたら現実空間に帰還後、確実に信長にタコ殴りにされるだろう。

「ヒトの精神構造は奥が深い。心理学かじったことあるか? 自分でも認識している自己意識、意識してい

ない深層心理もとい無意識の領域、無意識をも飲み込む超自我の世界………アンタが踏み込んで行かな

きゃいけないのは更にその奥底だよ」

 分かりやすく階層構造で表示するとこうなるかな、と。

 パチンと彼が指を鳴らせば1メートルほど先にポッカリと穴が開いた。階段の入り口らしく、覗き込んでも底

が知れない螺旋状になっている。此処をグルグル降りていけば<超自我>の更に向こう側とやらに行ける

のだろう。

「過去は連綿とした時空の連なり。覚えがなくとも無意識下においては痕跡が残されている―――それを

統括する超自我の向こうの<意識>を引き寄せ、引き寄せた後に内側に刻まれていた記憶の断片を<再

構築>して映像化する。オカルト的な言い方すれば<魂の記憶>ってヤツだナ。この理論を突き詰めれば

過去生だって確認できるかもしんないけど生憎と俺自身は魂の存在や生まれ変わりを………って悪ぃ、話

がそれた。ここまではOKか?」

「あ………うん。ごめん、多分、理解できたよーでいて理解できてないと思う」

「そぉ? 態と分かりにくい言葉で喋ってるから理解できなくていいぞ。いや、むしろしない方が今後のため

かもしんないし」

 あんまりあっさりと少年が嘯いてくれるので、じゃあ説明することに意味はあるのかと日吉は苦笑いを浮

かべた。彼なりにリラックスさせようとしてくれているのだろうと好意的に解釈しておく。

「んじゃまぁ、後は道中で話そうか。先ずアンタに注意しておいてもらいたいのはコレひとつ」

 言いながら少年は中空に出現させたものを日吉に握らせた。訝しげに日吉が眉をひそめる。

「………これ、何?」

「命綱」

「赤いんだけど………」

「じゃあ運命の赤い糸」

「………」

 この少年のズレ具合は故意か天然か。

 実に複雑な表情のまま日吉は手の中の『命綱』をまじまじと見つめた。外見上は赤い糸、だが糸というよ

りはロープと称するに相応しい太さである。よく登山家がロッククライミングなんかする時に身体にロープを

巻きつけているが、それぐらいの太さがあるのだ。色が赤いために妙に毒々しいっつーか何つーか。

「現実世界とは五感を通じて繋がってる。その<接続>が切れたらアンタの魂は永遠飛翔、意識不明でハ

イさようなら、だ。でもどの状態が<接続>されてるのかなんて分かりにくいだろ? だから明確に視覚化し

ておいた。取り合えずこれ握ってる間は大丈夫だから」

「つまりは………この空間上における<接続>の仮の姿?」

「そうそう」

「………ロープじゃなくてさ、その、もっと持ち運びしやすい形、とかさ」

「却下」

「何で? ロープの外見してるのって実は意味があったりする?」

「俺の趣味」

「………」

 もはや突っ込む気力も消え失せた。

 こらー、何やってんだー、とっとと進めー、という外部のヤジを受けて日吉はフラフラと階段へ向かった。

「もぉいい………とにかく進もう………」

「あ、おい。ちょっと待て、これは本当に真面目な注意事項」

 身軽な足取りで子供が駆け寄り、すぐに日吉の前方へと割り込む。足音もなく羽根のように軽く動き回れ

るのはやはり彼が非現実上の存在だからだろうか。仮想現実世界に取り込まれても<現実>の感覚に縛

られた日吉では身体能力だっていつもと同程度にしか発揮できない。

 ピ、と行儀悪く総兵衛は日吉を指差した。

「警告しとく。アンタが命綱を握ってる限りは過去世界でどんな目に遭ったって俺が助け出してやれる。でも

その命綱を離したら………」

「離したら?」

「守りきれない。<探査>が利かなくなるからナ。尽力はするけどリバウンドは防げないと思う」

 リバウンドとは、仮想現実空間上で受けたダメージが現実の肉体に跳ね返ってくる現象を言う。VRボック

ス全盛期においても散々取り沙汰された問題だ。仮想空間で格闘ゲームを楽しんだ子供たちが次々と深

手を負うという痛ましい事件が多発したのである。




「だから―――気をつけて」




 これまで聞かされた言葉の中で、その科白だけはやたら真摯に響いた。

 だから日吉も笑みを浮かべながら真っ直ぐに頷く。

「わかった。この命綱は離さない。何があっても」

 じっと相手の目を見つめながら宣言する。




「離したりしないよ………絶対に」








 螺旋階段を下るごとに周囲の闇が濃くなっていく。それでもどこかに光源があるのか足元はきちんと見え

ていて、でも下りきった先の世界は見通せなくて、踏み出す一歩一歩が妙に重く感じられてならない。

 先導してくれるのはミニサイズの教授としか思えないお子様だ。付き合う内に違いが明確になる『彼』は教

授のデータを基に作られた擬似人格プログラムだという。地下に篭もることになってからこっち、日吉が彼

と話す機会は何度かあったが、その度に不思議な想いに駆られていた。

 彼は『ニセモノ』だと、みんな口をそろえて言うけれど―――。

「あのさ―――総兵衛」

 聞いてはいけないことなのかもしれないと思いながらも問い掛けずにはいられない。

「なんだー」

「え、と………その、ごめん。いま聞いていいかどうかよく分かんないけど」

 先を行く彼の足元には光源に従って影が生じている。現実じゃないなんて思えない。




「総兵衛ってさ―――本当にプログラム?」




 ピタリ。

 瞬間、彼の動きが止まった。




 それは刹那の表情、次の瞬間にはまた変わらぬテンポで階段を下り始める。こちらを振り向いてはくれな

かったが、耳を傾けてくれていることは雰囲気で分かる。

「どうしてそう思う?」

「だってさ………すっごく、反応が個性的ってゆーか。教授のパーソナルデータを基にしてる割りには性格

が違いすぎるし。幾ら残り2割がオリジナルの要素だとしてもさ。大体、オリジナルな部分が存在するんなら

それはもう『プログラム』とは呼べないんじゃないの?」

「まさか」

 少年は初めて日吉の前で声を出して笑った。

「無限に集められた回答パターンの中から反応がランダムで選ばれてるだけだ。独自の考えがあるように

思えても所詮はデータの寄せ集め、認識プログラムが作動させるのは『個性』なんかじゃない」

「だったら人間だってきっと大差ないって。経験の中で培われたノウハウが瞬間的に受け答えさせてるだけ

だよ。幼い頃に人里離れて育てられた子供はなかなか『情』を理解しないって言うし、結局は人間の答えだ

ってかき集められたデータが根幹にあるんじゃないの?」

「人間は人間、プログラムはプログラム。無機物に『精神』を求めようとするのは人間の悪いクセだな。期待

を裏切って悪いけど、誰が焦がれたところで機械は機械にしかなれないよ。どんなに自然に対応してるよう

に見えたって所詮は『紛い物』、そいつの本心なんて、『魂』なんて何処にも存在しやしないんだ」

「でも―――」

 ひどくもどかしい。口ごもって顔を俯けるしか芸がない。

 なにもそこまで頭ごなしに否定しなくていいじゃないかと思うのだ。確かに『総兵衛』の情報処理能力やセ

キュリティ機能は評価するけれど、ただそれだけの存在と割り切るのはどうもやり切れない。




 もし彼が本当に単なる『プログラム』だったなら―――。

 あの、大崩壊の日に。

 『自己』よりも隊員の救助を優先してフォーメーション変更などしてくれるはずがないではないか?




 機械に在るのはプラスとマイナスの損失計上。たとえ隊員を失くすことが戦況に悪影響を及ぼすとCPUが

『計算』したのだとしても、それに伴うプログラム崩壊の危機は『マイナス』に含まれなかったのだろうか。

(さっきだって、魂の存在や生まれ変わりがどうとかさあ………)

 ゴチャゴチャ言おうとしてたではないか。

 輪廻転生を否定したいような口調だった。だが、どうしても否定したいその理由は、『彼』自身が『それ』を

体現してしまったからに他ならないのではないか。

 そんな気がしてならない。

 今度、教授に会えたら一度話をしてみよう。小さく考えがまとまった直後だった。




「着いたぞ」




「―――え?」

 いつの間にか螺旋階段は終わりを告げていた。奥底深くには最初と同じようにだだっぴろい真っ暗い空

間だけが広がっていて何もない。

 いや、何もない訳ではなかった。

 ひとつだけ存在していた。

 大きな大きな―――裏側に何があるのか知れない、重たい木製の、ややこしい文様の彫られた、扉が。

「………」

 背中を冷や汗が流れ落ちる。此処を越えれば、もう、すぐそこなのだ。

 振り向いた少年が淡い笑みを浮かべたまま日吉を促す。




「さあ―――こっから先は、アンタ次第だ」




 それは、過去への扉だった。

 

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あ………あれ………おかしいな、予定したところまで進まなかったですよ………?

本当なら今回だけでもう過去に何があったか判明してたハズなのになー(汗)。

 

思うよーに話が進展しなかった原因はおそらく、ひよピンがやたらと驚き過ぎた所為ですな(笑)。

まぁ<ダイヴ>経験が全くない人がいきなり実行したらあんな感じにはなるでしょーが。あとはあれだ、

何故か日吉と総兵衛が色々とくっちゃべってるからだ(笑)。特に必要のある会話ではないんですが(オイ)

精神論だの存在の定義だのをグダグダするのは書いてて楽しかったです♪

「結局、総兵衛は何なんだよ」って話になりそうですが、取り合えずみょーに人間ぽい反応をするプログラム

とでも思っといてくだされば充分充分v ← それじゃ今までと変わんないですヨ☆

そしてこの会話が実は「現実」にいる信長たちにも聞こえているのが問題です(笑)。

地上の方々は「なに話してるんだよ、あいつらは………」とか思ってたに違いないっすよ、ダンナ。

 

「首都の地下には空洞がある」ってのはオリジナルな発想ではありませんよ〜。これに関する謎本も

結構出版されてます。読んでて楽しかったけど、首都圏の地下鉄路線図が思い描けないワタクシにとっては

かなり難解な話となりました(苦笑)。

 

次回はちょっくら秀吉側の情景を描いとこーかと考えとります。

嗚呼………物語とは遅々として進まぬものよ。苦。

 

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