「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

47.first ending

 


 ―――目指しているものは幾つもない。

 全てが叶えられるだなんて思いやしないが、それでも、絶対に叶えると誓った願いが3つある。








 町を行く人々は穏やかに談笑し頭上からはうららかな春の陽射しが差し込んでくる。のんびりと繁華街

を歩いているがこんな日は手近なカフェテリアでゆったりするのもいいかもしれない。

 無残な傷跡を晒していた町並みもいまやすっかり元通りになっている。其処彼処に戦いの名残が見え

ても気にするほどのことでもない。

 戦いから立ち直ると同時に記憶も薄れて行く。

 それがいいことなのか悪いことなのか生憎といますぐに判じることは出来なかった。忘れてはならない

ことは確かだ。だが、苦しすぎる記憶を抱いて生きていくよりはいっそ忘れ去りたいと願うのもまた人情だ

ろう。覚えていろと強制することも出来ない。自らの思いを等しく他人に共有してほしいと願ったとて限界

があることぐらい分かっている。

 立ち並ぶビルの中でも一際高いビルの前でこれから出て来るであろう人物を待つ。

 5分と待たずに部下を従えて颯爽と登場した影に読みがピッタリだったと密やかに笑った。フラフラと近

づく様はともすれば「不審者」と警戒されかねなかったが、奴の取り巻きもむかしながらの顔馴染みであ

る。気兼ねなど無用だった。

 周囲の重役連に色々と指示と檄を飛ばしていた若社長がこちらを振り向いた。ニンマリと笑いかける。

「―――よ。仕事は済んだか?」

「ふん。終わってなくても問題ねえ」

 なに言ってるんですか社長! と周囲から悲鳴が上がるのも気にせず、五右衛門の問い掛けにやたら

偉そうに信長は答えた。

 ―――宇宙人と称された者たちとの戦いから、既に3年の月日が経過していた。








 あの戦いは果たして何だったのか、と問われればかなりの面々が返答に窮するだろう。

 世間的には以前と同じく突如宇宙から来襲し、様々な被害を齎し、けれども各国が協力した結果、追い

払われたただの外敵だ。

 しかし、一部の者たちにしてみれば敵は宇宙人などではなく『時空改変』を企てていたただの人間だっ

た。額の第三の目も時空の捩れに起因していたのだろう。捩れが元に戻ったいまでは彼らすら『トキヨミ』

の被害者だったと言えなくもない。振り上げた拳を下ろす先が見当たらずに防衛隊の何人が悔しさに歯

噛みしたことか。

 世間は通常の暮らしに戻り、かつての戦いも忘れられつつある。

 だが、完全に忘れ去られるにはまだ早い。事実、自分たちは未だ現実世界の敵と戦っていたし、姿すら

明らかでない敵に戦いを挑むつもりでいるのだから。

 ベンチャー企業として名を上げたも織田連合も社会の中核を担うに至っている。高校を卒業したばかり

の若造が跡を継ぐと政財界に発表された時は株価にもいささかの動揺が見られたが、武田や上杉、斉

藤も支援するとの情報が流れれば一気にレートは上昇へと転じた。

 織田信長は就任するや否や新規事業を次々と打ち出し、しかもその大半に置いて成功を収めた。いま

や押しも押されぬ大企業となった織田連合の勢いは留まるところを知らない。

 マスメディアには彼の大胆不敵な行動や手法ばかりが取り上げられているが、その実、こっそりと人道

支援も行っている。それを勘付かれるのが恥ずかしいから他の仕事を派手にやってるんじゃないかと疑

いたくなるほどコソコソと。

 目下、彼が目指していることは大きく3つに大別されていた。

 1つは会社経営。これはイザとなれば頼りになる部下が大勢いるので何とかならないこともない。

 残りの2つは、と言うと。

「そーいやどうだ? そっちの調子は」

「順調―――と言いたいとこだが結構みんな渋りやがる。見返りを寄越せっつわれたが突っぱねたぜ。

いいんだろ?」

「たりめーだ。これに関しては正道を貫かせてもらうぜ。後から四の五の言わせないためにもな」

 手渡された紙束に目を通して信長は不敵な笑みを浮かべた。書類は文頭から文末までビッシリと個人

の名で埋め尽くされている。著名人と思われるものは目立つ位置に配置されており、一見して何らかの

目的で作成された『名簿』と分かった。

 パラパラとめくって軽く鼻で笑う。

「よーやく例の幹部も署名しやがったか」

「後ろ暗いとこがある連中のがやりやすい。あほ師匠の部下やウチの連中が裏を取るまでもねえ。幸い

ウチの司令は真っ白けだけど、その分、泥を塗りやすい面がある。こっちは地道な草の根活動しか出来

ねぇんだ、頼むぜ大将」

「たりめーだ。小六ひとりに罪ひっ被せてられっかよ」

 ぼそりと呟いた声は車内に予想よりも重く響いた。

 ………かつての戦いの功労者であるはずの蜂須賀小六、は。

 何を思ったか後始末が済むや否や引退を宣言し、後は司法の判断を仰ぎたいと宣言した。これまで苦

楽を共にしてきた五右衛門にすら何も知らせておらず、ニュースでこの事態を知った彼がかなり憤慨した

ことは言うまでもない。ただ、司令が引退を宣言した直後に警察が家宅捜索を実行したことからすると、

相談している暇すらなかったのだろうが。

 罪状は国家反逆、領域侵犯、権威の逸脱など多岐に渡る。

 軍が動かなかったから防衛隊が動かざるを得なかったと言うのに今更何だ、と言いたい。しかし小六は

「向こうの言い分にも一理ある」と身柄の拘束を許してしまった。一応は自宅軟禁だとしても24時間見張

られている状況では塀の向こうと大差ない。面会するにもやたらと手間隙かかる(五右衛門は度々侵入

を果たしているようだが)

 いずれにせよ政府の言い分は理に適っていなかったので防衛隊―――いまは解体されて織田・武田・

上杉など営利団体名義の研究所になっている―――の面子、及び市民団体が激しい抗議行動を起こす

に至った。前述の自宅軟禁にしたって民意の反発を受けて渋々譲歩した結果である。連中としてはせめ

て禁固刑には処したかったところだろう。

 何をそんなに恐れているのか、いや、恐れる理由は分からないではないが、どこまで狭量なのかと失笑

したくもなるではないか。

 やれやれと五右衛門は車内で腕を伸ばす。

「小六が首相になりたいとか金を得たいとか考えてるってワケじゃないのにねえ。後から強請られたくな

いから先に閉じ込めちまえって、どんな政府機関だよ?」

「他人を騙してばかりいる奴は相手も自分を騙そうとしてるはずだと思い込む。小六が誠意をつくしたって

意味がねえ。連中にはそれが見返りを要求する姿勢に映ってたンだからな」

「………うちの司令もそんぐらい分かってただろうけど、よ」

 小六が何も分からずに政府高官と交渉を重ねて来たはずがないのだ。相手が何を考えるか、将来的に

自分がどんな立場に追い込まれるか、理解した上で様々な行動を起こしてきたのだろう。

 おかげで、彼自身は何も悪いことをしていないのに政府の罪状を読む限りでは彼ひとりが悪人のように

思えてくる。せめてもの救いは戦時に於ける小六の演説を一般市民も聞いており、権力を用いても消す

ことの出来ない確かな「証拠」となっている点か。

 法廷での争いも3年目に突入している。勿論、負ける気など微塵もなかった。

 正々堂々と、戦って勝つ。ただひとつ、地下に潜めた秘密があるけれど、これだけは小六の同意も得て

いる。五右衛門が集めてきた民間人からの署名は布石のひとつだ。政財界を巻き込んだ黒い裏側を世

間に見せ付けることになるとしても、真実がひとつも明らかにならないなんて腐り過ぎにも程がある。

 ―――あの日以来、信長が固くこころに誓うこと。

 父から受け継いだ会社を成長させることと、小六の汚名を返上すること。

 それから。

「………取り戻すぞ」

 誰が立ちはだかったって。

 呟けば五右衛門も無言の内に同意を示した。








 丁寧な運転を続けていた車は旧防衛隊基地、現「未来資源研究所」前でスッと停まった。一礼して去っ

て行く社用車を見送り、信長と五右衛門は正門のガードマンに手を振って応えると、専用のIDカードと指

紋で認証を通して基地へと踏み込んだ。

「てのひら奪えば誰でも入れるのかねえ」

「エグいこと考えるんじゃねえや」

 五右衛門の笑いながらの語らいに信長は舌打ちで答えた。

 どんなにセキュリティを高めたところで完全には程遠い。最も、ガードマンやIDカードや指紋認証システ

ム等はあくまで表向きのもので、実際のセキュリティ担当は他に居る。「このセキュリティが破られたら他

のセキュリティだって役に立ちやしないさ」と断言できるほど強力、かつ確実なシステムが。

 受け付けでパソコンに向かって腰掛けていた少女が顔を上げた。

「いらっしゃい。今日は早いのね」

「なんでぇ、今日はお前らが担当か」

「ええ。ヒナタはちょっと席を外しているけれど」

 穏やかに笑いながらもヒカゲの手は止まることがない。どうせまたハッキングとかデータ改竄とか研究

所に出入りした人間の身辺調査とか、モニターを覗き込んだら思わず青ざめるようなことをやっているの

だろう。戦いが終わって後、彼女には武田に戻るという道もあったはずだ。もともと彼女は、自身が時空

改変に携わっていたことによる責任感と罪悪感ゆえに武田を辞めたのだから。

 だが、事態が変わってからも彼女はずっと此処に居る。今更武田に戻るつもりはないらしい。

「ヒカゲちゃーん、紅茶いれて来たよ〜」

 パタパタとヒナタがマグカップを両手にやって来る。来訪者を見つけてちょっと困ったように足を止めた。

彼女の肩に纏わりついていたサスケが一声鳴いてカウンターに着地する。ねだられた五右衛門が笑いな

がらその頭を撫ぜてやった。

「ふたりも来てたんだ! すぐに紅茶もって来るから待ってて」

「いや、要らねぇ。今日はこのまま地下に潜るからな」

「そう?」

 チラリとヒナタの視線は信長から五右衛門へと流れて、ふたり目も同様に遠慮を告げたことで紅茶の提

供は諦めたようだった。

 受け付けにマグカップをふたつ置いてヒナタは微笑む。

「教授と秀吉なら研究室に居るよ。<ロード>が来てたからまたモメてるかもしんないけど」

「りょーかい。注意しとくわ」

 五右衛門がひらひらと手を振った。

 信長は受け取った書類をヨレヨレの封筒に仕舞いながら、五右衛門は手元のリングで今日のシフトを確

認しながら並んで歩く。

 と、廊下を折れて幾らも行かない内に。




「うっせーよ! てめぇの言うことなんざ聞、か、ね、え!!」

「またそんなことを………駄目ですよ、予防接種ぐらいちゃんとしないと」




 聞き慣れた口喧嘩が耳に飛び込んできて、揃って嘆息した。

 3年の月日は様々なものを変化させた。廊下の突き当たりで口論しているふたりの関係もそのひとつに

数えられるのだろうが、にしたって、もーちょい静かな関係にならなかったのかと思わないでもない。

 ドバン! と扉を叩いて少年が部屋から飛び出す。

「あばよっ、重治!! もう二度と会わないからな!!」

 憤懣遣る方ないと言った風情で出てきた少年は、気性の荒さをそのまま現したような鋭い目つきで信長

と五右衛門を睨み付けた。

「………退けよっ!!」

「お前が廊下の脇を通れば済むことだろ」

 平然と信長が返せば舌打ちが聞こえた。以前、あまりに言うこと聞かないこのガキと取っ組み合いの喧

嘩をし、捻じ伏せた戦績はいまも有効らしい。物凄く不満そうにしながらも少年は信長と五右衛門の脇を

小走りですり抜けた。

 部屋の中から遅れて竹中教授が顔を覗かせる。

「龍興!」

 困り果てた表情のまま彼は手の中の帽子を大きく振った。

「帽子、忘れてますよ―――! もう二度と会わないって言うんなら忘れ物なんかしないでください、後腐

れ悪いから! 立つ鳥跡を濁さずとも言いますし!!」

「………っ!!」

 なんだって、こう。

 教授の物言いはあくどいのか。本人は心底、好意から口にしているから尚のこと。ドカドカと物凄い勢い

で戻ってきた龍興が世界記録なみの素早さで帽子を奪い返す。

「返せ!!」

「はい、どうぞ。―――ところで」

 のんびりと教授は首を傾げた。

「実は、明日中に片付けたいプログラミングの仕事があるんです。手伝ってくれると嬉しいんですけど」

「来ねぇよ!!」

「分かりました。じゃあ、お菓子と紅茶を用意して待ってますね」

 全く会話が噛み合っていない。

 そして、恐ろしいのはこのふたりにとってこの状態が基本形ということである。

 仮想空間を仕切っていた<ロード>と<スペルマスター>。これが彼らの『成れの果て』と知れば色ん

な意味で泣きたくもなってくる。

 幼少時より体内に電子ドラッグを埋め込んで自主的な人体実験を繰り返していた<ロード>こと龍興の

身体はボロボロだ。故に様々な浄化作業が必要で、それを出来るのは実力が拮抗している竹中教授だ

けで、けれども<ロード>が素直に従う訳もないからいつもこんな感じで。

 龍興はある条件を提示しており、教授が承諾したならば治療でも何でも甘んじて受けてやると主張して

いるのだが、それは決して教授―――と言うよりは教授の周囲の人間―――が受け入れるはずもない

内容だから結局は遠回りしながら少しずつ治して行くしかない。

 意味不明の罵詈雑言を喚きながら立ち去った少年を教授は笑顔で見送った。

 こんだけ派手に喧嘩していても結局、龍興は明日も此処に来るのだろう。既にして順位の優劣が決定

しているのは日を見るよりも明らかだ。認めないのは龍興本人ぐらいのものである。

「さて、と」

 のんびりと少年を見送ってから教授はあらためてふたりに向き直る。

「どうもいらっしゃい。今日は如何様で?」

「………如何様も何も様子を見に来たんだろーが」

 何処となく疲れた感じで信長はため息をついた。

 五右衛門は室内を覗き込む。机の上や床の上にプリント類がバラバラと散らばっていて、かなり龍興が

暴れただろうことを窺わせた。それでもパソコン類に傷ひとつつけていないのはハッカーなりの最低限の

礼儀なのか、あるいは、教授を本気で怒らせると痛い目を見るという学習能力によるものか。

 手近なプリントを拾い上げて教授は苦笑する。

「VR空間で不穏な動きが見られると『総兵衛』から報告があったものですから、出来れば彼にも手伝って

欲しかったんですけど」

「なんでえ。ウチのセキュリティ担当はそんなトコまで目ぇ光らせてんのか」

「バックアップデータの保存場所に指定してる訳ですし?」

 でもご安心を。あいつのセキュリティ機能はきちんと基地の防衛に回してますから皆さんに迷惑はかけ

ません。可能な限りこちらで処理しますから、といたずらっ子のような笑みを教授は閃かせて。

 倒された机を飛び越えて部屋の奥にある隠し扉へとふたりを案内する。

 信長と五右衛門も同じように障害物を飛び越えて奥へと突き進んだ。

 何の変哲もない壁をノックすること3回、左腕のリングを翳して認証を通す。パックリと開いた壁の穴へ

足を踏み入れれば、其処は更なる地階へと向かうエレベーターだ。照明は天井に取り付けられたライトひ

とつだけと言う薄暗い環境で、3人はそれぞれにエレベーターの壁に背を預けたり目を瞑ったり階数を表

す表示板を眺めたりしている。

 ふ、と五右衛門が教授の背中に目をやった。

「そういや教授、いまんとこ後遺症とかはないのか?」

「お蔭様で」

 兄は心配しているようですけどね、と微苦笑を浮かべながら応える。

「もう退院して随分経ちますし………もし私に影響があるなら、とっくに他の患者たちが発症してますよ」

「それもそーか」

 1年前、竹中博士はついにマナ病の特効薬を開発した。それまで、どんなに実験や調査を重ねようとも

効果のなかった試薬が突如として作用し始めたのだ。これもまた世界の『捩れ』を戻した結果―――もと

もとマナ病も『捩れ』故に持ち込まれた病だった―――と思えば感慨深くならないでもない。

 己への投薬を一番最後にするよう願い出たのは教授なりの気遣いだったのか何なのか。

 独特の高い音を立ててエレベーターが停止する。

 教授が「開」ボタンを押すに任せて信長と五右衛門はひんやりとした廊下に進んだ。地下に増設された

施設はさして広くない。廊下も本当にお情け程度に存在しているのみですぐに目的の一室へ到着した。

 再び認証を通して扉を開ければコンピュータに噛り付いている少年が振り向いた。いままさに飲み干そ

うとしていたコーヒーカップを机に戻して不敵な笑みを浮かべる。

「いらっしゃい」

「相変わらず薄暗いトコで仕事してんな。偶には上に出て来たらどうだ?」

「こっちのが性に合ってます」

 肩をすくめた秀吉は、信長の言葉を受け入れるつもりなど更々ないようだった。

 彼がこの研究所の一室に引き篭もるようになって久しい。もとより優秀ではあったが、あの戦い以降、

勉強に打ち込むようになってから彼はメキメキと頭角を現した。

 研究に専念とするとの名目で高校進学を取りやめた彼は厭世の感ますます強まり、人嫌いも此処に極

まれりな感じになっている。しかも、あからさまに嫌うのではなく嫌いながらでもそこそこ付き合いはこな

せるのだから余計にタチが悪い。ごく偶に開かれる各国の研究者を中心にした会議にもろくすっぽ参加

せず、交渉や情報交換も教授にまかせきりである。

 人嫌いであると同時に権威や名誉も嫌いで、以前に教授と連名で発表した論文がノーゲル物理賞の候

補になった際に「面倒くさい」の一言で式をボイコットしたことはあまりにも有名だ。ちなみに、共同研究者

である教授も「ひとりでは意味がありませんから」と会場を後にしている。一般常識からすれば「舐めてる

のかお前ら」ってな印象である。

 しかしまあ、戦いの後に司令が受けた扱いとかを考えると、一概に彼を非難することも出来ない訳で。

不健康だなあとか良くない兆候だなあと思っても彼が失ったものやその理由を考えると咎めることすら躊

躇してしまう。

 モニターに向き直り、カタカタと片手でキーボードを操作する秀吉のすぐ後ろを教授がすり抜けて、更に

奥の扉へ手をついた。研究所の最深部に位置する『これ』だけは認証システムがもう少々ややこしい。

 コンコン、と強固な扉を叩いて教授が小首を傾げる。

「どうします? 一応、見て行きますか?」

「おう、頼まあ」

 システムの解除を専門家に一任して信長と五右衛門は秀吉へと向き直る。

 ひょい、と横から五右衛門がモニターを覗き込んだ。いまでも現役のプログラマーもといハッカーとして活

躍中の彼である。少しぐらいの内容なら理解は出来た。

「………構築式を変えたのか」

「ああ。時空軸の検出の精度が向上している。各所在点の空間相違距離の算出が異なれば痛い目を見

るのはこっちだからな」

「つまり?」

 以前のようにがなりたてるのではなく静かに信長が促せば、やはり手を休めることなく秀吉が薄っすら

と笑みを刷いた。

「―――下手すりゃ転移先に『物質』があってお陀仏。融合してハイ終了、ってことですよ」

 かろうじて生き延びたとしても生涯を『岩人間』とか『水びたし人間』とかになって過ごすことになるでしょ

うねと、さり気に怖いことを付け足して。どれだけ事実を告げても大袈裟に言い募っても退くことはない。

そんな面子と知っているからこそ秀吉の言葉も明け透けだ。

「なんかデータ探索に引っ掛かったか?」

「以前のは外れでしたからね。………でも、昨日教授と一緒にシステムを全部組み替えましたから」

 だからこそ先刻まで龍興がこの場に留まっていたのだろう。おそらく、バグ取りやシステムチェックに追

い回されていたに違いない。

 ふたりを交互に振り向いて秀吉はニンマリと笑みを浮かべる。

「上手くすれば今夜中にでも新しい時空間波動を検出できますよ」

 警笛にも似た甲高い電子音が鳴り響き、認証システムをクリアしたことを周囲に伝える。奥の扉の前、

ちょっとだけおどけた身振りで教授が敬礼して見せた。開いた扉の奥からひんやりとした空気と、それ以

上の不穏な気配が流れてくる。

 後ろ暗いことはしないと誓っても、道に背くようなことはしていないと思っても、決して世間には公開でき

ないし公開するつもりもない物がある。

 扉の奥に鎮座する漆黒の物体を見上げて信長は目を細めた。

 ―――すべての鍵を握るもの。

 此処まで持ち帰るにはかなり苦労したが、そんなのどうだっていいのだ。ただ、取り戻す手掛かりとなる

のなら。

「なんだって使ってやらあ………!」

 信長の呟きに、誰もが研究所の最深部に安置された漆黒の銅鐸を見詰めて無言で肯定した。








 目指しているものは幾つもない。

 全てが叶えられる訳ではないけれど、それでも、絶対に叶えると誓った願いが3つある。

 父から受け継いだ会社を成長させることと、小六の身柄を解放すること。

 そして。




 ―――ひとり旅立たせてしまった存在を。

 時空の狭間から取り戻すこと。

 

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ひよピンの行方を捜すために銅鐸をこっそり持ってきたってことでヨロシク☆

本来は国に預けるのが筋なのでしょうが、小六の一件もあって旧・防衛隊内における政府への評価は

とっくにデッド・ラインを突破。誰かが隠匿を咎めるどころかむしろ皆で推奨、みたいな。

小六をまったくの『クリーン』な状態で出所させようと思えば危険な道なんですけどねー。

ひとりワリを食って見える司令ですが、彼自身が「いつかは償う」ことを考えながら

行動してたはずなので敢えて捕まってもらいました。

 

今回出てこなかったキャラとか、出てきたけど説明が足りなかった部分についてはエンディングの

スタッフ・ロールで適当に触れるつもりなのでお待ちくださいませ♪(適当なのか………)

 

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