※リクエストのお題:パラレル設定のジョミブルで明るめのもの。目指せラブラブ!
※しかし幾ら書いてもラブラブになってくれず、せめて明るくしようと思ったら何故か無駄に長くなる羽目に。
管理人の悪い癖である(反省しろよ!)
※臨海学校の直後の時間軸とお思いねぇ。
駅前の時計が待ち合わせ5分前を示している。人の出入りの激しい改札前でキョロキョロと辺りを見渡しつつ、時折り自らの服装をチェックして足踏みする。 今日は月1回の一般公開の日だ。そのためか入学の可否を判断するために訪れている親子連れが多く、ともすれば自分の姿は人波に埋もれそうになってしまう。 校内の案内役は任意だ。教員やスタッフに頼んでもいいし生徒が率先して行うこともある。多くはボランティアであるため人手が足りなくて困る場合もままあるのだけれど、自由度が高くていいシステムだと思う。 思うんだけども―――と、あらためて辺りを見渡して。 やや遠目の書店の前で目的の人物が手を振っているのを発見した。途端に表情を輝かせ、彼は大きく手を振り返した。 「ブルー! ここですよ、ここ!!」 ちょこちょこと人波を掻き分けて来る様が何とも愛らしい。傍らに駆け寄ってきた相手はごめんよ、と少しだけ頭を下げた。 「すまない、ジョミー。遅れてしまった」 「とんでもない! 時間ぴったりですよ」 あらためてジョミーは実に朗らかな笑みを覗かせた。 |
ロマンチシズム・リアリズム
ジョミーがブルーと『再会』したのはつい先月のことだ。十都市合同の臨海学校、同年代との交流を主な目的としたそれは確かに大きな『運命』を運んできた。 同じ過去の記憶を持つ人々との出会い。 望んだものも、望まなかったものもあったけれど、総じていい経験だったといまなら言える。とはいえ、彼が自分の傍にいることを選んでくれたからゆったり構えていられるのであって、拒否されていたらどうなったのか等と考えるのも恐ろしい。 「買いたい本でもあったの?」 「親に頼まれたんだ。僕の街では売切れていたからここにあってよかったよ」 優雅に微笑む瞳は真紅。 再会した時と違い表情を隠すこともなく、髪の毛も綺麗に整えている。服装だってこざっぱりとしている。彼の整った姿を見るのはいつだって嬉しい。恋い慕う相手の美しさを再確認するのは楽しい。 が、欠点もある訳で。 「………今日、眼鏡かけてないんだね」 「うん」 聊か以上に辺りを警戒しているジョミーを余所にブルーは呆気羅漢と答えた。 「僕は使えるものは使う主義なんでね。僕の顔は君の周囲の女子を牽制するのに幾らか役立ちはするだろう。次のバレンタインのチョコは確実に減るぞ。覚悟しておきたまえ」 「それはいいんですけどね、ブルー」 ちょっとした嫉妬心のようなもの、もしくは子供を保護する母親のようなもの、以前は露ほども感じさせてくれなかった生の感情を覗かせてくれるのは素直に嬉しい。 けれど、このひとは。 (………影響ありすぎってこと、気付いてないんだろうなあ) こっそりとジョミーは溜息をついた。 彼の容姿が目立つことは紛れもない事実で、ジョミーに気があるのかもしれない女子連中を牽制するのに一定の効果をあげることも確かだ。 だが、それ以上に。 可愛い子だなあとか、運動馬鹿のジョミーが連れて歩くには勿体無い子だなあとか、あとで隙を見て名前を聞き出そうかなあとか、そこかしこから向けられてくる他者の視線が気になる訳であってっっ!! 「ブルー………眼鏡かけてくれませんか」 「どうして? まだ学校の正門が見えたぐらいだよ。僕が想定するところのライバルたちの大半はあの校舎にいるんじゃあ」 「牽制の役割なら充分はたしてますから、お願いです! 僕が浮気するとでも!?」 「―――そうじゃないんだけど」 浮気でなくともヘンな虫がついたら困るじゃないかと、こっちが言いたいセリフを呟きながら渋々とブルーが眼鏡をかける。印象的な瞳が分厚いガラスに隠されてしまえば他から向けられる好奇や好意の視線も圧倒的に減る。 ブルーとてミュウなんだから自分に向けられた不謹慎な感情ぐらい分かっているはずなのに、少しは自衛しようと思わないのだろうか。 「主な目的は牽制だって。それに、僕にヘンな虫がついたところで君が追い払ってくれるんだろ?」 「信用は有り難いですケド僕はこころが狭いんです」 あまりあまり褒められない感情をジョミーは堂々と宣言した。 学校の正門で受付を行い、入館証を受け取る。校内の幾つかの部屋にはセキュリティがかけられており、IDカードがないと通行すらできないのだ。こういう面倒くさいところはどこの学校も一緒なんだねとブルーは苦笑した。 「僕だってめんどくさくてイヤだよ、こんなの。でも実際、セキュリティをかけてなかった時代に本や備品の盗難が相次いだらしいから」 本来なら登録だのセキュリティだの、そんな対策を行わなくとも問題ないのが普通の姿だろうに。導入前は教師連の間でもかなり議論が交わされたと聞いているが、結果的には導入されていまに至っている。それでも僕の学校よりは気楽な対応だよ、と、今度は明るめにブルーが笑った。 「月に一回はこうして一般公開しているんだろう? うちは基本的に半年に一回で、文化祭や体育祭に至っては生徒の身内でなければ入れない。随分堅苦しい校則じゃないか」 「イベントまで完全に部外者立ち入り禁止なんだ」 「例外は生徒会選挙ぐらいかな?」 どうにかなるといいんだけどと呟く彼は現状を憂えているようでもあり、楽しんでいるようでもある。聞く限りではブルーの学校は随分と校則がきついようなのでジョミーとしては同情することしきりだ。 わいわいと賑やかな人波を潜り抜けて先ずは正門から真っ直ぐ進む。 「ここからが校舎だよ。左手が中学で右手が高校! 1階がゲートで2階から5階までが教室。最上階には教員室とか指導室があるんだ」 「校長室も?」 「校長室は一番下だよ。地震があった時に逃げやすい場所にしてるのかな?」 臨時のIDではクラスごとの教室に入ることはできないが、音楽室や礼拝堂、図書室や屋上ならば自由に出入りができる。 礼拝堂に祀られているのは年代モノの宗教画だ。芸術方面に疎い自分にはよく分からなかったが、見学者が多かったり、ブルーが喜んでいたところからすると、かなり名の通った絵画なのだろう。 「複製だとは思うよ。けど、この画は後世に誇るべき作品だ」 彼が喜んでくれるなら自分も嬉しい。この宗教画を学校に持ち込んだという創設者に柄にもなく感謝した。 他にも幾つか小さめの絵画が展示してあったのだが、ブルーはそれぞれの作者をきちんと知っているようだった。興味があるの? と問い掛ければ、興味もあるし、知りたいと思うなら額縁にちょっと触らせてもらえば済むからね、と笑った。 音楽室では鍵盤楽器や打楽器で自由に演奏することもできたのだがブルーは頑なに断った。君が歌えばいい、僕はそれを聴いているからと、やんわりと、けれどはっきりと断る姿勢に少々の疑問を覚える。 「どうして? あなたの歌声が聴いてみたかったのに」 「………夢は夢のままにしておいた方がいいこともある」 「は?」 バイオリン片手にやや俯いている相手の顔を覗きこむ。 ぷいっと顔をそらされた。心なしか頬が赤らんでいる―――ような、気もする。何かあったのかな? と背ける先、背ける先に回りこむと、ちょっとだけ怒った表情で睨まれた。 「―――しつこいよ、ジョミー」 「気になったから。どうして? とってもいい声なのに」 「声がいいことと、だから上手いこととは別問題なんだよ」 「でも」 繰り返し頼み込む姿にとうとう折れたのか。ぼそり、とブルーが呟いた。 「………なんだ」 「え?」 「だから! ―――僕は、音痴なんだっっ」 「―――へ?」 何だかとっても意外な答えが返ってきた。 言いたくなかったのに! とブルーは舌打ちせんばかりの態度を見せているが、その、それは、そんなにも気にすることなのでしょうか。 音楽室をとっとと退散したブルーは渋々と説明する。 「………まだ君がいなかった頃。保護したミュウの子供に子守唄を歌ったことがあったんだ」 「シャングリラで?」 「うん。親と離れたばかりで心細いだろうと、知識でしか持ち合わせてない子守唄を歌ってみたんだ」 あくまでもそれはブルーなりの善意や優しさから生じた行動だったのだ。 ところが。 「歌いだした途端、保護した子は泣き出すし、落ち着いてたはずの子まで泣き出すし、年長者たちは気分が悪いと訴えるし、窓は割れるし船は揺れるし………!」 どんな子守唄ですか。 と言うか、歌うついでにサイオンまで解放してたとしか思えないのだが。 「でも、皆があなたに向かって音痴ですねって言った訳じゃないんでしょ?」 「言えると思うのかい?」 半歩先を行くブルーが振り返る。 そりゃ………いまよりも更にカリスマ性に秀でていた過去ともなれば流石に、直接意見することは憚られたかもしれないけれど。 「以来、僕は歌うことを自らに固く禁じたのだ。頼むから僕に音楽的才能を求めないでくれ」 「えっと、でも、いまのブルーならきっと問題ないよ。ね?」 おねだりしてみても相手は首を横に振るばかり。こりゃ長期戦を覚悟しなきゃ駄目だなあとジョミーは考え直した。 「僕はともかく、フィシスは歌が上手いよ。毎年開催されている十都市合同の音楽コンクールを聴いたことは?」 「ありません」 「だったら今度は聴いてみるといい。フィシスはコンクールで毎年上位に入賞している」 「え! そうなの!? 知らなかった………!」 芸術方面に興味を持っていれば早々にフィシスと再会できていたのかと項垂れる。だって、彼女に会えていたならば、芋づる式にブルーとも再会できていたかもしれないではないか。 またしても思考が漏れていたのか芋はひどいなあとブルーが軽く声を震わせた。 そういえば言ってなかったかな? と、ついでのように振り返り。 「その場合、君は僕よりも先にキースに再会していた可能性が高いね」 「なんでそこでキース?」 思わず寄った眉間のしわを人差し指で小突かれる。 「フィシスとキースは姉弟だ。片方と出会ったらもう片方と出会うのも必然だろう?」 「姉っ………!?」 これには流石に吃驚した。聞いていなかったにも程がある。 確かブルーはフィシスに一番最初に会ったと言っていて、その後は家族ぐるみで付き合いが続いていると言っていて、じゃあ何か、その「家族」ってのは即ちキースのことか、どうして黙ってたんだ教えてくれればいいのに! グルグルと巡るジョミーの思考を追っていたのだろう。やや申し訳なさそうにブルーが視線を落とした。 「すまない。あの時はまだ、君がどんな反応を示すか分からなかったから………」 その後の出来事を考えるとあの時点で素直に打ち明けておいた方がよかったのかもしれないね。すぐ隠し事を設けてしまうのは僕の悪い癖だ。 ぼそぼそと呟きながら階段をのぼるブルーの背中が実にさびしげで遣る瀬無くなる。 たぶん、ではあるが。 半ば以上は本心であっても幾許かは演技も含まれている―――と、思うのだ。幸か不幸か、自分はこのひとが実は腹黒いのだということを知っている。もうこの辺りは「惚れた者の負け」って感じなんだろうなと最近では受け入れつつあるけれど。 意趣返しとばかりに「歌ってくれたら許してあげます」と告げたら苦笑された。彼が真実、音痴だろうと何だろうと、自分が聞けば美しい音色と思えるだろうから心配することはないのに。 「僕は、無自覚にサイオンを垂れ流している可能性を憂えているんだよ、ジョミー」 「僕だったら防げますよ」 「―――君がサイオンを完全に制御できるようになったら考えよう」 彼のセリフは尤もだった。 しかし、制御できるようになるためには特訓が必要だ。その訓練に彼は付き合ってくれるだろうかと考えていたら、急にブルーが歩みを止めた。階上に視線を注いでいた相手は楽しそうに振り返る。 「どうかしましたか」 「君の友達が来るようだ」 階段を下りてくる足音が響いたのはその直後で。 影の正体に気付いたのはその数秒後。周囲で声が反響して存在に気付きにくかったのだろう。見慣れた金髪の少女と、栗毛の少年がやや驚いたように声を上げた。 「よう、ジョミー! こんなとこに居たのかよ」 「探してたのよ」 「サム! スウェナ!」 手を振り返すまでもなくふたりはトコトコと近くにやって来た。 サムが上を指差して。 「さっきカリナたちに会ったぞ。お前、部室に行くって約束してたんじゃねーの?」 「ああ、これから行くつもり―――そっか。もう待ってるんだ、ふたりとも」 ブルーにふたりを紹介しようと思って前日から声をかけておいたのだ。何時に行くとも伝えていなかったのに早々に待機してくれているらしい。先輩としては出来る限り速やかに駆けつけるべきだろう。 スウェナが興味深そうにジョミーの背後に目をやった。 「ジョミー、後ろの方はだぁれ? お友達?」 「ああ、このひとは―――」 「はじめまして。ブルーです。よろしく」 紹介するより先に、当人がすっと前に出て手を差し出す。 にこやかに。 眼鏡を外した状態で。 「ブル―――ッッ!!」 あんなに言ったのに!! とジョミーは光の速さでブルーの手を鷲掴むと一足飛びに階段を駆け上がった。 |
中途半端に切ります(苦笑)
使いたかったのはブルーの「僕の胸を触ってもらうのと〜」発言だけだったはずなのに、
どうしてここまで長くなっているのやら。苦。
ちなみに、この騒動の後もブルーの性別は不明なままですv(待て)
たぶんにジョミーは紆余曲折の果てに知ることになるのでしょーが、
読者さまはお好きな方でご想像くださいv(決めるのが面倒だったとも言(ry))