※リクエストのお題:キースとブルーの関係について(微妙に違う)

※とりあえずパラレル設定で考えていたら何故か大学生ぐらいまで年代がスキップすることに。

※相変わらず殺伐としたふたりです。

※しかし書く度に思うのですがひょっとしてウチのブルーさんがより親近感を覚えているのはジョミーではなくて以下省略。

 

 

 

 室内に響くのは微かなさざめきとピアノの音色。ほどほどに照明の落とされた食卓はぼんやりとした蝋燭の灯りに照らされて幻想的な色合いを湛えていた。
 窓の外に広がる高層ビル群。はるか下方を過ぎ去る高速道の眺めを何と例えればよいのだろう。
 と、まあ、このように非常におとなの雰囲気漂う有名料理店ではあったのだ、が。
「この店はワインが美味しいことで有名らしいよ。肉料理には赤ワイン、魚料理には白ワインが常道らしいが、さて、君はどちらを選ぶ?」
「………どちらでも構わん」
「わかった。ならば両方頼もう」
「待て。誰がそんなことを頼んだ。それ以前に我々は未成年だろう」
「黙っていればバレはしない」
「誰が知らずとも自身が一番承知している。この状態で貴様は天の神々も照覧あれと言えるのか?」
「なかなか厳しいね。じゃあ、生ビールをジョッキで」
「貴様はひとの話を聞いているのか!」
 ―――隅のテーブルを占拠したふたり組みの会話は、あまりにもそんな雰囲気からは程遠い内容なのだった。




 どうしてこんな目に遭っているのだろうと、今日だけで何度目かになることをキースは考えた。
 そもそもの始まりは大学の帰りにブルーが突然現れたことであり、訝しがるこっちを余所に「今晩暇かい?」と問うてきたかと思ったら答える前に連れ去られ、あれよあれよと言う間に高級レストランに押し込まれた。せめて家族に連絡のひとつも入れさせろと拒絶すれば先手は打ってあるとばかりに「フィシスの許可ならもらったよ」と答えられた。
 あまりの脱力っぷりに逆らうのも馬鹿らしくて同じテーブルについてしまったが、よくよく考えてみるとこうして無理矢理に連れ出された経験が既に両手・両足の指では足りない回数になっていることこそ問題なのかもしれなかった。
 こういう処は打ち解けた親友か、あるいは恋人と来るものではないのかと睨みつければ「恋人を呼び出す前の下調べは当然だ」と至極まじめに返された。
 つまるところ、付き合ってもう何年になるか考えるのも面倒くさい彼の恋人のために自分はいいように引きずり回されているのかと、しかも諦めて従うに至っているのかと、考えれば考えるほどに眉間に皺が寄る。
「知らない店に博打打の覚悟で飛び込むのも一興ではないのか?」
「恋人の前では見得を張りたいものだ」
「素直さを前面に押し出した方が奴は喜ぶだろう。大体、貴様は肉料理が苦手なくせにどう下見をすると言うんだ」
「だから君を呼んだんじゃないか」
 分かってないなあ。食前酒を手にしてブルーは薄っすらと笑う。
「君とジョミーの味覚はかなり似通っていて参考になる。君が美味しいと思うなら9割方ジョミーも美味しいと感じてくれるのだ。経験に裏打ちされた確かな真実だよ」
「余計な真実だ」
「それに、君は嘘が吐けない」
 にっこりと笑ってブルーは正面席、やや斜めの位置に置かれたキースのてのひらに己が手を重ねた。
 したり顔で頷く。
「ふぅん………この食前酒は甘すぎる、か。でもジョミーは甘党だから丁度いいかもしれない」
「いちいち感情を読むな」
「君に美食家なみの伝達スキルは求めていない」
 だからこうして素直な感想を『聞いて』るんじゃないかと正面席の相手は悪びれる様子もない。
 それに怒ったところで態度が改まる訳もないと知っているからキースもさして追求しやしない。きっとそんな点もブルーは「都合のいい奴」と考えているのだろうと思えば心中複雑ではあるのだが。
 食前酒に続いて運ばれて来た前菜を食べながら夜景を横目にやれやれと溜息をつく。
 恋人を誘う前に下調べをしておきたいという考えも分からないでもない。恋人だからこそ意地や見栄を張りたいのだとの主張だって理解できない訳ではない。生憎と自分には未だ恋人らしい恋人もいなかったが、いつか、唯一絶対と呼べるほどに大切な存在ができたなら、掌中の珠のように扱おうとするはずだから。
 しかし。
 それに自分を巻き込むのはやめてくれないか。
 ブルーは何一つ頓着していないようだが奴の外見は無駄に目立つ。高校に上がってからは伊達眼鏡もやめて常に真紅の瞳を晒し、長めの髪をゆるく肩に流している。それだけでも随分と色気が増すのだから全く持って美人は得だ。
 性別不明の年若い美人がやって来たと思えば正面席の男の手を握ったりからかったり―――傍から見た際にどんな関係に見えていることやら。
「ひどいな。目立つのは君の所為でもあるのに」
「こころを読むなと言っている」
「表情だけで分かるさ、それぐらい。伊達に何年も君と付き合ってきた訳じゃない」
「目立つのは貴様の所為だ。何故、眼鏡をかけてこない」
「どうせ君がいれば目立つのだもの。隠したって意味はないだろう?」
 首都大学の主席の君だもの、黒髪と切れ長の瞳が素敵だと女性陣が騒いでいるよと赤い瞳を眇めて性質の悪い笑みを浮かべる。
 スープを飲もうとしていた動きを止めてほんの一瞬だけ視線を交わす。
「―――かくいう貴様も随分と好き勝手に動いているそうじゃないか」
「おや」
 知っていたのかい? と彼は嘯く。
「貴様の作品はネット上の規制の対象になっている。が、一向に消え去る気配がない。当局としても頭が痛いはずだ」
「イチ芸術家の作品にそんなに目くじらたてなくてもいいのにね。ネットに流出させたのは僕ではない。僕の意志を勝手に代弁している『誰か』だ。民衆を扇動するのは本意ではないよ」
 くつくつと笑いを零す相手は以前にも増して腹黒く、小賢しく、孤高になっている印象がある。果たしてあいつはこいつのこんな姿を知っているのだろうかと、ほんの少しの良心をもとに金髪の知人の将来を案じてみた。
 数年前から絵画や写真や短編フィルムをぽつぽつと発表している正体不明の芸術家。
 ひどくこころに訴える『何か』を宿す作品の数々に不特定多数の人間が望んで溺れていくのは、なるほど確かに、『彼』の意図したところではないのだろう。
 それでもキースは口を開く。
「知りつつ止めないのであれば貴様自身の意志と勘違いされても仕方がない」
「分かる者は分かっている。それにね、未だ当局は僕に辿り着いてはいないんだ。君が僕の正体をばらさなければいましばらく身の安全は保障されている」
 それよりも先を憂えるべきは君じゃないのかね、と矛先を逸らされた。
「大学の学長選挙で候補が二分されているのだろう? 君はどちらに味方するのかと皆が注目している」
「どちらに味方するつもりもない」
 ややうんざりした気分でキースは到着したばかりのメインディッシュに手をつける。
 途端、ブルーに握手を求められ、食事の間だけで何度目になるのかと更に気が滅入った。ジョミーには恋人の管理はもっとしっかりしろと伝えねばなるまい。
「誰が学長になろうと五十歩百歩。趨勢は変わらん」
「君は動かない、と」
「こちらの意見ばかり求めるのはやめてもらおうか。大体、何故、常に連中は命令を待つんだ。不満があるなら動けばいい。指導者が欲しいだと? 尤もらしい理屈を捏ねて責任を押し付ける先を探しているだけだ」
 視線を細めて窓の外の夜景を睨みつける。
 正しくは、ガラスに薄っすらと反射した己の姿を睨みつける。不機嫌極まりない表情をした、退屈そうな青年が不貞腐れたように『何か』を見据えている。
「愚者を導くつもりはないってことかい」
「愚者が愚者を導こうなど片腹痛いという話だ」
「―――そうかい。でもね」
 何故かこんな時ばかり正面の人間はやたら優しい声を出してくる。騙されてしまえば、絆されてしまえば楽なのだろうと思わせる空気を滲ませて、ろくでもないことばかりを告げてくるのだ。
 ろくでもないことなのに、内容はある程度の真実を含んでいるから簡単にあしらう事もできやしない。
「君が動かなければ血が流れるよ」
「………何故そうなる」
「単なる学内の派閥闘争なら君が高みの見物を決め込んでいようと文句は言わない。しかし、事はそれだけではすまなくなっているのだ」
「大学を支配したところで得られる利権は少ないのでは?」
「要はエミッサリーの代理戦争さ」
 パンを細かく千切りながら赤い瞳の人物は呟く。
「穏健派と強硬派の対立と言い換えてもいいかもしれないね。首都大学の支配権を得たならば地方の改革にも手を出しやすい。教育は社会に多大なる影響を及ぼす。理由などその程度で充分ではないのかな」
「その程度、か。くだらない」
「くだらないものだよ。人間なんて」
 見下げ果てたような科白を吐きながらも瞳は悲しみと優しさに揺れているからどうにも性質が悪い。いっそ全ての言葉を額面通りに受け止めて「なんと傲慢な人間だ」と呆れていられれば良かったのに。
 逸らし気味だった視線を元通り正面へと戻した。
「―――どちらが勝っても血を見るならどうしろと? 今更、第三者を候補として擁立しろというのか」
「無理だね。けれど、ある程度のことは出来るだろう。いずれにせよ君は現時点の首席として何らかのコメントを求められる。一言、二言、思わせぶりなことを告げて政局を混乱させてやりたまえ」
「煽る心算か」
「勿論」
 片方だけを擁護することなく互いの矛盾点を炙り出し、連中が『総長』と『副総長』の身分を分け合うことでそれなりの落ち着きを取り戻せるように。
 もとより君は今回の選挙に不満を抱いていたはずだと告げながらブルーは一枚のマイクロチップを取り出した。テーブルに伏せたまま差し出されたそれを忌々しい顔をしながら受け取る。
 中身にはなんとなく予想がついていた。
「両派の粛清リストか?」
「君はどちらからもブラックリスト扱いされてる。有名人は大変だね」
 味方に引き込めないならば敵になる前に始末してしまえばいい。
 肉体的に抹殺できずとも、登録コードひとつ消去するだけで社会的には消し去ってしまえる世の中だ。暗殺の術は時代がどれだけ移り変わろうとも消えることなく残っている。
「生き延びたまえ、キース」
 頬杖ついたまま穏やかにブルーは微笑んだ。
「両陣営の襲撃をかわして選挙後まで生き残りたまえ。それこそが最善の策だ」
「―――共通の敵がいる限り、連中も手を組まざるを得ないということか」
「個人で敵対するには大きすぎるとごねるかい? 君が逃げても責めはしないよ」
「最初から手を貸すつもりがない貴様に言われたくはない」
 オレばかりを『社会の敵』として行動させるなと睨んだところで目の前の人物の腹黒さが改善されるはずもない。
 社会に反発している心算はない。が、中高を通じて生徒会長として行った内容や発言が、いまもって注目されているのは確からしい。上と下の均衡を取ろうとしていたはずなのに何故そう捕らえられてしまうのかとキースとしては首を捻るしかないのだが。
「君は体制を体現するものであると同時に体制への反逆者でもある」
「貴様の方が適任だ」
「君は表舞台に立つ。僕は裏で好きにやらせてもらう」
 誰の所為で表に立つ羽目になったと思っているのか。確かに半分以上は自発的なものではあったけれど、どうにも騙されている感じは否めない。
 眉根を寄せて持ち上げたグラス越しの蝋燭の火はひどく曖昧なものだった。
「―――メリットは」
「ここの食事代ぐらいなら出さないでもないよ」
「全額か」
「まさか」
 半額だよ、と笑いかけ。
 指切りをするように右手の小指をこちらへと差し出した。

 


ハーフ・ハーフ


 


「選挙後も君が生き延びていたらもう半額を払うよ。それでどうかな?」
「………安い命だ」

 

 


 

わかった、これはツンデレよ! ツンデレなのよ!!(※問題発言)

 

「エミッサリー」は、まあ、都市の代表の役職名とでもお考えいただければ。

なんとなくではありますが、このブルーさんは「恋人」ならジョミーを選ぶけど、「仕事仲間」とか

「相棒」としてならキースを選びそうな気がします。一緒に腹黒いことをやれる関係。

ブルーさんにとってジョミーは聖域だからなー。

 

こんなんですが、少しでも楽しんでいただければ幸いですv

 

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