※リクエストのお題:ちょっとはラブな方向に進展したジョミブル。コミカルなもの。

※ラブなはずがただのじれったいふたりになりました。つまりはいつも通り。 ← オイ

※いつもの転生パラレル設定だとお考えください。

※にしても微妙に時系列が複雑なことになってるぞ、これ。どないしよう。 ← オーイ。

 

 

 



ああ、神様、僕だって。

ちょっとはいい目を見てみたいんです。





 空は晴れ渡り絶好の行楽日和。のどかに天を舞うかもめを見上げて思わず飛びたくなったが、流石に一般人の前でそんな真似をしたら大騒ぎになることぐらい理解している。
 行き交う人々はみんな笑顔で、親子連れも多いが、恋人と思しきふたり連れやクラスメート仲間と思われる集団も多い。綺麗に開けた海岸線から伸びる真っ直ぐな橋は果てがないように感じられる。
 にっこりと笑って隣を振り向いた。
「ブルー、誘ってくれてありがとう!」
「偶々チケットが余っていたからね。でも、喜んでくれてよかったよ」
 同じく微笑み返してくれるのは再会してからまだ然程経っていないブルーである。今日は互いの学校が休み、前回はフィシスたちも誘って動物園に行ったが、今度は是非ともふたりだけで何処かへ出かけたいと考えていた。休みが重なることをフィシス経由で突き止めて、どんな理由で誘おう、何処へ行こうと悩んでいたジョミーのもとにチケットを携えたブルーがやって来たのは一昨日のことである。
 チケットは最近、人気上昇中の注目スポット『グレート・ブリッジ』の通行券だった。名前の通り巨大な橋が真っ直ぐに海へと突き出し、数キロ先の水族館まで続いている。「エノシマみたいなものだよ」とブルーは語ったがジョミーにはよく分からなかった。
 基本的に車や二輪車の通行は不可、ひたすら歩くしかないこの橋の何が人気かと言うと、最近の健康ブームもさることながら、天気さえよければ風に煽られて舞い上がる水滴で虹が間近に見える点にあった。道のところどころには休憩所が設けられて大道芸を見れたり、近海でとれた新鮮な魚を料理していたり、ネットで有名な正体不明の芸術家『A』の作品が置かれている辺りもポイントが高い。
 じわじわと人気を増しつつある『グレート・ブリッジ』の通行券はなかなか入手できないことでも有名だったから、どんな方法で券を手に入れたのか気になりはする。しかし、やたら頑固でプライドの高いブルーに尋ねたとて素直に答えてくれそうにない予感がしたし、チケット代金は食事代やお土産代で相殺すればよいのだと自らを納得させた。
 早速ゲートを潜って橋を歩き出す。天気はまたとない晴天、もし難癖つけるとしたら海上だけあって風が強いことだろうか。身体の軽いブルーなんて下手したら飛ばされてしまうかもしれない。
(その時は………いや、その時こそがチャンス!)
 ガイドブック片手に楽しそうにしているブルーを横目に密やかに拳を握り締めた。いつも通りのグルグル眼鏡とぼさぼさ頭だが今回ばかりは彼の格好に感謝しておこう。かつて他の天体に居た時の如く煌めかしい姿を太陽の下にさらされていたらとてもじゃないけど落ち着いて観光なんて出来たもんじゃない。
 とにかく、今日という今日こそは是非とも果たしたい目的があった。
 それは―――ブルーと手を繋ぐことである。まあその、いままでだって一緒に並んで歩いたり手を繋いだりしたことはあるのだが、やっぱりこういう「デートだなあ」という環境で堂々と自分から手を繋げるようになることこそが理想なのである。
 男の子なんだから夢はでっかく! と、ジョミーは実にささやかな野望を抱いた。
「売店も色々あるようだね。皆にお土産かってかないと」
「僕もサムやスウェナに何か買ってかないとなあ。お勧めってある?」
「定番で行けばイルカクッキーとかブリッジ大福だろうね。この前、雑誌で特集されてるのを見たよ」
「ブルーでも雑誌なんて読むんだ」
 少しぐらいはね、とクスクス笑いを返される。
 のんびりと日の光を浴びながら進む行程は楽しいものだ。しかして一方ではブルーの隙、もといタイミングを探っているジョミーは妙な緊張感に包まれてもいた。話す時はできるだけ相手の顔を見るようにしているのだが、ともすれば視線が下へと流れていく。いかんいかん、これでは何を期待しているのか駄々漏れではないか。や、そんなこと言ったらもともとこのひとはサイオンで心理なんて読み放題なんだけど、と実も蓋もないことを考えつつ。
「あ、ジョミー。あそこで美味しそうなジュースを売ってるよ。飲みに行かないかい?」
 ―――チャンス!
 売店を示すブルーの指先に着目、すかさずその手を奪って「奢ってあげるよ」と囁くべく動き出した瞬間。

 カ―――ン!!………

 やたら甲高い音と共に何処かから飛んできた空き缶がジョミーの頭にクリティカルヒットした。
「いっ………!!」
「だ、大丈夫かい、ジョミー」
 何だか物凄い勢いで飛んできたね、とやや引き気味にブルーが話す。頭を抱え込んだ体勢では彼の手を握るなど望むべくもない。一体誰が! と咄嗟に周囲を見渡しても居るのはイチャイチャバカップルばかりで端からこちらなど目に入ってもいない。おそらくは恋人との会話に熱中するあまりに誰かが適当に投げ捨てたのだろう。あるいは誰かが置き忘れたのを海風が吹っ飛ばしたのか。
 いずれにせよマナーがなってないことこの上ない。ぶつぶつとぼやきながらジョミーは空き缶を傍らのリサイクルボックスへ投げ込んだ。
 困ったように眉根を寄せたブルーが顔を覗き込んでくる。
「本当に大丈夫かい? ジョミー。痛かったら我慢しないで言うんだよ」
「あまり心配しないでくださいよ。僕は石頭なんで全然問題ないです!」
「そう? ふふ、じゃあ、痛みを我慢したえらい子のために僕がジュースを奢ってあげよう」
「え。え、や、その、それは僕の―――」
 役目なんですけど………と言う暇もあらばこそ。
 軽やかに走り去ったブルーは早々に会計を済ませ、ジュースを両手に抱えて帰って来た。
「はい。君のはランプータンオレンジ味だよ。ちなみに僕のはパイナップルアボガド味だ」
「すいません、それは本当に美味しいと有名なジュースなんですか」
「美味しいんじゃないかな? まあ、ものは験しだ」
 促されて口につけた飲み物は意外と美味しかったが、具体的にどんな味でしたかと問われれば返答に窮するような微妙、もとい絶妙な喉越しだった。
 何れにせよ一回目の野望は絶たれた。次こそはの決意のもとに更に先へと進む。
 続いて目に入ったのは芸術家の卵たちの作品展示ゾーンだった。屋外なので絵画は置いておらず、彫刻がメインだ。周囲にはちょっとした人工芝が設けられているのでお弁当を広げている家族もいる。駆け回るこども達の笑い声はシャングリラでの生活を思い起こさせ、懐かしい気持ちを抱かせた。
 ブルーも同じ思いなのだろう。走り回るこどもやベビーカーで眠る赤ん坊と母親を見詰める眼差しは優しい。
「やっぱり平和が一番だ。そうは思わないかい、ジョミー」
「そうですね」
 いとおしむように目を細めるブルーに同意を示しつつ、しっかりとジョミーは機会を窺っていた。
 なんか、いい雰囲気じゃない?
 すごくいい雰囲気じゃない?
 でもここでいきなり「ブルーはこどもが何人ほしい?」なんて尋ねたらドン引きされるに決まってる。いきなり何を言い出すんだいと軽く流してもらえればまだしも憐れむような目で見られたりしたらきっと一時間は立ち直れない。更には「僕とジョミーの子かい?」と返されたならいい方で、天然な彼のことだから「フィシスはいいお母さんになりそうだよね」と明後日な回答をもしかねない。
 グルグル考えていたらいつの間にかジュースを制覇してしまった。お昼は絶対に自分が奢ることにしよう。ブルーも飲み終えたようなので、揃ってカップをゴミ箱に叩き込みつつ、虎視眈々と相手の隙を窺うことは怠らない。
 もう少し海寄りで歩こうかとブルーが隣をすれ違った瞬間。
 ―――二度目のチャンス!
 眼光鋭くも素早く手を伸ばし即座に相手のやわらかそうなてのひらを―――

 バサァッ!!!

「………」
「………だい、じょうぶ、かい………ジョミー」
 前触れもなく吹っ飛んできたピクニックシートにジョミーは見事に潰された。狙い澄ましたかの如く、自分とブルーの間に割り込むように。
 フルフルと震える拳を努力で抑え、どうにかこうにかシートの中から這い出した。せめて頬が引き攣っていないといい。先刻の空き缶と相まってついてないことこの上ないが、この程度で怒り心頭するようなココロの狭い男だなんて思われたくはない。
「あー………ははっ………大丈夫ですよ、ブルー………あなたこそ平気でしたか?」
「僕はかぶらなかったからね」
 でも、何処から飛んで来たんだろうと不思議そうに小首を傾げる。大きめのピクニックシートは通行人の邪魔となり、自然と衆目を集めてしまっている。
 一先ずシートを折り畳んでいると、ちょっと離れたところで使っていたらしい母子がやって来た。
「申し訳ありません! まさか風で飛ばされるだなんて思ってもみなくて」
「いいえ、大丈夫ですよ」
 しきりに恐縮する母親に丁寧に畳んだシートを手渡した。彼女の足には年端も行かない女の子がしがみつき、じっとこちらを見上げている。にっこりと笑いかけたらそっぽ向かれてしまった。人見知りなのかもしれない。
 親子に手を振って別れ、また歩き出す。橋の基調はややくすんだ白で、太陽光が反射しても眩しすぎないように配慮されている。寒くもなく、暑くもないやわらかな日差しが人々の影を地面に描きだし、時に風が舞いあげる波飛沫が清涼さを感じさせた。
 とりあえず、少し間を置いた方がいいのかもしれないと、手近な店で買ったハンバーガーを揃って頬張った。今度はジョミーの奢りである。レストランはすごく混雑していたし、お弁当を持ってくればよかったかもしれないねと話しつつ、密かにジョミーは「あのブルーが民間人の食事を!」とよく分からない部分で感心していた。だって、かつてのミュウの長がハンバーガーとか。ファーストフードとか。不健康の代名詞によく挙げられるようなものを。衝撃。
 ポケットから懐中時計を取り出したブルーが「少し急ごう」と先を促す。
「何かあるんですか?」
「さっきの芸術作品群の続きだよ。このブリッジには『A』も作品を提出しているんでね」
「『A』って………匿名で活動している芸術家の名前でしたっけ」
 不特定の人間を示すそれを「名前」と評していいのか少々疑問であったとしても、全く姿を現さず、作品のみを発表し続け、ID管理社会において正体を特定されぬまま何年も経過している「彼」の存在は現代におけるちょっとしたミステリーであった。
 歩調を速めたブルーの後ろをついて行くことしばし、人だかりにぶち当たる。家族連れとかカップルとか中学生の団体とか多種多様だが、彼らもまた『A』の作品を見に来たのだろうか。の、割には辺りには彫刻もなければ絵もない。訝しがるジョミーの背中を押してブルーが「ここが特等席だよ」と群集からやや離れた位置に陣取った。
 はた、とブルーが手を打つ。
「そうだ、ジョミー。君は濡れても問題ない格好?」
「僕ですか? 海辺ですし、風強いって予報でてたし、濡れても大丈夫だと思いますよ」
「ならよかった。ところで君は、『A』の作品を見たことはあるのかな」
「うーん、正直に言うとあまりないんですよ。噂には聞いてるんですけどね」
 美術館に足を向けるよりもサッカーや野球の観戦に行く方が多かったものでと恐縮すると、君らしいと笑い返された。
 手にした懐中時計で時刻を確認し、ブルーが真っ直ぐに天を指差す。
「時間だ」
「うわ………!」
 突如、橋の欄干から突き出した幾本ものノズルが海水を勢いよく吸い込み、吐き出した。降り注ぐ水飛沫は激しくないけれど、周囲を霧状に覆われてしまっては濡れることは避けられない。
 なんだなんだと困惑するままに上を見て、ジョミーは感嘆の声を上げる。
「すごい………!」
 虹、が。
 もとから『グレート・ブリッジ』は虹が間近で見れるとのことで有名だった。
 けれど、きっとこれは、それとも違う。
 水が飛ぶ毎に宙に虹が浮かび上がり、幾重にも重なって複雑な文様を描く。風向き、ノズルの向き、太陽の位置、すべてが上手く当て嵌まらないとこんなに綺麗な真円の虹を拝むことは叶わない。
 すごいすごいとはしゃいでいたジョミーは、ふと、傍らのブルーが嬉しそうにこちらを見ているのに気付いて我に返った。
「ご、ごめん。自分だけ騒いじゃって」
「いいや。君が楽しそうにしているのを見れて、僕も嬉しいよ」
 降りかかる優しい水飛沫の中で服も髪もしっとりと湿らせながら、眼鏡の奥の瞳を緩める。
 ねえ、ジョミー。君が何を考えているかは知らないけれど、僕は君に、いつまでも君らしくいてほしいよ。素直に泣いて、笑って、喜んで、時には怒って、あの頃には願うことすら叶わなかった色んな表情を見せて欲しい。俯かずに前を向いていてほしい。月並みな言葉になるけれど、

「君は僕の太陽なんだから」

 にっこりと、照れる様子も逃げる様子も誤魔化す様子もなく。
 嘘吐きな彼の正直な言葉。
 なんの衒いもないことは僅かに背後で揺らめくサイオンからも感じ取れた。
 彼からの好意を嬉しく感じながらも、やはり、今日の意気込みやらちょっとした意地やらが手伝って、ジョミーは少しだけ頬を膨らませた。
「………あなたはずるいです」
「どうして?」
「僕が言おうとした台詞を全部とっちゃうじゃないですか。だから、ずるい!」
 きょとんとしたブルーは、次いで、実に楽しそうに笑い声を上げた。クルクルと舞い落ちる太陽の光、周囲の歓声、冷たくない海水、心地良い風。
 ならばもうひとつずるいことを教えてあげようとかつての長は笑う。
「今日の君は空き缶だのシーツだのにやられていたが、災いを事前に避けることなんて簡単なんだよ」
「え?」
「サイオンを使いたまえ。周囲にバリアーを張って上手く調節すれば器物だけ避けることとて可能だろう」
「―――そ、それは、あなただからできることです!」
 僕がサイオンの制御苦手だって知ってるくせに!
『A』の作品はそろそろ上映を終えるのか、ノズルから噴出す水も徐々に勢いを落とす。僅か数分の華やかな芸術。ブルーはこれを見せるために自分を此処へ誘ったのだろうか。そうであるならば、本当に、感謝してもしきれない。嬉しい。
「更に言うならば、僕は、君が何を考えているのか大体わかっていたよ」
「まさか、読んだんですか!?」
「君の考えぐらい察せられるよ。そして、何も言われずとも君の考えを理解できることこそが僕の一番の誇りなのだ」
 前髪を滴り落ちる水滴をハンカチで拭ってからブルーがジョミーに手を差し伸べた。
 眼鏡の奥、赤い瞳がやわらかく揺れる。
 多少の反発を抱えながらも、ああ、やっぱりこのひとには叶わないと素直な賞賛も抱きつつ、伸ばされた右手を押し頂いて。

「エスコートしてくれるんだろう? ジョミー」

「………勿論です」

 いつも、いつでも、いつまでも。

 


ハンド・ハンド・ハンズ


 


あなたのその手を取るために。

 

 


 

ジョミーにぶち当たった空き缶もシーツも実は全部ブルーがサイオンで操っていた説(オイ)

ラブな方向に進展、どころか退化した疑惑もある(………)中学生日記で申し訳ないっす!

以前に何処かで書いた気がしますが、このシリーズのブルーって男の子か女の子か決めてないために

地の文で「彼」や「彼女」という代名詞が使用できないという妙な制限が(苦笑)

ジョミーの頭の中では「ブルーはおとこのこ!」ってなってるから今回はいいんですけどねー。

 

こんな話ですが、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います〜。

リクエストありがとうございました♪

 

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