※リクエストのお題:『地球へ』、転生後のブルーの性別ネタ。

※微妙にジョミーが素直すぎてアレかもしれません。そしてブルーはたぶん腹黒です(笑)

 

 

 


 それは、ある日の昼休憩のことだった。

「なあなあジョミー。お前、最近やたら綺麗な子といるよなー。あれって彼女?」
「え?」

 友人のサムにそう問いかけられ、ジョミーは僅かに首を傾げる。
 綺麗な子。
 綺麗な子と言われて瞬時に思いつく知り合いはひとりしかいない。

「ひょっとして、ブルーのこと?」
「名前は知らないけどさ。髪が薄い水色っぽくて、肌が白くて、目が赤い子だよ。昨日、ショッピングモールの書店前で話し込んでた」
「ああ」

 それなら間違いなくブルーのことである。
 自分の学校とブルーの学校は聊か離れているが、都合のつく限りは会いに行くようにしている。従ってふたりが話していたのは別の都市の書店であったのだが、何故サムが現場に居合わせたかと言うと、サッカーの交流試合の申請に出かけていた為らしい。偶然とは面白いものだ。
 チャイムと同時に購買に駆け込んだ戦果であるやきそばパンにかぶりつく。

「ブルーは彼女じゃないよ。そもそも、ブルーは男の子だし」
「え? まじ? あんなに綺麗なのに?」
「あんなに綺麗なのに」

 真顔で頷くと牛乳パックを片手にサムが「うへあ」と声を上げた。
 彼が驚く気持ちはわかる。かつての記憶をたどってみても何故かミュウは揃いも揃って美形であった。特に、ブルーとフィシスという『対』のふたりに関しては美しさというか威厳というか、いっそ宗教の偶像にも似た厳かさがあってジョミーはいつも感心していたものである。

「良かったらサムも一度ブルーに会ってみる? あんなに男らしい性格をしたひとは他にいないよ」
「あら、そうなの? ちょっと意外ね」

 会話に割って入ってきたのは、丁度、クラブの集まりから戻ってきたスウェナだった。
 ふたりの後ろの机に陣取って慌しく弁当を広げる。休憩時間はもうすぐ終わりだ。
 パンの包みをグシャグシャとまとめ、教室後方のゴミ箱に向かって投げ捨てると上手いこと箱の枠内におさまった。「よし!」と握り拳を作ってから改めて振り返る。

「意外って………何が? ブルーの性格が? あれ? スウェナはブルーに会ったことあったっけ」
「会ったことはないわ。だから性格のことじゃなくて―――私もふたりが歩いているのを遠目に見かけたことがあるんだけど」

 女の子だとばかり思ってたわ。サムとおんなじね。

 クスクスと少女が笑いを零す。
 サムに引き続き、勘が鋭そうなスウェナにまで同じことを言われてジョミーは少し戸惑った。

「ジョミーがすっかり打ち解けてるから最初は男の子かなって思ってたの。でも、それにしては線が細くて丸みを帯びてるし、華奢だから、ああ、女の子なんだなあって」

 女の子の口から「細い」だの「丸みを帯びている」だのと言われると居心地悪く感じてしまうのは何故だろう。
 そのすぐ後にチャイムが鳴って、話はすぐに流れてしまったのだが―――ジョミーの胸には微かな疑問が残されたのであった。




 ―――数日後。

 例によって休日を利用してブルーの居る街まで遊びに来て、一緒にカフェテリアで軽食を取っている時に、ジョミーはふと友人達との遣り取りを思い出した。
 静かにコーヒーカップを傾けるブルーは実にスマートだ。いまは伊達眼鏡をしているから道行くひとすべてが振り返る、なんてことはないけれど、洗練された所作だけでも見惚れる人間は後を尽きない。
 自分が注文したサンドウィッチに手を伸ばし、素直に問いかけた。

「ねえ、ブルー」
「なんだい、ジョミー」
「ブルーって女の子なの?」
「………………うん?」

 眼鏡の隙間から澄み切った赤い瞳が覗く。
 相変わらず綺麗な色だなあと見蕩れながらも先日の友人との会話を打ち明けた。
 なるほど、急な質問だと思ったらそういうことだったのかと、ブルーは呆れとも笑いともつかぬ溜息を吐いた。
 次に響いたのはサイオンを利用しての『声』である。

(ならば問おうか、ジョミー。君が考える男性と女性の違いとは何処にあるのかな)
(え? それは、その………体格とか、声とか、あと、赤ちゃんが産めるかどうかとか?)
(そうだね。それらは確かに分かりやすい男女の差ではある)

 にこりと微笑まれ、何故だかジョミーは学校で講義でも受けているような気分になる。
 あれ。おかしいな。
 僕は今日ブルーのところへ遊びに来たのに、どうしてこんな雰囲気になっているんだろう。

(ジョミー。ジェンダーの違いとは実にデリケートで難しい問題なのだ。実際、ここまで科学が進んだ現在においては体格も声の高低も瑣末なものなのだよ。アスリートを見てみたまえ。女性でも筋骨隆々なひとはいるだろう。数多のアーティストを見たまえ。男性でも高い声を出せるひとはいるだろう)

 ましてやこどものことに至っては、ね。
 様々な事情から「産みたくても産めない」ひとはいるのだ。
 この手の話をする時には相手と周囲に充分以上に注意するのだよ。

 そう告げられて、ジョミーは気軽に口にした己が身を恥じた。
 ブルーがわざわざ肉声ではなくサイオンに切り替えたのも、ふたりの会話が偶々聞こえる距離に、「それ」に当てはまるひとが居る可能性を案じるが故であろう。
 反省の色を見て正面でゆったりとブルーが笑みを浮かべる。

(とは言え―――その辺りを意識することは大切なことだよ。男であれば強くあれ、女であれば優しくあれ、そんな偏見とも先入観ともつかぬものを押し付けられるのは業腹であれ、「一般社会」の概念を理解していなければ日常生活は侭ならない)
(うん………分かるよ)
(正直に言うとね、ジョミー。おそらく僕の感覚は未だミュウの時のままなのだ。あの頃の僕らは母体を介することなく命を授かっていた―――君がナスカで原点回帰させたけれど―――『僕』はね、少なくとも、そうだったから)

 僕は君の行動を知って素晴らしいと感じた。
 すべてを『マザー』に決められるのではなく、自らの意志で相手を選び、命を授かり、愛を育むのだ。
 そして、だからこそ。

「僕は、君にどっちと思われても気にはしないよ」
「え?」

 唐突に肉声に切り替わったこと以上に、その発言内容に、ジョミーは目を瞬かせる。

「男だろうと女だろうと、君は強くて優しい。素直で明るいし、笑顔も可愛い。真っ直ぐなところも、元気なところも、例え何らかの原因で君が女性に生まれ変わろうとも全ての特徴が消え失せてしまうことは考えられない。そうである以上、僕が君を好ましく思う要素は性別に因らないと考えられるのだ」
「ブ、ブルー!?」
「僕は君を『君』という個体で認識し、好ましく思っている。君は………違うのかな」

 不意に紅の瞳が憂いを帯び、ジョミーは慌てて身体を乗り出した。

「そんな! そんなことないよ! 僕だって、ブルーがどうなったって絶対好きだし!」
「うん。ありがとう」
「本当だよ! 信じてよね!!」
「もちろんだよ、ジョミー。僕は君の愛情を疑ったことはない」

 だから落ち着こうか、と窘められて、ジョミーは赤面しながら姿勢を改めた。
 そうとも、ここはカフェテリア。
 あまり大声で叫んでは余計な注目を集めてしまう。

 ごめんね、と一言告げてから、もう一度サンドウィッチに手を伸ばす。
 ブルーの穏やかな視線を受けて、本当につまらないことを聞いてしまったと反省する。

 自分がブルーを『ブルー』として大切に思っているように、ブルーもまたジョミーを『ジョミー』として認めてくれているのであれば、性別など大した問題ではない。
 だって、ブルーならきっと、例えジョミーが生まれ変わって鳥になっても、魚になっても、地を這う蛇になっても、地下で暮らすモグラになっても、『ジョミー』と認めてくれるに違いないのだから。
 自分が愛したのはその魂であり、外見によるものではないのだと。
 何らかの理由でブルーがふためと見られぬ姿に成り果てたとて、その魂がある限り何ら憂い迷うことはないのだと。

 強くこころで思い、ジョミーはにっこりとブルーに笑いかけた。
 コーヒーカップを傾けながらブルーも優しく微笑み返してくれる。

 それだけでもう、些細な疑問など頭から消え失せていた。

 


ユーノウ・アイノウ


 


(結局、明確な『答え』が与えられた訳ではないのだとジョミーが気付くのはまだまだ先のこと)

 


 

最終的には煙に巻かれてどちらかは明言されていないという(笑)

転生後のシリーズではブルーの性別は出来る限りどっちでも取れるようにしておきたいと思っています。

固定しちゃった方が明らかに書きやすいとは思うんですけどねー。人称代名詞とか!

 

こんな話ですが、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。

リクエストありがとうございましたー♪

 

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