『そうだね』 「だと言うのに君は相変わらず顔が青白い。もっと健康に気を配りたまえ」 彼、は椅子に腰掛けてコーヒーを飲みながら低く笑う。 彼、に出会ったのは本当に単なる偶然だった。 その後の出会いは自分から訪れたくて訪れた。彼、ならばもしかして―――自分たちと、人間の、架け橋になってくれるだろうかと思えたから。 彼、は自分と会ってもあからさまに拒絶することはなかった。 ―――嗚呼。 この、管理が行き届いた世界において、それがどれだけ貴重な感情か分かるだろうか。 彼、はいつも笑いながら告げる。 「この論文を発表して君たちの存在が公にされた暁には、是非とも君たちを検査させてもらいたいものだね。何が君たちの寿命を延ばしているのか? 何故、君たちは体力的に劣っているのか? 研究者として興味は尽きないね」 『………うん』 言葉だけを捕らえればアルタミラの学者連中と同様の捨て台詞。 けれども隠し切れない心配、好意、気遣い。 今日こそが彼、の晴れ舞台。 ふと彼、が表情をあらためた。 「なあ、………頼みがあるんだが」 『なんだい?』 「君たちが世間に受け入れられるまでは永い時間がかかるだろう。もしかしたらこの先もずっと、受け入れられることはないかもしれない。だが、それでも」 君たちは、と。 唇が動いた瞬間。 咄嗟にサイオンで相手を弾き飛ばす。 足元に散らばるのは、真紅。 「………せよ、―――が、―――!!」 「は、見つけ―――射殺………!!」 ドア付近に渦巻く多くの声、人、人、人の気配。つい先刻までは微塵も殺気を感じさせなかった特殊訓練を受けた兵士たち。 「………に、を………て、る………」 『僕、は―――』 「く―――」 伝わらないはずの言葉が思念を通じて伝わってくる。 ………つたわってくる。 ―――にげろ。 にげるんだ。 もうすぐやつらがここにやってくる。 ―――はやく。 扉が破られる。銃口が一斉にこちらを向く。 最後に見たのは、流れ弾を受けて飛び散る彼、の赤、だった。 静かな。 静かな、蒼い部屋に最初に響いたのは共に歩んできた仲間の気遣わしげな声だった。 「―――僕は、大丈夫だ。ハーレイ」 「一体、何が………」 眉をひそめてみせる相手に。 「ハーレイ。彼が、―――死んだよ」 淡々と答えのみを示せば息を呑まれた。思念で先触れするでもなく、言葉を濁すでもなく、ただ事実をあるがままに。 「………そう、でしたか」 静かに立ち上がり、彼に背を向けたまま室内に満ちる水面へと目を向ける。 手袋に覆われたままの右手を見遣り、少しだけ、瞼を閉じた。 ―――いつからだろう。 悲しみに泣いていたはずの己がそれだけでは泣けなくなったのは。 嗚呼、何と言うことか、最早この身には。 報われない願いを抱く程、体制への反抗を露にする毎、呼び掛けても応えない世界への絶望より先にかつては当たり前だったはずの泣くほどの激情や哀切や後悔や憤りの全てが、 |
028.こうやって少しずつ奪われて行くのだ
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原作で「偶にできた理解者もすぐに殺されて」みたいなセリフがあったので適当に捏造(待て)。
ジョミーと知り合うより遥か前に、有望な協力者を失っちゃったブルー、かもしれない(おい)。
彼は50年に1回泣けばいい方らしいので………。
本来のブルーはもっと腹黒いっつーかちゃっかりしてるからこんな簡単に支援者を
殺されたりはしないと思うんですが(笑)そこは見逃してくださると有り難いっす。