「転生なんて馬鹿げている、そうは思わないかい?」

 目の前の人物は淡々とした声と表情でそう答えた。




「そもそも人間とはかなりの部分を思い込みだけで生きているそうだ。例えば、『既視感』という言葉があるだろう? 以前に自分は此処に来たことがある、同じ言葉を聞いたことがある、あの人を知っている気がする、そんな感覚だ。だがそれらのほとんどは単なる思い違いか勘違いに過ぎないのだそうだ」

 木々の合間から差し込む日の光が大地に疎らな円を描いている。
 穏やかな光―――ホンモノの太陽の光。
 かつて彼が求め、自分が与えたいと願い、叶わなかった光を共にいま浴びている。

 それなのに。

「話を戻そうか。そう、君の話だ。君は僕に会ったことがあると言ったね? 君の記憶において僕は『導く者』であり、最後まで添い遂げることが叶わなかった者であり、再会を誓った相手であると。百歩どころか一万歩ほど譲ってそれが事実だったとして、だ。君がその記憶や思い出を『こちら』に持ち込む利点はあるのかい? 過去の記憶や想いに縛られて『いま』が制限されるのであれば虚しすぎる。ただの弊害だ。要らないものだよ」

 かつてと同じ声で、かつてより幼い姿で、彼はそんなことを告げる。

 嗚呼、―――自分は。

 物心つく前から存在するこの想いが邪魔だなんて考えもしなかったが、もしかすると彼にとっては不要な記憶で、煩わしい想いで、それ故に記憶を『維持する』ことすら放棄していたのだとしたら。

 自分は其処まで不甲斐ない後継者だったのかと胸が締め付けられる。




 あなたに向けた想いはあなたの枷にしかならなかったのでしょうか。

 あなたを慕うことも願うこともあなたの意志に反していたのでしょうか。

 あなたを『此処』へ連れて来れなかったことを怒っているのでしょうか。




 覚えていたのは自分ひとりだけなのかもしれない。
 いつか出会える未来を夢見ていたのは己だけなのかもしれない。
 偶然にも参加したこの合同臨海学校で―――彼は、その印象的な瞳を、姿を、わざとらしく隠していたけれど見間違えるはずもない。

 ひとめ見た瞬間に抱きついて泣き出した己の態度は彼にとって迷惑でしかなかったのか。

 言葉に詰まり俯いた傍らで彼が静かな苦笑を零した。




「それでも―――ね。君に『再会』できたことを、僕は嬉しく思うよ」




「………!」

 弾かれたように顔を上げる。
 かつてと異なり同い年の相手が、かつてと同じやわらかな笑みを浮かべている。

「望めば苦しいだけの記憶など捨て去ってしまえたはずなのに―――仕方のない子だ」




(でも、覚えていてもらえたことがこんなに嬉しいなんてね)




 思念で伝えられた言葉には偽りもなく。

「………ブルー!!」

 ああ、間違いない。
 帰ってきたんだ―――今度こそ。

 力任せにしがみ付くと「きついよ」と笑い返された。

 


058.パーフェクトブラック・ブルーローズ(1)


 


「あらためまして宜しく、レイン」

「ジョミーです!! あなた本当は全部わかって言ってるでしょう!?」

 

※WEB拍手再録


 

疲れきった脳みそでパラレルを考えるとロクなことにならないとゆー好例。

タイトルは総じて「有り得ないもの」の意。

だってそのまま転生なんて有り得ないやん(お前………)。

 

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