もう、直接に声を聞くことがなくなって随分と経つのだ。

 ベッドに転がって薄暗い自室の天井を見上げながらぼんやりとそんなことを思い返す。

 あのひとの眠る部屋はもっと広くて、青白い光に包まれていて、どんなに気が立っていてもあの部屋に入るだけで自然とこころが落ち着いた。

 それは、彼のこころが穏やかだったからだろう。
 仲間たちを率いて脱出したり、船を乗っ取ったり、誕生し続ける仲間を救うために潜入操作を行ったり、決して、決して、穏やかなだけのひとではないのだけれど。
 記憶の中に思い浮かぶ表情は、穏やかな笑みと、ほんの少しだけ本心を覗かせてくれた時の悲しげな瞳で占められている。

 あの、印象的な瞳を見ることが叶わなくなってからどれほどの時が流れたのだろう。

 力に目覚めて以来、己の身体に訪れる成長の兆しはひどく緩やかだ。
 緩慢ですらある時間の流れに押し潰されて、忘れたくないものまで忘れそうで、為すべきことを間違えそうで―――時折り。

 妙に、怖くなる。

 ゆっくりと両腕を掲げて、何もない宙で、強く拳を握り締める。




(………教えてください)




 あなたの望みは何なのか、本当の願いは何なのか、どうすれば喜んでくれるのか。

 想いを伝えて欲しいと託された。
 けれどもいまの自分は、その託された想いさえもどうやって伝えればいいのか分からないでいる。呼びかけは拒絶をもって返された。良かれと思ってやったことが裏目に出るばかりで。

 だから、どうすればいいのか分からない―――分からない。




(応えて………、ください)




 何をすべきなのか、仲間たちを何処へ導くべきなのか、戦いに疲れた精神をどう和らげれば。

 幾度も、幾度も、話をしたけれど。
 いつだって肝心な部分はこころを遮蔽していた。尋ねても明確な答えを示すことはなく、「君は君のやり方でみんなを導けばいい」と、優しい声と穏やかな笑みで伝えるばかりで。

 嗚呼―――思えばその頃から彼の瞳は閉ざされたままだったのか。

 両腕を顔の前で交差させる。
 深く深いまどろみの中、青い星を夢見ているだろうひとに幾ら呼びかけたところで返るものはないと知りながら。
 ようやく君を見つけることができたと微笑んだ彼の言葉がありながら。

 夢を見るのではなく現実の言葉で支えて欲しいと願う己はどうしようもなくこどもなのだろう。

 目を閉じて、きつく唇を噛み締めた。

 


095.涙にまぶたを閉じたところで


 


 

アニメ10話を見て「せめてこれぐらいは悩んでほしいよなあ」と思いながら書いたら出来上がったシロモノ。

でも11話を見たらちゃんと悩んでくれてたからちょっと申し訳なくなってきました(苦笑)。

他所様でも似たような作品がいっぱいUPされてるでしょうが、まあ、いいや。 ← オイ!

 

管理人が想定したところの主人公の心境に基づき、反省する場所はブルーの寝室(青の間?)ではなく

敢えて自室に設定。キャラの読み込みが足りない面は大目に見てくらはい………。

 

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