最後に残されたものは「希望」だった。

そう、それは。

誰にとっても確かな「希望」だった―――。

 

 

 


 遠くで建物が崩れ行く音が聞こえる。

 目の前は薄い暗闇に閉ざされている。

 いや、違う。おそらくはもう外界の様子を感じ取っているだけで、実際には『聴』こえておらず、『視』えてさえもいないのだ。
 それが証拠に、傍らに倒れているはずのキースの気配すらもいまは遠い。




(けれど―――)




 満たされている。

 思い残したことは何もない。

 死はもっと冷たく、激しく、逃れようのない恐怖を運んでくるものばかりだと思っていた。
 この手で吹き飛ばした人間たちの最後の思念、逃げ切れずに殺された仲間たちの叫び、それらが伝えてくる感情は等しく恐怖と後悔と未練に塗り潰されていたから。

 ふわふわと水の中を漂っているような感覚。

 ああ、嗚呼。

 もうすぐこの『こころ』はこの場から離れ行くのだろう。

 そうやって精神を解き放てば、思い出すのはいつも、いつも、運命を運んできたひとのこと。




(………ブルー)




 僕、は。

 あなたとの約束を守れましたか。
 あなたの想いを地球へ伝えることが出来ましたか。
 あなたが守りたかったものを守り通せたでしょうか。

 少しばかりの気懸かりがない訳ではない。
 地表を狙うメギド、暴徒化した人々、船に残された仲間達。もう、自らの力で守ることは出来ない。救うことは出来ない。

 それでも、こんなにもこころが凪いでいるのは―――。




(ああ、………そうか)




 やんわりと微笑んだ。

 梢から覗く木漏れ日のごとく。




(あなたも、そうだったんですね………?)




 自らが其処にいなくとも、自らの命は残らずとも、自らは儚く消え行くとも。

 意志を継ぐ者がいる。

 想いを伝えてくれる者がいる。

 それだけで、それだけが、どれほどの救いとなることか。




 ―――怖くなど、ないよ。

 身体が消えても、意識が遠くなっても、何も感じられなくなっても。

 想いを継いでくれる誰かがいるのなら。




(トォニィ………)




 僕が選んだ後継者(僕が選んだ、大切な)

 僕が意志を託した者(導いてくれる)

 かつて自分がブルーから受け継いだものを彼もまた感じてくれているはずだ。彼がいるから、彼が想いを継いでくれるから、そう信じられるから。

 このこころは、こんなにも満たされている。




 君が生きろと言ってくれたから(僕は生きることが出来た)
 君を選んですまないと思っている(けれど、ありがとう)
 君がみんなを導くんだ(俯かずに)




 彼の願いは自らの想いとなり次代へと受け継がれていく。
 受け継いだ者たちもいつかは朽ち果て、いずこかに屍をさらすことになるのだろう。

 それでも、尚―――絶えることなく。




(………)




 薄暗かった世界はいつの間にか明るくなっていた。水中から太陽を見上げるかの如く、視界を覆う光に緩慢な瞬きを繰り返しながら。

 ひどく、―――眠くて。

 研ぎ澄まされていたはずの感覚も遠く、いまは、懐かしい母のかいなに抱かれているかの如く。

 親しき友の声が傍らで響くかの如く。

 理解しあえた戦友と共に歩むかの如く。

 後を託した者たちに見守られながら、先を行く、先を示す、切なくも恋しいあの影へと―――。




 いよいよ拡散していく意識の中で、はっきりと。

 目の前に浮かんだ光景にジョミーは微笑んだ。



 


いつかの風景


 





青く美しい星よ 宇宙に浮かぶ希望の光よ

あなたの傷が癒えるまで あなたが再び我々を受け入れてくれる日まで

遠く待つとも想いは尽きずに








いつかあなたの胸に抱かれながら永遠に巡る夢を見てみたい



 

※WEB拍手再録


 

私的24話お疲れ様話。

「ブルーがお迎えに来てくれるよ」エンドは余所様でたくさん読めるだろうからと

敢えてブルーを登場させないマイ・クオリティ(どんな意地ですか)

勢いだけで書いたんで細部は大目に見てください………。

 

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