※リクエストのお題:ギンコさんから見た化野先生。

※最終回後をイメージして書いてたら何だか小難しい話になりました。

※結局なにが言いたかったのかよく分からないのは拙作のデフォルトです(開き直るな)

※いや、ホントすいません………。

 

 

 

 一歩踏み出すごとに足の下で踏み潰された草が鳴る。既にしてひとの足で踏み鳴らされた道を行くとも植物の強さに敵うものではない。
 すぐに、生え、すぐに、蔓延る。
 木々の合間をすり抜けてくる潮の香りに僅かに目を細めた。山も近ければ海も近い。暮らしやすい場所ではあると思いながら肩の荷を背負い直し、一旦は止まっていた足を再び動かし始める。
 途中の分かれ道で少しだけ迷った。
 右に折れれば、山ひとつ越えるまで町に辿り着くことはない。
 左に折れれば、物好きな医家の住む町に辿り着く。
 ある意味では金蔓扱いしている酔狂な人物に会って行くべきか会わずにおくべきか、普段ならさして頓着することでもないのに妙に考え込んでしまう。
 僅かな逡巡。
 ひとつ、溜息。
 おもむろに左手に折れて歩むことしばらく。
 のんびり縁側で茶を飲んでいる人物とばったり目が合った。何も頓着せず向こうは手を上げる。
「よぉ。久しぶりじゃないか、ギンコ」
「………ああ。久しぶりだな、化野」
 観念したようにギンコも手を振り返した。

 


061.狭間に立つもの


 

 ゆらゆらと蟲除けの煙が室内にくゆる。何も知らねばただの嗜好品と思しきそれも、ひとたび、その職業が絡んでくれば認識は変わる。
 蟲師。
 滅多に会わぬとも必要とされる存在。
 多くは蟲を退治することで生計を立てているが、中には変わり者もいる。無論、必要に応じて退治したり追い払ったりすることはあれど、あくまでも共存を説く物好きもいる。傍からすれば「見えないもの」を見て「わからない」理屈で決着を着ける存在だ。薄気味悪いと感じる人間がいてもおかしくはない。
 しかしまあ、「それ」で言えばこいつは最初から嫌悪感を抱くどころか興味津々だったなとギンコは煙草をくゆらせながら考える。
 立ち話も難だから先ず上がれと縁側近くの一室に案内されてしばらく経つ。律儀にも自分の手で茶を淹れてきた化野がやたら嬉しそうに座布団の上に腰を下ろした。
「それで? 今日は何かあったのか?」
「何かって、何がだ」
「例えば―――土産話になるような何かとか。面白い品が手に入ったとか。いつものようなことだ」
 言われてようやく気がついた。
 確かにこれまでは珍品や高級品が手に入った際にここを訪れていたし、そういった目に見える品がない場合は四方山話が土産の代わりになっていたし、あるいは単純に蟲絡みでこの近辺を訪れたこともあった。
 しかし、今回は別に「寄ろう」と考えて足を向けた訳ではないので。
「いまあるもの、か………河童の木乃伊とか」
「………」
「猿の手とか」
「………」
「蜥蜴の尻尾とか―――」
「おいおい。大丈夫か、ギンコ」
 流石の化野も呆れたような声を上げた。
「如何なオレでも以前に聞いた法螺話を忘れるほど呆けてはいないぞ。これまでならどれほど胡散臭くとも何かひとつぐらいは土産や用件があったろうに。まさか用事もないって言うんじゃないだろうな?」
「ないと言えばない、な」
 あっさり答えればやたら不思議そうに首を傾げられる。どうやら自分は余程おかしな態度を取っているらしい。自覚がない辺りが更に重症か。
 がりがりと頭を引っ掻いた後に、化野は片眼鏡ごしにこちらを伺い見た。
「何か、あったのか?」
「んあ?」
「半分ぐらい蟲の世界に足を突っ込んでるような顔をしている」
 珍しくも真顔で告げられて。
 胡坐をかきなおした。
「………別に」
 あったと言えばあったし、なかったと言えばなかったのだ。
 本当に。
「―――ヌシに任じられたひとの行く末を見た。それだけだ」
 かつて。
 進んでヌシの跡を継いだ老人の最期を見届けたことがある。ひとがヌシとなるのは辛すぎると、くちなわを呼んで人々の記憶と共に消え失せた。
 だが、先だっての出会いは―――。
「根源にあるものがひとをヌシに任じた。ひとと蟲との繋がりが完全に絶えた訳ではないと知って………嬉しかったよ」
 穏やかな風が頬をくすぐる。
 微かに聞こえてくる子供らの声に、僅かばかり目を閉じた。
「なら、どうしてそんな憂鬱そうにしている。嬉しかったんならもっと喜べ」
「そう単純な話じゃなかったんだ。ヌシは自身に関する何かを願ってはいけない。さみしさやつらさやよろこびを感じ取ってはいけない。だが、そんな完璧な無私の状況に誰がなれる。………ひとがひとである限り、無理な話だ」
 ゆっくりと茶に手を伸ばして一口啜る。
 話している内に気がついた。
 ああ、―――そうか。
 つまるところ自分は、ひとと蟲の繋がりが目の前で絶たれたように感じてしまい、それが哀しくてならなかったのだ。
 黙って耳を傾けていた変わり者の医家は、眉根を寄せた後に蟲師と同じように茶を啜った。
「それは―――当たり前のことじゃないのか?」
「は?」
 口に触れようとしていた湯飲みの動きを止める。
「ひとはひとだし、蟲は蟲だ。お前さんの説によれば蟲が木の根っこでひとは枝葉で、繋がってるのは確かなんだろうが、だからって根っこと葉っぱを見間違えるほど蟲もひとも盲目じゃないだろう」
「あのな、化野」
 根本的なところですれ違っているような気がする。のだ、が。
 医家は自身のてのひらをもう片方の手で指し示す。
「ひとから見た蟲が異形であるように、蟲から見たひとは異形ではないのか。だからお前が言うように、向こうからも『どうしてこうなるんだ、理解し難い』という反応を返される」
 医家はにやりと笑みを深める。
「もとより、異形だからこそオレのような好事家が食いつくのだし」
「自覚があるのか」
 誰のお蔭だと苦笑された。
「ひとはひとに過ぎないからこそ蟲に興味を持ち、好意を抱くことすらある。で、だ。向こうだって、こっちが異形に過ぎるからこそ興味を持ってくれているのかもしれん。今回は―――幻滅されたのかもしれんが、な。無関心こそが敵ならば好奇心は是非ともお越しいただきたい感情だ」
「連中にひとのような俗世的感覚があるとでも?」
 あったら自然界はもっととんでもないことになっている。
 無欲、とも無私、とも異なるが。
 彼らの中に有るのは本能と言うべき感情のみで、それはひとの感情と比すべきシロモノではない。『ひと』と同じ枠に分類することが不可能なほどに根と枝葉は切り離されている。
 それぐらいはオレも分かっている、だが、断絶することも無理だろうさ、と珍しくも彼は言葉を重ねて。
「ギンコ。オレは『ひと』の医家だが、お前だって『蟲』の医家のようなものではないのか。ならば、この『患者』は手に負えないと匙を投げるより先に『患者』の意思や状況を判断すべく努めるべきだろう。でなきゃ完治も遠くなるばかりだ」
「―――」
 手にした煙草が終わりかけているのに気付き、残り少ないそれを縁側に続く庭に散らした。
 何と返したものかと若干悩みながらも、先刻までの落ち込みから立ち直りつつある己を自覚して苦くない苦笑を零した。
 確かにこの医家は好事家で、物好きで、酔狂で。
 手を出してはいけないものにまで手を出してしょっちゅうしっぺ返しをくらっている。医家であるからにはひとの生き死にも頻繁に目の当たりにしているだろうに、どうも暢気に見えるのはヘンなものばかり好む収集家の印象が強いためか。
「オレは医家じゃないぜ。化野せんせ」
「似たようなものだと言っただろ」
「蟲師は狭間にあって取り成すものだ。蟲を治すとはおこがましい。向こうは『自然』そのものだからな」
 新しく取り出した煙草に火をつける。
 遠く、鳥が鳴く声に耳を傾けながら風の流れを、日が翳ってきているのを感じた。

 まあ、―――そういうものなんだろう。
 と、思った。
 ひとも、蟲も、『そういうもの』なんだ、と。

 世の中に色んな蟲がいるように、ひとにも色々な者がいて、己が蟲の冷静な視線でひとを見ることがあるように、こいつがひとの持つ好奇心を基に蟲を見ることもあるのだろう。
 繋がりは、ある。
 確かに。
 どれほどに離れて行きそうであったとしても繋がっている。
 くつくつと笑いを零しながら新しい煙草のけむりを吸い込んだ。

 嗚呼、―――空が。高い。

「そういや―――土産、ひとつだけあったぜ」
「本当か!?」
「妖質のみで織った着物。珍品中の珍品だ。ただし、こころの綺麗な人間にしか見れない」
「どういう意味だ?」
「そういう意味さ」
「………」

 

 


 

このふたりに関しては、あんまり話さなくても縁側で茶を飲んで煙草すってれば勝手に互いで

解決策を見つけそうなイメージがあります。

しかしそれを表現するのは非常に難しいので(オイ)会話をさせたらひたすら禅問答のような内容に………(汗)

原作の静かな雰囲気を表現するのは難しいです。orz

 

こんなではありますが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いですーv

リクエストありがとうございました♪

 

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