「オレ、行くよ」
黄金の瞳を持つ少年は真っ直ぐ前を向いて宣言した。
故に紫暗の瞳をした青年も咥え煙草で返すのだ。
「なら、とっとと行け」
―――と。
023.その背を押して
辺りは暗闇に包まれている。 それというのも、天を照らすべき太陽が黒雲に覆いつくされてしまった所為だ。桃源郷を照らし出していた陽の光などいまでは望むべくもない。人々は恐れ逃げ惑い、理性を失った妖怪は暴走の度合いを増し、狭間に位置する者たちは成す術もなく怯えうろたえている。すがる神も頼る仏も経文も祭文もなく、普段なら口にしないような祈りの言葉まで総動員させたってどうしようもないことは誰もが分かっている。 牛魔王が。 自分たちは。 経文は奪われた。 悟空は金色の瞳を真っ直ぐ旅の仲間に向けた。彼の背後に続く洞窟は闇よりも尚暗く、生ぬるい風と地響きを定期的に運んできている。巷では此処が地獄への出入り口と噂されている―――けれど。 かつて………彼自身が記憶を失った世界へ。 牛魔王を倒す手段がわからないだろうか、と疑問を口にしたのは八戒だった。 そして。 少し、おかしな話ではあるが。 悟空が―――ひとりで、行きたいと。 何を思い出したのか何も思い出していないのか珍しくも眉根を寄せて考え込むようにしながら。 「ナタクは、オレのともだちだから」 その科白を聞いてから、ゆっくりと三蔵は後ろを向いて煙草に火を点けた。ただでさえ漆黒の天、薄暗い森の中で赤い炎はやたらと目立つ。遠くから聞こえてくる妖怪どもも間もなくこのささやかな光を発見するだろう。 「オレ、行くよ」 再度の確認の言葉が繰り返されたところで、他ふたりの同行者の意見なんざ顧みずとっとと返事をする。 「なら、とっとと行け」 悟空は一瞬さびしそうな顔をしたようだった。けれどそんな表情もすぐにマジメな押し黙ったものにとって代わられてしまう。動く様子のない彼に苛立って三蔵は肩越しに彼を振り返った。 「………お前の問題なんだろう? だったら、オレ達の口出しできる範疇じゃねえ」 てめぇが行かないと話が進まねぇんだ。 お前の光は―――。 悟空が深く頷いて踵を返す。 ………知ったことか。 だから三蔵は何気ない顔で銃を取り出し弾丸を込める。銃口の向かう先は敵が突入してくるであろう森の入り口だ。 ………覚悟。 なのに。 本当に馬鹿だと思う。 「―――情けねぇ」 誰にも見られないほど微かに刻んだ自嘲の笑みを地に落とした煙草を踏み消す仕草で惑わす。 |
いつかこの指を離して とおいとおい空を君が求めたら
その背中を蹴り飛ばし「早く行け」と笑うよ
※WEB拍手再録
シチュエーションがものごっつい謎………(汗)。とりあえず、牛魔王が復活して窮地に追い込まれて
「一先ずナタクに会ってみよーか」という原作なら決してありえない展開になってるんだと思ってください(苦笑)。
ちなみにウチの変換機能では「ナタク」を漢字にしようとすると文字化けしてしまいます………どうしてやねん☆
ラストのセリフは原作単行本にもあった三蔵の言葉ですね。
思いっきり悟空のこと指してるよーに思えるのはワタシだけ??(笑)