038.二者択一


 

「よっしゃ! んじゃあ行ってくるぜっ!」
「帰りもよろしゅうなv」
「いってきまーす」

 三者三様の声を上げて元気よく車から飛び出していく。普段は歩いて登校しろときつく言い渡しているのだが今日ばかりは特別だ。理由は簡単、人名救助に関わる任務をこなしていたら四人が四人とも帰りが遅くなってしまい、従って就寝時刻も遅くなり、案の定寝坊してしまったからである。起床して時計を確認した瞬間、皆本は当たり憚らずに絶叫していた。
「じゃあウチのテレポートで!」とか「サイコキネシスで飛んできゃいいだろ?」とノリノリなのをどうにか説き伏せて車に押し込めたのがつい先刻。瞬間移動だの空中滑降だのを同級生に目撃されたらそれこそ目も当てらない。なにせ、彼女たちの能力はあくまでも超度2と偽ってあったので。
 遠ざかる姿に運転席から身を乗り出して呼びかけた。

「薫、葵、紫穂! ちゃんと真面目に授業を受けるんだぞ!?」
「わかってるって!!」

 薫が振り返って一際大きく手を振った。
 ぞろぞろと行き交う登校中の他生徒たちの何名かが三人に声をかける。手を上げて答え、談笑しながら正門をくぐる姿を見ると我知らず安堵の笑みが浮かんだ。

(やれやれだな)

 なんとなくほっとする。最初は危ぶんでいたものの、ノーマルに混じっても上手くやれているようだ。同級生たちは彼女らが特務エスパーであることを知らないけれど、いつかそれを知って尚、トモダチとして付き合ってくれるようになればいいと思う。葵や紫穂に告白してきたあの子たちのように。
 皆本がしみじみと感じ入っている時だった。

「無理だと思うね」
「うっわ!!?」

 ドガッ!

 見事に車の天井に頭をぶつけた。痛みを堪えつつ覚えのある声に振り返れば、果たして後部シートには予想通りの人物が偉そうにふんぞり返っていて。
 一介の高校生にしか見えない学生服。切りそろえられた髪。
 皮肉げな笑みを頬に刻んで少年は足を組み替える。

「あの子たちが特務エスパーの名を聞いても引かなかったのはナマの現場を見てないからさ。エスパー同士の争いや物理法則や論理を無視した力の顕現を見れば、すぐてのひらを返すに決まってる」
「兵部! きさま何をしに―――って、あれっ!!?」
「車内で銃を振り回すのは感心しないな。通行人に不審者がいると通報されてもいいのかい?」
「不審者はお前だっっ!!」

 懐から取り出したはずの銃が何故かイルカの水鉄砲にすり替えられていて舌打ちした。

「………何の用だ。あの子たちに何かしようってんじゃないだろうな?」
「別に? 先日、『女王』宛てに贈ったものがどうなったかと思っただけさ。美味かったかい?」
「誰が食うか―――っ!! 爆弾なら即行解体したわい!!」
「失敬だな。ネオ・クリア爆弾から出る放射能はエコロジーで食べても害はないんだぜ」

 クスクスと笑う姿は邪気がないように思えるが騙されてはいけない。先だってもテロ組織をひとつ壊滅させたエスパー史上最強最悪の犯罪者である。
 彼の動機や目的はいまもって分からない。
 エスパーの味方で、ノーマルの敵。
『女王』の味方で、バベルの敵。
 確かなのはそれだけで。
 何処かつまらなそうに不意の侵入者は口角を吊り上げた。

「今日は随分余裕じゃないか。僕が何もしないと思っているのか」
「少なくともお前がここにいる間は、あの子たちのところへ行くことはないからな」

 姿を消したら即座に護衛スタッフに連絡してやると脅しても相手は堪えない。

「どうかな? 催眠能力を使えば僕自身が『ここ』にいると思わせるぐらい容易い。ホンモノは既に『女王』のもとにいるのかもしれないぜ」

 確かに、それは有り得る話だ。
 車を下りて校内を確かめに行きたくなる衝動を抑えて、バックミラー越しに相手を睨みつける。

「………それは有り得ないな、兵部」
「へぇ? 何故だい」

「僕をからかいに来るお前は例外なく常に『本体』だ。違うか?」

 ほんの、束の間。兵部京介は目をまたたかせた。
 次の瞬間には声を上げて。

「ははは………! それはすごい理屈だ!」
「うるさい! 黙れ変態!」

 自分としても冗談にしてしまいたいのだが強ち外れてない気がするのでどうしようもない。
 一頻り笑った彼は少しだけ唇の端を笑みとは違う形に歪めた。

「―――まあいい。僕も忙しいんでね、そろそろお暇させてもらおう。キミも身の回りには気をつけるがいい。頼りないことこの上ないが『女王』が覚醒するその日までは守らせてやるよ」
「なに?」
「彼女はもとから『こちら側』の人間だ。坊やごときノーマルにどうこう出来る運命じゃないんだよ」

 急ぎ振り向いたが、疾うに相手は立ち去った後だった。
 舌打ちし、拳をハンドルに叩きつけようとしたところで水鉄砲を手にしたままだったことに気付く。

 ………ほんと、何しに来たんだか。

 奴自身が『何もしないと思っているのか』と語った通り、いっそ自分を抹殺に来たとか三人を観察しに来たとかだったらまだ―――いや、後者は遠慮したいが―――理解できるのだ。なにしろ、自分が未来を変えたいように奴もまた未来を変えようとしているのなら、誰でも思いつく簡単な方法が少なくともふたつはあるワケで。

 ひとつは、『薫を殺す』こと。
 もうひとつは、『薫を殺す皆本光一を殺す』こと。

 兵部にとって前者は論外として、後者は実行に容易く確実性も高いと思うのだ。何時でも何処でもお構いなしに侵入&登場可能な犯罪者だ、寝首をかくぐらい朝飯前だろう。
 なのに、それをしないのは。
 殺せばチルドレンがパンドラの味方になることを拒むからか。自分がそれと知らずにエスパーとノーマルの対立に一役かってしまったりするからか。もしくは、もっと別の何らかの理由から。
 つまりは自分にまだ利用価値があるからなのかと―――きつく拳を握り締めた。

 冗談じゃない。『未来を変える』選択肢がふたつしかないはずがない。
 絶対的な二者択一なんて存在しない。
 絶対に。

 彼女たちを裏切ることはしない。見捨てるつもりもない。彼女たちが大人になるまで見守ることが自分の役目で、ひょっとしたら兵部も薫を救うための方法を模索しているのかもしれないと考えることは業腹だったが、自分とて簡単に利用されてやるつもりはない。

 奴の思い通りにはならない。
 そして、引き金をひくつもりもないのだ。

 深呼吸をひとつして皆本はハンドルを握り直した。

 

※WEB拍手再録


 

自家発電(哀)。細かい設定のミスは見逃しプリーズ☆

WEB拍手掲載時より色々と書き足してます。やっぱ文字数制限ってキツイよね(苦笑)。でも最初の執筆から

時間が経ちすぎててナニ書こうとしてたんだか忘れちゃってました(汗)。 ← 意味ないやんけ☆

 

どーでもいいけど最近の皆本さんは読めば読むほど乙女です。

ヒロインが「漢(おとこ)」だからかもしれませんが、完璧なまでにツンデレです。

「もうアンタなんか知らないんだからっ!!」と泣きながらネコパンチしてきそうです。

誰かなんとかしてくだされ、この妄想(滝汗)。

 

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