038.二者択一
「よっしゃ! んじゃあ行ってくるぜっ!」 「帰りもよろしゅうなv」 「いってきまーす」 三者三様の声を上げて元気よく車から飛び出していく。普段は歩いて登校しろときつく言い渡しているのだが今日ばかりは特別だ。理由は簡単、人名救助に関わる任務をこなしていたら四人が四人とも帰りが遅くなってしまい、従って就寝時刻も遅くなり、案の定寝坊してしまったからである。起床して時計を確認した瞬間、皆本は当たり憚らずに絶叫していた。 「薫、葵、紫穂! ちゃんと真面目に授業を受けるんだぞ!?」 薫が振り返って一際大きく手を振った。 (やれやれだな) なんとなくほっとする。最初は危ぶんでいたものの、ノーマルに混じっても上手くやれているようだ。同級生たちは彼女らが特務エスパーであることを知らないけれど、いつかそれを知って尚、トモダチとして付き合ってくれるようになればいいと思う。葵や紫穂に告白してきたあの子たちのように。 「無理だと思うね」 ドガッ! 見事に車の天井に頭をぶつけた。痛みを堪えつつ覚えのある声に振り返れば、果たして後部シートには予想通りの人物が偉そうにふんぞり返っていて。 「あの子たちが特務エスパーの名を聞いても引かなかったのはナマの現場を見てないからさ。エスパー同士の争いや物理法則や論理を無視した力の顕現を見れば、すぐてのひらを返すに決まってる」 懐から取り出したはずの銃が何故かイルカの水鉄砲にすり替えられていて舌打ちした。 「………何の用だ。あの子たちに何かしようってんじゃないだろうな?」 クスクスと笑う姿は邪気がないように思えるが騙されてはいけない。先だってもテロ組織をひとつ壊滅させたエスパー史上最強最悪の犯罪者である。 「今日は随分余裕じゃないか。僕が何もしないと思っているのか」 姿を消したら即座に護衛スタッフに連絡してやると脅しても相手は堪えない。 「どうかな? 催眠能力を使えば僕自身が『ここ』にいると思わせるぐらい容易い。ホンモノは既に『女王』のもとにいるのかもしれないぜ」 確かに、それは有り得る話だ。 「………それは有り得ないな、兵部」 「僕をからかいに来るお前は例外なく常に『本体』だ。違うか?」 ほんの、束の間。兵部京介は目をまたたかせた。 「ははは………! それはすごい理屈だ!」 自分としても冗談にしてしまいたいのだが強ち外れてない気がするのでどうしようもない。 「―――まあいい。僕も忙しいんでね、そろそろお暇させてもらおう。キミも身の回りには気をつけるがいい。頼りないことこの上ないが『女王』が覚醒するその日までは守らせてやるよ」 急ぎ振り向いたが、疾うに相手は立ち去った後だった。 ………ほんと、何しに来たんだか。 奴自身が『何もしないと思っているのか』と語った通り、いっそ自分を抹殺に来たとか三人を観察しに来たとかだったらまだ―――いや、後者は遠慮したいが―――理解できるのだ。なにしろ、自分が未来を変えたいように奴もまた未来を変えようとしているのなら、誰でも思いつく簡単な方法が少なくともふたつはあるワケで。 ひとつは、『薫を殺す』こと。 兵部にとって前者は論外として、後者は実行に容易く確実性も高いと思うのだ。何時でも何処でもお構いなしに侵入&登場可能な犯罪者だ、寝首をかくぐらい朝飯前だろう。 冗談じゃない。『未来を変える』選択肢がふたつしかないはずがない。 彼女たちを裏切ることはしない。見捨てるつもりもない。彼女たちが大人になるまで見守ることが自分の役目で、ひょっとしたら兵部も薫を救うための方法を模索しているのかもしれないと考えることは業腹だったが、自分とて簡単に利用されてやるつもりはない。 奴の思い通りにはならない。 深呼吸をひとつして皆本はハンドルを握り直した。 |
※WEB拍手再録
自家発電(哀)。細かい設定のミスは見逃しプリーズ☆
WEB拍手掲載時より色々と書き足してます。やっぱ文字数制限ってキツイよね(苦笑)。でも最初の執筆から
時間が経ちすぎててナニ書こうとしてたんだか忘れちゃってました(汗)。 ← 意味ないやんけ☆
どーでもいいけど最近の皆本さんは読めば読むほど乙女です。
ヒロインが「漢(おとこ)」だからかもしれませんが、完璧なまでにツンデレです。
「もうアンタなんか知らないんだからっ!!」と泣きながらネコパンチしてきそうです。
誰かなんとかしてくだされ、この妄想(滝汗)。