※この小話は、単行本5巻、巻末オマケ漫画をベースにしています。
084.刹那の理解者
鉄筋作りの暗い螺旋階段を駆け上がる。眼下に望む町並み、吹き降ろしてくるビル風、響く足音、忙しなく響く自らの鼓動。それら全てを振り払うようにして皆本は屋上に飛び出した。 柵の上に悠々と立ち、町を見下ろしている背中に銃を振りかざして。 「―――兵部!!」 苛立ちと敵意と若干の戸惑いが入り混じった声に相手は笑みを浮かべて振り返る。 「まさか追いついてくるとはね。意外と早かったじゃないか。『女王』に何か言われたかい?」 銃の照準は真っ直ぐに相手の額に合わされている。 「何故………助けた」 BABELの予知システムのもとに駆けつけた『事故現場』。タンクローリーとバスの衝突事故を、確かに自分たちは回避させた。しかし訪れたのは、後続トラックの追突という予想外のアクシデント。 「単なる気紛れ、じゃ意味ないかい?」 意味深なセリフを薄い笑いに乗せたまま。 「………お前がただの気紛れで『ノーマル』を救うはずがない。何を考えている」 無駄と知りつつ引き金に指をかけたことを、口元に手を当てて嘲笑うようにしながら。 「キミは『エスパー』じゃないか」 「!」 動揺に肩が震えた。 「かなり無茶をやらかしたらしいじゃないか? 色々と、ね」 とんとん、と兵部が己の額を人差し指で叩く。 「あれ以来、超能力は使えなくなったんだっけ?」 強く、手の中の銃を握り締める。 「僕は超能力を持たない一般人として―――」 サラリと真実を突きつけられて、迂闊にも呼吸が止まった。 「かつてそうだったと言うだけで無害なはずのキミを敵視する。どれだけ主張したところで、余所から見ればキミは『エスパー』の仲間だ。そして、」 す、と右手を差し伸べて。 「PANDRAはキミを差別しない。今がどうであろうと、ね。さて―――どうする?」 兵部は石のように動かなくなってしまった相手を見つめると、やがて頬を緩めて静かに腕を下ろした。吹き上げるビル風に乗るように僅かに身体を柵から浮かせて。 「気が向いたら『女王』と一緒に来るといい。PANDRAはいつでもキミたちを歓迎する」 瞬間、強く吹きつけた風に閉じてしまった目を開けた時には、もう少年の姿は消えていた。 「………くそっ」 どうせ奴の目的は『女王』にある。教官たる自分をPANDRAに引き入れることで、彼女が仲間になることを期待しているのだ。そんな見え透いた作戦に乗ってやる謂れなどない。 あの時、一瞬でもうろたえてしまったのは。 元『エスパー』である自分は決して『ノーマル』から仲間と看做されることはない。 自分はどちらにも属していない―――何処にも、属せない。 噛み締めていた唇を大きな息を吐くことで振りほどいて、銃を懐にしまい込む。 時に、言い知れぬ孤独を感じることがあるのだろうかと。 |
※WEB拍手再録
だって、原作者様が「何かの妄想の足しにしてください」ってゆってるから(笑)。
少佐がエスパーには差別しないんなら、元エスパーである皆本のことを
迎えに来たっていいじゃない! みたいな?
「どっちの立場から見ても仲間はずれな皆本」のお話は随所で見かけますね。
この場合の『女王』(相棒)は落書きにあったツインテールちゃんでヨロシク☆