096.救世主なんてワリに合わない


 

「お前さあ………なに考えてンの?」
「は?」

 声を掛ければ年齢のわりに幼い顔立ちをした鳶色の瞳の少年が振り向いた。つい先刻の傷も治癒呪文のおかげで回復し、外見だけなら通常と何ら変わりはない。
 違うのはおそらく自分の心境なのだろう、と赤い髪の青年は考える。

 夜空には白い月が浮かぶ。
 伝説でのみ語られていたあの世界はこの少年や、巫子や、ハーフエルフの出身地なのだと言う。互いに互いの世界を天に戴きながら暮らしてきた自分達の感性は、それゆえにかなり異なってしまっているのかもしれない。
 周囲の面々が他のモンスターの警戒やら火の番やらをしている合間を縫っての問い掛け。

「だからさ、謎な行動するなってーの。何でもかんでも救おうとしてないか?」
「それってさっきの戦いのことか?」

 いまや両世界の救世主になりつつある少年は首を傾げた。
 テセアラとシルヴァラント。
 ふたつの世界のうち、繁栄するのは片方のみ。
 繁栄に必要なのは、選ばれた巫子。
 巫子の犠牲なくしての繁栄は有り得ず、片方の世界が繁栄を約束されたならばいまひとつの世界の衰退もまた、確約される。
 それが世の道理で、揺ぎ無い鉄則で、伝説に語られた『勇者ミトス』でさえ―――差別のない、誰も苦しまない世界を夢見ることを諦めて、絶望して、互いに搾取しあう世を作成するに至ったと言うのに。

 誰も犠牲にならない世界を作りたい。
 世界も守るし、巫子に選ばれた彼女も守る。誰も悲しまない世界が欲しいと願って。

 ―――バカだな、と思った。
 救いようのない、バカだ。

 皆のしあわせを願って戦ったユグドラシルがどんな裏切りを受けたか知らないのか。尽くしても尽くしても報われることのない現実を理解していないのか。この世には「救えない」人間もいるのだと、何故、気付かないのか。

「いきなり必殺技の前に割り込んできてさー。オレ様だからよかったもののー」
「そうだな。確かに、お前じゃなかったら危なかったかもな」

 無邪気に少年は笑う。
 夜の番をしていたところに襲い掛かってきたモンスターを、しかし彼は、「殺すな」と叫んだ。既に戦闘体勢に入っていた己の前に割り込んで、剣を剣で受け止めて、怒り狂って見境なくなってる敵の一撃を背に食らいながら。
 懲りずに即時撤退を促した。

「仕方ないよな! 子連れの母親は気が立ってるモンだし」

 ただ、それだけの理由で。
 舌打ちした。

「―――普段は容赦なく倒してるくせに」
「はは、それ言われるとつらいけどさ………でも」

 聞こえているとは思わなかった呟きに、けれど、少年は真顔で頷いた。

「見えちゃったら、殺すなんて出来ないよ」

 嗚呼―――本当に。
 裏の真実が見えたなら何一つ誰ひとり見捨てられないと言うつもりなのか。
 彼女の悲劇もこの星の宿命も知った以上は助けたいと本気で語るつもりなのか。
 ならば―――、ならば。

 もし、旅の途中で彼が己の過去を知ったならば―――。
 己のことすらも救おうとするのだろうか?

 ………バカげている。
 誰も彼もを救おうとする無償の行為ほど報われないものはない。そんな人間は、都合の良い時だけ祭り上げられて全てが終わればいいように捨てられると歴史が証明しているではないか。
 なにしてるのさ、もう行くよ! と、ハーフエルフの少年が呼ぶ。
 いつも通りの軽い笑みと言葉を返しながら跡を追う。あのバカに早く教えてやらなきゃならないな、と片隅に思いながら。

 早く―――そう、早く教えてやらなければ。

 ―――『救世主なんかワリに合わない』って。

 

※WEB拍手再録


 

今更ながらに『Tales Of Symphonia』。合言葉は「キミと響き合うRPG」(だったっけ?)

ゼロス視点でロイドくんについて。プレイしたのがかなり前なので口調とか設定とかかなりヤバ目(汗)。

あ………あまり深く考えないでくださいね??(ドキドキ)

ヒロインさしおいて好感度一位のキャラを創れる辺りすごいゲームだと思いました。だって、

場合によっちゃ男性キャラともデートOKなんすよ?(笑)

そうでなくてもこの主人公は皆に溺愛されすぎなんすけどね………特に父。 ← 禁句?

 

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