名前を書いただけで人が死ぬ。

人の死を思う通りにコントロールできる。

人ならぬ存在、死神が使う死のノート。

 

それはいま、僕の手の中にある。

 

人間界に落ちたノートの中で、奇しくも自らの手中に残ることになったものの字を辿る。

ハラハラとページをめくり、最後の文字列に来たところで手が止まる。

 

躊躇わずにめくればいい。

記された名前を見ればいい。

 

けれど、それは。

いまとなっては何の意味もないその行為は。

 

それは、ひどく。

 

 


100.それはひどく曖昧な絶望


 

 手にしたのは偶然だった。ぼんやりと見つめていた先に落とされた黒いノート。中身を見てみればご丁寧にも英語で使い方が書かれていて、誰がこんなくだらない遊びを考えついたんだろうかと低く笑った。
 けれど、手にしてみれば使いたくなるのが人の性分というもので。
 試しにニュースで流れていた犯人の名前を書いてみた。

 それだけで、僕は、誰にも知られない『人殺し』になった。

 最初は慌てた。
 だが、考えてみればこれほど便利なノートはない。
 僕ならばこのノートを私利私欲のためではなく世界人類のために役立てることが出来る。

 僕ならば出来る。
 僕でなければ出来ない。

 世の人々が殺人鬼と罵ろうと警察が躍起になろうと、やがて悟る時がくるだろう。
 僕こそが、『キラ』こそが、『神』だ。
 本来のノートの持ち主たる死神は傍らで笑い、家族は裏の顔を知らず、知人にも友人にも何一つ打ち明けられず、計算して確実な死を与えていく。
 誰も知らない、それでいい。
 立ちはだかる者は排除せねばならない。
 それが、誰であれ。
 世界に欠かすことの出来ない『名探偵』と揶揄される者であれ。

『彼』は立ち塞がる障害だった。
『神』を理解しない不信心者だった。
『彼』は優秀な頭脳と複雑な思考回路を持っていた。
『神』の考えに一番近い人間だった。

 敵の前に堂々と素顔をさらし、それでも名前を隠しおおせているがために生き延びている人間。
 こちらの思惑を読んで手を打ってくる。罠を張り、言葉の端々に毒を潜ませて互いに胸の内を探りあう気の抜けない会話。
 負けてなどやらない。
 引く気はない。
 賞賛などしてやらない。

 それでも―――
 認めてやろうじゃないか。

 確かにお前は、この僕の『好敵手』だったと。




 いつか来るであろう彼の最期の時、彼に裁断を下すのは己なのだとずっと考えていた。
 けれど、もっとも効率的に『敵』を排除するならば自らが彼の名を記すような真似など出来よう筈もなく。
 かつては考えた、真実、他に道がないのなら寿命を削ってでも死神の目を手にして名を検めるしかないのだと。
 だが、現実はそうならずに。
 僕に「一目ぼれ」したというひとりの少女と、少女に付き従うほかの死神の手によって。

 彼には逃れようもない死が訪れた。
 意識を失う直前、こちらを見た彼の脳裏に何が閃いたのかを知る由もない。
 こころの底で互いが敵であると自覚しながら。
 信用されたいと願い信頼に基づいて動き寝食すら共にして時には朝まで語り明かした。

 たとえそれらの日々が嘘でもまやかしでもなく、知恵と力の限りを尽くした時間が胸に痛くとも。
『彼』が『神』の敵である限り―――。
 彼は僕を捕らえようと企み、
 僕は彼を排除しようと動く。

 共存を許されない存在だからこそ妙に気があったのかもしれないと。
 彼のいないいまとなっては再びこの世界は僕にとってただ意のままに動く『退屈』一歩手前の世界。
 たどり着いた先の理想や孤独や光を信じていても、

 ………死のノートを手にした者に幸福は訪れないと死神は言っていた。

 決して幸福になれない人間によって葬られた人間は幸福ではないのだろうか。
 あるいは作り変えられていく世界を見ずに済んだ彼は「それこそ幸福」と漆黒の瞳で語るのだろうか。

 問い掛けをしつつ残されたノートをめくる。
 いまとなれば必要のない、無駄な行為。
 もはやこの世の誰も知ることのない『彼』の真実の名前。
 歴史の表舞台に立つことはなく、歴史の裏側ですら秘密裏にその存在を揉み消される。
 果たして彼の生は何だったのかとらしくもなく考え込む時、常にこの手は黒いノートを捜している。

 ―――意味がない。
 知ったところで、呼ぶことも、誰かに伝えることも、ましてや改めてノートに記す必要すらも。

 それは。
 それは、ひどく。

「ライトー、どうしたのー? どの犯罪者を殺せばいいのか早く決めてよー」
「ああ、わかった。いま行く」

 僕の目の代わりとなった人間は無邪気に笑う。
 いつもどおりの愛想笑いと慈悲深い瞳を装いながら手にしたノートをそっと隠した。

 ―――たとえ、彼の名前がここに記されていて。
 その名前を知ることが出来るのはこの世で自分だけなのだとしても。

 今後知る必要もなければ語る必要もない。




 それはひどく曖昧な絶望。

 

※WEB拍手再録


 

作品を知らない方には全く訳のわからない物語となりました(汗)。

やっぱり第一部のが好きだったなあ………Lとの頭脳戦もとい心理戦が好きだったのにさーっ(涙)。

この漫画はやたら頭を使わせてくれるので管理人の脳内設定がもしかしたら原作と食い違ってるかも

しれませんが、そこいらは快く、無視してやってください☆

 

今回の話は既にどこかで誰かが書いていそうですが、L好きならば一度は書きたくなるテーマだろうと

思いました。ワタシの想像(妄想)が確かならば、レムノートにはLの本名が書かれてるはずですからネ!(笑)

―――結局本編でも明らかにならないまま終わっちゃいそうだしな………嗚呼、黄昏。

 

 

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