「戦え! ボクらのコロクンガー!!<外伝>」

02.encounter!(1)

 


 宇宙人がやってきたのが8年前。なんだかんだで戦いの決着がついたのが7年前。山ごもりを開始したのが

丁度その頃。宇宙人連中がもう2度とやって来ないんならそれに越したことはないけれど、何故か俺も、俺を誘

った奴もこれで終わりだとは考えていなかった。

 身分その他を捨てられる立場になかったそいつに代わって山で修行。手に入れたかったのは生き延びるため

の技術と実力。手に入れたまでは計算通り。ただ若干、アテが外れたというか予想外の展開になってしまった

のは。

 

 ――目の前に突っ立ってる自称「現役最強の忍者」をぶっ倒さないと解放してもらえないという、イヤんなるく

らい手厳しい掟だった。

 

 

 手にした武器を正眼に構えて瞳を細める。相手が着込んだ黒い忍び装束は周囲の景色から切り離されて浮

かび上がって見えている。しかしそれは彼がわりと開けた土地に立っているからいえることであって、ひとたび

森の中に逃げ込まれてしまえばもう2度と位置を把握することは叶わない。

 こうしていても埒があかないと一歩、踏み込む。

「でやぁぁっっ!!」

 裂帛の気合と共に打ち込んだくないは、本人の意図するようには動かずにあえなく跳ね飛ばされて遠くの幹

に突き立った。

「甘い!」

「げっ!?」

 直後、首筋に容赦ない手刀を叩き込まれて顔面から地に突っ伏した。

 ――勝負あり。

 これがマジモンの戦だったならば倒れ付した瞬間に背後からぶっ刺されてジ・エンド。つぶれた鼻をおさえて

涙目になる。

「ちっ……くしょ〜……」

「まだまだ甘いな、五右衛門。大体お前は基礎体力がなっとらんのだ」

「うるせーっ、この中年狸親父が! 手加減なしで頚椎に一撃加えやがって、愛弟子が植物人間になったらど

うしてくれるっっ!!」

「やられた方が悪い」

 悪びれもせずに服部半蔵保長は悠然と答えた。

「大体、お前がいつ愛弟子になった。ただの居候だろうが」

「……せめて修行仲間といってほしいねえぇ〜、‘お師匠さま’?」

 怒りに頬を引きつらせながら‘自称’愛弟子は無理矢理に笑みを浮かべた。

 

 ――石川五右衛門、14歳。まだまだ修行中である。

 

 

 入山して7年と3ヶ月。忍術、体術は悉くマスターしたものの肝心の卒業試験にはなかなか合格できなかっ

た。7度目の春がまた今年も過ぎようとしている。

 後に彼の得意技となる平気で嘘をつく癖も常に浮かべた捕らえどころのない表情ものらりくらりとした態度も、

この時点ではいささか未完成だ。

「このワシから一本取ろうなど、まだまだ早いということだ。それがわかったらとっとと修行に戻れ」

「へいへいへい、わぁかってますよ」

 五右衛門は最後にアカンベーをしてから素早く木陰に身体を紛れ込ませた。

 

「ちぇっ、あんにゃろーめ。少しは手加減してくれたっていいのによ」

 ブツブツといいながら、それでも半蔵が手加減してくれるような人間でないことは彼が一番よく理解している。

 天然の洞穴を利用してつくった住居に帰ってきた五右衛門は響く電子音にヒョイと内側を覗き込んだ。こんな

ところに住んでいるなんて首都圏の浮浪者も真っ青だろう。でも、板を敷き詰めて毛布で覆って衝立をつければ

結構いける。以前は外に小屋を作っていたが台風が来るたびにひしゃげるので諦めた。師匠とおんなじ洞穴に

寝泊りするなんてなんかヤだなあという微妙な心理も働いていたのだが背に腹は変えられぬ。出入り口付近

の自分の部屋(隣とは戸板で仕切っただけ)に入ると外部と接続してあるコンピューターがメールの着信を知ら

せていた。スイッチを押せば横のプリンターからベロベロと紙が吐き出される。

「おーっ♪」

 次から次へと流れさる紙を片端からつかみ、内容を確認した五右衛門はニヘラと笑った。

「……水道技師の資格ゲットォv」

 どうやらそれは試験場からの合格通知だったらしい。先月受けた資格試験の合格の知らせと手続き完了の

ための方法と締め切り、今後の資格試験のお勧め(サービス券つき)などが送られてきていた。こんな山奥に

暮らしているといったってコンピューターもテレビもあるのだ、バカにできない。いまどき流行りの遊びやファッシ

ョンなんかはともかく、勉強ぐらいここでもできる。数年の間に完備された通信学業制度の恩恵に五右衛門は

思いきり浴していた。おかげでいまは資格取得が趣味のひとつと化している。

「今度のライセンスカードはどんなデザインかなーっ。へへへ、楽しみ♪」

 懐からゴッソリと取り出したカードの山を前に得意満面である。数々のライセンスカードはひとつのカードで兼

用できる。1枚だけ専用のカードを決めて、その後は新しく取得するたびに電子的に情報を書き加えていけば

いいのだ。しかしコレクターとしては資格ごとのカードも全部ほしい。ので、カードを取り寄せた後に専門の『ライ

センスカード』に統合する。手元に残った用済みのカードは大切にコレクションしておくというわけだ。本当は返

却しなきゃいけないのだがそんなの知ったことか。

「電気技師も気象予報士も調理師免許もゲットしたしー、次は手堅くプログラマーかぁ? ははっ♪」

 機嫌よく散らばった紙束をまとめていると出入り口付近に設置された鳴子がカタカタと揺れた。怪訝そうな顔

で鳴子に近づいて発信源を確かめる。

「―――正規の登山ルートか。いまどき珍しい客もいたもんだねぇ」

 山の至るところに仕掛けられた鳴子は侵入者があった場合即座にそれを教えてくれる。レーダーでも設置す

ればいいのだろうが山奥にそんな仰々しいもの置けるわけがない。それに、一応これでも五右衛門は忍術や

体術の修行に来ているわけなので――よくわからぬ侵入者たちを上手いこと追い払うのも実戦のひとつであっ

た。なにが目的で侵入してくるのかは知らないが、わりと頻繁にお客さんはやってくる。入山規制がされたこん

な辺鄙なところに用があるとすれば、それは確実に例のいけ好かなくて姑息でヒキョーでズル賢い師匠がらみ

のことなのだ。

 あともうひとつ、それ以外の可能性もあるけれど―――。

「ま、十中八九、そりゃないだろうな」

 呟きだけを残して五右衛門の姿は洞穴からかき消えた。

 

 

 重い。ひたすら重い。どう考えても重い。ついでに暑い。

 足に絡んだ妙な糸を断ち切り、額から流れ落ちる汗を拭って眼前に現れた看板に目をやった。『入山禁止』と

赤文字で記された真下に墨で殴り書きがなされている。『ただし、この山での修行を望む者は禁に当たらず。さ

れば入山に当たっては』……

 

「服装は江戸時代以前のモノを着用、足は草履、背には米俵、菅笠を被り、木刀もしくはその他日本刀など古

武術に使う類のものを携帯すべし」

 

 口に出して読んでからその人物は自らの格好を見直した。物置の隅から引っ張り出してきた着物と袴、剣道

を習っているので木刀はもとから所持していたし、草履と米俵に菅笠は‘むかしなつかし市場’で購入した。米

俵の中身をホンモノにすべきかどうか悩んだが、ここはバカ正直に白米をつめてきた。おかげで重たくてならな

い。普通は米俵ひとつで60キロぐらいの重量があるらしいが、その辺りを考慮して小さな俵にしておいてよかっ

たと心底思う。看板をすり抜けて山の頂上を目指した。

 自宅から1時間と離れていない山の中に忍者の末裔が住んでいると語り聞かせてくれたのは父だった。幼い

頃から憧れていたが、「その忍者はえらく気難しくてめったなことでは弟子にしてくれん」といわれて半ば諦めて

いたのだ。それがまさかこんな形で訪れる羽目になるとは思わなかったけれど。

 背にした俵が実際以上の重さに感じられる。一歩進むごとに体積が増していくようだ。まるで妖怪こなきじじ

いである。おまけに目の前に続くのは道といえない道だ。さすが長年入山が規制されていただけのことあって

登山道はもはや獣道と化し雑草が生い茂り、落石や倒木やクモの巣の類が2分おきに行く手を遮ってくれる。

やわな精神の持ち主であればとっくに回れ右だ。

 一息ついて立ち止まったすぐ側を風が通り抜ける。その拍子に木々から離れた葉が幾枚か舞い落ちて道の

端々に絡みついた。

「………?」

 木々の葉が落ちることをやめない。まるで映画か漫画のワンシーンのように絶え間なく続く。奥深い森の中か

ら低い声が響いてきた。

 

『禁域へ足を踏み入れる者よ―――汝が目的を答えよ………』

 

「誰っ!?」

 慌てて周囲を見回すが誰一人見当たらないし気配もしない。たちの悪いいたずらだ、どこかにスピーカーが仕

掛けてあるに違いないと言い聞かせながらも、鼓動が速まるのを抑えきれない。せわしなく両の目を動かした

けれど映るは森の植物ばかりだ。

『目的を答えよ………』

「わっ、わたしは修行をするためにやって来たのだ! 頼む、ここの主に会わせてくれ!!」

『なにゆえに会うを求むか』

「強くなりたい、それだけだ」

 見えない相手に向かって睨みをきかす。しばしの沈黙が流れた後に重々しく声が響いた。

『力を求める者よ、ならば汝が力を見せるがよい』

「なにっ!?」

 前触れもなく飛んできたくないを咄嗟に手にした木刀で叩き落とした。連続で襲ってくる武器の数々に舌打ち

をして、荷物を放り出すと木陰に滑り込んだ。

「卑怯者め! 姿を見せろ!」

 菅笠が邪魔で周囲がよく見えない。くさむらに飛び込んだおかげか攻撃の手もやんだ。もう襲ってこないのか

と恐る恐る先ほどまで自分がいた位置を覗き込んだ瞬間――正反対からくないが飛んできた。

「わぁっ!!?」

 よけそこねた刃物が顔の付近をかすめて思わず叫ぶ。体勢を崩してすっ転び、おまけに顔を打ち付けて菅笠

が外れてしまった。

 痛みをこらえて起き上がったとき素っ頓狂ともいっていい声が響いた。

 

『ゲッ……女ぁ!?』

 

 投げかけられた一言にカッとなる。先ほどまでの重々しい声の雰囲気はどこへやら、相手が随分と軽い声質

に変わっていることに気づきもしなかった。スックと立ち上がり天も照覧あれとばかりに宣言する。

「女だからなんだというのだ! 女人禁制などと何処かに書いてあるのか、いってみろ!」

『………』

 相手が困りきっている様子が雰囲気で伝わってきた。攻撃もしてこない、女とわかった途端この扱いか。男尊

女卑とどっちがマシかわからないようなフェミニズムなど願い下げだ。木刀を掲げもち周囲の気配を探る。

「出て来い! 手加減は無用だ、相手をしろ!!」

 殺気だった視線で苛立たしく周囲を睥睨するが人のいる様子などどこにも感じられない。

『―――もういい』

「!?」

 先刻までと明らかに異なる声音に、くさむらに入れかかっていた足を止めた。

『入山を許可する。五右衛門、ここまで案内してこい。いいな』

「……了解」

 またしても初めて耳にする声に驚かされ、飛び退りながら振り返ると見知らぬ少年がつまらなそうな顔をして

立っていた。内と外にピンピン跳ねた髪が実に特徴的だ。

 

「子供!?」

 

「わーるかったな、子供で。そういうアンタも俺と同年代にしか見えねぇけど?」

 あまり友好的とはいえない少年の言葉にムッとなりながらも、確かにそれは事実だったので反論せずに黙り

こくる。ただ、警戒は解いていないという証に木刀だけは彼に突きつけたままだった。向こうはそんなもの気に

とめた様子もなくツカツカと歩み寄ると近くに転がっていた米俵を楽々担ぎ上げた。

「ま、俺についてきなよ。案内してやるからさ。一本道で迷いようもないけど、初心者にはちっとつらいかもしれ

ねぇなー」

「ちょっ……ちょっと待ちなさい!」

 なにしろ山道がキビシイからーv などと鼻歌うたいそうな雰囲気で歩き出した少年を慌てて呼び止める。この

山は入山規制がなされていて、しかも偏屈な忍者しか住んでいないと噂されているところなのに、なんだってこ

んな年端もいかない少年がいるのだろう。

「あなた、こんなところでなにをしているの? 子供が来るようなところじゃないでしょう、帰りなさい!」

「あのね……」

 深いため息と共に彼はガックリと肩を落とした。

「そーゆーアンタこそ立派に子供なんだってば。それにこの山に関しちゃあ俺のが先輩ヨ? ……説明するのメ

ンドくさいから省くわ。いっかぁ? ここまーっすぐ登ればそのうち小高い丘にたどり着くから。脇道それんなよ?

じゃ、また後でなっ」

「あっ! こら、待ちなさい少年………!」

 呼び止めようとしたが時既に遅し。激しい風と共に木々の葉が舞い上がったかと思うと、とうにその姿は消え

失せていた。呆然としながらも、自らの立場を思い出し少しばかりの緊張と共に注意深く辺りを見やる。

 鬱蒼と生い茂った木々に細くいまにも途切れそうな道、毒々しい草花のうねり。

「………真っ直ぐ?」

 正面にそびえる険しい山の頂きを目の当たりにして、眩暈を覚えたのは断じて気のせいじゃないだろう。

 

 

 山道を直線に走り抜ければ間もなく目的地に到着する。そこで待ち構えていた人物に早速苦言を呈された。

「わざと置いてきたな、五右衛門。きちんと案内しろといっただろう」

「へへっ、俺自身も事情が飲み込めてないからね。先に聞いときたいと思ったんだよ」

 笑って五右衛門が米俵を地面に下ろす。ほんの数分で、荷物を抱えたまま山道を駆け上ってきたとは思えな

い落ち着きようである。息も乱れていない。

 周囲が開けた小高い、見通しのいい丘はいつも忍術の練習に使っている地帯でもある。ここから更に山奥に

踏み込めば半蔵と五右衛門の住居が見つかるだろう。手頃な岩の上に腰掛けて、服部半蔵は悠々自適という

風体だ。真向かいの岩にやはり座を占めて五右衛門が問い掛ける。

「どういう風の吹き回しだ? あんたが弟子を取る気になるとは思わなかったぜ」

「弟子にとるとは一言もいっとらん。ただ、あの顔に見覚えがあった」

「へ? 知り合いなの?」

 半蔵が強く頷く。

「盟友・松下長則の娘、加江どのに相違あるまい。幼い頃に見かけたきりだがワシが間違えるとは思えん」

 そりゃあんたにかかれば誰だってそうだろうよ――と内心だけでつっこんでおく。

「長則にはワシがこの山にこもると伝えてあったからな。なにかの折りに父親から話を聞かされたのか……」

「……にしたってなあ。忍者たずねてくるなんてそーとー変わりモンだぞ?」

 普通なら笑うか疑うか相手にしないか、どれかだろう。しかもバカ正直に袴を着ろだの米俵を担げだのという

言い付けを守って尋ねてくるなんざあ、奇人変人の類と判断して差し支えあるまい。もっとも、それでいくと五右

衛門だって奇人変人の仲間ということになってしまうのだが。

 師匠の知り合いだったと聞いてほんのちょっぴり五右衛門は自らの行いを反省した。来訪者に向けて攻撃を

しかけるのはこの山のしきたりなので悪くはないが(?)くないが顔の側をかすめたのだけは悪かったなあと思

う。もし傷がついてたりしたら謝っても謝りきれない。いや、謝る前に眼前でキセルふかしてるおっさんに半殺し

にされるだろう……親友の娘相手にどうしたこうしたとかって。

 しばらくして荒い息遣いと共に眼下に広がる山道をヨタヨタと登ってくる影が見えてきた。ようやくお客様が到

着なさったらしい。たどりつくや否やへたり込んだ相手に五右衛門は賞賛の拍手を贈った。

「おめでとーっ♪ 意外と早かったじゃん、さっすが加江さま!」

「う……うるさいわね……わざとらしい評価がムカつくわ………!」

 呼吸が整わないながらも返事だけはちゃんとする。五右衛門は素直に誉めたのであって――実際、女性にし

てはかなりいいタイムだった――加江の勘繰りがすぎるというものだったが、如何せん言葉に真実味が感じら

れなかった。深呼吸をして落ち着きを取り戻した彼女は、かなり遅れて自分が少年に名前を呼ばれた事実に

気づいたらしい。疑わしげに少年を見やった。

「……なんであなたがわたしの名前を知っているの?」

「師匠から聞いた」

 五右衛門の示した先にふんぞり返っている人物に、しばし探るような視線を送っていた加江だったが、どうや

ら彼こそが求めていた相手らしいと理解して慌てて居住まいを正した。

「もっ、申し訳ありません、挨拶もせずに……!」

「いや、顔を上げなされ。あなたのお父上とは松平の屋敷で共に世話になった身――ワシ自身も、あなたを存

じておりますぞ。といっても幼かったので覚えてはいないでしょうな」

 はあ……。と生返事をする加江を横目に五右衛門はブツブツとなにやら呟いていた。

(ケーッ、なんだなんだぁ、この対応の違いは!? 俺んときはもっと荒っぽかったくせによぉ)

 やっぱり知人の娘だからなのか。もし「女の子だから」なんて理由で優しくしてるんだったらこれからずっと師

匠のことを「たらし目男」と呼んでやる! と、筋が通っているようないないようなコトばかり考える。

 五右衛門よりもずっと手厚い応対を受けている少女は地面に頭をすりつけんばかりに平伏した。

「お願いです、わたしに修行をさせてください! 頼みます!」

「しかし―――」

「女だからといって手加減はいりません。これでも剣道の位は授かってますし……わたしは強くならなければな

らないんです!」

 加江が本気ということは目の色を見ればわかる。だが半蔵は顔色を変えることもなしにあっさりと拒絶した。

「ダメですな。現在、ワシは弟子の必要を感じておらんので」

「じゃあ彼はなんなんです。弟子じゃないんですか? 子供ですか、養子ですか、歳の離れた兄弟ですか!?

そんな説明じゃ納得がいきません!!」

 無遠慮に五右衛門を指差してまくしたてる。烈火のごとき勢いで吐き出される言葉の数々にさすがの上級忍

者も閉口したかに見えた。指差された五右衛門も「なかなかいいコトいうじゃん。もっとやれやれ♪」といった感

じで完全に見物人と化している。

 服部半蔵が弟子を取りたがらないのはいまに始まったことではない。7年前に五右衛門が来たときも「ワシは

弟子など取らんことにしている。会ったのは小六の顔を立てたまでのことよ」と堂々のたまわってくれたものだ。

それでも食い下がり追いすがり――まあ色々とあっていまに至る。半ば以上、五右衛門は‘押し掛け弟子’な

のだ。だが、本人に揺るぎない覚悟があるのならばそれを認めてくれぬほど狭量の男でもない。要はやる気と

勢いだ、頑張れ加江さま! ……と、甚だ五右衛門の思考は加江よりに傾いていた。

 まさかそれに勘付いたわけではあるまいが、突如として半蔵が高らかに宣言した。

「よし、わかった。弟子として迎えよう」

「本当ですか!?」

「えっ、マジマジ!?」

「――ただし」

 信じられずに叫んだ2人の顔を代わる代わるに見つめ、実にふてぶてしい笑みを口元にのぼらせて彼は厳か

に付け足した。

「加江どのが、そこにいる五右衛門を倒すことができたら……ということにしておこう」

「なっ……!」

 絶句したのは同時。復活したのは五右衛門が先だった。

「ちょっ、ちょぉっと待ったぁぁ―――っっ!!」

 センセーッ、俺、この問題わかんなーい♪

 と小学生が主張するかのごとき素晴らしい勢いで五右衛門は両手を掲げた。この腹黒師匠はトンデモないこ

とを思いついてくださったようだが、勝手に決められては困る。だって、つまりそれって。

 

 ……俺に戦えってことじゃん?

 

「なんでそんな話になるんだよっ。いいじゃん、弟子にしてやればさあ! 実力試した後で!」

「だからその実力をお前ではかるといっとるんだ。忠告しておくが、加江どのに手加減などしようものならお前の

下山を更に遅らせてやるからな」

「いまでも下山させんくせにナニいっとるかーっっ!!」

 くないを投げつけたが軽々とかわされてしまった。やはり実力だけは一級品の忍者である。かくなる上はもう

ひとりの当事者である彼女に訴えるしかあるまい。こんなバカげた条件など飲まず、もっと正攻法でゆけばい

いのだ。この師匠は‘友人の娘’にも‘単なるお嬢さん’にも弱いようだし、上手くすれば簡単に奥義のひとつや

ふたつ教えてくれるかもしれない。……あくまで、‘かもしれない’だけど。

 五右衛門の願いに反して加江はスックと立ち上がり正面から半蔵に向き直って頷いた。

「わかりました。彼に一太刀浴びせればいいのですね?」

「そういうことだ。が、時間は決めておく。食事や睡眠の時間に仕掛けることはルール違反だ」

「ちょっとちょっとーっ。ねぇねぇ俺は? 俺の意見はぁ―――っっ!!?」

 とんとん拍子に話が進められて、彼らはいい気持ちだろうが五右衛門にしてみればたまったものではない。

自分だって修行の時間はほしいし、なによりそれでは師匠を倒すための時間が減ってしまうではないか!

「ししょー、ししょーっ! 俺とアンタの対決はどうなるんだよ! 逃げんのかよ、ズルいじゃねぇか!」

「お前との対決時間もちゃんととってやる。それよりきちんと加江どのに此処での生活の心得を伝えておけ」

 シッシッと犬でも追い払うように手を振った後、数枚の木の葉を激しい風に舞い散らせて師匠の姿はかき消

えた。やや呆然とする五右衛門とは逆に加江はやる気に満ち満ちているらしく、木刀を構えなおしこちらを睨み

つけた。

「さあ勝負よ、少年!」

「………勘弁してくれよ………」

 俺ってば今日は厄日だったのかなー……というのが、五右衛門の正直な感想だった。

 

 

 まずは寝泊りする場所を確保しなければなるまいと米俵片手に更に山奥へと足を踏み入れた。あってなきが

ごとし曲がりくねった山道をしばらく歩いて洞穴へとたどり着く。が、そこへは入らずに向かい側にある掘っ立て

小屋へと歩を向けた。

「ま、しばらくの間はここ使ってくれ。これでもいちおー来客専用の小屋だからトイレとか洗面所とかもついてる。

ただ風呂はないからこっから東に3キロほど下ったとこにある温泉使ってくれ」

「温泉?」

「そ♪ 猿や狸と一緒に入れる実に野性味溢れる温泉天国」

「…………」

 幻滅したように加江が顔を背けた。なにしろ目の前にあるのは掘っ立て小屋とは名ばかりのボロい建物。入

った瞬間に床が軋み、天井からは木屑が零れてきて、いまにも崩れ落ちそうだ。トイレは汲み取り式、洗面所

から出るのは鉄で錆びた赤い水。これなら外の清水を使った方が断然マシである。風雨をしのぐことしか考え

ていない機能性ゼロの小屋に加え、施設もなにもない山奥で露天風呂といわれては15の乙女にはつらいもの

があった。が、修行させてくれと言い出したのは自分である。文句はいえない。

「……まあいいわ。それで? あなたはいつ手合わせにつきあってくれるのかしら」

「ん〜、そうだなあ。俺自身が結構忙しいしな〜。しばらくはあんたのフォローにまわるけどね。やっぱ慣れない

ことも多いだろうし? 手合わせは昼過ぎぐらいになるんじゃねーの」

「そう、わかったわ」

 大して重くもなかった当座の荷物をそこいらに投げ出すと、加江は木刀を五右衛門へと向けた。

「なら早速、今日の手合わせをお願いするわ」

「え?」

「悪いけど、わたしは一刻も早く強くならなくちゃいけないの。さあ、早く」

 すっかりやる気の加江を見て五右衛門は深いため息をついた。なんだか好戦的なお嬢さんだなあ、と思いな

がら木刀がわりの適当な木切れを探す。太刀を背負ってはいるが木刀相手に斬り合うのは危険だ。なにかの

拍子に鞘がはずれたりしたら怪我させてしまうかもしれない。

 ようやく手頃なサイズの棒きれを手に入れて、気乗りしないままに加江の正面に突っ立った。

「その態度はなに? ちゃんと構えなさい!」

「構えてるじゃーん、ちゃんとさあ」

「嘘おっしゃい! 片手で向き合うのが剣道の儀礼だというの!? なめてるんだったら承知しないわよ!」

 なめてない、なめてないってば。俺だって真面目にやんないと師匠にどやされるんだって。

 ――と、とても本気には思えぬ口調でヘラヘラと笑いながら弁解する。右手で棒をゆるく掲げ、左手は腰に当

てたままだ。あえて似た構えをあげるならば西洋の剣道、フェンシングか。しかしものすごく誠意の感じられな

い姿勢であった。こんなものをフェンシングと勘違いされてはプロ選手が激怒するだろう。実際に向き合ってい

る加江にしても苛立ちをかきたてられる以外の何物でもなかった。

「あなたね……わたしをバカにしてるの?」

「気にしなくていーんじゃねぇ? もし俺が油断してるんだったらこれはチャンスだし、油断してないにしても確か

に片手は不利なんだし。どんな形であれとっちまえば一本だ。………あんた、急いでんだろ? だったら御託

並べずに打ちかかってくりゃいーじゃん」

「―――後悔したって知らないわよ」

 精神を集中するために一息置いた後で、疾風のごとき速さで加江は打ちかかっていった。右へ、左へと軽く

攻撃をかわしながら五右衛門は内心で賞賛の声を上げる。

(へーえ、こりゃあ確かに筋がいいや。力のない分は技術とスピードでカバー! 基本できてるじゃーん♪)

 勿論、彼の目から見れば不満も多い。しかしそれは‘スポーツ’と‘格闘’の違いでもあるのだろう。常に実戦

形式で戦っている五右衛門と試合しか経験のない加江の実力を同じ物差しで測るのは不公平だ。一般レベル

で見れば加江は充分すぎるほどの腕前の持ち主になるだろう。

「いい加減、両腕を使いなさい……! 痛い目みるわよ!?」

「そーだなー、加江さまの取りあえずの目標が見えてきたかもな」

「なに?」

 グイグイと押し付けられる木刀を片手で軽くいなしながら五右衛門は笑った。

「まずは俺に両腕を使わせること。でないと、いまの段階じゃあ―――」

 視界から五右衛門が消えた……と思った瞬間、手首に痛みを感じて木刀が跳ね飛ばされた。背後に落ちる

木刀の音を聞きながら信じられない面持ちで元の位置に戻っている少年を見つめる。照れもせずに彼は手にし

た棒きれで自らの肩を叩いていた。ニィッ、と笑う。

「……話になんないっしょ?」

「〜〜〜っっ!」

 悔しさに顔を赤くしながら加江は取り落とした木刀を拾うために背を向けた。

 

 

 加江がやって来てから早くも1週間が過ぎようとしていた。相変わらず昼過ぎには五右衛門との対決を続け

ているが、未だに両腕を使ってもらえない。剣道の腕前に自信を持っていた加江にはかなりショックだった。一

休みしに降りてきた川原で水を飲みながら歯噛みする。

「信じらんない……わたし、同年代の男子に負けたことなんかなかったのに」

「そりゃーまぁ、単純に俺が強いってことでしょ♪」

「………のかしら」

「へ?」

 加江が川原から上がってきて山道に木刀をズンと下ろした。不謹慎にも道祖神の上であぐらをかいている五

右衛門を睨みつけて心なしか悲しそうに呟いた。

「……手加減されてたのかしら、わたし」

 五右衛門がパチクリと目をしばたかせる。このお嬢さんはいきなりなにを言い出すのだろうか。負けが込むと

人間、精神的に弱くなるというのは本当らしい。無理もない、自分だって師匠に負けつづけ負けつづけ負けつづ

け――当初は落ち込んでいたものの終いには開き直っていまに至る。

「考えてみれば体力的に劣るのよね。手加減されてたのに、それに気づいてなかったんだとしたら……」

「そーかぁ? 加江さまは強いと思うぜぇ、お世辞じゃなくてな。技だってスピードだって一級品だよ」

「じゃあなんであなたに負けるのよ」

「だ・か・ら、俺が強すぎるのv」

 能天気に答える五右衛門に、加江の額に明らかな怒筋が浮かび上がった。気持ち、頬をひきつらせながら無

理矢理こしらえた笑顔で精一杯の嫌味をいう。

「あら、じゃあその‘強すぎる’五右衛門さんよりずぅぅっと強い半蔵さんは何者なのかしら?」

「変人」

「いったわね……」

 あきれ返って声も出ない感じで加江は遠くの山々に視線を転じた。都会にいたのではわからない空の青さや

空気の清々しさ、鳥の鳴き声などがさわやかに五感に訴えかけてくる。五右衛門はあくまで道祖神の庵の上

から動かぬまま美しい景色に陶酔している相手に問い掛けた。幾ら美しくても見慣れてしまえばなんぼのもん

じゃい、である。

「なぁなぁ加江さま。そーいや加江さまはどうして強くなりたいなんて思ったんだ? フツーに剣道習いつづけて

りゃいいんじゃねぇの」

 瞬間、鋭く睨み返されて口を噤む。木刀を肩に背負い上げて五右衛門に詰め寄ってきた姿には鬼気迫るもの

があった。

「あなたには関係ないでしょう? なんでそんなこと聞くわけ?」

「単なる興味」

「―――正直すぎるわ」

 毒気を抜かれてしまったのか、脅すように乗り出していた上体を元通りにして加江は深いため息をついた。木

刀を構えなおし、もどかしい気持ちを追い払うがごとく素振りを繰り返す。空を切る音が辺りに響き渡り潔い。こ

うしていると煩わしい俗世間の問題などどうでもよくなってくる……のだが、やはり忘れ去ることは不可能だっ

た。

「別にわたしだって好き好んで来たわけじゃない。でも、このままだと、ものすごく不本意な結果がわたしを待っ

ているのよ」

「不本意?」

「そう。誰が、誰があんな……あんな………っっ!!」

 フルフルと加江が肩を震わせる。額に青筋が浮かびでて握り締めた木刀がギリギリと軋む。

 

「あんなどぐされ男のヨメになってたまるものですかっっ!!!」

 

 バキッ!!

 

 ―――激しい音と共に木刀がへし折られた。

 

 

 加江の父、松下長則は(株)今川の下請け会社を経営している。以前は独立した一戸の会社だったのだが、

押し寄せる不況の波とか雇用の問題とか利益優先の経営収支がどうのこうので提携を余儀なくされ、以後は

こき使われる一方の中小企業となってしまったらしい。ことの起こりは前年の決算、松下産業は多大な赤字を

抱え込んでしまった。これとて実は松下産業を根こそぎ奪い取るための今川の汚い手口、というのは加江の憶

測に過ぎないが、とにかく松下産業は赤字決済になった。困りきった父親は提携先である今川に頼み込んで

赤字の穴埋めをしてもらい、借金をする形になった。金は期限内に返却すればいいはずだった。

 ところがどっこい、開けてびっくり玉手箱。契約書は改竄されいつの間にか松下産業の株を全て今川に譲ると

いう乗っ取りバンザイな内容に早代わりしていた。怒った加江が本社に詰め寄って不正事実を突きつけたので

株の譲渡はなくなったが、今度は加江を飛び越えて父親に直接、契約変更の知らせがなされた。それによると

借金返済の期限がものすごーく短くされてしまったらしい。しかも契約を解除してもらいたいなら加江を秘書とし

て入社させろという。そうすれば借金も帳消しにしてやろうと……。

 冗談ではない。秘書になった女性がことごとく今川義元の毒牙にかかっているのは有名な話だ。法律上、15

歳の加江はまだ結婚できないけれど向こうには‘愛人’という手がある。

 全てを知った加江は自分でなんとかするしかないと、‘東海一の弓取り’といわれる今川に対抗しうる力をつ

けるためにこんな山奥まで足を運んだのだった―――。

 

 

(ここに来てどうにかなるとは思えないけど……ま、心意気は確かだよなー)

 五右衛門は内心でそっと呟いて、口にしては、

「それで親父さんは納得してるのかよ?」

 と聞いただけだった。

「してるわけないでしょ。でも父上にはうちの会社員、数100名の命運がかかってるのよ。迂闊な行動が取れ

るわけないじゃない……」

 そこまでいって急に黙り込むと加江はムスったれた顔を五右衛門へと向けた。

「そういうあなたはどうなのよ? いつからここにいるの?」

「んー? 今年で7年目かなぁ。あのムカつく師匠を倒さないと下山させてもらえないからさ、ズルズル引き伸

ばされちまってこんな感じ」

「………ほんと?」

「ほんと」

 あっさりと五右衛門は答えたが加江が疑うのも無理はない。彼女は彼の正確な年齢を知らないが、7年も前

なら小学生だったろうことは想像に難くない。そんな子供があの米俵背負って、草鞋履いて、木刀持って。

「……くないを投げつけるのは入山資格があるかどうかのテストだって聞いたけど、あなたも受けた――ってこ

とよね。どれぐらい避けられたの?」

「いや、避けなかったぜ、俺」

 道祖神の上から飛び降りて川原まで歩を進めると、懐に持っていた竹筒で水をすくい上げて飲み干した。潤

された喉が喜びの声をあげた。

 いま思い出しても笑えてくる、あまりに必死すぎて他の身の振り方を考えつかなかった幼い自分。もし、あの

時と同じ行動を取れと命令されてもきっといまの自分にはできないだろう。相手を振り向いて薄く笑う。

「向かってくる武器、ぜーんぶこの身に受けたんだ。相手が急所ばかり狙ってくるのを避けもせずバカ正直にさ

あ。出血多量で死にかけたりしたんだけど、ま、それもいまとなっちゃいい思い出だよなー♪」

「ばっ………」

 加江が絶句する。

「バカじゃないの、あなた!?」

「師匠にもそういわれたv」

 よく見ればまーだ傷跡が残ってるんだぜぇ。なんつーの、名誉の傷跡? 勲章もんでしょ俺ってば。

 のん気にのたまう五右衛門にうんざりしたような目を向ける。人間ばなれした体術の持ち主だとは思っていた

が、どうも幼い頃から精神的にも常人ばなれしていたようだ。なぜそんな痛い目を見てまでこの山に――……

山に、入って、修行をしたいと思ったのだろう。

「………目的は?」

「ん?」

「入山の、目的は?」

 思案深げな瞳をかわし、あくまでも澄み切った青い空を見上げて笑う。

 ああ、懐かしい空の色だ。――普通に暮らしていた幼い頃も、宇宙人どもが攻めてきたときも、自分が戦う意

志を固めたときも、そして、この山に来たときも。

 いつだって無意味なほどに綺麗な青空だったんだ。

 見ているこちらが気抜けしそうなほどヘラヘラした顔を向けて気楽な口調で呼ばわった。

 

「そりゃあ勿論――強くなるために、な♪」

 

 

 初夏の日差しが森を染め上げる。新緑が目に痛いほどに輝いて生の盛りを迎えようとしている。

 不意の来訪者を迎えてから半月も過ぎたある日のこと、ここ数日どこぞに出かけていたらしい師匠に突如とし

て呼び出された。その前段階として五右衛門は彼を倒すべく幾度か勝負を申し込んだのだが、ことごとく返り

討ちにあったのはいうまでもない。

「で? なんの用なのよ?」

 頬にこしらえた青痣をおさえながら五右衛門がむくれる。師匠はといえば、のんびりとキセルなんぞふかしな

がら悠然と構えていて腹立たしいこと限りない。

 口元から白い煙を吐き出して彼はいった。

「任務だ」

「………あのなぁ」

 ジト目になってしまうのを責めないでほしい。

「俺の立場わかってるーっ? あんたに命じられて加江さまのお相手してるんだぜ? どんな任務か知らない

けどやってられっかっつーの」

「ここ数日、調べてみたが松下産業は本当に窮地に陥っているようだ。昔のよしみで助けてやることにしたが、

まあ、お前むきの手軽な任務だろう」

 旧友の進退に関わることなのに‘手軽な任務’なんかい! とつっこんでやりたい気分やまやまだ。「お前な

らできるって信用されてるんだよなー♪」と自惚れるほど自意識過剰じゃないのだ……まだ、いまは。その内そ

うなるかもしれないけど、ってゆーかそうなりてぇ。

 

 バキッ!

 

「……なにをぶつくさいっとるか。師匠の話はもらさず聞け」

「〜〜〜っ! ちょっと愚痴っただけだろぉっっ!!」

 背中に蹴りをくらって岩場から落ちてしまった。意味はないけどまたその岩をよじ登り、師匠と同じ目線の高さ

になってからふんぞり返る。

「と、に、か、く! 俺は嫌だぜ。やんねーからなメンドくせぇ」

「久々に下山できるんだぞ、嬉しくはないのか。交通費や食費その他必要経費はワシの懐から出そう」

「そんなん当たり前……ってやんねーから本当に。絶対、マジで、間違いなく、金輪際、確実に」

「小遣いを5割増ししよう」

「やらせてくださいお師匠様っっ♪」

 ……見事な転身であった。

 

 

 本日の訓練課題をクリアして一息つく。地道な素振りに筋トレにジョギングに柔軟体操。道場に通っていたと

きも散々繰り返したものだが、やはり高山でやると具合が違うのか低地でやるよりもきつく感ぜられるようだっ

た。流れてきた汗を清水にひたしておいたタオルで拭う。後で小屋に戻って着替えてこよう……それより温泉に

いった方がサッパリしていいだろうか? 今後の予定を立てながら山頂を見上げ、そこに見出した物体に加江

は眉をひそめた。その物体、もとい人物の顔には飽きるほど見覚えがあったのだが、あまりにも見慣れない格

好をしていたので咄嗟の返事に窮してしまったのだ。

「よっ、加江さま。精が出るねぇ♪」

「……なに、その格好」

「んー? どっか変かぁ?」

 しげしげと五右衛門は自分の服装を見直す。別に変ではない。そこいらの子供が着ているようなジーンズに

Tシャツ、ジャケットと帽子、リュックを背負った軽装だ。普段の五右衛門は忍び装束だし半蔵だっていうまでも

ない。加江だってこのところ袴姿で通していたものだから、久々に見る‘現代’の服に面食らってしまったのかも

しれない。

「さすがの俺も最新のファッションは知らねぇもんなー。なあ、やっぱ変か?」

「いいえ、変じゃないわ。……似合ってるわよ、歳相応でカワイイじゃない」

 クスクスと笑みをこぼす。

(なんか……このカッコだと年下丸出しね)

「――いま、なーんかムカつくこと考えなかった、加江さま?」

「考えてないわよ、全然」

 内心の思いはおくびにも出さずシレッと答える。それよりもなぜ、こんな格好をしているのかと問い質すと

「これから下山するんだ」

 と返された。ここ数日、任務があったらしく師匠は山から姿を消していた。今度は弟子である五右衛門に指令

がくだったと、そういうことなのだろう。事情はわかっても納得はしがたい。五右衛門を倒さなければ門下生とし

て認めてもらえないのに、肝心の倒すべき相手が数日間いなくなってしまうのだから。

「そういうなよ。1週間もせずにすーぐ帰ってくるって」

「……まあいいわ。その間にわたしは剣の腕に磨きをかけておくことにするから。帰ってきたら覚悟なさい」

 

 男友達がよくするように拳と拳の先を突き合わせて、互いに不敵な笑みを浮かべて。

 五右衛門は振り返りもせずに山を下り、加江も見送ることなく山の頂きへと歩を向けた。

 

 それぞれの目的と目指すもののために。

 

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なんか……五右衛門かわいいなあ。加江さまもマヌケだなあ(笑)。3年前ってこんなモンかね? ← 聞くなよ

 

今回は出会い編とことの起こり編。でもって次回は解決編及び更に多くの出会い編ってか? 要所要所で後に

関わってくるメンバーが顔を覗かせる予定なので捜してみてねv(捜す必要もないほど明示されると思うが……)

 

ここまでの展開とこれからの展開を思うとゴエと加江さまが恋に落ちないってのはどぉ〜しても納得いかないんですが☆

ゴエカエ好きなんだけどね、ゴエカエ。でもそれ以上にわたしが日吉スキーだからダメなのね(笑)。

加江さまはともかく、この時点の五右衛門は恋愛にまっっったく! 興味がなかった感じなのでその辺も

関係しているのではないかと思われます。強くなるんで精一杯だったんだよーん。それに彼の意識下では

 

加江さま → 強くてしっかり者のイイ女 → 共に戦う仲間、相棒

日吉 → 芯は強いけど抜けてて危なっかしい、見てらんない → 守るべき対象、保護欲をそそられる

 

と、なってるよーな気がします(笑)。

鋭い女はなかなかしあわせになれない……ごめんよ加江さま。 ← 不吉なコメント

 

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