< 序 >
足を踏みしめ打ち鳴らす板敷き。遠く聞こゆる木々の葉ずれ風のざわめき、天に煌く星と月。ほのかに辺りを照らし出す光を跳ね返せし水面。 共に緩やかな長い髪を風に靡かせ向かい合う影ふたつ。 互いしか要らぬかの如く四角く切り取られた舞舞台の上で斜向かい。各々の手に握られし色も鮮やかな緋の扇と蒼の扇。ゆるく腕を挙げ、下ろし、数尺先の相手にのみ焦がれるような視線を注ぐ。 緋の衣を纏い、緋の扇を掲げ。 「其も、舞いは天と地を繋ぐもの。我の歩みは地を鳴らし、我の仰ぎは天を支う。我は狭間に存する巫子たればこそ―――汝が<力>を求め導かん。我は汝の道標也」 蒼の衣を纏い、蒼の扇を掲げ。 「我が足は地を捕らえ、我が腕は天に伝う―――我は天の恵みを受くる神器也。身<シン>を捧げて神<シン>となり、行きては心<シン>を喰わるるが巫子」 音が、ひとつ。 「我は巫子に非ず。この身は地に属し地に捲かれ果つる先に見い出すは春夢風塵」 「愚」 「我は彼の者の遣いにして導き手也。汝の意志を問わず廻り出した宿業を止める術なし」 「否」 「否―――我は踊らぬ」 「其は流るる者、意志を持ちて舞う者、いくさ場において鮮血を以って贖わるる者」 薄闇から濃紺へ、濃紺から薄闇へ、そしてまた、いずれでもない透明へと。 |