「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

72.to the west

 


 真横をすり抜けていく景色が町並みから遠い海へ、そして山間へと移り変わる。雪の降りしきる時期

であれば速度を落とし、到着を遅らせることもある地点を通過しながら秀吉はひとつため息をついた。




「全く………それでお前ら、一体何があったんだ?」




 眼前ではザコズたちが低く項垂れている。いきなりマネキン抱えて来たから何かと思ったが、コイツら

が何の用もなしに乗り込んでくる訳がないのだ。おそらくは上部からの命令変更のお達しか、いっそこ

の車内で爆弾を仕掛けろとか、コイツらを手足として使えとか、そういったことなのだろう。ものすごく探

りたそうにしていた信長の目を殊更に無視してデッキまで抜け出すのはかなり至難の業だった。

 答えない連中にまたひとつ、深く息をつく。

「ほら、用事があるんだろ? 話さねーと幾ら俺でも察しようがねぇぞ」

『えーっと………』

 未だ言いよどんでいたザコズだったが、意を決したのかA(エンジェルス)が口を開く。

『ひ、秀吉さま! いますぐ基地に引き返してくださいっ、今回のことは罠なんです!』

「ああ?」

 罠って、防衛隊が何か仕掛けてくるということだろうか。それにしては信長も五右衛門も日吉も随分

と気楽そうだ。

 そんな考えが脳裏をかすめたのは一瞬、次のセリフで彼は事態を察した。




『関西に赴くよう仕向けたのは宙象さまなんです! だから引き上げた方が絶対にいいんですっっ』




 そうだそうだ、とB(ベイスターズ)も繰り返す。慌てふためく彼らの頭を撫で付けて、秀吉は皮肉げな

笑みを浮かべた。

「ふ〜ん………あのオッサンか、今回の仕掛け人は。と、すると防衛隊と相席んなったのも奴の差し金

だな?」

 無駄なことを、と思う。

 自分で宇宙人サイドに引き込んでおきながら、あの男は秀吉の働き振りが気に入らないらしい。事実

上の最終攻撃兵器であるBKを秀吉が易々と制御していることも原因のひとつだろう。次々と重要任務

を任されているので羨ましくてならないというところか。

 愚かなことだ。

 天回が秀吉をこき使うのは、防衛隊の連中と対峙した際に有利になる要素が多いからに過ぎない。

奴にとっては所詮、使い捨ての駒………宙象が焦ってちょっかいを出さなくとも、いずれは天回が己を

用済みとして消すだろう。利用価値の高い現在はフル稼働させているだけだ。

「と、するとあれか? BKが動かせねぇのもメンテじゃなくてただの嫌がらせか」

『そ、そーゆっちゃうと元も子もないですよぉっ』

『でも確かにそうなんですけどーっ』

 わさわさとザコズが足元で踊る。

 秀吉はあごに手を当てて考え込んだ。

(相席させた奴の狙い………は、俺が防衛隊と内通してるって疑いを掛けたいからか? BKを動かせ

ないようにして、結果、俺が死んだら流石に天回も黙っちゃいない。だが―――)

 BKを動かせても動かせなくても、同じくらい危険なものが関西にあると言うのなら。

 それに乗じて「不幸な事故だ」と処理することだってできるかもしれない。事実、この先の展開によっ

ては命も危ない。

 さいわいにして自分は信長たちと違い『それ』の位置や正体をほぼ把握している。殺されてしまえ、と

企んだ宙象の思惑を外して、BKもない状態で『それ』を退けてみせれば痛快だろう。

 向こうが「死ぬだろう」と考えた状況下で「生き残って」やる。敢えて危険を冒す理由は宙象への反発

心以外にもあったのだが、わざとその考えにはフタをした。

 折りよくアナウンスが流れる。




『次は京都、京都―――』




 ふ、と面を上げて秀吉はポケットに両の手を突っ込んだ。

「よし、降りるぞ」

『ええっ!? で、でも、あいつらはまだ車内にいるんですよーっ』

「何だって最後まで同席しなきゃなんねぇんだよ。新大阪に着いた途端、両手が後ろに回るなんて俺ぁ

御免だぜ?」

 五右衛門ならば手早く関西方面の司令部に連絡を取って待ち伏せを仕掛けないとも限らない。比較

的見張りの甘い今がとんずらこくチャンスなのだ。

 重たい音を立てて開いた扉から足を出し、ヒョイヒョイとザコズを摘み上げて一緒に放り出した。

「ほら、お前らもとっとと基地に帰れ! どうせコッソリ抜け出して来たんだろ? 幻夜に折檻されない

内に戻るんだな」

『………』

「ん? 何だ、どうした」

 ザワザワと人が蠢き、扉に新たな乗客が殺到する。少しだけ脇に追いやられながらもどうにか足元

の2匹(?)をガードしてキヨスクの側まで退避した。でかい目―――というかもともと黒目がない――

を、見開いてザコズたちは心なしか陶然としているようであった。

『ひ、秀吉さま………っっ!』

「だから何だよ」




『一生付いてきます!!!!』

「ぎゃ――――――っっ!!?」




 ガバァッ!! と頭に飛びつかれて哀れ秀吉はその場に突っ伏した。猛烈アタックを仕掛けたエンジ

ェルスとベイスターズは秀吉の頭と背中の上で小躍りしている。

『う、ううう嬉しいですっ! こんな我々の心配までして下さるなんてっ! 感謝、感激、感動、感涙!!

いま我々の忠義心はアツク刺激されたのですっ』

『あなたのために地上に降りてきてホントーに良かったですっ! 我々が折檻されないようにお気遣い

まで………! なんとお優しい………』




 ―――って、別にそこまで深い意味はなかったんだが。

 折檻されない内に戻れよ、という単なる挨拶だったのだが。




 何だって自分が京都駅のキヨスク側でザコズ・ラインダンスの足場にならなきゃアカンのだ。

「………っ! とにかく! お前らは退けぇぇぇ――――――っっ!!」

『ああっ! 大好きです、秀吉さま―――っ!』

『キャッv 言っちゃったvvv』

「だから何なんだよ、お前らわぁ!?』

 周囲からの突き刺さる視線が、ああ、痛い。




 さり気なくソワソワしながら日吉は窓の外を眺めていた。先ほど身内(?)から呼び出しを喰らった兄

は席を離れたまま未だ戻らない。おそらくデッキで話しているのだろうが、駅を離れる直前になっても

帰らないので不安でならない。幼い頃に人込みで母とはぐれた時の記憶と重なる。

 向かい側の席ではどこか憮然とした信長と、何を考えているんだか分からない五右衛門が珍しく黙っ

て様子を窺っていた。

 やがて新幹線が動き出し、景色を静止画から動画へと塗り替えていく。形を成していたものたちが引

き伸ばされ、認識できなくなり、遠ざかる。

「あ………っ!!」

 微かな声をあげて日吉は窓のカーテンを握り締めた。




 ―――眼前を。

 行き過ぎる。




 兄と、その仲間とが。




「秀吉っ………!!」

 偶然か必然か、相手がそっと振り返る。流れ去る互いの表情を捉えたか逃したかの判別もつかぬ一

瞬でその姿は掻き消えて。

 瞬間。

 彼が。




 ―――こちらに向けて冷たく笑ったように見えたのは気のせいなのか。




 無言でカーテンを握り締める。気遣わしげに隊長が声をかけたのは数分経過してからのことだった。

「―――サル」

「………」

「いますぐ非常コックでもひねって飛び降りて、とっかえして来い。行け」

 常識人な彼女にできるはずもないことを平然とのたまう。普段なら声高な叫びと共に首ねっこを引っ

つかんで強行突破だ。それを行なわないのはきっと彼なりの遠慮や気遣いや優しさであり、迷いのた

めでもあるのだろう。

「………………いえ。大丈夫です」

 何が大丈夫なんだか分からないけれど窓に映る己の顔に向かって微笑みかけた。

 でも、大丈夫。

 本当に大丈夫―――こうなることは何となく予想がついていたから。

 幾らこの車内では互いに手出ししないと決めたとて、現地に着けばそうもいっていられなくなる。自分

たちは彼を捕縛しようと追い回すだろうし、彼は彼で防衛隊の活動をとことん邪魔してくれるだろう。だ

から先を見越した相手が中途で戦線離脱するのも理解できる。

 果たしてそれが単なる「逃げ」を意味しているのか、それ以上の情報を握っているための「作戦」なの

か、咄嗟の判断はつきかねるのだが。

 けれど。




「いいんです。無事な姿を見て安心しましたから」




 にっこりと笑う。

 誰が何と言おうと、それだけが掛け値のない本音だった。








 新大阪についたのは時刻どおり、丁度太陽が中天を通り過ぎて光を弱め始める辺りだった。しかし

太陽と地球の距離の分だけ熱線が遅れてコンクリの地面は未だ熱い。とはいえ時は秋、抜けんばか

りの青空と木々の紅葉が眩しい頃合である。

 目的地に着いたはいいものの信長たちにはまだ事の詳細が知らされておらず、情報収集する際に

は防衛隊の関西支部を頼るよう固く言い渡されていた。それは現地人の方が土地勘に優れていると

いうよりも、関東と関西とのバランスを保たなければいけないという内輪もめ防止の一環なのだろう。こ

れだからお役所仕事は面倒でならない。

 新大阪から在来線に乗り換えて高校野球の舞台近くへと移動する。細々とした路地裏を抜けてよう

やっとたどり着いた。

 ―――の、だが。




「おい………本当にここでいいんだろうな?」

「いいんじゃねぇ?」




 地図を右手に握り締め、信長は建造物の前で立ち止まる。

 いや、そりゃあ確かに関東の防衛隊支部が怪しいといえば怪しいのだ。普通のビルっぽい司令部の

側に、何を考えたか鉄塔やバリアにしようとして失敗したガラス塔やら研究機関の作った詳細不明の

円盤が放置されたりしている。それと比べたらこの関西支部はまともだ。

 よく言えば庶民的で開放的。悪く言えば倉庫裏で崩れかけ。

 表札にかろうじて「関西支部」の文字だけが刻まれて、一体「なに」の関西支部なんだかわかりゃしな

い。灰色のうすぼやけたコンクリの建物、幾つかの窓をくりぬいて敷地と外地の中ほどに儀礼的に突

っ立てた鉄製の扉。しかしその扉は見事に傾いでいて敷地奥に覗く地面は草で荒れ放題だ。郵便受

けなんて錆び付いて茶色に変色している。

 今回の面子で関西支部に訪れたことがあるのは五右衛門だけだ。その彼が「此処だ」というからに

は信用するしかないのだが………。

「五右衛門、ここさ、人―――いるの?」

「んー? いるんじゃねぇ? 一応来るって連絡しといたし、まぁもとから此処の連中って適度に職務放

棄してんだよナ。常駐はひとりで事足りるって判断してるみてぇ」

「そりゃーイザって時の連携に自信があるってことなんだろうな?」

「どうだかねぇ………」

 日吉の問いと信長の問いに交互に答えながら、五右衛門はギシリ、と軋む扉を押し開けた。

 細く差し込む日の光で室内が照らし出される。




 そこは、予想した以上の惨状だった。




 うず高く積もった埃は何センチあるのやら、歩けば靴跡がクッキリと浮かび上がる。カーテンは退色し

ているし机や椅子は旧時代のカタログに載っていそうなシロモノで、壁にかかっているのはとても実用

的とは思えない釣り道具やフライパンや電気コードだったりする。関西支部は何を思って取り揃えてい

るのやら………。

 呆気にとられる面々だったが、どうにか投げ出さずに済んだのは、階段上の窓の手前で蠢く影を見

つけたからに他ならない。人影はうずくまってゴソゴソと何やらいじくっていたが、来客に気付くと人好

きのする笑顔を浮かべて大きくひとつ手を振った。




「どーも、おおきにー! いらさられませー!! こんぐらちゅれっしゅ!」




 ―――どこの言語だ、どこの。




 咄嗟に突っ込まなかった己を褒めてやりたい信長である。

 人影は身軽に手すりを飛び越えて床に着地した。途端、舞い上がった埃にむせ返る。こりゃ参った、

いい加減掃除をしないと精密機械がやられるね、なんてセリフをしれっとした顔でいう。

「どーも、お初にお目にかかります。黒田官平ちゅーもんです。以後、よろしゅう♪」

 手を差し出した青年は相変わらずニコニコと笑っている。作業服を着込み顔を汗と汚れでクタクタに

したどこからどう見ても「平凡」な青年だ。だが、どこか侮れないものを感じながら信長はその手を握り

返した。

「ま、よろしくな。俺は信長だ」

「ああ、あんさんか! 聞いてまっせー、えらい問題児らしいやないですか? 敵の撃退もさることなが

ら機材の破壊もハンパなくて向こうの担当者さんが泣いておりましたがな」

 ちなみにこの口調は気にせんといてくらはい。もとは播磨の灘出身なんどすが、各地を巡っとる内に

方言が混じりまくってどうにもならんよーなったんどす。

 と、あくまでも悪気のないらしい黒田が口元を歪める。次いで彼は日吉に目を向けた。

「てぇことはお嬢さんが藤子はんでんな? なんや色々と大変な目ぇ遭いなさったそうやけど、挫けたら

アカンでー。頑張りまっしょ!」

「は、はあ………」

 戸惑いながら日吉も礼を返した。口調がトンチンカンでどう答えたらいいのか迷ってしまう。信長が確

認したくなっても無理はない。

「―――テメェ、本当に防衛隊関連の人間なんだろうな?」

「あ。疑っとりまんな。ヒドイなー、五右衛門はん、何とかゆうたってくださいよ」

「そう言われてもなぁ………」

 五右衛門は人の悪い笑みを口元に刻んでそれ以上語ろうとしなかった。自ら説明するしかないと覚

悟を決めたらしく、ひとつだけため息をついた黒田は改まって被りこんでいた帽子を剥いだ。

「んでは、改めて自己紹介といきまっか。ワテの名は黒田官平。これでも一応、防衛隊関西支部の重

役―――連絡係を務めとります。身分証明できるもんはないんやけど、イザとなったら竹中家に首実

検しとくんなはれ」

「竹中? 教授んところか」

 どうして此処で教授の名が、と信長が眉をひそめる。

「防衛隊以外にも竹中さんとことは個人的お付き合いがありまして………教授の弟さん、久作くんとウ

チの娘が同級生だもんで親しくさせてもらっとります。この前、教授は身内の姑息な罠にはめられたと

聞きましたが―――」

 フと黒田が視線を鋭くする。

「許せませんな。教授はもっと長生きすべき人ですよ。これだから何も考えない研究者つーのはキライ

なんです」

「………」

 何とはなしに日吉は信長の顔を見上げた。別段、様子に変化は見られなかったが、この黒田という

男を認める気になったのは雰囲気で感じられた。

 一番重要な信頼関係はこれで成り立ったと言えよう。




 ちなみに娘・松野寿13歳。父親・黒田官平25歳。

 紛うことなき実子なのだが、どう考えても計算が合わない。しかしそれがこの場で取り沙汰されること

はなかった。五右衛門はさして気に留めるタチではなかったし、信長と日吉に至っては教授の弟の年

齢も知らなかったためである(………)。




 そこで黒田は何かを思い出したらしく急に五右衛門に向き直った。

「そういえば五右衛門はん、あんさん最近、竹中博士に会うたかいな」

「教授―――じゃなくて、博士の方か? いや、会ってねぇぞ」

 五右衛門は首を傾げた。例の一件以来、竹中重行の防衛隊嫌いには拍車がかかったように思われ

る。教授が植物人間状態になったのは決して防衛隊の責任ではない。しかし、防衛隊に協力している

内に教授の動向がもれて捉えられたと言えなくもない。ましてや相手は「政府機関」を名乗っていたも

のだから不信が募っても仕方なく、理性が無実を認めても感情が納得できないという訳だ。

 だから教授の体調が気遣われても五右衛門は病院や自宅に押しかけることができないでいた。

 この間、関東出張した際に挨拶に行ったんやけど、と青年は語る。

「なーんか渡したいモンがあるみたくゆうとったで。教授の言伝で役立ちそうなモン渡さなアカンのやけ

ど、どうにも自分は足を運びにくい………みたいな?」

 疎遠になりつつある現状、よりを戻すような行為は取りにくいということだ。別にこちらがへりくだる必

要もないが、教授の「遺産」ならば確認するだけの価値はある。

「ふーん―――なんかよく分かんねぇけど、取り合えず東京戻ったら確認してみるわ」

「頼んます」

 チャッ、と黒田が片手を挙げた。

 話が一段落したと見た信長がひとつ、息をついてから切り出した。

「おい、それよりもテメェ、きちんと案内とかできるんだろーな? 司令はこっちに来れば詳しい説明が

あるっつって何も言わなかったんだぜ」

 取り合えず下された命令は「関西に行け」、それだけだった。後は新幹線のチケットを渡して関西支

部の場所を手書きの地図―――子供の落書き並み―――を渡してとっとと業務に戻ってしまった非常

に非情な司令である。

 笑いながら黒田が大きく手を振り上げ、階上へと招く。

「ちょーどいいですわ。さっきまでメンテしてたもんをお見せしまひょ。さぁ来とくれやす」

 埃と雑多な道具を掻き分けて階段を上がる。窓から差し込む西日が眩しくて、日吉は思わず目を細

めた。中天を過ぎた太陽は急速に傾きつつあるようで、時間の流れは早いものだと妙に感心する。

 到着した時、黒田がうずくまっていた辺りには一応埃よけのシーツが掛けられていた。ひどく誇らしげ

に胸を張った彼が不釣合いなほどに慎重な手つきで布を取り払う。




「さぁ、見たってください! 関西支部の自慢の一品―――その名もまさしく『タンサくん』どす!!」




 ―――だから、そのネーミングセンスはやめれ。

 『タンサくん』はダンボール箱の上に鎮座していた。はっきりいって、単なる緑色のバスケットボール。

フタが外れて中の精密機械が覗いていなければ「何だこの巨大ゴムボール」と思うところだ。

 ちっちっち、と黒田は指をふって自慢げに鼻をならす。

「こー見えても『タンサくん』は関東の無駄に金食うデカブツよりもずっと高性能! 小さくてハイテク、

細かくて機能的、開発費といえばウチで消費した食事代と光熱費ぐらいとゆー実にお手軽でお買い得

な自信作どすえ!」

「安けりゃいいのか、お前ら」

「効き目より安さどす」

 信長のツッコミに、あながち冗談とも思えない表情で黒田は深々と頷いた。クルクルと片手でボール

………もとい、『タンサくん』を回す。

「いいどすか、『タンサくん』は時空波動を検出するよう設定されとります。ただしそれも手にした人間自

体にBBとの感応値がなければ意味はないんどす。BBを元に、それと同じ反応を示すモノを捜しとるん

やから当たり前といえば当たり前ですな」

 してみると今回『タンサくん』を使えるのは五右衛門はんとアナタ、と日吉にタンサくんが手渡される。

「BBと似た波動は確かに琵琶湖近辺で検出されちょります。不思議なことに急に検出されはじめまし

てな………やっぱ昨今の地震が原因じゃないかとワテらでは判断しちょります。地震<アース・クエイ

ク>よりも時震<タイム・クエイク>やろってのは教授からの受け売りですがな」

 このところ日本、そして、世界各地で地震が相次いでいる。それら全てがそうなのだとは言わないが

一部は確実に<時震>に分類されるものであり、どこに影響を及ぼすのか予断を許さない状況なの

だと続ける。

「けど、やっぱり細かく探ろう思たらこういった装置をそれなりの人間が持たんとアカンのです。ワテら

では限界があります」

「だが―――」

 フと信長が疑問を差し挟んだ。

「話を聞いてる限りじゃ、結局はその装置をサルかスッパが持てばいいって、それだけなんだろ? 新

大阪から琵琶湖までどれだけ離れてる。俺たちはとっとと現場に向かって、そこにテメェがそのボール

を運んでくりゃあ時間がどれだけ節約できたと思ってやがる」

「ボールじゃなくて、『タンサくん』。名前は正確にお願いしますで」

 刺々しい言葉をさらりとかわし、けれど此処に来て初めてのマジメな顔つきで黒田は3人を見据えた。

「―――手間掛かってんのは百も承知。ですがこれも関西支部の意地やさかい、譲れヘンのです」

「意地?」

「司令の裁判も近いつーのに、関東の奴らが情けのうてな」

 刻む苦笑は嘲笑っているようにも、呆れているようにも見えた。

「画一的に話すばかりで今後をどーしようっちゅービジョンを語りもせぇへん。新しい司令官が決まった

ら黙って付き従うんかいな? せやったらワテはほんまで関東の連中を軽蔑しまっせ」

 こればかりは冗談などではないのだろう。口調は未だ軽めだが、声の奥に潜む感情は真摯だ。

 不手際の責任を急に追及されるようになった小六の立場は不安定極まりない。とりあえず、反論の

機会は設けられるが一旦出された不信任の意見は根強く残る。そこから現在の権力を手にしたまま

で戻れる可能性は無に等しく、万が一戻れたとしても、可能性は大幅に制限されるだろう。

 このままいけば対外宇宙知的生命体特設対策本部、日本支部の司令官がどこぞの馬の骨に取って

代わられることは間違いない。

「ワテらが従ったんはあくまでも身ぃひとつで乗り込んできはった小六はんの気概に打たれたから。そ

ん方が辞められるっちゅーならつまり、関西支部も同時解散つーことですわ」

「おいおい、ちょっと行き過ぎじゃねぇ?」

「そーゆー五右衛門はんも司令以外に付いてく気はないんでっしゃろ。………まぁ、こちらの考えとして

関東中枢によぉ伝えとってくらはい」

 関東の実働部隊をそちらに派遣するから面倒を見てくれと頼んできたのは基地内のメンバーで。

 ついでに今後の身の振り方を問い質してみればえらく歯切れが悪かった。「わたし個人では答えられ

ない」だの、「上層部にかけあってみないと」だの。関西であればどんな末端の人間であろうとも即座に

返事が返せると言うのに、たとえ裏で何か別のことを企んでいたとしてもやはり腹立たしく。




 だから関西支部からは人影が消えた。

 TOPを代えようとする動きに抗議するために。




 でも実働部隊の若人たちには責任ないことだろうと、彼らは同士だろうと、関西支部は幹部である黒

田ひとりを残しておいた。最低限の礼儀と考えたのかもしれない。

 青年を筆頭に階段を下って行く。日吉の腕にはしっかりと『タンサくん』が抱え込まれていた。一直線

に扉に向かい、戸締りもせずに案内人は裏手へと回る。しばらく無言で歩き続けた彼はようやっと振り

向いて見慣れた顔で笑った。

「―――さて、堅苦しい話は抜きにして………出掛けまひょか♪」

「ああ?」

 変わり身の早さに信長が疑わしげな声を出す。思いっきり「関西大好き、関東キライ」な発言をカマし

ておきながらよくも清々しい愛想笑いができるものだ。とは言いつつも信長は図々しい人間の方が腹

黒い人間よりも好みなので―――無論、度合いにもよるが―――この黒田という男のことも毛嫌いす

るに至れず内心では少し戸惑っていた。自覚しているよりもかなりお人好しで寛大な隊長である。

「どこへ出掛けるってんだ」

「ワテらでもある程度は波動を探れます。だからできる限りコレとおぼしきところへお送りしますワ。見

たってぇな、ワテの車! かなりの年代モノやけど乗り心地は保証しまっせv」

 ふふふ、と両手を広げて陶酔する。背後にあるのは初期のオープンカー、といっても高級車でなく量

産型の深緑色、煤ぼけたボディにかろうじて取り付いているミラー、タイヤも泥だらけだ。AI搭載車が主

流になりつつある現代においてここまでレトロな乗用車も珍しい。マニアには溜まらないだろう―――

と思えば案の定。

 自分でもレトロ製バイクを操縦している五右衛門は目をキラキラと輝かせていた。

「す、すっげー! これってもしかしなくても1970年製のDR-MAXじゃねぇ!? うぉっ、このミラーって

ば発売当時のまんまじゃん!!」

「わかります? わかりまっか、五右衛門はん! やっぱアンタはええ人や―――v」

「デカいエンジンに見合うように車体計算がされてんだよなー。組み立てからオープン専用で設計され

た特別仕様だろ? やっぱ天井部ぶったぎっただけの通常とは造りが違うぜ♪」

「ただライトが惜しいんですわー。車体間隔が広いくせに光量が足りのーて夜間が弱点になっとるんで

す。せやけどそれは発売当時の話、いまはもうちょい強力なんに交換してまっけどなぁ、弱いデイライト

発光もこれの持ち味なんで………」

 何だか分かるような分からないような話である。

 ついていけないなー、とため息をついて、日吉は話に加わっていない信長を横目で盗み見た。

「―――信長さまは、車には興味ないんですか?」

「どっちかっつーと車よりも日本刀だな」

 ………それはそれでヤバいと思う。

 一頻り話題に花を咲かせた後で、満足したらしい黒田はどうにか五右衛門との話を切り上げた。話し

足りないらしくソワソワしているが車の話なら移動しながらでも出来ると踏んだのだろう。3人を座席に

案内して、運転席に乗り込んだところでフと信長の顔を見つめた。

「―――そういえば」

「………何だよ」

「あんさんの名前って、確か『織田信長』………でしたな? 何か皮肉なモン感じますわー。また焼き払

われたらエライことや。ワテ、千年王都に顔向けできへん」

「何の話だよ」

 信長が臨席の男を睨みつける。ひとり、目的地との関連を知っている案内人はチラリと横目で言葉を

返した。

「もしそこに敵がおったら焼き払いまっか? <信長>はん」

「焼き払うって―――だから何の話かハッキリしろってんだよ、じれってぇな」

「そりゃあ勿論」

 ニンマリと、人の悪い笑みひとつ。




「―――都の守護、比叡山は延暦寺」




 軽く右手で目的地を指差した。

 

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何だかファンキー(?)な「誤った関西人のイメージ系兄ちゃん」黒田官平氏が登場v

あ、あれ………おかしいな、初期設定ではこの人、登場しないはずだったのに………ついでにいえば

こんなに目立つ予定でもなかったんだヨ(滝汗)。

「黒田官平」はいわずと知れた「黒田官兵衛」のもじり。齢25にして13の子持ちとゆー彼の中坊時代を

覗いてみたいものです。明らかに犯罪じゃん………(苦笑)。

恋人は未婚の母として子供を出産。故に娘さんは母方の「松野」姓を名乗っています。フルネームは「松野寿」。

これまた官兵衛の息子の「松寿丸」から頂きました〜。成人してから恋人と正式に結婚したのかは謎のままです。

ってゆーか決めてない(オイ)。

 

今回は中途で秀吉が戦線離脱。宙象の企みに態と乗せられてみよーと考えたみたいですが、

上手く行くのか行かないのか。彼の方が今回の探索対象については防衛隊を一歩リードです。

どの辺りで防衛隊が追いつくかがポイントですナ♪

 

―――ところで。

大阪から比叡山まで車でどれぐらいかかるんだろうとふと思った(調べておけよ☆)

 

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