「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

76.trust(1)

 


 薄暗い視界に気が滅入る。この暗闇、この湿気、この陰鬱さ、地下坑道というよりもまるで陰鬱な鍾乳

洞だ。落下途中で岩壁に激突しなかったのは不幸中のさいわいである。が、残された面子を思うと果た

して本当に「さいわい」だったのすら疑問に思えてくる。

「―――とにかく、行くしかねぇ」

 漸う腰を上げて信長は辺りを見回した。落下した地点から地上に這い上がることは難しく、亀裂のよう

な道なりは先が見えない。手探りで進むしかない現状を「暗中模索」と表現するのはあまりに的確すぎて

ぐぅの音も出ない。

「風が来る方向に進みますかね」

 取り敢えずの休戦協定。いまだけは昔に戻った「フリ」をしようと、故意にかつての言葉遣いをする秀吉

だ。だから傍目には彼が防衛隊の側に戻ったようにも見える。

 ただ、かつてと違い視線を合わせることもなく、互いへの気遣いを見せる訳でもなく、やはりどこか気ま

ずい空気のままやって行くしかない。道連れが『これ』というのも憂鬱の一因か。

 薄っすらと周囲が確認できるのは何処からか光が差し込んでいるからだろう。完全に地上との道が閉

ざされた訳ではないようだ―――同時に、この同じ地下坑道内に例の白い狼も生存しているのだろうけ

れど。

 一歩一歩、足元を確かめながらブツブツと呟く。

「叡山の地下にこんな広い場所があるなんて思ってなかったぜ。10年前から陥没し易くなったとは聞い

たけどよ」

「………空間転移ってヤツですね」

「これまた<時震>の産物って言いたいのか?」

 連続で聞かされていい加減耳にタコができそうだ。興味なさそうな信長に苦笑をもらしながら秀吉は淡

々と説明する。

「ただの<転移>なら陥没するだけ。それが今日まで曲がりなりにも存在できたのは『この世界』と『どこ

かの世界』の『叡山の地下構造』が『交換』されたからですよ」

「………もし10年前の<時震>で地下構造が交換されてたってんなら急に地盤が緩くなったのも説明つ

くけどな。時期も一致するしよ」

 構造が交換されたと仮定すれば、いま自分たちが触れているこの壁や岩すらも<異世界>の物質な

のかもしれなかった。あまりに近接した時空間で取引がなされると、もとがどちらに由来するものなのか

すら、分析しても分からなくなってしまうのだと秀吉は続けた。

 随分とまた世界の成り立ちは曖昧なんだなと内心で不貞腐れながら信長は片手で壁をたどる。

 ふと、何か堅いものに手がぶち当たった。闇色の視界ではよく分からないけれど、四角くて、でっぱった

ところとひっこんだところがあって―――端的に言って、それは壁に取り付けられた電源スイッチのよう

だった。試しにスイッチを切り替えてみる。

 が、何も起きない。

「………反応しねぇな。スイッチじゃねぇのか?」

「失礼―――少しだけ………」

 ヒョイと秀吉が下から顔を覗かせ、問題のブツを認めて眉をひそめる。軽くてのひらでなぞるとため息を

吐きつつ促した。

「下がっていてください」

「―――おう」

 信長が一歩下がるのを待って目を閉じる。あまり見せたくはないんですけどね、なんて呟きが坑道内に

響くことなく消えた。

 スイッチに当てた手に力を篭める。声は低く響いた。




「―――念!!」




 発言者の額に第三の目が鈍く輝く。放電した四角い箱がパシパシと乾いた音を伝わせてゆく。

 ヴィ………ン………

 モーターが回るような音。数秒遅れてポン、とはるか後方で何かが動き出す気配がした。

 信長が振り返るよりも早く押し寄せた光が壁の其処此処に隠されていた電球を灯していく。

 暗闇に慣れた目には眩しすぎるそれを手をかざすことで遮って、驚きも露に彼は周囲を見渡した。気付

けば手を伝わせていたものもただの岩肌ではなく、かしこに整備された通路の気配を滲ませているでは

ないか。かなり古びていて、よく整えられているだなんてお世辞にも言えない外見だけど、それでも。

「―――ただの地下通路じゃなさそうだな」

「<空間転移>しか関わってないと踏んでたんですが………」

 少し疲れた様子で秀吉はスイッチから手を離した。<力>を送り込む作業は、あまり、得意じゃない。

「<時間転移>も混ざってたのかもしれません。転がってる木材とか、明らかに10年どころじゃない時間

を経てそうですし」

「10年前より見て<未来>の時間軸か?」

「<過去>―――だと、思いますけどね」

 左のてのひらを開閉させながら訥々と彼は答えた。対照的に信長は不敵な笑みを面に昇らせる。

「ふん。面白そうじゃねぇか」

 たとえ此処にあるものが『どこかの世界』の『叡山地下』で、それが過去の産物だろうと未来の遺物だろ

うと、何かが残されているというならば有効利用させてもらうだけの話だ。

「<異物>を役立てりゃいいんだろう」

 その言葉を聞いた秀吉だけが皮肉げに笑っていた。








 既に暮れ始めた太陽は地平線の間際となり、やけに赤い色が辺りを照らし出している。鳴り響くサイレ

ンと空を飛ぶヘリの音がやたらけたたましく、いますぐに耳を塞いでしまいたくなるのをどうにか堪えなけ

ればならなかった。黙って落ち込んでいるだけなら誰でも出来るのだと何度目かの叱責を自らに飛ばし

てともすれば見失いがちになる目標を指し示す。

 さあ、解決策を探らなければ。




 地上に残された日吉と五右衛門のもとに黒田が駆けつけたのは十分もしてからだった。慌てて駆けつ

けた彼は愛車が用水路に突っ込みそうになるのを危うく回避して、エンジンを止めるのもそこそこに運転

席から撥ね降りた。

「藤子はん! 五右衛門はん! 無事だったんどすな!?」

「ああ―――まぁ、俺らはね………」

 苦々しげに五右衛門が返す。影の護衛としてついていながら救えたのはたった一人だ。その事実は少

しばかり彼の矜持を傷つけてくれたのだろう。すぐ傍らに落ちていた石版を抱え込んだ日吉はしきりと歯

を食いしばっている。彼女の頭を軽く撫ぜながら黒田はテキパキと指示を与えた。

「連絡くださってからすぐに関西支部に通達してきました。間もなくこの近辺は封鎖、付近の住民には非

難勧告を出します。敵を内側に閉じ込める例のバリアが早く届けば―――」

 それはおそらく、先だって秀吉の動きを止めようとしたものと同じ機械なのだろう。有効範囲が地下まで

広がっているのは進歩と言うべきか。

 駆けつけた警察官に戒厳令を敷くようきつく言い渡し、マスメディアの取材は一時的に遮断する。「とり

あえず陥没事故が起きたとでも言っておきなはれ」とあしらいながら。

「………で。お二方の話では―――なんですか? 白い狼? マジですか」

「悪いけどマジ。大マジメ。しかもそいつが今回の出張の目当てっぽい………ほら、こうやってタンサくん

を掲げるとさ」

「移動してまんなぁ」

「でしょ? だから悪いケド、ヤツはまだ生きてるし、地中を移動してる。早急に囲い込まないと民間人に

被害が出る」

 3人並んで最短距離にある施設へと向かう。黙りこくっている日吉が気になったのかフと黒田が振り返

った。施設内部の司令部へ入っても未だ声がない。

 先ほどからこの少女が無口なのは仲間が巻き込まれてしまった衝撃だとか、助けられなかった不甲斐

なさに打ちひしがれている故だろうと考えていたのだが、どうもそれだけではないようだ。事実、彼女は手

にした黒い石版に真剣そのものの目を注ぎ必死に文字列を辿っている。瞬間、声をかける事が躊躇わ

れる程に。

「………藤子はん?」

「あっ………」

 密やかな呼びかけに弾かれたように顔を上げた。慌てて周囲を見回して、辺りが騒然としているのに初

めて気付いたといった風情だ。暢気なものだと呆れるべきか、大した集中力だと褒め称えるべきか。「す

いません」と縮こまる彼女自身よりも手元の石版に目が行くのは研究職につく人間の悲しい性だ。

 多少、土に汚れたとはいえ成分さえ明らかでない黒い石版は鈍く輝いている。

 表面に刻まれた不可解な文字がいたく興味を惹いた。

「その石版―――どこから?」

「え? あ、その………落ちて、たんです。すぐ側に。でも走ってくる秀吉が持ってたように見えたから、多

分―――」

 秀吉の持ち物だ。

 つまりは、敵方の品物だ。

 いうまでもなく重要参考資料であるからには、日吉がずっと抱えていていいはずもない。黒田がこう口

にするのも至極当然な流れで、

「それを分析すれば今回の事と次第が明らかになるやもしれまへんな。藤子はん、関西本部に輸送した

って構へんですか?」

 いつもの日吉なら素直に頷いていただろう、なのに、何故か今回ばかりは引き下がる訳には行かない

というかの如く逆に胸に石版を抱きしめて、




「―――ごめんなさい」




 と、謝った。

 謝られた側が面食らう。謝罪する側が更に言い募る。

「その………確かに、分析してもらった方がいいと俺も思うんですっ。絶対ここには色んな手がかりがあ

るんだろうし、でもその、俺っ、俺ならっ」

 何気なく黒田は隣に佇む少年に目をやるが、当の少年は動じずにいて、こういった展開に慣れっこな

のだなと窺わせた。

 こんな風に突然の申し出とか根拠のない自信とか直感とか第六感だとか。

 言われて成功してきているから取り乱さないのか失敗しても後悔しないから受け止めるだけなのか。

 密やかに青年は悩む。

 少女は尚も言葉を重ねる。




「俺は―――この石版を読むことができる。そう思えるんです………っ」




 きつく唇を噛み締めて、必死の形相でこちらを見上げる。

 全くもって根拠のない、けれど否定する要素もない。軽くあしらう事もできるけれど。

(何というか―――)

 関東モンはやっぱり難しいなぁ、それともこれは防衛隊に限ったこと?

 と内面の思いはおくびにも出さず、自らの権限で彼女に分析する時間を与えても何ら支障はあるまいと

結論付ける。研究室に持ち込んでああだこうだと喚いてビーム照射しようと成分分析しようと分からない

ものは分からないし、分かるものは一瞬で分かるのだ。

 後で難癖つけられても適当にかわせばいい。それだけの権力と実力は兼ね備えている。

 脳内の思考はほんの数秒、ニンマリと彼は笑みを浮かべた。

「あの―――だから、本当にすまないとは思うんですけど、でも………っ」

「ええですよ」

「―――へ?」

 今度は日吉が目をぱちくりとさせる番だった。眼前ではこの場の臨時最高指導者がへらへらと締まり

のない笑みを浮かべている。

「ええですよ。好きなだけ調べたってくらはい。ああ、でも―――できるだけ早く頼んまっせ。人命救助は

時間との勝負ですからなー」

「え? ええ? ちょっ、そのっ、いいんですかっ!?」

「いいも何も、藤子はんが調べたかったんでっしゃろ?」

「そ、そうなんです―――けど―――」

 すんなり許可が下りると返って身動き取れなくなる日吉である。

 更に笑って黒田はそんな子供の頭を撫ぜた。相手は未だ釈然としないようであったが、ひとつふたつ、

自らを納得させるように頷くと石版を抱えて引き下がった。本部の隅に蹲って読解に精を出すつもりなの

だろう。

 漸く話がついたかとばかりに今度は五右衛門が身を乗り出した。

「あのさ。忙しそうなところ悪いんだケドここの指揮全部あんたに預けちゃっていい? ついでに機材と工

具も貸して」

「そりゃーホントに悪い話ですなぁ。ワテひとりで関西全部ですかい? ―――ま、至急関東にも応援を

要請しますさかい、ええですけど。でも工具なんて何に使うんどすか」

「ん? 電波がね」

 言いながら五右衛門は顔を顰めた。かざした左手首には防衛隊の証である銀のリングが嵌められてい

る。

「連絡とりたくても全然届きゃしねぇ。連中の安否次第でこっちの作戦も変わるっしょ。一時的にでもいい

から精度を上げるか電波を調節するかしねぇと―――でもって俺、そんな機械を此処に期待しちゃいね

ぇから」

「確かにウチにはありまへんな」

 ふむ、と厭味に感じることもなく黒田は頷きを返した。すっと右手後方を指差す。

「機材と工具ならあっちの部屋にゴロゴロしとります。好きに使ったってくらはい」

「サンキュー♪」

 気楽な言葉ひとつをかけて少年はあっさりと部屋の奥へと身を引っ込めた。

 残された青年はさてこれからが正念場だぞ、と地域警察や防衛隊関西支部や関東本部との連携に袖

をまくって挑むのであった。








「わからねぇ」

「………それ以前に理解しようって気があるんですか、アンタは」

 もう何度目かの信長の言葉に知らず秀吉は恨みがましい口調になった。確かに自分は地下にいる間

は休戦しておこうと約束した。が、それはこんな風に解説役を担うという意味ではなかったはずだ。教わ

る方に理解力が足りないのではない、これは絶対に嫌がらせだ。だから思わずこちらも意地になって簡

易な言葉を使おうという気が失せてくる。

 裸電球の照らし出す古びた岩作りの通路を歩く。

「だから、単純に同時間軸内の<転移>で出現したならば<時間移動>、同列時間帯の<転移>なら

ば<空間移動>、<異世界>の要素が含まれるならそれは<時空間移動>になるんです」

「だから結局今回のは何なんだよ」

「<時空間移動>じゃないですか。少なくとも俺らの歴史の中にあんな動物は存在しない」

 動き出した白狼を思い出して何となく秀吉は不機嫌になる。

 所在を突き止めただけで帰還しようと思っていたのにとんだミスだ。石版を発見して読解に乗り出した

のが敗因か。まさかあのタイミングで<時震>が起きるなどと考えもいなかったし。あれが単なる地震だ

ったなら白狼とて目覚めはしなかっただろう。

(―――いや、待てよ)

 もし、それすらも故意に仕組まれたことだったするならば。

 ザコズも言っていたではないか、今回の調査は宙象が己を追い詰める為に仕組んだ罠なのだと。<時

震>を起こして白狼を起こし、秀吉の命を狙い、命を落とさずともこうして地下に防衛隊の誰かと閉じ込

められる展開になったとすれば―――。




 幾らでも、追求のしようはあるのだ………ヤツにとって。




(―――あんにゃろう)

 悪態は脳内に留め置いて口からは変わらぬ説明の文章が流れ出す。

「見ましたか? ヤツの首に下げられていた金属板―――『クオヴァディス』の文字が刻まれていた。そ

れが即ちヤツの本質です」

「何か下げてるのは分かったけど、そんなん認識してる暇があるかよ」

 おっと、と声をあげて信長は落下してきた鉄板を避けた。かなりボロい通路は気をつけなければすぐに

怪我をしてしまう。最初はあんなに開けていた頭上も随分と狭まり、いつの間にか石と岩とで埋められて

いた。

「しかもどの辺りが本質だってんだ」

「名付け親が決してキリスト教徒じゃない辺りがポイントですよ」

 本当のクリスチャンなら思いつきもしないんじゃないですかと付け加え。

「そも、あれは主に向かっての問いかけで―――ヤツは常に『主』を求めてる。『主よ、何処へ行かれる

のですか』とすれ違った主に問い掛ける哀れな迷い子に過ぎない。教徒が迷える子羊に喩えられ、時に

救世主こそが『生贄に捧げられた尊き子羊』とするならばそれを屠る『狼』は何なんですか。『子羊』の立

場にたたされた『屠る側の狼』に『迷える教徒』の言葉を重ねるなんて皮肉にも程がありますよ」

「―――宗教要素を混ぜ込むな。俺ぁそういった話がキライだ」

「キリスト教徒でしたっけ」

「ウチは仏教と神教とヒンドゥーとイスラムと八百万の神と無神教だ、馬鹿野郎」

 つまりは無節操だと言いたいらしい。

「ついでに言えば外見はおそらく、フェンリルを模してますね」

「今度は何教だ」

「北欧神話ですよ。神々の黄昏において大神オーディンを飲み込みます。裂けた口は天から地までも届

くと言われ………」




 ォオ………ン………!!




 ふと聞こえた地響きにピタリと揃って歩みが止まる。互いに交わす目線はことの正体を既に見知ってい

る証だった。自分たちが無事でいられたのだ、あんなデカい図体したヤツが、何らかの手傷を負っていた

としてもくたばるハズがないことぐらい想像がつく。

 信長が笑って後ろを指差す。

「―――それこそ、大地を飲み込みつつ、か?」

「ええ。飲み込みつつ、ですね」

 薄い笑みを浮かべて止まっていた歩みを再開させた。心なしか速度を上げながら。

 しかし行く宛てが決まっている訳でもないしこの先が行き止まりになっていないとも限らない。白狼が自

分の後を追っていることだけは確実だったから、いよいよ袋小路に追い詰められたらどうしようかと今か

ら秀吉は思案する。

「ヤツは」

 前を向いたまま振り返りもせずに信長が呟いた。

「ヤツは、何でお前を追ってたんだ。地震がきっかけで目覚めた後、偶々側にいた生物に襲い掛かった

ってのか? テメェが持ってた石版に惹かれましたって言った方がまだしっくりくらぁ」

「じゃあ石版を追って来たとは思わないんですね」

「あれは地上に置いてきた。ヤツの目的が『それ』なら足音は俺らの背後じゃなく頭上からすべきだろう」

 当然といえば当然の疑問。石版を『置いてきた』と表現する辺りに妙な勘の鋭さを感じて舌打ちする。

 確かに秀吉は、態とあれを地上に残してきたのだ―――何の手がかりもない状態では倒す手立てすら

浮かばない。調査機関に渡されてしまえばただの『石版』と化すだろうものも、日吉がいるならば貴重な

『資料』と成り得る。

 己の半身があの文字列を解き明かすだろうことを彼は微塵も疑っていない。




 だって自分が読めたのだ―――日吉だって読めるに決まっている。言うまでもないことじゃないか。




「………ヤツが追ってるのは『主』ですよ。いや、『仮の主人』ですかね」

「あん?」

「暴走した挙句に真の『主』になりえない者を食い殺す―――だからこそヤツは『屠る側の狼』だ」

 だからもっと分かりやすく話せ、と信長が文句をつける前に。

 ずっとたどっていた右手が突っ掛かって強制的に足を止められた。前方を塞ぐ重たい鉄の扉が控えて

いる。

 少しだけ不機嫌そうに眉をひそめると信長は力を込めて扉を押した。施錠されていたら難儀なことだと

思ったがどうやらこの地下道の主は安全管理にはさして興味を抱いてなかったらしく、労することなく扉

は開かれた。あるいは時の経過が鍵を意味のないものにしていたのかもしれない。

 突然に開けた視界に信長は「へぇ」と声をあげた。

 さすがにこんな状態になっているとは思ってもみなかった。散々<転移>がどうのこうのと語ってきた

秀吉も続いて覗き込んだ先の光景にちょっと息を呑んだ。




 空洞だ。

 日本有数の、と言っても差し支えない。




 更には明らかな人工物が所狭しと並べられていて、此処がどこかの組織の中枢部であったことを窺わ

せた。司令部まで行かずとも武器庫とは呼べるだろう、健全な一般市民では入手しようもない武器がゴ

ロゴロ転がっている。どれもこれも旧式でとても実用に耐えうるとは思えなかったが火薬ぐらいなら入手

できるかもしれない。

 踏み入れた先でキョロキョロと辺りを見回す。無造作に置かれた木箱に弾薬、重火器類に大破した道

具の数々、まるでこの場で激しい戦闘があったかのような。

「―――仲間割れでもしたか?」

 ボソッと信長がぼやいた。軽く自身の左肩を抑えつつ秀吉も辺りを観察する。

 自分たちが入ってきたところ以外にも出口が幾つかある。その内のひとつは激しく焼け爛れて塞がれ

ていた。ちょっと見では判断も難しいがさいわいにも外界へ通じていそうな道を見つけた。





 ガタガタと不揃いに並べられた鉄の道。

 金属が錆びきっていないのは僥倖だ。




 近寄った信長が身を屈めてレールに触れる。荒い接合面は技術力の違いを示していた。そこに加えて

かなりの年数を経ているものだから、歪みまくったレールは軋み続けている。これで資材を運搬しようと

思ったら少なくとも10数回のコースアウトを余儀なくされるだろう。

「………方角から考えると行く先は琵琶湖、ですかね」

「ふん。また<10年前>の繋がりか?」

「一度『連中』の標的とされた場所はその後の変異も置きやすい場所になる。仕方ないと言えば仕方な

いです」

「―――で?」

 先を促されているのは明らかだった。いや、『連中』とは誰なのだ、という確かな圧力か。

 本来なら企業秘密にすべきだろうこともペラペラ喋ってきた秀吉でもこの先を口にすることはさすがに

躊躇われた。根拠が弱いし、信長は敵だし、話したところでどうにか出来るものでもないし、理解してもら

おうとも思わないし。

「気に喰わない連中ですよ。クオヴァディスの名付け親も十中八九、奴らでしょうし」

 でも逆にいえば、所詮関係がないと割り切るのだから、告げた所で自分が困る必要もないのかもしれ

なかった。

 ここでこの情報を伝えたら信長はどう行動するのだろう。正体を突き止めようとしたって無理に決まって

いる。全ての情報は闇に埋められて、探る為の唯一の手段といっていい仮想現実空間は既に閉ざされ

ているし、余地空間の鍵は未だ『資格者』に手渡されていない。

 僅かに遠くなった天井を見上げながら秀吉は密やかに笑った。




「トキヨミ―――って。俺は呼んでますけどね」




 アンタなら、どうするのかな。

 ………………隊長。








 すっかり陽が暮れた世界を黒い影たちが蠢いている。相変わらずの喧騒、ドタバタ、飛び交う人声。お

そらくは機械が運び込まれて地下を覆い尽くすバリアが設置されている。けれど八方を封鎖してしまった

ら生きているであろう身内まで身動き取れなくしてしまうから装置の操作ひとつに難儀する。

 表では黒田が指揮官として汗だくになっているのだろうし、ひとつ奥の部屋では五右衛門が機材を前に

四苦八苦しているのだろう。

 そんな最中に黒い石版ひとつを抱え込んで縮こまっていた日吉は表面を手で撫でさすって冷や汗をか

いていた。

 読めると思って読んでいたけど、本当に読めて嬉しいというより吃驚してるんだけど、なんてゆーかそれ

よりもあのそのこの内容ってかなりかなりひょっとして。




「………………マヂ?」




 奇しくも読解直後の双子の兄と同じ感想を抱きながら。

 

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しまったぁぁぁ!! 予定より全然話が進まなかったヨ!!(こればっかり)

途中で妙に秀吉が語りだしたからイケナイんだよ―――神話・宗教関連の話なんぞ吹っ飛ばしていけば

良かったのにさ………ブツブツブツ。

そして幾らなんでも彼は企業秘密を話しすぎだと思いました(笑)。

 

今回でよーやく出てきましたよ、『トキヨミ』の名前が! 原作よろしく『コロクンガー』においても彼奴等が

キーポイントです☆ 実際に出てきて敵対するなんてことはないと思います―――が、この作品内における

諸所の事件の諸悪の根源はすべてこやつらといっても過言ではありますまい(偉そう)。

『連中』が10年前に何を仕出かしてくれたのかは追い追い明らかにしていく予定です〜。

あくまでも予定だけどネ☆ ← オイ。

 

そして次回こそ話を進めようと心に誓うのでした(ホントこればっかやな………汗)。

 

 

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