「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

77.trust(2)

 


 暗闇で目を開いた時、そこには何もなかった。誰もいなかった。

『少しだけ此処で眠っていろ』

 確か自分はそういわれて眠りに就いたはずなのに―――ああ、もしかすると寝過ごしてしまったのだろうか。

一生懸命、列に遅れないように走って走って走ってついて行ったのに、振り返ってもらえたコトは一度もなかっ

た気がする。

『哀れな』

 誰かひとりが自分を指してそう言った。

『哀れな。力ばかりに突出した獣よ。屠る側の本能さえ抑えられたならば未だ我らに従えようものを、只管に

喰い散らかすだけが脳ではお前を彼の地へ導くことは叶わぬ』

 彼らを包む目映い光。遠ざかる景色。押し込められる意識。

 ああ、封印されるのだ―――。

 理解したけれど別に悲しくもなかった。きっと誰かが迎えに来てくれる。たとえそれが何十年後でも、何百年

後でも、自分にとっては一瞬のまどろみに過ぎない。




 かくして『彼』は眠りに就き、数世紀に渡る眠りを経て、時には空間や時空すら越えて、目覚めることを余儀

なくされた。

 その度に主を捜しては裏切られ、募る苛立ちと自覚のない焦りゆえに獣の本性のみが解放されて突き出し

た牙は相手の臓腑をえぐった。

 主と思える気配があれば捜さずにはいられない………もはや遺伝子レベルまで組み込まれた情報だ。成り

立ちからしてプログラムとシステムで制御され、『彼ら』の実験で形作られた外見と魂である。試みを楽しむだ

け楽しんで後片付けをしない『彼ら』は、実験結果にもさして興味を抱いていないようだった。




 ただ『哀れ』と、『使えない』と、呟くだけ呟いてその場を立ち去った。




 いま、また、新たな時間の中で目覚めて瞳を見開いた。

 誰もいないかと思いつつ自然と瞳が周囲を探り、内側に組み込まれた組織が『探査』を開始する。

 ほんの僅かな間を置いて見つけられた『仮の主』はすぐ側にいた。

 彼もまた―――逃げたけれど。




 主ナラバ我ヲ従エヨ。

 主ナラバ我ヲトドメルナ。

 主デナケレバ―――。




 ああ、その喉笛をこの牙で食いちぎろう。

 『主』たりえない、ニセの主君であるならば。








 遠く微かに響く震動が確かな敵の接近を知らせている。『敵』と称するには少しばかり早いかもしれない、お

そらく向こうは自分たちに害意があって追い詰めている訳ではないのだから。それでも逃げ切るか迎え撃つ

かしかない側にとっては充分な脅威となる。こんな地中で襲われてみろ、ひとたまりもない。あっという間に迫

り来る土砂に押し潰されてTHE ENDだ。

 武器庫から他方向へ伸びる洞は多けれど外部に通じているのは数えるほどしかないようだった。そのうちの

ひとつが鉄道の敷かれた例の道である。一応、手前から奥へ縦断するように路線が走っているのだが手前側

はすぐ壁にぶち当たってしまったのだ。代わりにいいモノも見つけたけれど。

「―――まだ動きそうだな」

 呟いて信長は僅かに後ろの様子を探る。

 先ほど『トキヨミ』という思わせぶりなセリフを吐いてくれた輩は何を思ったのか黙り込み、以降、何の説明も

しやがらない。ただ静かに己の肩を柱などにもたせかけてあらぬ方を見つめている。

 やる気あんのか、と思うが、集中できないのだろうな、とも思う。

(―――馬鹿が)

 無茶ばっかりするからああなるんだ。

 信長の眼前にあるのは錆びて古びて黒ずんでしまった木製のトロッコである。何台か置いてある辺り、むか

しはこれを使って資材の運搬でもしていたのかもしれない。うち、1台を引っ張り出してガタゴトと鉄道に載せ

る。この先がどこへ繋がっているかは知らないが乗り物を使えば体力的に楽だ。此処を抜ければこの気まず

い空気ともオサラバ、晴れて自分と秀吉とは敵へ逆戻りする。

 相手に見えないような位置で彼は口元を少し歪めた。

 全く………腹の立つ。

 僅かなため息と共に吐き出したのは下手な意地だ。

「おい―――行くぞ」

 気が進まないながらも呼びかけた。ここで何も言わず自分ひとりで駆け出したならさぞやスッキリするだろう

に、そうできないのは性分なのか。地上に帰った時の仲間の冷たい視線が気になるなんて、特にその中のひ

とりの反応が気になるだなんて、決してそんなことはないけれど。

 しかし相手の内心も知らぬ顔で秀吉はあっさりと返した。




「俺は残りますよ」




「―――あ?」

 ピタリと歩を止めて振り向いた。出口とは反対方向、無造作に置かれた武器の山の中に秀吉は埋没しかか

っている。ガタン、と古びた銃を取り出して構えてみせた。

「俺は残ります。安心して下さいよ、道連れにしようなんて思っちゃいませんから………脱出したいならどうぞ

ご自由に」

「残る―――って、何でだ。ひとりで立ち向かうよりゃあ脱出した方が体勢も立て直しやすいだろうが。意地や

立場だけでモノいってんじゃねーぞ」

「違いますよ………いえ、少しはそうかもしれませんけど」

 若干、困ったように秀吉は瞳を伏せた。鉄製の道具に取り囲まれて佇む様は歳相応の幼さを滲ませている。

「ヤツは好きで此処に残された訳じゃない。これまでも幾度か目覚めていて、その度に眠ることを余儀なくされ

ていたはずです。なら、いい加減ここいらで終止符を打ってやるのがせめてもの情けってモンでしょう」

「―――テメェが『仮の主』なのか? だからなのか? 誰がいつそんな事を決めた」

「決めたのは勿論ヤツですが仕組んだのは『連中』ですよ。そういった意味では俺もヤツも同類だ」

 話しながら信長はズカズカと重火器類の山を這い登った。秀吉の横に並び立ち、「やはり見上げるのは性に

合わん」とでも言うように相手をねめつける。

 視線をかわしたのは一瞬だ。すぐに逸らしてボソリと不本意そうに告げる。




「―――どこに仕掛ける」




 今度は秀吉が驚きに目を見開く番だった。

 彼が唖然としている間に信長は鉄くずの山をひっくり返して使えそうな機材を探している。仕掛けが死んでい

るものは中の弾薬だけを取り出して選別していく。ようやっと秀吉が声を絞り出した頃にはかなりの量が仕分

けられていた。

「残る………って、何で」

 先の信長と同じ科白で問い掛ける。チッと舌打ちしながら振り返りもせずに応えた。

「馬鹿か、お前は? あのトロッコがスピードに乗るまでどんだけ押さなきゃならねぇと思ってんだ? 少しは働

け。第一、行く先がどうこうと気にするのは俺の性分じゃねぇ、道案内役ぐらい務めやがれ」

「一本道なら案内なんて」

「その肩で例の狼を止められるなら止めてみやがれ。巻き添え喰うのはゴメンだぜ」

 背後で被告が息を飲む。告発者はあくまでも無愛想極まりなかった。

 ―――隠し通せるとでも思ってたのか。怪我した左肩をかばうような動作を無意識の内にしていたクセに。

意地を張っていたいはずの実の妹にまで見抜かれるほど治りきっていないというのに。落下した際にも強打し

ていたクセに。




 嗚呼、全く本当に――――――。

 ………………人を馬鹿にしてくれる。




 腹立ちまぎれに蹴り飛ばした鳥銃が乾いた音をたてて地面に転がった。








 実に言い出しにくい真実とは存在するものだ。

 思い切り期待している眼差しを前にして「ごめんなさい」という感じ。何とかしてくれるだろうと頼り切っている

人たちを前にして「できません」と断る感じ。防衛隊に務めだしてから幾度かそんな経験をする羽目に陥ったこ

とはあるが、まさか関西に来てまで同じ目に遭うとは思ってもみなかった日吉である。それもこれも全てあの

ケモノを此処へ連れてきた奴らが悪い。悪いに決まっている。

 くだんの石版を読み解いたはいいものの洒落にならない内容にひとり悶々とするのであった。

 しかもいまは。

「―――で、どうだったんですか藤子はん?」

 にっこり笑った黒田が「隠し立てしやがったらタダじゃおきまへんで♪」と背後にどす黒い雷雲を棚引かせて

向かいの席に座している。部屋の隅で機械をいじり倒している五右衛門にすがりたい。ホントすがりたい。

「えぇーっと………です、ねぇ」

「はい?」

「その、これはあくまで俺が読み解いた内容にすぎないので、本当の本当にこんなことが書いてあるって決ま

った訳じゃないんですから。そこんとこ念頭においといてくださいねっ」

「任しといてくらはい! 藤子はんの読みが間違ってるなら研究者が幾ら分析したって解決しまへんv」

(頼むからもう少し自分とこの研究者たちを信用してクダサイ)

 素で願う日吉の背中を滝のような汗が流れた。

 嘘をつく気もないしつける立場でもない。覚悟を決めた日吉はため息と共に机上の石版の文字を指差した。

「………訳していくとこうなります。『我が制御する力、開かれし時と処にはあらず。創られし魂の在り処ここに

あらず。留めおく意志と力なくして我が掌中より放たれる』………」

「なんかよー分かるような分からんよーな内容ですなぁ」

「………かなり端折って意訳するとこうなります」

 本気で逃げたい。もっとマトモな内容が書いてあるだろうと自分だって期待していたのにこんな仕打ちなんて

あんまりだ。自分の解読が間違っていてくれとこれほど切に願ったことは未だかつてないだろう。

 息をひとつ吸い込んだ。




「―――『面白そうだったんで創ってみたけどちょっと失敗しちゃいました。てへv しょうがないんで此処に捨て

てきまーす。拾ったら最後、暴走しまくるだろうから気をつけてねっ。制御装置も付け忘れちゃったんで起こし

ちゃった人がどうにか寝かしつけたげてくだサイ☆ ちなみに名前は<クオヴァディス>、カワイイでしょー♪ 

あ、一応、警告しておくけどこの子に弱点らしい弱点はないからね? とりあえずポジトロンビーム(※詳細不

明)と光子砲でも使っておけばいいんじゃないかしら』―――以上です」




「………………………」

 実にイタイ沈黙が辺りに舞い降りた。

 もう少し文面は続いていたのだが語る気もしなくて日吉は押し黙る。

 部屋の隅で五右衛門がカチャカチャと機材をいじり、窓の外ではバリア展開のための車両がフル稼働し、空

をヘリが飛び交ってサーチライトが周辺を満遍なく照らしている、と言うのに、のにのにのに。

 施設内の一室に佇んだ自分たちはなんて状況にいるんだろうか。

 黒田が爽やかな笑みと共に天井を見上げた。

「藤子はん―――この石版、叩き割ってもエエですか?」

「たぶん拳の方が痛みますヨ」

「ふふふ」

「ウフフ」

 虚ろな笑いが零れあった。

 かなりな間が空いた後で五右衛門の「よっしゃ、完成した―――!」という嬉しそうな叫びが響いたけれど残

念ながら素直に喜びを分かち合える相手はいなかったのだった。








「抑えるっつったって、さすがに此処で完膚なきまでに叩きのめそうだなんて幾ら俺でも考えちゃいませんよ」

「足止めか?」

「ヤツを地中に埋められればいい。それで眠りに就いてくれれば御の字です」

 ひたすら武器の選別作業を続けながら秀吉は淡々と答えた。

 使える武器を右手に、使えない武器は弾薬だけ抜いて左手に、眼前の山をより分けていく。敵の震動は徐

々に近づいて来てるからのんびりしてられない。

 ただ、この部屋でかつて何かあったのか、ある程度使用可能な重火器類は表に投げ出されていたし、壁に

は古びた刀なんかが突き立ったりしていたので思ったより早く済みそうではある。

 信長は敵の来るであろう進路に仮初のバリケードを築いていく。

「テメェ、外の連中の動きも考慮に入れてるんだろうな? 下手したらミサイルか何かでここら一帯吹き飛ばす

かもしれねーぞ」

 意外と現在の防衛隊の実情を理解しているじゃないか、とかつての上司の言葉に彼は微笑んだ。

「俺たちなら確実にそうしますがね。………地球サイドはそれができないからいつもいつも宇宙人連中を取り

逃がす。大の虫を生かすために小の虫を殺す作戦が立てられないから痛い目ばっかり見るんですよ」

「まぁな」

 信長もあっさりと認めて、

「それをやったら終わりだけどな」

 と付け加えた。

「所詮やってることと言えば取り繕いようもない『戦争』そのものだ。相手が同じ星の人間かそうでないかの違

いだけかでよ、だから、仲間を見捨てたらその時点で大義名分は全てご破算だ」

「じゃあそろそろ終わりですね」

「ん?」

「間もなく弱者の切り捨てが始まりますよ。確実にね」

 断言してやれば相手が嫌そうに眉をひそめた。その表情に性悪な元部下はうっすらと笑う。




 この人がもっと『現実』を知ればいい。




 そっぽを向いた信長もまた世相の変化を肌で感じ取っているに違いない。笑ってすませられないほどに宇宙

人による被害が増大しているからだ。今回の件だって、おそらく黒田が情報操作はしているだろうが人の口に

戸は立てられない。防衛隊関連でまた何か起きたのだろうと近隣の住民は察するだろう。マスメディアも便乗

するだろう。政府機関が幾ら言い聞かせたところで「弁論の自由」を叫ぶ一部報道陣は早々にこちらを矢面に

立たせてくれるのだ。

 所謂「権力」に屈しない姿を好ましく思うと同時に、事情を知らないが故の無知蒙昧な言動に喚きたくもなる。

 実際に喚いてしまうのがこの隊長だったりするのだが。

「―――で? どこに組み立てればいいって?」

 吐き出した言葉はつっけんどんで内心を窺わせる。

 計算や数式の面では秀吉の方が優れていると認めている信長は専ら力仕事に回っていた。意地を張って手

伝おうにも左肩が腫れてきつつあった秀吉は口に出さずに受け入れる。

「その銃は壁からぶら下げて………あ、そこでいいです。いえ、もうちょい左です。でもってそこから弾薬を10

個ほどぶら下げてください。起爆剤がわりにしますから」

「導火線がわりか。最終的にゃあそこの弾薬の山に繋げる気かよ。発火装置はどうするんだ」

「いま作ってます」

 常備している小道具のドライバひとつで銃を解体し、必要な部分だけを組み合わせてゆく。なぁに、凝った作

りである必要はないのだ、ただ火花を散らして導火線に点火できれば充分である。

 何だって俺が日曜大工まがいのことを、とぼやきながら信長が荷物をひとつ抱え挙げた時だった。




 ビ――――――ッッッ!!!




「どぅわっっ!!?」

 突如鳴り響いた音にバランスを崩し信長が哀れ武器山の麓まで滑り落ちる。危うく配線を間違えるところだ

った秀吉の胸はバクバクゆっていた。

(い………一瞬、もうヤツが来たかと思ったぢゃねぇかよっ………!!)

「いきなり鳴るんじゃねぇ――――――っ!! 心臓に悪ぃだろうがぁぁ―――っっ!!」

 秀吉は内心で信長は外面で思いっきり叫んだ。

 しかして此度の犯人は隊長が左手首につけた防衛隊の通信用リングである。落下当初、連絡を取りたかっ

たのにウンともスンとも言わなかった物体が今更何用か。訝しげな顔をしつつ信長は回線を「オープン」に合

わせた。途切れ途切れの不明瞭な音の向こう側から聞きなれた声が響いてくる。




『………の………! ………よし………聞こえ………す………か!!』




「!! ―――サルか!?」

「………!!」

 膝上の装置を脇に退けて秀吉も駆け寄った。並んで耳を澄ますうちに電波が安定したのか声もしっかりと届

くようになる。

『信長様! 秀吉! そこにいますか!? 無事ですか!?』

「サル!? てめぇらこそ無事だったのか!」

『俺たちなら大丈夫です。いま叡山周辺の捜査本部で待機してるんです』

「そうか、にしちゃあいきなり使えるようになったな、通信機」

『五右衛門が調整してくれたんです』

 気配だけでは分からないが語る彼女の側では五右衛門が「壊れるなよ〜」と冷や汗たらしながら自作の機

械を微調整し続けているのだった。ちょっとの震動で壊れてしまうだろうものをギリギリの状態で扱いながら電

波に乗せている。

 綱渡りしているような不安定な状態で交信は続けられた。

『いまどの辺りにいるんですか? 狼を閉じ込める為に封鎖しようとしてるんですが………!』

「―――落下地点から東に3キロほど移動してる。琵琶湖方向だ」

 大体の憶測で秀吉が答えた。

『琵琶湖方面? どうしてそっちに向かってるのさ、もっと近くに出口とかなかった? いまレーダーで地下構

造を把握しようとしてるんだけど―――』

「その必要はねぇぞ、サル。いまいるところから八方に道が出来上がっててな、琵琶湖方向が一番整ってる。

そこを下るつもりだ」

「鉄道が敷設されてる………たぶん、<移動>してきたものだ」

 想像していたよりも地下はややこしくなっているようだと察して日吉が黙り込む。その奥でガヤガヤと騒ぐ声

がしたから、きっと耳を欹てていた連中が本格的な状況確認に乗り出したのだろう。

「サル。俺たちは鉄道を使って脱出する―――が、それはヤツに一発かましてからだ」

『はぁっ!?』

 向こうで日吉が素っ頓狂な声をあげた。

『い、いいいいきなりナニ言い出すんですか―――っ! 無茶にもホドがありますよ、ホドがっっ!!』

「喧しい! 一度決めたことを引き下がれるか!!」

『引くのも勇気ですっ!』

「俺は無謀だ!!」

 自信満々に「無謀だ」なんて言い切らないでくださいヨ。

 と、傍らの秀吉は思ったとか思わなかったとか。

 居残りを先に言い出したのは己だというのに、まるで自分のことのように語っている信長は相変わらずお人

好しというか体面重視というか何も考えていないというか………。ぎゃいのぎゃいのと喚いている2人の間にど

うにか割ってはいる。きっと電波の反対側では五右衛門が渋面になっているに違いない。

「―――日吉」

『………………なに?』

「このまま逃げたってヤツが俺らに追いつく方が早い。そんなら一撃でも食らわせて、地中に埋められたら一

石二鳥じゃないか」

『一緒に埋められたらどうするのさ?』

「埋められない。そん時にはひとりででも這って逃げる」

 ちらりと信長を見上げれば思いっきり嫌そうな顔をされた。

「馬鹿野郎、そりゃあこっちのセリフだ」

『………………援護射撃しろってこと?』

 小さく日吉が答えた。

『どの方角から2人が来るかも分からないのに、どんな援護をしろってのさ』

「鉄道はほぼ一直線に続いてる。それに、レーダーで調べれば大体はわかるだろ。援護方法は任せた」

『………………』

 未だ迷っているらしい日吉の反応に、聞こえないと分かっていて信長は舌打ちした。こうやっている間にもク

オヴァディスは地中を進んでくる。気持ちはわかるが後戻りはできない。ひとたび、この場に残ると決めたのな

らば。

 鋭く言い切った。




「船を出せ、サル」




 遥か地上の音声が一瞬、途絶えた。

 次に響いた時は明らかな逡巡を覗かせて。

『………………船、ですか?』

「琵琶湖に突っ込むんだから回収用の船がいるだろーが。ああ、ついでにその船に砲弾でもついてたらもっと

いいな。一発、叡山に向かってぶちかませ」

 先刻は「防衛隊には取れない手段だ」みたいに言っておきながら、今度は自ら「ぶっ放せ」ときたモンだ。

 我らが隊長の思考回路もかなり理解不能である。

『んな船が都合よくあるわけないでしょっ!!』

「黙れサル!! そこを用意すんのがテメェの役目だ! わかったな!!」

 言い捨てて回線を無情にも切断してやった。もとより通信状態の悪い地下のこと、次はいつ繋がるか知れた

ものではない。強制的な回線断絶により五右衛門お手製の調整機がお釈迦になっても知ったことか。

 強引にすぎる手段に秀吉は態々大きくため息をついた。

「………………なかったらどうするんですか」

「ふん。以前に防衛隊内で設計図を見かけたからな。戦闘配置がわからなくても存在はするだろうよ」

 もしかしなくてもその設計図があったのは司令室じゃなかろーか。

 ナニ勝手に侵入してるんすか、との突っ込みはもはやする気も起こらない。

 とっとと組立作業に戻った勝手気ままな信長の背中にまたひとつ、ため息をついて、秀吉も作業を再開する

のだった。








「勝手な希望をゆうんじゃないぃ――――――っっ!!」

 星さえ見えない都会の空に絶叫が響いた。傍らの人物はしっかり耳をガードしながら「まぁまぁ」と相手を宥

めてみせる。

「日吉、日吉。確実に音声オーバー。もうちょい落ち着いて話してみー?」

「落ち着いてるだろっ。ふ、ふふふ2人とも無事でっ、無事だったけど鉄道が真っ直ぐで琵琶湖で船で砲弾が

直撃で!!」

「あー………」

 こりゃダメだ。

 2人が無事だった喜びと「残る」といわれた驚きと「船を用意しろ」なんて勝手な要求、という衝撃の連続で現

在の日吉は混乱の極致にある。宥めすかす五右衛門の更に後ろで耳を傾けていた黒田は所在なげに腕を組

んで佇んでいた。

 どっから情報が漏れたんかなぁ………などと呟きつつ。

 オロオロ円を描いてよろめきまくっている日吉の頭をポンと抑えて、気乗りしない笑みを彼は覗かせた。

 苦笑。

「―――人命がかかっとりますしなぁ。致し方ないでっしゃろ。軍事機密やゆーても此処で動かさなんだらワテ

は一生後悔しますわ」

 ピタリと日吉が動きを止めた。

 黒田と五右衛門に交互に視線を送って、やがてゆっくりと目を見開く。

「動かすしかない。五右衛門はんもそう思いますやろ?」

「………俺、マヂで何も知らないんだケド」

「実態は知らんでも存在は知っとるんやないですか? それが運良くこの関西に在ったっちゅーだけですわ」

 日吉の頭から手を離し、施設外部の空き地に佇む彼はてのひらを握り締めた。仏頂面の五右衛門に同意を

求めるように。




「動かしましょう」




 人命優先、軍事機密なんざクソくらえ。

 できる限りのことをしておかなければきっと一生悩まされる。




「戦艦―――『大和』を」




 黒田は強い言葉で断言した。

 

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結局、話が進んだんだか進んでないんだか………(汗)。とりあえず『戦艦大和』が出せたのでヨシとしよう、ウン。

 

『戦艦大和』製造計画はかなり前からあったと思われます。ので、設計図が司令の机上に放置されていたのを

信長は見かけたのでしょう。予算の関係とか必要経費とか対外的都合とか色んな要素で

忘れ去られつつあったものを勝手に関西支部が掘り出してきたものと思われます。

ナニやってんだよ、関西司令部!!

―――にしても信長、本当に船がなかったらどうするつもりだったんだろうな………(苦笑)。

まぁ五右衛門あたりが何か情報もってるだろーと踏んでたんでしょうケド。

 

石版の文字はほとんど役に立たないものばかりでした(笑)。実際はもうちょい解決の糸口も記されて

たんですが、あまりに無責任な内容にひよピンの意欲が減退。読解ピンチです。

一先ずクオヴァディスの大まかな由来はわかったからまぁいい………のか?(疑問系)

 

しかし叡山から琵琶湖まで何キロぐらいあるのかな。トロッコが時速何キロで疾走すれば短時間で

琵琶湖に突っ込めるのかな。全然計算してなかったヨ☆(オイ)

フツーに考えたらぼろっちいトロッコなんかより負傷した狼の方が足は速いと思います(笑)。

次回までに計算できるかな………数学は苦手だからなぁ………。 ← 算数レベルでは??

 

ちなみに次回は挿絵にいっとく所存です。再見♪

 

 

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