「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

92.tactics

 


 突入するのに準備なんて必要ない。ただそこに浸る気分になってさえいれば、あとはもう備え付けの道

具を装着するだけ。気分転換になればよいのだが最近はどこに行ったって手詰まりでため息をつきたくな

る。いつ来てもここは自分の眼前に荒野として広がっている。仮想現実空間、<ガイド>までの道のりが

己の心情を表しているというならば果たしてこの荒野に花が咲き誇るのはいつになるのだろう。

 そうして此処に沈んできた訳だが、何だか今日は様子が違ってみえるなと首を傾げる。どこまでも続く道

のり、果てにある塔の位置までいつもと同じだというのに。

 門前まで来たところで違和感の正体に気が付いた。いつの頃からか佇むようになった影、型どおりの問

い掛けを繰り返すプログラム、暗い衣に覆われたモノ―――樫の木を杖に門番を務める人物の陰が、や

たら濃く見えたからだ。

(これは………何だ?)

 眉をひそめる。

 黙っていたところで意図は伝わらないかと口を開く。こいつ相手に意地を張っても仕方あるまい。




「―――何かあったか?」




 問い掛けはそれのみ。しかし意味を解するには容易く、表情さえも窺えない風になびく衣の向こう側で魔

術師は答える。

『―――有資格者が鍵を手に門を開いた。よって制御の第一段階はかの手に委ねられることとなる』

「俺がアクセスできる機会はなくなった………ってワケだな」

 どうやらあの忍者も教授の残した遺産に気付いたらしい。そして、思い切り根性悪で厳しくて難しい課題

を見事切り抜けてみせたのだろう。出来れば一番に自分が挑戦してみたかった。当代随一と謳われる人

物の作り上げたプログラムだ、解いてやりたくなるのが偽らぬ本音である。

 ならば此処を訪れる用事はもはやない。単なる情報収集だけなら他でも出来る。

 踵を返そうとした彼を門番が呼び止めた。名を呼ばれ、何事かと振り向いたところで更に驚く言葉を投げ

かけられる。




『―――頼みがある』

「………何だって?」




 こいつはただの門番じゃなかったのか。来る者は拒まず去る者は追わず、特定の情報を求める者には

鍵を要求する。所詮は過去のデータを基に構築された擬似人格プログラムのくせに何故イレギュラーな行

動を取っているのだ。

 フワリ、と地を蹴って軽く宙を舞い、門番は音もなく目と鼻の先に着地した。一瞬、はためいたフードの奥

に濃紺色の瞳が覗き、答えも返せない内にてのひらに何かを握らされる。ひるがえした袖から取り出した

白い宝玉。これはきっと仮想世界で認識させるための『外観』に過ぎず、現実世界に戻ったならば全く別

の形で手中に存在するのだろう。

『これは、あいつを起こすためのプログラム』

 放たれる音は天から降ってくるような機械音声とは異なり、しっかりと地に足をついた『人間』の声をして

いた。

『彷徨える魂を導きいまいちど肉体と結びつける。ここから回線を通じ注入することも可能だが―――確

実さを狙うならば地上。ましてや時空間上の特異点において互いの波長を合わせるを絶対の必要条件と

するならば』

「お前………」

『アンタにしか出来ない―――聊かでも時空移動の原理を把握している者にしか』

 こいつが何をしたいのかも、『あいつ』が誰を示しているのかも痛いほどわかる。

 もしも、これが。

 機械の弾き出した計算だけの理論であれば納得する。だが声音と表情に滲むのはそんな無機質で無

味乾燥なものなどでは決してなく、真にかの人物の未来を憂えるように見えたため。

「………擬似存在だろ? なのに―――お前」

 極めて精巧に出来たプログラム、と、割り切るのは簡単だけど。

 個人の魂を持つかのように振舞う。眠り続ける人物を起こすだなんて、一見無意味とも思える探査プロ

グラムを教授がインストールしておくとも思えない。自ら決定したのであればヒトに創られた擬似生命体が

『ヒト』そのものの動きをしていることになる。




「<次元昇格>か………?」




 未だ現実世界でお目にかかったことはないけれど。

 問い質そうとして、一度開いた口を苦笑と共に押し留めた。訊いたところで謎が解明するはずもない、所

詮は人間だって魂や精神の在り方を理解している訳ではない、無機物や静物に精神が宿らないと誰がど

うして言えるだろう。

 受け取った光玉を掲げて低く笑う。

「………降りる機会があれば、な。いまの俺ぁ軟禁状態だ、次の指令がいつ下るかもわかんねぇ」

 願いを叶えてやる見返りは? と訊けば、上に伝えるべきお前の目的と存在するに至った事象を隠して

いるから同等だ、と返されてただ笑う。

 ―――機械らしからぬ回答は嫌いじゃない。

 再び精神を浮遊させて元の現実空間へと戻りながら、『彼』を創り上げた人物に再会するのは意外と早

くなるかもしれないと予感していた。








 コソコソ隠れて作り上げたという秘密基地は首都圏からやや離れた山間に位置していた。外観はただ

の古ぼけた廃ビルで、「危険! 立ち入り禁止」と書かれた立て札も嘘じゃなさそうだ。本質は外からは見

えない地下にあり、そこに本来の防衛隊基地もかくやというばかりの設備が整えられている。老朽化した

施設の再利用だから至らぬところは多いと五右衛門は説明したけれど、これだけ揃っていれば充分だと

思う。きっと本物の施設が使われずに10年ぐらい放っておかれたらこんな感じになるのだろう。

 会議室の看板を掲げた広間に神妙な顔をして集まる。協力者だけならば更に人数は増えるが、企業秘

密をおいそれと漏らすわけには行かない。身元が確かな者、裏切らないのが確実な者だけを集めるとそ

こそこ数は絞られた。端から順に滝川一益、万千代、勝三郎、犬千代と続き、テーブルを挟んで向こう側

にヒナタとヒカゲ、肩にサスケを従えて隣に日吉。真横に信長がふんぞり返って場所を占拠している。更に

は滅多に姿を見せない竹千代に松下加江までが加わって室内はかなりせせこましかった。無駄口を叩く

者は誰一人としておらず、静かに残る参加者の登場を待ち構えている。

 おそらくこれから話されることは自分の身上に関わってくるのだろうと考えると日吉の気は重くなる。自

分が厄介な立場に置かれているらしいことは先の件でイヤというほど認識しなければならなかったから。

 時計の秒針が何度か12の上を通過したところで鈍い音と共に扉が開かれた。まずはくたびれたスーツ

を着込んだ司令―――正しく言うならば前司令官―――と、その後ろからひっそりと影のように五右衛門

が続いた。蜂須賀小六はグルリと室内を見渡して満足そうに頷く。

「みんな揃っているようだな。息災で何よりだ」

 此処に来るまでにみな、多かれ少なかれ追跡者を巻いたり攫われかけたりと苦労をしている。一度入り

込んでしまえばその後の行き来は楽になると最初に説明を受けたが、果たして何がどう楽になるのやら。

 中央に設置された長テーブルのほぼ中央に小六が座れば他の面々も適当な位置に落ち着いた。

 組み合わせた両の手を机の上に置く。それは重要なことを話す際の小六の癖でもあった。

「―――まずは、謝っておかねばならないことがある」

 最初の一言は謝罪から始まった。

「知っての通り、俺はもはや防衛隊の司令官ではない。それどころか罷免された身の上だ。上層部は俺を

捕まえて証人喚問に引きずり出そうと躍起になってるらしいが………ま、さいわい世論はまだこちらの味

方だからな。どうにか難を逃れている」

 世間的には蜂須賀小六は「行方不明」として扱われている。ちょっと探ればすぐにバレそうな居場所を誤

魔化し通せているのは、報道関係者や警察幹部に彼の仲間が潜伏しているためだろう。企業協力者であ

る武田や上杉に織田、そして服部半蔵が一役かっているだろうことも想像に難くなかった。

「此処にいることでお前達にも迷惑がかかるかもしれん。だから、自身の生活や家族が大切だったら遠

慮なく出て行ってくれて構わんぞ。俺は咎めん」

「―――水臭いですよ、司令」

 今更そんなこと言われなくてもとっくに承諾済みなんですよ、と一益は笑う。彼と小六の付き合いは防衛

隊においてもかなり長い部類に入る。五右衛門の修行時代を知っている人間なんて、この場にいる面子

では司令以外で加江と彼ぐらいのものだろう。

 いちいち謝らないでもなあと感じていたのはこの場にいる全員だったので、一益の言葉に誰もが至極当

然と頷いた。

「ごちゃごちゃした弁解なんかいらねー。いま必要なことだけ話せよ」

 少々乱暴な物言いではあったが信長の言葉がみなの気持ちを代弁していた。

 珍しく殊勝にしてみせればこれかと小六も少しだけ苦い笑みを零し、ならば本題に入ろうかと居住まいを

正す。

「まずはこの基地の概要だな。ご察しの通り、ここはイザという時の避難所として密かに建築しておいたも

のだ。隠れ家みたいなモンだから政府連中にもバレちゃいない。システムに関しては竹中教授に一任して

おいた」

 ほらみろ俺の予測どおりだった、と日吉の隣で信長が仏頂面に拍車をかける。予想が当たってたんなら

不機嫌になんなくなっていいじゃないですかと日吉は言いたい。とても言いたい。

「都心部の基地の根幹をなしていたネットワークを継承してあるから指揮系統や管理に支障はないはず

だ。セキュリティは擬似人格プログラム<The soul of a brave and eternal ideal>が請け負っている――

教授いわく此処は『やがて存在するだろう将来の基地の姿を時空間移動の原理で移転してきた』らしいが

詳しくは俺も知らん。とりあえず使えれば問題はないだろう」

 相変わらず司令はアバウトでいらっしゃる。

 詳細な説明を行おうとするとトンでもなく時間がかかるので省きたいのだと彼は言う。理論がよく分から

んのだとも白状した。つまりはこの基地がちょっと特殊な環境下に置かれているので、性能や操作は前基

地と同じだから混乱することはないだろうけれど、扱いには気をつけてほしいということらしい。『空間的に

不安定な存在』であるからこそ様々な事象平原への接続が可能であり、通常空間では認知し得ないこと

すらもできるようになる。

 ………らしいが、一先ずそんなマニアックな話題は横へおいておいて。

「使い方さえ覚えておけばいい。みんな、このカードを取れ」

 回覧板のように回ってきた段ボール箱の中から薄っぺらいカードをひとり1枚、手に取った。何の特徴も

ない硬質な名刺大のカードは教授の持っていたバイオPCを髣髴とさせる。親指をカードの先端に当てれ

ばほんのりと暗く輝いた。

「これが身分証の代わりになる。所持者の個人識別が可能だからカードの共有はできん。失くしても再発

行はきかんぞ」

「ビル内への立ち入りと、入室時だけですか?」

「いや、もうひとつ便利な機能がある。これを持ったまま外出した場合、帰還時はこのカードを平面上に押

し当てて解除キーを打ち込めばいい。それで一時的に空間が繋がってこの建物内にお前達が<転移>

される。が、多用はするな。どこぞの時空平面に落ち込んでも俺は助けてやれんぞ」

 ヒナタの質問に対する回答に誰もが呆気に取られた。

 原理はよく分からないがこのカードは場所限定のミニ転移装置らしい。しかも発動が不安定で失敗した

らどうなるか分からないというオマケつきである。使えるんだか使えないんだか微妙なところだ。

 他にも幾つか使用方法や注意事項を説明した司令は一区切りついたところで全体を見渡した。

「ここまでで何か質問はあるか?」

「………質問はあるか、じゃねぇだろ」

 思い切り不機嫌そうに返したのは信長だった。行儀悪く机に足を投げ出した上にムスったれた表情のま

ま椅子に埋もれている。組んだ腕の先で指が制服の裾を握りつぶし、内面の苛立ちを伝えていた。

「肝心なことがまだ何にも説明されてねぇ。てめぇが追われた理由は何だ? 黒服の連中は何を企んでた

んだ? 何だってサルやブラックが付け狙われなくちゃならねぇ………もともと根はひとつなんだろ。とっと

と白状しろよ」

「―――そうだな」

 つっけんどんな物言いに怒るでもなく、僅かに笑っただけで小六は後ろに椅子を引いた。ゆっくりと振り

上げた腕を隣の五右衛門の肩に乗せる。

「確かに物事の根幹はすべて同じだ。連中の作戦内容についてはこいつの方が詳しい。交代だ」

「………面倒なコト押し付けんなよ」

「そういうな。任せたぞ」

 ご指名を受けた五右衛門は実に不愉快そうに口をとんがらせた。でもまぁ適材適所ってゆうしなー、とブ

ツブツ言いながら席を立つ。見回す視線が日吉の上でほんの一刹那とどまり、すぐに逸らされた。

「………何から説明すりゃあいいのか分かんないんだけどよ」

 自らの前髪をかきあげて難しそうに頭を捻る。

「まぁみんな薄々勘付いてるだろうことからいっとくか。世界連邦に参加してる先進七カ国のリーダーや他

の主だった国のTOPだけどよ、連中のほとんどは乗っ取られてる。乗っ取り方法はアイツとおんなじ。額に

第三の目が発現する、アレさ」

 ぴくり、と日吉が肩を揺らした。

 それに気遣わしげな表情をしながらもヒカゲが問いかける。

「………証拠は?」

「ない。けど、ほぼ同時期に連中はみんな<神隠し>に会ってる。でもって、それ以降から明らかに発言

内容が変化してる。疑うなってゆう方が無理だろ?」

 ゴッド・オリハルコンの発掘現場を見張っていた半蔵の部下たちが仲間割れの挙句に全滅した。死体の

額にはみな同じように焼け焦げた跡が刻まれていた。おそらく、あの頃から既に乗っ取りの計画は始まっ

ていたのだ。

「発案者が誰かは知らねぇけどエラく趣味の悪い作戦だ。ついでにゆーと宇宙人サイドでも意見の食い違

いが出てきたっぽいのがこの頃からなんだよな。そうだろ? 乗っ取られた連中のしたことといえば小六

を追ん出すことだけだぜ? それで得する敵さんがそんなに多くいるってのかよ」

「―――いないわね。当面の敵を遠ざけたいと考えるのはその方面の担当だけよ」

 壁にもたれたままの体勢で加江が答えた。足元で座り込んでいる竹千代も「せやなー、同士討ちを狙う

んならもっと国家間の仲を悪くした方が得やもんなぁ」と頷く。日本単独を孤立させるだけでなく各国の足

並みを乱せばよかったのだ。なのに、未だにそれは成されていない。

「つまりは『日本支部担当』の宇宙人の独断―――奴らも一枚岩じゃないってことさ」

 敵の事情を詳しく探れるはずもないから全ては推測だ。しかし、あながち間違っていないんじゃないかと

思う。乗っ取られた先進国の連中がしたことといえば小六を権力の中枢から追放し孤立を深め、日本政

府をいいように操ることだけだった。

 そして、その政府連中が考え出した作戦に日吉たちが関わっている。




「―――連中の発案した作戦は<黒騎士の血>と<望まれた死>」




 淡々とした口調で五右衛門が告げた。

「………こればっかりは洗脳された結果だなんていえないかもな。素で考えてんなら救いようがねぇけど、

人間って切羽詰ると多少の犠牲なんざ厭わなくなるしよ」

 目つきを鋭くして五右衛門は吐き捨てる。

 彼は知っていた。教授が寝込む原因になった事件を。

 生きた人間の知識を吸い出して我が物にしようとする手前勝手な都合。捕らえられた連中は洗脳などさ

れておらず、全てを自主的に行っていた。誰かの知力を食い潰すことに何の感慨も抱いていなかった。

 今回のこととて洗脳されていなくともやがては誰かが行き着いていた作戦だ。

 そう思う。

 わだかまりを吹っ切るように頭を軽く振り、次の瞬間には何事もなかったような顔で淡々と続けた。

「異なる作戦名を冠されてはいるが表裏一体、目指しているものはひとつだ。<望まれた死>については

日吉、少しは話を聞かされたんだろう?」

「………うん」

 あの施設で聞かされた内容がそうだったというのならば。

 どちらの作戦も根っこには外敵を倒さんとする意思が働いている。戦う精神までも否定しようとは思わな

いが、もう少し手段を選べというのだ。

 ス、と目を細めて告げる。

「<黒騎士の血>は聞いての通り―――漆黒の騎士の血を求める。連邦内でのブラック・コロクンガーの

通り名が黒騎士、そしてコードネームに『黒』を与えられた秀吉のことをも示している」

 勝三郎が眉をひそめた。

「―――ってことは、つまり」

 五右衛門は頷きを返す。




「端的に言えば、この作戦は『日野秀吉抹殺計画』ってことだ」




 一行に暗い沈黙が押し寄せた。

 同時に疑問が沸き起こる。何故に政府が裏切り者の始末にそんなに躍起にならねばならない? 情報

漏洩を恐れるとはいえ、その時点で秀吉はこれといった機密に触れていなかった。裏切り者を捕らえるま

では理解できても殺すのは行きすぎだろう。

 これにはちょっとした裏がある、と五右衛門が人差し指を眼前に掲げて言葉を続ける。

「略すと抹殺なんてぇ物騒なことになるけど、更に突き詰めれば<日野秀吉を犠牲にした上で成り立たせ

る作戦>ってことなんだ。奴の血を捧げて、初めて完成する」

「だから………」

 グッと日吉は膝の上で拳を握り締めた。




「だから『表裏一体』なのか―――<望まれた死>と」

「………ご明察」




 五右衛門が返したのは賞賛の言葉ではあったけれど、嬉しくなかった。

「それに、これは秀吉が洗脳されてから考え出された作戦じゃない。本当はもっと前から計画されていた

―――イザというときの切り札としてな」

「切り札?」

 犬千代の問い掛けが重なったところで改めて五右衛門は日吉に目を向けた。唇をかみ締めていた日吉

は視線に気が付いて顔を上げる。何を問われるのか、大方の予想はついていた。

「日吉。お前、作戦がどんなものかまで聞いてたか?」

「オリハルコンの共鳴と、双子の同調を使って………操るってことまでは」

「そうだ。それが<望まれた死>の概要だ。はっきしいって捨て身の攻撃もいいところの作戦だぜ。操る

方も操られる方も命の保障はない上、敵に見破られたらすぐに窮地に陥る。百害あって一理なしの作戦

に思える―――んだけど、な」

 本当に何も手を打てなくなったら取るしかない手段、そう考えられていた。

 いや、考えられていたハズだ。

 そこまで切羽詰った状況とも思えない現時点でこの作戦を取りたがることが理解できない。たとえ考案

した連中が洗脳されているにしろ、わざわざ無駄な死を招こうとするのは何故なのか。

「すまん、その前にちょっと確認してもいいか?」

 腕を上げて万千代が発言する。

「作戦内容は分かってきたが………そもそもの前提条件だな。何故、木下家の双子でなければならない

のかがよく分からん。オリハルコンと同調できる双子ならヒナタやヒカゲだって同じだろう」

 言っちゃ難だがヒナタ達の方がガードは甘い。事実、一度宇宙人に攫われるという失態を犯している。

実働部隊の隊員なんて世間に顔は知れているしある程度の護身術は使えるし活動は司令の監視下に置

かれているし、手を出しにくくてならないように見えるのに。

 そりゃあ『切り札』だからだよ、と解説者は語る。

「作戦の鍵となるのはオリハルコンとの感応値じゃない、『ゴッド・オリハルコン』との共鳴だ。より深く精神

同調し更には動きまで統率しようと思ったら、ただのオリハルコンじゃあ何の役にも立たない。『神』とシン

クロ率が高いのは俺でも信長でも他の誰でもない………秀吉と日吉さ」

 故に彼らは狙われて―――実働部隊の中では唯一敵方からも洗脳の対象として目を付けられて。

 かつて教授が五右衛門と信長に話したことがある、その同調率こそが。

「何の利もない作戦に思えるけど連中にとっちゃ充分意味のある行為らしい。………まだ、その理由まで

は詳しくわかってないんだけどな」

 ゴッド・オリハルコンに同調できる双子にしか出来ない何かがある。

 連中の意図までは残念ながら<The soul of a brave and eternal ideal>にも分からない。もしかしたら

アイツは知ってて隠してるんじゃないかと、『彼』と直接言葉を交わしたことのある五右衛門だけは疑って

いるのだが、何にせよ真実は未だに闇の中にある。

 だが、それを解く鍵がない訳でもなかった。

「―――日吉」

 司令が口を開いた。手のひらには焼き増しした1枚の写真が握られている。

「お前が報告してくれた写真の鑑定が済んだ。………確かに妙だな。乗客名簿には奴の名があり、船員

たちも多少は奴の存在を覚えていて、行方不明者リストにだって記されている」

「―――はい」




「だが、此処に『日野秀吉』の姿はない」




 10年前の琵琶湖湖畔で撮影された集合写真。幼い頃の日吉と、日吉を抱きかかえた母親が写る写真。

しかしそこには在るべき者の姿がなかった。旅行会社に確認したところ誰かひとりが欠けた状態で撮影す

るなどまず在り得ないということだった。万が一、秀吉だけを省いて写したというならば何か理由があった

のか、偶々席を外していたのか、あるいは。




 あるいは………『最初からそこに居なかった』のか、だ。




「鍵になるのは10年前だ。日吉と秀吉にも、攫われたヒナタ達にも共通していることだ」

 宇宙人連中に恨みを持つ者が集まりやすい防衛隊だけに見過ごされていたけれど、敵が注視している

人間を追っていけば自ずとたどりつく結論。




 狙われた者たちはみな三大悲劇に関わりを持っている―――と。




 秀吉が探りに来た蜂須賀村も三大悲劇の舞台だった。そこで回収されたブラック・ボックスは現在、研究

所で解析が進められているけれど、それとて10年前に埋められたものかもしれない。村中を探索していた

五右衛門の記憶の中にすらあんなモノは存在していなかったのだから。

 それは宇宙人が初めて来襲した年、三大悲劇の起きた年、突如敵が退散した年。




「―――必ず探り出す。連中が何を企んでいるのかをな………!」




 司令の低い声は強い宣誓となって室内に響き渡った。

 

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ザ・ネタバレの回(苦笑)。一気に説明しちゃったけどどっかで矛盾が生じてそうで恐ろしいですよ………。

取り敢えず今回の話をコトの時系列にそってまとめると。

 

10年前、三大悲劇が起きる。それに伴って『何か』が起きる。

ゴッド・オリハルコンの発見。宇宙人連中による洗脳作戦の開始。

地球サイドで<黒騎士の血>および<望まれた死>の発案。

宇宙人により先進国が乗っ取られる。同時期に司令の追い落としが始まる。

秀吉が洗脳される。

計画が本格的に開始される。

 

―――ってな感じになるんですかねぇ。ポイントは「どうして木下兄妹でなければならないのか」ってのと、

「三大悲劇に関係した人間や場所ばかりが狙われる」ってトコロですか。

きちっと理由も考えて在るんですがそれはまた次の機会とゆーことで☆

 

次回は宇宙人サイドの動きを追ってみよーかと思います。

いい加減、秀吉の現状も書いてやらんとな………。

 

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