「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

6.resistance

 


 ―――その年は人類最悪の幕開けだった。

 後世の歴史家たちはこぞってこの年の出だしをそう書き記すことだろう。




 年末に受けた攻撃により人類は滅亡の危機に瀕しているといっても過言ではなく、自爆に近い攻撃だったために

敵の戦力も削がれたとはいえ中枢をやられたこちらは半死半生、どちらが弱体化しているかなど改めて考えるまで

もない。

 統制は取れない、軍部は半壊、政府は機能せず―――つまりは、最悪な状態におかれていたのだった。先進七カ

国の政府機関と首都が軒並み半壊、もしくは全壊し情報が錯綜。さいわいにして落下に巻き込まれなかった者たち

も取るべき手段がなく沈黙している。かろうじて残った政府機関の残骸と軍部が連携を取ろうともがいているが、舵

を取るべき世界連邦本部ですら混乱の只中にあり、各国要人の安否さえ定かではない。

 けれども暴動が起きずに済んでいるのは、直前のとある人物の呼びかけに立ち上がった一部の心ある政府関係

者や、軍部を預かる兵たちが民を励ましているからに他ならなかった。結局最後にモノを言うのは『人間の力』なの

だと果たしてどれだけの者が感じ取っただろう? 上空におぼろげに浮かぶ敵基地の残滓を見てため息をつく者が

ほとんどなのに。




 ―――そして、また。

 極東の島国でも残された資源をもとに立ち上がろうとしている者たちがいた。








 薄暗い室内に光はほとんどなく、非常灯だけが辺りをぼんやりと照らし出している。幾ら堅強な造りであったが故

に倒壊を免れたとはいえ、手痛い被害を被ったことに変わりはない防衛隊の基地。郊外に隠蔽された仮基地と異な

り、都心部付近にある元来の防衛隊基地はちょっと揺すれば崩れ落ちそうな状態にあった。

 地下に隠されていた中央制御室とて同様である。かつては多くのオペレーターがいたこの場所もいまでは蛻の殻

となっていた。




「―――大丈夫か」




 重たい扉の向こう、メインコンピューターの前に立ち小六は呼びかけた。背後には五右衛門も控えている。Xday以

来、政府が機能を停止したとはいえ、まだまだ司令は世間的にはお尋ね者だ。

 小六の声に応じるようにモニタに電源が入った。周囲のコンピューター類も低く稼動を始め、正常起動を意味する

グリーンランプが点灯する。液晶上にノイズを混じらせながらメインコンピューターがひとりの少年の像を結ぶ。




『ああ………うん、大丈夫』

 プログラム名<The soul of a brave and eternal ideal>―――『総兵衛』はやっとという感じで答えた。




 数式と論理だけで成り立っているはずの彼が疲れているように見えるのは無機物にも魂を求めてしまう人間側の

問題だろうか。しかし少なくとも小六や五右衛門は、このプログラムが人間の命令を無視して勝手な行動を取ること

を知っている。

『よーやっとプログラム再構築が半ばまで終了した。危うくアンタに手を貸せなくなるところだったよ』

「………無茶をするからだ」

 小六は苦笑するしかなかった。




 あの時。

 Xdayの、上空のバリアが破られた、まさにあの時。




 小六は密かに隊員たちと共に都心部に潜伏しており、一般人の誘導やバリアの展開を手伝っていた。五右衛門も

旧防衛隊基地において信長たちと共にコロクンガーの操作に躍起になっていた。夢中になるあまり逃げるのが遅れ

て、降り注ぐ金属類の山から逃れることも叶わなかった。本来ならそこで防衛隊の命運は尽きていたはずである。

 ―――しかし。

 突如、バリアが制御システムから逸脱。広域結界を解除すると同時に隊員たちに覆いかぶさるような局地結界に

フォーメーションを変更した。時を同じくして各隊員の身に着けていたリングや認識証が熱を放ち防護壁を形作る。リ

ングも認識証もオリハルコンで作成されている―――その同調波を使っての業であった。

 これで多くの隊員が九死に一生を得た。倒壊した家屋に巻き込まれた隊員の救出も、先に述べたリングや認識証

が探知機代わりとなってスムーズに行われたのだ。

 常ならばバリアもリングも認識証もそんな動きはしない。誰かが指示するかコマンドを打ち込むかしない限り、これ

らはただ使われるだけの道具だ。満身創痍で目覚めた瞬間に小六も五右衛門も誰の仕業か思い至って苦く笑う。

 もし竹中教授が健在だったなら躊躇なく彼の仕業と断じただろう。

 けれども彼は療養中であり、大崩壊の日からいまに至るまで行方不明の身の上である。

 だからという訳ではないが即座に彼らは自己を確立している人格プログラムを思い出したのだ。




 ああ、そうか―――『総兵衛』の仕業だな、と。




 果たして彼らの勘は当たっていたけれど、詳細を確認しようと五右衛門が基地中枢に足を運んだ時―――プログ

ラム相手にこういうのも難だが―――総兵衛は虫の息だった。隊員を庇うためのコマンド打ち込みを優先しすぎて

自らのデータ防御を失念していたらしい。そんな、どこか間抜けなところが『人間らしさ』を感じ取らせる所以なのかも

しれない。

 ネットワーク上に自己データを分散させた時点で力尽き、メイン基盤は落下物によって修復不可能なまでに粉砕さ

れてしまった。故に、五右衛門が見つけた時の『彼』はモニタに自己画像も結べず、音声解答すらできない有様で。




 ―――バックアップデータをかき集めて総兵衛が自身を再構築するまでしばしの時間を要した。




『お蔭様をもちましてどーにかこーにか回復したってところかな。前回使わせてもらったアクセスラインはまだ存続し

てるし、やれない訳じゃない』

「ならいいんだがな………早速頼めるか」

『ああ―――っと、噂をすれば何とやらだな。アンタ宛にコンタクトが来てる。接続するぜ』

 気楽な口調でのたまわった少年はそう答えると、通信してきた相手にモニタを明け渡した。




『おやー、回線復活したんかいな? お元気そうで何よりですーv』




 切り替わった画面の中、小六に向けて関西支部協賛組合幹部・黒田官平は嬉しそうに手を上げた。

『なんか知らん間にそっちはエライことんなってますなぁ。首都圏が全壊だか半壊だかちゅーことで難波もえらいもめ

てますわ。ま、こちらとしては既に政府主導の防衛隊とは袂をわかっとったさかいにそこまで取り乱す必要もないん

ですが』

「相変わらずだな、関西支部は。………だが、疾うに他の支部局とは連絡がついているのだろう?」

『せやな。北は北海道から南は九州沖縄まで、とりあえずこの時間に回線前で待機するよーにとは伝えときましたん

で安心してつかぁさい。この官平さんに連絡つけられるところはありませんで?』

 ニンマリと笑う男は「お久しぶりですなぁ」と遅ればせながら背後の五右衛門にも手を振った。いつも通り変な関西

弁だなぁと五右衛門も愛想笑いで手を振り返す。

『いまのところ首都圏以外の防衛隊支部はみな機能してまっせ。訓告どおり一般市民を守ることを優先しとりますか

らな、どの県でも暴動などは見られとりません』

「だが国営放送は流れない。不安は増しているはずだ」

『情報統制を取るんなら局を占拠するしかない。ウチはもう地元放送局とTV局に手ぇ回してますんで、防衛隊が現

場で得た情報を終日スクランブル放送しとります。おかげで視聴率は開局以来の80%越えですわ』

 都心部がやられたからといって全ての通信や交通手段が断絶してしまった訳ではない。だが、都心部を発着点と

する新幹線や高速道は運転を見合わさざるを得なかったし、空からの離着陸だってかつてほどスムーズに行くはず

もなかった。

「こちらでも親戚知人が首都圏外にいる者は疎開するよう発信し続けている。機能が半停止した都心部に留まって

いても水や食料に汲々とするだけだからな」

 それでも故郷を見捨てられない人々は家に留まる。たとえ再度敵の攻撃を受ける恐れがあろうとも、彼らが暴動を

起こさずにある程度落ち着いていられるのは防衛隊の勝利を信じてくれているからだろうと、小六は感じている。町

をパトロールし、自衛官たちと共に救援物資を配る防衛隊員に向けられる眼差しはどれも温かかったから。

『ところで司令、どーやって支部全体に呼びかけるつもりなんでっか? 未だにそちらさんの回線は充分な状態じゃ

ないでっしゃろ。同時アクセスするにも機材が―――』

『俺がやるから大丈夫』

『うおっ!? な、ななななんやいまの声? もしかしてまだそこに誰か居てるん!? 全然姿見えへんけど!!』

 突然割り込んだ声に画面内の黒田が慌てて飛び退く。彼には見えないが、隣のパソコン画面内では少年が茶を飲

んで寛いでいた。

 ………プログラムが茶なんて飲んでどーするよ、とのツッコミは取り合えず置いておく。

『なんやねんいまの声〜。随分幼かった気ぃするけどホンマ、誰?』

「気にするな。優秀なオペレーターがひとり控えてるんだと思っといてくれ」

 説明を始めると長くなりそうなので小六は話を割愛した。黒田も首を傾げながらも、いまはそんなことに拘っている

場合ではないと割り切ったのかあっさりと疑問を横において話を先に進める。

『よぉわからんけど回線の心配はせんでもええっちゅーことやね。どないする? 民間にも電波の傍受させるんか』

「悩みどころだな」

『ははっ、今更なにゆーてまんねん。先ずはウチの確保した関西地方の電波を使用してください。これまでのTOPの

やり方とはちゃうねんてーのと、決して宇宙人連中には負けんっつー意気込みを見せたってください』

 黒田が唆しているのは国営放送の乗っ取りだ。世界連邦に属するところの防衛隊が一国の公共放送を勝手に使

用するのは無論、違法である。いまはよくとも後ほどどんな咎めがくるかも分からない手段を、しかし彼はするべきだ

と訴える。無責任にやれと言っているのではない。責を負うのは自分たちも同じで、詰まるところ関西支部も司令と

同じ泥を引っかぶるつもりなのだった。でなければわざわざ地元のネットワークを使えとは言わない。

 隅でモニタを調整していた五右衛門が顔を上げる。数を数え、各支部+国営放送分の画面が用意できたことを確

認した。軽く手を上げて合図を送れば総兵衛も深く頷き返す。

「―――こっちの準備は出来てるぜ、小六」

『気ぃつけなはれや。幾ら機能が半停止したとは言え政府も黙っとらんやろうし、せいぜいは10分が限度と覚悟した

ってください』

「そんなに時間は取らん」

 ただ、呼びかけるだけなのだから。

 各支部に、政府関係者に、自衛官に、国民に。

 小六が位置につくと同時に液晶が次々と切り替わる。それは全国支部の回線前で待機していた隊員たちの顔に

切り替わり、ひとつは国営放送局に繋がるTVの役割を果たし、ひとつところの映像を各地に配信し始めた。








 ある者はそのメッセージを心待ちにして回線の前に座っていた。

 ある者は被害の大きさに打ちひしがれて耳を塞いでいた。

 ある者は何の気なしにテレビやラジオの回線をONにしていた。

 メッセージを受け取る形は様々あれど、予期していた者たち以外にとっては寝耳に水の話だった。

 同時に、誰もが期待していたのかもしれなかった。何らかの希望として、寄り縋りとして、これほど明確な指針はな

かったから。




 電波は途絶えがちで画面はところどころにノイズが混じる。音声は高くなったり低くなったりして安定しない。それで

もしっかりと響いてくるのは語る人物の覚悟が深いからだろうか。

 テレビ画面で、街角の巨大モニタで、ラジオで、姿を現したのは行方不明と報じられていた防衛隊元司令官。

『………被害は甚大………この国だけでなく、他の国々も大変な危機………しかし―――』

 混じる雑音。

 語る内容の割りには落ち着いた口調。

『―――には早い………我々は生きている………生き残ってい………歩くための足がある………武器を取るため

の腕がある………』

 店頭に置かれたテレビの前に徐々に人だかりが出来る。皆が一様に静まり返り、普段なら響く車のクラクションも

何故か聞こえて来ない。

『どれだけの―――が………いてくれているかも分から………首相も、各省庁のTOPも………すら見せな………

いま、ここで呼びかける………もしこの放送を見ているのならば、いますぐ名乗り出………我々は待ってい―――

指導者………に復帰するのを………』

 一瞬の沈黙。

 無表情だった語り手の顔が少しだけ歪んだようだった。そして聞き手たちはようやく明確になった画面に、彼もま

た怪我をしていることを悟るのだ。




『―――私は、軍隊が嫌いだ』




 はっきりと響いた言葉。それは彼自身が所属する組織を否定するかのような科白だ。

『軍国主義は嫌いだ、戦えと命じられる立場ではない、皆の命を背負えるほど強くない、愛国心の奨励なんて願い下

げだ。国を守って死ぬぐらいなら全てを見捨てて逃げ延びてもらった方がどれだけ嬉しいか分からない。だが、いま

は―――敢えて宣言する。諸君らに選択の余地がないことを先に謝罪する』

 きっぱりと何かを断罪するような口調で。




『―――いま、この時より防衛隊日本支部は日本政府からの独立を宣言する。我々は国家、国事、その他の如何な

る政治権力の介入も認めず、そのもとに従うことを断固拒否する。我々はすべて自己の判断で行動し、対処する』




 あまりにも明確すぎる<反乱>の意思表示。

 周囲が色めき立つのにも構わず、いまでは指名手配犯に等しい人物は堂々とのたまわった。




『同時に、我々の責務は外敵を駆逐し、国民を守ることにあると知る。これを破った者は厳罰に処する。そしてまた、

使命を果たした暁には例外なく組織を解体することを誓う』




 真っ直ぐに正面を見据えて語る姿に圧倒される。文句を言うぐらい出来るだろうに、誰の口からも言葉ひとつ零れ

やしない。

『外敵と戦うこと、周囲の人間を守ること、これだけが防衛隊の果たすべき全てだ。………皆の武運を―――祈る』

 プツリ、と音を立てて回線は遮断された。後に残されたのは白黒の画面とザーザーという耳障りな音色だけだ。

 何の予備知識もなしに見ていた者たちは呆気に取られ、しばらくは動くことすら叶わなかった。やがて徐々に戻っ

てきた感覚や、理解するに至った状況に、歴史上でもあまり類を見ない事態に遭遇してしまったのだと打ち震える。

 どこかで誰かが呟いた。




「………軍事クーデターだ………!」

「革命だ………!!」




 こめられた感情は違えども。

 あくまでもそれは物事の側面でしかないとしても、僅か数分足らずのこの放送が更に国内の混迷を深めたのは真

実だった。








 パチパチと乾いた拍手が暗い室内に響き渡る。

「いよっ、名演説お疲れさーん」

「………からかうな。それなりに滅入っているんだぞ」

 明るく笑いかける五右衛門に小六は苦笑で返した。とことん前向きに考えるのがこの相方の特徴である。

 今しがた、政権に対しての反乱を宣言した首謀者は深いため息と共に手近な椅子に腰掛けた。液晶上では各支

部の隊員たちが歓声を上げる光景が映し出されている。もとより彼らは世界連邦内の防衛隊の思想や、小六の考

えに共鳴して集まった者たちがほとんどだ。上層部からの突然の司令解雇命令や逃げ腰な対応に不満を抱いてい

た彼らが今回の宣言に否やと答えるはずがない。戸惑いを感じた者がいたとしても周囲に流されてしまうだろう。




 ―――だから集団の力ってのは怖い。気をつけなければただの暴力でしかない。




 と、考える小六は全てが終わったならばきちんとケジメをつけようとひとり決意を固めている。

 そして、その時が来たならば彼をひとりにはすまいと決心している黒衣の少年がすぐ隣に控えている。




『まぁ少しは休んだってや司令。でももしまだ話す元気があるなら次の指示を頂きたいんやけど?』

 やはり興奮から若干頬を赤らめた関西支部の幹部が話を急かす。さてどうするかと次の一手を少しだけ考えた彼

は結局、前々から思案していたことを実行に移すしかないと考えた。

「―――手の空いている者は被害を受けた七カ国に赴き、首脳陣が無事かどうか確認してもらいたい。今回の俺の

宣言を引用しても構わん。その国の軍部が賛同してくれるならばそれでいい」

『現政権への反乱に、ですか? それはあまり期待できへんやろうなあ』

「だろうな。同意してもらえないなら仕方がない―――首脳陣を発見したら即刻身柄を確保しろ」

 物騒な物言いにさすがの黒田も目をしばたかせる。

 状況を理解している五右衛門は言いづらそうな小六に代わって口を開いた。

「途中から先進七カ国の発言傾向が変わってきてたことは知ってるだろ? しかも、同時期にみんな神隠しにあって

やがる………洗脳を疑うのが当然だ」

 彼らの邪魔が入った所為で世界連邦が同時攻撃を仕掛けられなかったという現実がある。

 各国の軍事関係者、及び政権関連者の中にもそれと察している人間はいるはずなのだ。彼らが何らかの手段を

講じているのならそれに任せたいと思う。だが、どうしても意見が相容れない場合には強攻策を取るしかない。

 洗脳されていると思しき首脳陣を捕らえ、指示を出せないようにする。そうすれば少なくとも世界連邦内に敵の思

惑が紛れ込む事態は避けられるはずだ。とてつもなく強引で自分勝手な荒っぽい手段だが、いまは何よりも時間が

惜しかった。いつ体勢を整えた敵が攻めてくるかも分からないのだから。




 自分が絶対の正義だとは思わない。

 けれど、信じているものはある。




「各支部からの派遣が難しい場合は………気が進まないが師匠に協力してもらう」

 あいつ、宇宙人にごっつい恨みが溜まってるはずだし、と呟く五右衛門に小六がまた笑う。

「服部は生きているのか?」

「あのオッサンが死ぬ訳ないじゃん?」

 素っ気無く答えた後で五右衛門は口をとんがらせた。

 承諾の意を述べた黒田との回線が切断されて周囲が静まり返る。多くの画面が接続されていた先ほどとは打って

変わった静けさが耳に痛い。

 ほっと安堵の息をついた時だった。




 ………ィン………




 前触れもなく画面が起動する。総兵衛からの合図もなしに接続された接続音にふたりで顔を見合わせた。システ

ム管理を任された擬似人格プログラムは先刻から沈黙を守っている。

『………わらず………元気そ………で何よりです………』

 白黒のノイズ混じりの画面。未だモニタの接続まで手が回らないのかもしれない。

『久しぶり………という挨拶の方が先ですかね。いまの宣言のおかげであなたの居場所が逆探知できましたけど、

―――あるいは総兵衛が態と回線を開いたのかな』

 穏やかな笑い声に聞き覚えがある。まさか、という感じで互いに目を見張り、声を揃えて叫んだ。




「―――竹中教授!?」

『お蔭様で………生き残ってます』




 耳に届く軽い笑い声と背後から響く人々のざわめき声。

『そちらは資源も人手も不足しているのでしょう? すぐ手伝いに行きますから―――ああ、でも、今後のことを考え

たら仮基地に向かうべきですかね。都心部の基地はほぼ半壊なのでしょう?』

「それは、まあ、仮基地の方が有り難いが………一体いま、どこにいるんだ? 妙に後ろが騒がしいみたいだが」

 もしかして町中の雑踏から接続しているのかと疑ったが、それにしては妙に―――どこかのビルにでもいるような

雰囲気がする。そこでまた年若の教授は笑い、「では今回の協力者からご挨拶を。仮基地に立ち入るための許可を

願います」と茶化して音声を切り替えた。

 驚いている合間に届けられたのはひどくつっけんどんな男の声。

『ふん、やはり生きていたか。家庭内害虫並みにしつこくて感心するぞ? それに先刻の宣言で確信したが、貴様は

とんでもない大ぼけの大馬鹿者だ! ―――だが、ここで引き下がってはこちらの名がすたる。気は進まんが協力

してやろうじゃないか感謝しろ。貴様の生死不明だけがネックだったのだがな』

『心配めさるな、小六殿。彼は喜びを押し隠そうとして失敗しているに過ぎん』

『な、こここここら、貴様―――っ!! 急に回線に割り込むなぁぁ―――っ!!』

 気の抜けるやり取りに五右衛門がガックリと肩を落とした。




「………武田と上杉じゃん。何やってんだよ?」




 と呟いて。

 日本を代表する会社のTOPが子供のようなやり取りをしているのに呆れたのか、ちゃっかりふたりに協力を取り付

けたらしい教授に驚いているのか―――たぶん、前者だろう。

『いいか、上杉ぃぃ!! 貴様のところには決して負けん! 我が社の技術力を見くびるなよっ!』

『ふむ、うちは宗教法人だから呪術方面でしか協力のしようがないのだがな。違うジャンルで競っても果たして公平

な勝負と言えるかどうか』

『ええい貴様は屁理屈ばかり! どちらがよりこの戦いに貢献できるかを競うだけだっ。文句は許さんぞ! そもそ

も宗教法人・極楽往生などという名前そのものが胡散臭さのあらわれ………』

『―――と、言う訳で』

 延々と続きそうなあほな言い争いを遮って教授が回線に復帰する。

『一応、北条やDATEコミュニティにも打診はしてあります。協力者をかき集められるだけかき集めたら大至急そちら

へ向かいます。都心部では織田連合が待機してるはずですしね』

「あ、ああ………わかった。しかし、あんたも無理はしない方がいいぞ? まだ病み上がりだろうが」

『ご心配なさらず。主治医が常にスタンバイしてますから』

 彼の後ろに竹中博士が突っ立っている光景がありありと浮かんで、妙に納得した。

 回線が途絶えて再び室内が静寂に包まれる。おかげで司令のため息がやたらと大きく響いた。




「………役者は揃った―――ってことか?」




 ああ揃ったともさ、相方がポツリと返した。








 地上の喧騒がここまで伝わってくる。きっと小六が上手くやったのだろう。何を宣言するつもりなのかは疾うに察し

ていたから、成功しただろう算段にニンマリと笑みを深くする。

 防衛隊をまとめ、旧政権を牽制し、他企業の協力を取り付けたなら後にするべきことは幾つもない。

 間近に迫った最終決戦に備えて出来る限りのことをするだけだ。




 敵の目的を―――探るだけだ。




 信長は淡々と階段を下りていく。徐々に歓声が遠ざかる。包帯の巻かれた腕が動かしづらくてならなかった。

 自分が地下に中央管制室があると知らされたのは大崩壊以後のことだ。水臭いと詰ってもいい立場だろうに、あ

の時は受けた被害の大きさに呆然としていたから、いまに至るまで結局は怒るタイミングを掴めないでいる。

 扉を開けてみて室内にある影にちょっとだけ驚いた。一番乗りだとばかり思っていたのに。

 VRボックスのメットを抱え、若干緊張気味の相手に呼びかける。

「早いな。―――司令の宣誓を聞いてたんじゃないのか」

「ここに居ても聞こえてきましたから。なんか………いよいよって感じですね」

 胸元から引っ張り出したペンダントを食い入るように見つめる。

 曰く、それが希望であり、確信であり、根拠になるのだと。

「準備はいいってことか?」

「ええ」

 深く、深く頷いて。

 手近な椅子を引き寄せて腰掛ける信長にも気付かぬように、ひたすら手中の光を見つめている。




「捜しに行きましょう………10年前の、真実を」




 強い口調とは裏腹に彼女の瞳は未だ揺らぎを見せていた。

 

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あ………あれ………? おかしいな、司令はこんなに過激なコト口にする予定じゃなかったのに(汗)。

ただちょーっと政府に対して政権譲渡を要求するぐらいでさ! ← 充分過激です。

でも書いててみょーに楽しかったです。やはり私は政府が嫌いなのか(苦笑)。

 

雰囲気的には『インデ○ンデンス・デイ』における大統領の答弁を思い出して頂ければ宜しいかと。

最終決戦前に弁舌ふるうのはカッコよかったよなーっ。

でもあの映画にも色々と文句はあった。最終武器が結局は核兵器になってしまうのも抵抗があった。

だからという訳ではありませんが、『コロクンガー』において核が決戦兵器になることはありません(笑)。

「敵を倒したけど、地上も死の灰が降り積もって生き物が住めない世界になりました」

では何だか本末転倒じゃないですか〜。戦争文学を読んで育った世代に核兵器はキッツイです。

 

作中で語らせたように軍国主義も軍部も管理人は苦手です。作品の展開上、小六の立場を弁護するように

なってますが、本当はあの方法だってイカンと思うのですよ。傍から見れば単なるクーデターだし(苦笑)。

それを『私利私欲の戦い』と思うか『聖戦』と取るかはやはり人それぞれなのですよ

(また宗教関係で誤解招きそうな物言いを………汗)。

司令の行動をカンペキ正当化したり、完全擁護するつもりはありません。故に彼には全てが終わった後で

きちんと償いをしてもらいます。あくまでも「終わることができたら」、ですが☆ ← 不吉な物言い。

 

そしてラストで登場した人物は誰なのか―――ってのは、言うまでもないですよね(笑)。

 

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