「戦え! ボクらのコロクンガー!!」

49.second ending

 


 空は重く、暗く、垂れ込めている。時に星が瞬く気もするが基本的には黒一色だ。

 周囲はと言えば黒や灰色や茶色を基本としたゴロゴロとした岩肌である。草木の緑など疎らにしか

確認できない環境、砂漠とまでは行かないが充分に乾いた空気に今更嘆いたところで始まらない。

ここで生き抜く、戦い抜くと決めたからには文句など零すつもりもない。

 それに、まあ。

 少なくとも仲間はみんないいヒトたちだしね、と日吉はぼんやりと夜空を見上げながら考えた。

 確かに空は黒一色だが時間が経てば少しずつ明るさを取り戻す。明確な昼夜の差はなくとも若干

の色合いの変化を目にできるのは僥倖だろう。幾度か此処と『外』を行き来したジョージや香蘭などは

時間経過のひとつも感じられない場所に飛ばされたことがあると語っていたぐらいだし。

「日吉さん」

「はい?」

 遠目から呼びかけられて上体を起こした。上着についていた草の切れ端を払い落として、ついでに

頭も振ってみた。

 咄嗟に手元に兄の刀を手繰り寄せるのは此処に来てからの癖となっている。

「どうかしましたか? 蘭丸さん」

「そろそろ榎本さんが宣誓を始めるようですよ。折角だし参加しておきましょう」

「え? もうそんな時間でしたっけ」

 おかしいな、まだそんなに時間は経ってないと思ってたのに、と空を見る。時間の感覚が崩れつつ

あるのだとすれば―――よくない兆候だ。

 行きましょう、と改めて催促する青年の手を借りて立ち上がる。

 彼は、日吉とほぼ同時期に流れ着いた『同期』だ。だからか話すのも気安かったし、実際、話してい

ても何となく楽しかった。

「蘭丸さんはまだ当直だったんじゃ………」

「巴さんに断って決起集会ということで抜けさせてもらいました。当直代表としてですけどね」

 長い黒髪を面倒くさそうに結び直してため息をつく。そんな彼の外見は確かに『美形』と評するに相

応しいもので、更にはフルネームが『森蘭丸』だったりするので、もしやあの歴史上の人物かと疑っ

た時期もあった。

 だが、それとなく尋ねてみたところ、此処へ訪れる際の時間流の影響でか彼はほとんどの記憶を失

っていた。だから結論は出ていない。

(まあ、どっちでもあんま関係ないし)

 此処、『次元の狭間』にはあらゆる時代、あらゆる場所から様々なヒトが流れ着く。言い方は悪いが

吹き溜まりと言ったところか。時に動物だって流れ着くし使い方すら分からない道具らしきものまで漂

着する。それらが偶々巻き込まれて漂流していたのか、何らかの原因でこちらへ来ざるを得なかった

のか、事情は様々でもある事だけは共通していた。

 ―――『トキヨミ』。

 処により名称は違えども、行き着く先はその言葉ひとつだ。

 『トキヨミ』の実験に巻き込まれた者、『トキヨミ』を追う者、『トキヨミ』の存在すら知らずに辿り着いた

者など、様々で。

 恨みを抱くか感謝するか何とも思わないか。

 元の世界や時代から離れたいと願い、叶えられた者を除いて、大半の人間が元の世界へ帰ること

を望んでいる。最初は手探り状態だった元の時代へ帰るための手段も大勢が角つき合わせて考え

れば幾らか形になってくる。

 『トキヨミ』とて万能ではない、神ではない。

 逆らっても勝てないと最初から諦める者もいるが簡単に引き下がりたくはない。

 地道な計測を重ねた成果。研究を続けていた道真やシュヴァルツが歓声を上げた日のことを覚えて

いる。

 曰く、『トキヨミ』が何らかの『実験』を行う時、時空に巨大な『穴』があく。それを使えば元の時代へ

戻れるのではないかと。

 しかしその『穴』がいつ開くのかとか、開いたとしてどうやって其処へ行けばいいのかとか、こんな目

に遭わされたのに『トキヨミ』に直談判のひとつもしなくていいのかとか、様々な異論反論が噴出して

情報収集と技術開発と意見の集約だけでかなりの時間を取ってしまった。

 結果的には『トキヨミ』のもとへ直行することが『穴』へ飛び込むための一番の近道であると判明し、

タカ派もハト派も一応の納得を得たのだけれど。

 もとより『穴』に飛び込めば助かるとも元の世界へ戻れるとも定かではない。極論すれば「やってみ

なければ分からない」。強い思いがあれば必ず帰り着けると己の運と力量を信じるしかないのだ。

 その結果、更なる闇に放り出される可能性があるとしても。

 知り合った仲間と離れることになったとしても。

(………そっか)

 チラリと隣を見遣った。

 上手く行く、行かないは別としても日吉は自らの帰るべき場所を定めている。だが、記憶のない彼は

どうすればいいのだろう。もし彼が真実、歴史上の人物だったとして、戻る先によってはその時間軸

に多大なる影響を与えることになりはすまいか。当人に記憶がなくとも周囲は彼を覚えている時代へ

帰り着いたならば―――。

「………蘭丸さん」

「はい?」

「蘭丸さんは、どうするんですか? 行き先―――決まってるんですか?」

「今更ですね」

 ちょっと困ったような笑みを青年は浮かべて見せた。

 『此処』からは出て行きたいが元の世界に戻りたくはない。そんな面子もいる中で。

「行き先は決めてません。ただ、歴史の影で色んな騒動を巻き起こしてくれてる『トキヨミ』を見てみた

いとか、殴れるものなら殴ってみたいとか、そんな気持ちがあるだけですから」

「じゃあ! 行き先が決まってないなら、オレの時代に一緒に来ればいいですよ!」

 いいこと思いついたとばかりに手を打った日吉に今度こそ蘭丸は目を瞬かせた。

 どうしたものかと幾度か首を捻り、きらきらと目を輝かせてこちらを見る彼女の様子に折れたのか諦

めたのか、苦くない苦笑を頬に刻んで声を零した。

「………いいんですか? いきなり居候ですよ。あまり裕福なご家庭ではないんですよね?」

「裕福じゃなかったら働けばいいんです」

「私もですか」

「勿論です」

 当たり前でしょうと頷けばいよいよもって大笑いされた。

 いつも冷静な蘭丸がここまで笑うとは珍しい。余程ツボに入ったのか、あるいは、流石の彼も決戦

前で気分が高揚しているのか。

 日吉も自然と頬に笑みが浮かぶのを感じた。

 ―――決戦が、近い。

 なんとなく、分かる。『トキヨミ』に接した時間が長い者ほど感じ取れる微妙な感覚。

 きっと、頭領である榎本武揚も同じことを感じている。

 果たして今度の戦いで何人が元の世界に戻り、何名が他へ弾き飛ばされ、幾人が『トキヨミ』へ一

矢報いることができるのだろうか。

 案じたところで、それこそ、『トキヨミ』ならぬこの身では想像だにつかないけれど。




(………帰る)




 決めている。




(帰るんだ)




 何年かかっても、何をしてでも、諦めずに前へ進むと決めている。

 皆も、きっと、待ってくれている。

 そう信じることができるから。




 遠く離れた場所に居る仲間たちのことを強く思いながら暗いままの空を改めて見上げると、手元の

刀と胸元のペンダントを握り締めた。

 

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今回はちょっと(かなり?)短めで流してます。

とりあえず、ひよピンは元気にやってますとゆーことで☆(そんだけ?)

 

流れ着いた先には蘭丸くん以外にも歴史上の人物がさり気な〜く紛れ込んでいるようです。

マイナーどこも有名どこも織り交ぜてますが、全然関係ないヒトもいますので悪しからず(笑)。

 

今回でいちおう最終回のBパートまで終了。

残すはエンディングのスタッフ・ロールとオマケの後日談とゆー感じなので、宜しければ

もう少しだけお付き合いくださいv

 

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